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貴族として

 その言葉を聞き、フレイは訝しげに問うた。


「決闘? 模擬戦だろ?」

「いや、ただの勝ち負けだけではなく、賭けをしよう。

 もちろん、模擬戦の出場権をかけてだ」

「もうその話は終わったはずだ。アルディルが出る、それでいいじゃないか」


 そう答えたフレイを、キーシィスは鼻で笑った。


「お前は、何もわかっていない。例えシニーの方が実力がちょっとでも、本当にちょっとでも劣っていたのだとしても、貴族というからにはこんな公式の場面には出なくてはならない。それは、貴族に定められた役目だ」

「ここは貴族とかそんなの関係ない場所だ。そんなの捨てて、普通に学ぶために通ったらいいじゃないか」

「誰かが見ている、それだけで貴族という体裁を保つ理由になる。この新人戦は、新入生での初めての模擬戦だ。ここで見せつけなくては、名に傷をつけてしまう。1つの失敗で他の貴族に笑われ、陰口を叩かれる。個人の問題ではなく、家の問題にさせられる。

 だから、ここでシニーが出ないわけにはいかないんだ」

「……貴族ってのは、大変なんだな」


 周りにいたのは、当たり前だが平民ばかりで貴族というのがそばにいたことのないフレイは、素直にそう述べた。

 威張りきっているだけかと思いきや、貴族としての誇りを守るため、ちゃんと芯を守るための努力をしているらしい。

 それならば自分が退けばいいのでは……一瞬そう考えたが、その考えをすぐに吹っ切る。

 代表に選ばれる、それはいわば、この学園の生徒にとって夢の夢の話である。

 まずSクラス、Aクラス入りを果たさなければならず、その上でのトップ入り。

 それは生半可な努力では成り立たない。

 フレイもまた、努力をしてきたのだ。

 強くなるために……そのための成果を、ここで手放したくはなかった。


「わかった、模擬戦の出場権をかけてだな。受けて立つ!」

「ふん、そう来なくてはな」


 後ろを振り返りアルにいいか目で尋ね、渋々ながら頷いてくれたアルに満面の笑みを向ける。

 これは楽しくなりそうだと、フレイはこっそりほくそ笑んだ。








「キーシィス&シニー 、そしてフレイ&アルディル。

 前へ出ろ」


 呼びかけと共に前へ出る。

 すると、周りの 注目を一気に集めた。

 ヒソヒソという囁き声は止む事を知らず、フレイらに降り注ぐ中、堂々と4人は前へ出る。

 フレイはちらりと周りを確認した。

 彼の目が、何かしらを見ているかのように何もない空間に固定される。

 そして始まりの開始とともに、フレイはその場所に向けて手を伸ばした。


「我、貴公の願いを聞き届ける者なり。

 今この時を持ってして、貴公の刹那なる願いを承ろう。

 我は問う、我と共に行きたいかと。

 我は尋ねる、我と共に歩みたいかと。

 この声に答える者よ、今、暫し力を貸し、我と共になれ!“憑依”」


 瞬間、フレイの体から目も開けられないような光が溢れる。

 そして徐に前に手を突き出したかと思うと、詔を口にした。


「火よ。

 向かえ、弾けろ! “火弾”」


 フレイの手から火の塊が飛んでいくのを見て、周囲の人々が目を見開いた。

 それは、火の初級魔法。

 フレイの属性は光である。

 所持していない属性を、使用できるはずはない。

 どういう事かと口々に噂する。

 そんな中僕は、目に光魔法を集めてみた。

 感知されないほどの微かなものだけれど、攻撃目的ではない為、十分に目的は果たせる。


(やっぱり)


