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遭遇

 王女とギルドマスターとも別れ、一人廊下を歩いていたとき。

 がちゃりと一つの扉が開き、大きな体躯をした男がそこから出てきた。

 どうやらマスターに用があったらしくギルドマスター室から出てきた彼は、銀のマントにグロリオサの刺繍がなされたものを羽織り、僕を見て立ち止まった。


「どうした、坊主。迷子か?」


 炎帝――カーリア・フォン・カーライアス。

 僕の仕事仲間ともいえる帝のうちの、一人である。


「つっても、ここはギルド隊員とかしか立ち入りできないはずなんだけど……お前、一人か?」


 炎帝が、首を傾げる。

 その疑問は当然であり、ここは最上階、ギルドマスター室と零帝の部屋、それから資料庫などしかないここには、ギルド隊員であったとしてもほとんど訪れないところであり、学生にしか見えない僕がここにいるのは、相当不審に映ることだろう。


(さっきマスターと別れず、そのまま付いていけば良かった)


 と思いつつも、ギルドで何かしらのトラブルがあったらしく慌ただしく別れを告げ訓練場に趣いたマスターに僕がついていくことは、これはこれで不自然である。

 さて、何と言い訳をしようか、と頭を悩ませていると、彼が僕の顔を覗き込んできた。


「おい、大丈夫か? 顔色悪いぞ?」

「あ、大丈夫です、ありがとうございます。僕はちょっと……中、興味あったので、探検というか……一度でいいから、入ってみたくて、その……すみません」


 苦しげな言い訳を溢す。

 ギルドは一階が受付となっており、そこで魔物討伐や日常の困った出来事の依頼された紙を、受けるか否かを冒険者が自分のレベルに合ったのを選び、こなすことで依頼主からお金をもらう、その制度の依頼者と冒険者の仲裁者となっているのがギルドである。

 一般的な冒険者とギルド隊員は異なり、冒険者はギルドの中に入ることはできない。

 力をつけた者がもっと力をつけるため、それぞれの隊に別れ訓練し、チームワークを磨き、連携して上位の魔物を倒すために、隊員は存在しているのだ。

 よって隊員の中に学生は滅多に居らず、しかもそれが隊員ですら滅多に来ない最上階となると、言い訳も苦しくなるというものだ。


「勝手に入って、すみませんでした。もう今後一切しません、それじゃあ……失礼します」


 何とか切り抜けようと早口にそれだけ言い、この場をそそくさと去ろうと炎帝の脇をすり抜ける。

 けれどちょうどすれ違ったというところで、炎帝が僕の腕を掴んだ。


「待てよ。お前……イスリーヌ魔法学園の、生徒……か?」

「はい、そうですけど」


 僕の制服を見て言う台詞に首肯し、戸惑いながらも振り返る。

 上から下まで何度かキョロキョロと視線を行き来させた彼は、おちゃらけた感じで、けれど緊張をにじませ、こう切り出した。


「なあ、じゃあ知ってるか? 今年の入学生の中に、零帝様がいるかもしれない、ってこと」


 いきなり、爆弾を落とす。

 零帝の年齢は機密事項であり、サリュは僕の捜索の為にやむなく明かしたのだろうが、僕は炎帝の目には一般生徒に映っているはずである。

 なのになぜ、そう問いかけてきたのか……。


「へえ、あまり動揺しないんだな」


 どうゆう反応をすれば良いのか戸惑って逆に無表情になった僕を見て、炎帝がそう呟いた。

 どうやら、動揺するかどうかを見たかったらしい。

 おちゃらけた感じで聞いてきたのは、動揺したら冗談として流すつもりだったからか。

 零帝が入学してくる、それは高齢と思われている零帝としてのイメージを大きくかけ離れ、普通は動揺するのだろう。

 なのでそういう反応をしなかった僕を見て驚くのは当然であり、その呟きもまた、当然漏れるべきものであった。


「あ、いや、えっと……あまりにも突拍子もないことだったから、驚いて……冗談ですよね? ヤダな、僕をからかわないでください。どういう反応したら良いのか、分からなくなるじゃないですか」


 あはは、ととりあえず笑い、妙な緊張感に包まれたその場の空気を和ませようとする。

 けれどそれに乗らず炎帝はニヤリと笑って、僕に背を向けた。


「そういうことに、しといてやるよ」


 そう言って、立ち去る。

 ムードメーカーというイメージしかなかった彼の意外な一面が垣間見え、明るくさせるための笑みではなく、自らの内面を隠すための笑顔で不気味さを増し、普段の彼からは想像できないような二重人格を思わせて。


「あ、そうそう。今度の新歓、俺が担当だから」


 そのまま、炎帝はその表情を保ち首だけこちらに向け言い放った。

 新歓には、必ず誰か帝が参加する。

 帝という高みにいる存在が見ていることでやる気を出させ、年度初の輝かしいスタートを切れさせる。

 その帝の役割をするのは、今回は炎帝らしい。


「だから、また、な」


 手のひらを振って、彼は今度こそ去っていった。

 どこまでバレてしまっているんだろうと思いながら、僕はとりあえず、力が抜けて座り込むのだけは何とか抑えた。

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