表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/29

経過報告

 サリュは1人、長い廊下を歩いていた。

 喧騒とした空間を離れ、静寂の中、白と黒で綺麗に模様付けされた壁を見やり、足を動かす。

 そうして辿り着いた部屋の前に立ち、3回ノックをする。


「ギルドマスター、サリュです。入ってもよろしいでしょうか」

「はい、どうぞ」


 失礼します、という声とともにドアノブに手をかけ、中に押し入る。

 いつもの如く大量に書類に囲まれているギルドマスターは、サリュの姿を見ると立ち上がり、ソファーに身を移した。

 サリュもその向かいに腰を下ろし、口を開く。


「ギルドマスター、ーー」

「ーー見つけたのですね?」


 サリュの声を遮り、ギルドマスターは声を重ねた。


「……はい」


 神妙な面持ちで、サリュは答える。

 正直、サリュは迷っていた。

 この話を、ギルドマスターに報告するのを。

 彼の、これまでの態度と抱えているであろう事情を考慮し、黙っている方が得策ではとも思った。

 しかし、それでは私情を、己の感情を任務に挟んだことになってしまう。

 それは最強の隊、ルピナス隊の行動としてしてはいけない。

 そう判断を下し、意を決してサリュは口を開いた。


「1-S所属の特待生、アルディル・アマルド。……彼が隊長、零帝様で間違いないでしょう」

「その、根拠は?」 


 ギルドマスターの目が、スッと細められる。


「まず第1に、隊長の質の高さ。それはいくら隊長でも誤魔化しは効きません。

 例え膨大な魔力は魔封具で隠せたとしても、持って生まれた質は変えられない。当然、あれほどの質の高さを持ってすれば、特待生になるのは間違いないでしょう。

 クラスにいる特待生は、俺を含め7人。

 そこから質の高い人はいましたが、それは一般の枠を出る程度。隊長ほどとなると、この人物しか当てはまりませんでした。

……また、隠していたようですが、反射神経から見ても隊長に間違いはないでしょう」


 クラブ巡りの時、サリュが一緒に回ろうと誘い手を伸ばしたのを、避けようとしたのを彼は見逃さなかった。

 ものすごい速さで動き出そうとしたその手は、一瞬で止まり、サリュに成す術なく捕まっていたが。


「彼は……どんな様子でしたか」


 心配そうに、眉尻が下がる。


「…………何かを、重いものを、抱えているように見えました」

「そう、ですか」


 サリュが直接本人に確認を取る前に、こうして報告をしているのには訳がある。

 彼は、繊細そうに見えた。

 フード越しでは、そう思ったことはない。

 隊長はいつも冷静で、物事に対し正確に判断を下す。

 そこには繊細さなど存在せず、また似合わない。

 それは隊長の二つ名にも現れていた。

 フード越しには感情が伝わりにくいではあるが、あまりに冷静に、冷酷に命を葬っていく様から、つけられた二つ名ーー“紅麗こうらい殺戮者さつりくしゃ

 けれどやはり、フードを被っている時といない時では、人が変わるのだろう。

 あれは感情を押しつぶした姿で、本来の姿はこちらーー子供のような、そんな感情を内に秘めた、少年なのだろう。

 なので、慎重にするに越したことはない。

 ギルドマスターの判断を仰ぎ、それにサリュは従うつもりでいた。


「隊長は、きっとあの学園にいることで俺たちが気づく可能性が高まるということは、わかっていると思います。

 それを踏まえた上で、なぜ通おうと思ったのか。

 何か考えがあるのか、バレてもいいと思ったのか。

 もしくはーー通って、みたかったのか。

 もしそれがただの純粋な願いだったとして、安易に壊してもいいのか、彼に踏み込んでもいいのか、俺には……決められませんでした」


 ギルドマスターを見やり、目でどうしたらいいのか問いかける。

 随分他人任せだと、自分でも思う。

 でもいくら考えても、どうしたらいいのかなんて答えが出なかったんだ。

 隊長の今までと今の様子を慮るに、純粋に行きたかったという可能性は高い。

 零帝という職についていたら、その職務に追われ義務であるはずの学園にさえ通うのは難しいだろう。

 隊長としての彼では想像もしなかった人間像が、サリュの中で出来上がっていく。

 けれどこれが真実に近いのだろうと、サリュは考えていた。

 人を避けていたのは、自身が抱える事情のせいだとしたら。

 人と関わらなくてもいい、それでも学園という場所に通いたかったのだとしたら。


ーーそんな純粋な願いを、果たして壊してもいいのだろうか。


 目で困惑を伝えたサリュを、ギルドマスターは曖昧に笑んで、組み上げた手を前に出す。


「零帝には……例えどんな事情を抱えていようと、どんな願いがあろうと、職務を果たしてもらわねばなりません。それが零帝という職についた者の責任であり……為さなければ、ならないことです」

「しかし……っ!」

「なので」


 真っ直ぐとサリュの目を見据え、ギルドマスターは言葉を紡ぐ。


「とりあえず事情を聴き、そこでこれからどうするか考えてましょう」


 いいですね、と続けたギルドマスターに、サリュは一瞬の後、肯定する。

 彼の事情を踏まえた上で、どうすればいいのか。こちらとあちらの利益をうまいこと噛み合わせ、それでーー彼が、戻って来てくれたらいい。

 きっと、隊長が戻ることが最重要事項なのだろう。

 あちらが提示するであろう条件を、ギルドマスターは余程のことでない限り飲むつもりなのだろう。

 だから、肯定する。

 ギルドマスターの指示に、サリュは従う。


「分かりました。とりあえず明日、伺ってみたいと思います」


 観察は続け、慎重に、頃合いを見て。

 ギルドマスターの言葉を受け、サリュは立ち上がる。

 明日どのように、どんな言葉で、どんな態度で接したら良いのか。


(久しぶりに、零帝としての彼と会えるのかもしれない)


 そこには緊張と期待、喜びや懸念など、様々な感情が浮かんでいた。

 明日、どうなるのか。

 彼はどんな反応をするのか。

 もしかしたらーー拒絶、されてしまうかもしれないけれど。

 けれど、彼は話してみたかった。

 本当の彼を、隊長をみてみたかった。

 だから、覚悟を決める。

 どんな反応をされても、戸惑わないように。

 そんな考えを頭に浮かべ、サリュは長い廊下を、歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