 フレイの肩に手を載せるようにしている少女。

 三つ編みを左右に下げている少女の背景は透けている。

 それに、少女は地に足をつけておらず、数十センチ浮いているのだ。

 これで、フレイが何を行ったか大体はわかった。

 そして彼の、強さの理由も。




「アル!」

「分かってる!」


 キーシィスがフレイの火弾を風でせき止めかき消し、その隙にシニーが僕らの足元に紫電を落とした。

 でも直撃する前に、僕は魔法を唱える。


「我の周りに巣食う風よ。

 我の盾となり、守り給え! “風壁”」


 2人の前に現れたそれにより、紫電は消え続けざまにキーシィスが鎌鼬を飛ばす。

 風の刃は風壁を抜け、僕らに襲いかかる。


「アル!」


 足元に飛んできた刃を飛んで避け、戦闘前に配られた木剣を風でコーティングし再び襲いかかる刃に剣を落とす。

 それは続けざまに5つ飛んできて、それを軽く剣を振り、避けては弾いた。


「す、すごい……」

「速い!」

「今の、見えなかった……」


 そんな周りの声など今は構っている暇はなく、仕掛けては仕掛けられ、戦闘は佳境になっていく。


「はぁ、はぁ」


 始まって数分しか経っていないのに、フレイの呼吸が切れかかっている。

 それは体力切れだけでなく、魔力切れが近いことも意味していた。

 やはり、“憑依”は通常より多くの魔力を有するのか。

 ここは早く決着をつけないと、もうすぐどちらかの理由で倒れそうだ。

 といっても、僕は別に代表に出たいとか拘っているわけではない。

 ただ戸惑っているうちにフレイが色々決め、気がついたら決闘なんてことになっていただけだ。

 なので負けてもいい、のだが……。


(手加減したら、納得しなさそうだな)


 キーシィスは、意外と芯が通っている。

 もし力を抜いたとわかるような手口で負ければ、それはもう罵詈雑言と言ってくる様が眼に浮かぶようだ。

 なのでどう、気づかれずに負けるかが重要になってくる。

 フレイvsシニー、僕vsキーシィスと一対一のようになっている状況で、フレイの様子を伺いながら僕はその糸口を探る。


――だから、だろうか。


 考えながらの戦闘は、あの時のように存分に戦えないからこそ不慣れで、一瞬反応が遅れた。


「アル!」


 フレイがギョッとした目をこちらに向け、手を伸ばす。

 目の前にはシニーの矢に風と雷が乗っているものが目前に迫り、キーシィスの風を受けものすごいスピードで迫っていた。

 それを全速力でこちらに走ってきたフレイが止めようとし、数メートル離れていたはずなのにあっという間に追いついたフレイが手を出し、僕を庇う。

 それを僕は、呆然とした様子で見る。

 何で庇われているのか、分からなかった。

 僕は強い、強いからこそ零帝にまで上り詰めた。

 僕は庇われるのではなく、庇う存在だった。

 守られるのではなく、信頼され、背中を預かってきた。

 戦闘において、僕はいつも先頭を切ってきた。

 なのに――この状況は、何だ?

 今のだって数秒あれば避けられる、魔法で防御だってできる……なのに何で、守られている?


「……っ!」


 気がついたら、周りには風が満ちていた。

 爽やかな風は矢を弾き、逆にコントロールを奪い、こちらに向かっていた3つの矢を勢いはそのままに、1つは正面、1つは右、1つは左と投げつけた。

 室内には風が吹き抜け、矢だけではなく風の塊がキーシィスらに降り注ぎ、懸命に避けては迎え撃ちとしても追いつかず、しかもそれはスピードを段々と上げ、数は増やされ、やがて渦を巻き、キーシィスとシニーは渦に巻き込まれる。


「う、あぁ!」

「……ぅうう」


 2人は天井近くまである打ち上げられ、意識を失いかける。

 それを見て、リュークリオ先生が手を叩いた。


「そ、そこまで!」


 その声に僕はハッとなり、急いで風を鎮める。

 うめき声とともに地面に落とされたキーシィスとシニーは気を失い、ドサっという音の後、周りが静けさで満ちる。

 誰もが呆然と僕を見る。

 その瞳に宿っている感情が分からなくて、僕は目をそらした。

 と同時に、襲う疲労感。


「お、おい、アル? おい!」


 ふらりとした僕を支え、フレイの腕の中、僕は気を失った。

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