テスト返却
「あぁぁ」
僕は登校してきて、まっすぐに自分の席に向かうと、即机に突っ伏した。
来て欲しくなくても朝はやってきて、王子を任された身で休むなんてことできるはずもなく。
重い足取りのまま学校にたどり着き、ため息が口から溢れる。
「どうしたんだよ、アル」
そんな僕を見て、もう既に席に着いていたフレイが問いかけた。
僕は遅く来た方ではないのに、フレイの他にもリアやミリー、フィーナリアも既に来ていて、心配そうにこちらを伺っていた。
「そういえば、昨日大丈夫だったか? 魔力の枯渇は下手したら命に関わるから、気をつけろよ?」
「ああ、うん。ごめん、その……心配、かけて」
「いいよ、そんなの。それに、友達なら心配するのも当然だろ!」
元気よくそう宣言するフレイに、僕は目を丸くした。
そして次の瞬間頰が赤くなるのを、窓の外に視線を送ることで隠す。
僕のことを案じていたと、視線で訴える四人。
こういうことにはあまり慣れていないから、むず痒くて、気恥ずかしくて。
密かに求めていた、『友達』のセリフを気軽に吐かれて。
(……っ……!)
暫くそうやって、窓の外を見て誤魔化す。
頰の赤を、誰も指摘しませんように。
「なぁ、アル」
そう思っていたらフレイが声をかけてきて、体が一瞬ビクッとなった。
「な、なに?」
「え? ああ、いや……これ」
フレイも戸惑ったようだけれどなにも言わず、何やら紙を渡してきた。
「これは?」
「昨日、あの後入学試験の結果も配られたんだよ。それ、アルの分、俺が渡すよう言われたからさ」
「ああ、なるほど」
そう言えば、渡すって言ってたっけ。
僕がその紙に触れると、僕の魔力を感知したのか光を発して、固く閉じられていた紙が開かれた。
『名前:アルディル・アマルド
属性:風
魔力の質 SSS
魔力制御 S
威力 A
戦闘力 A
歴史 D
識字力 B
計算 D
地理 D』
紙には、そう書かれていた。
……うん、まあ、予想の範囲内かな。
特待生になった時には、ある程度覚悟していたよ、うん。
「見ていいか?」
フレイが尋ねる。
キラキラとした目をさせる、その後ろも含めて四人の目。
……これ、断れる雰囲気じゃないよね。
「別に、いいけど」
そう言うと、フレイが興味津々にゆっくり紙を開いていった。
「……アル?」
ただ見て終わりかと思ったら、何とも言えないような表情でフレイがこちらを見てきた。
「これ、何だ?」
「何って、テストの結果だけど?」
何を分かりきったことを、と戸惑いながら聞き返すと、フレイが机に勢いよく手をバンっと置いた。
「そうじゃなくて! 何だこの、筆記と実技の差は!」
「え?」
「そりゃ学校には行ってなかったっぽいし独学なら多少はできてなくてもおかしくないけど……Dって最低の値じゃねえか、取る人滅多にいないって聞いたことあるぞ!」
「そ、そうなんだ」
「それに魔法学校の筆記の内容は比較的簡単に出来てる、独学の人は教会が無料で開いてくれている学び舎で勉強するから、ちょっと勉強すれば平均にいくから、後は実技に専念するって聞いたことがあるぞ。……そもそも、アルは教会に行っていたのか?」
「行ってない、けど」
そうなんだ、独学の人ってそうやって勉強していたんだ。
僕の場合は……マスターから勉強するための本を借りて、それでちょっと勉強していたけれど……眠る前にやっていたからすぐ眠くなっちゃって寝たし、日常的に忙しかったからあまり勉強はしていない。
そもそも、この半年間はほとんど勉強していない。
そんなんで、良い成績なんて取れるわけがない。
「それに引き換え、実技の成績良すぎ! 何だよSって、これも滅多に見ねぇぞ! しかもSSSって……もう、突っ込み追いつかねえよ……」
「えと……ごめん?」
へなへなとその場に崩れ頭を抱え出したフレイから紙を取り上げたリアは、フレイに同調するように何度も頷いた。
「確かに、これは叫びたくもなるわね」
「だろ~?」
「でもこれ、手加減してたんでしょ?」
「へ?」
「だって、先生がアルの実力はシニーとほぼ同じって言ってたじゃない。でも戦闘学の授業の時、アルの実力はシニーより遥かに上だった。だからアルは、試験の時は手加減してたってことでしょ?」
「…………」
驚いた。
意外に、リアって鋭いかもしれない。
いや、僕がわかりやすすぎるのか。
確かに、昨日は感情に任せてやり過ぎてしまった。
今までの違いに驚いて、昔に近づけようとしてしまった。
もうあの頃には、戻れないと言うのに。
「どうなんだよ、アル」
四人が僕の反応を伺って、じっと見つめる。
そんなにじっと見られたことなんてなかったから、顔をそらして、そして誤魔化しの言葉を口にした。
「気のせいじゃない?」
「はぁ?」
「僕はシニーよりは……ちょっと強いかもしれないけど、そもそも気絶してる時点で火事場の馬鹿力なんだから、試験の実力はそのまんまだよ」
そう言ったら、疑いの視線で僕を見つめてきた。
「……それは、苦しいと思うぞ」
「…………」
視線を合わさず、フレイの後ろを見つめる。
「はぁ、まあいいけど」
僕がそれ以上何も言う気がないとわかると、張り詰めた空気を息を吐くことでフレイが崩した。
「俺たちは、お前が力を隠しているのがお前が抱えているものに繋がっているのなら、知りたいと思っただけだ。その苦しみを取り除く協力をしたい、でもそれはお前に無理やり吐かせてまですることじゃない。お前が話したくなるまで待つから、話したくなったら言ってくれ」
笑ってそして、背中を勢いよく叩かれる。
「なっ!」
「……う、うん……あり、がとう」
戸惑いながら、そう返す。
僕は、いつか……話す日がくるのだろうか。
僕が零帝だってこと、そして僕の身に起こったことについて。
話す日が、来るのだろうか。
『キャー!!!!!』
と、その時女子の、いや所々男子の声も混じった声が聞こえてきた。
『ルーク王子!』
その声で、ああ、ついにこの時がやって来てしまったのかと苦悩する。
「アルディル」
段々と近づいて来たその声は、僕のところまで来て、そして停止した。
「昨日ぶりです、王子」
席を立って、膝をつき正確な礼をとる。
誰も喋らなくなった教室内で、王子は静かに口を開いた。
「ああ。これからよろしく頼む、アルディル」




