探し人を見つけて
「眠った、のか?」
ふいに力の抜けた体を支えながら、フレイは呟いた。
アルの背中に手を添えているのはフレイだけではなかったが、テルによってアルは運ばれ、木に背をもたれ掛けさせる。
「この子は……色々と、抱えてそうだね」
涙をポケットから取り出したハンカチで拭いながら、テルは呟く。
それに同意するのは、この場にいる全員。
人と仲良くするのを極力避けていたという話は、ミリーによってテルに話されているらしい。
それに、さっきまでの様子と表情から、その事情は想像すら出来ないものだとわかる。
きっと、気軽には話せないこと。
気長に、アルが話してくれるまで心を許すのを待つしかないのだ。
「悪かったな、急にテル兄を連れて来るように頼んで。クラブ巡り、大丈夫だったか?」
「そんなの……彼のこと、気になってたから。いいよ、別に」
サリュとは、アルのことを探している時に、同じく急に消えたアルのことを探していたので、その時初めて会話した。
最強の部隊、ルピナス隊の一員であるサリュにどこか遠慮して、遠くの存在だと感じていたのだが……案外気安くて、話しやすい。
気にしなくていいというサリュの自己紹介は、実は気遣いではなくお願いだったのかもしれない。
同級生に距離を置かれたら、心休まらないだろうから。
「さて、じゃあ運ぼうか」
「あ、俺運ぶっすよ」
「いいよ、大丈夫。ていうか、運ばせて」
「分かったっす!」
穏やかに微笑んだテル兄は、これからアルの心をその笑顔で、解いていくのだろう。
テル兄とミリーが探していた、ミリーの双子の兄の存在。
2人が誰かを必死になって探していたのは、知っていた。
でも、それが誰なのかは聞けなかった。
踏み込んではいけない雰囲気を、2人は放っていた。
ミリーとは休日遊べないことが結構あって、ミリーを除いた3人で遊ぶことが多かったのだ。
そんな相手が、やっと見つかって。
待ち望んでいた人が、目の前にいて。
言い表しようのない感情を抱え、今までの困難を思い出し。
2人の間にはまた踏み込めないような空気が発されていて、気持ちを共有し、薄っすらと涙を浮かべているのが見て取れた。
(これは、兄弟だけにした方がいいな)
そう思い、声を掛ける。
「じゃあ、帰るか!」
森を抜けるまでの間は皆口を閉じ、落ちている葉や枝を踏む音だけが響き渡った。
アルは起きる様子はなく、浮かんでいる隈からまだまだ起きないだろうと予測する。
その顔は普段のしかめっ面が想像もできないほど穏やかで、子供じみていた。
安心しきった顔。
涙の跡は、もう乾いている。
(本当に、子供だな)
彼は今まで、子供ではいられなかったのではないかと、フレイは考えていた。
学校に行ったことがないだろう彼は、大人として扱われていたのか、もしかしたら酷い仕打ちを受けていたかも知れない。
虐げられ、侮蔑されてきたのかも知れない。
けれど、だからこそ今、彼は子供の顔をしているのだろう。
それは、微かにでも自分たちに心を許してくれたという証拠。
話しかけても無視され続けた成果としては、十分にお釣りがくるだろう。
だから、今はこれだけでいい。
これから3年、時間があるのだから。
「じゃあ、ここで」
「はい!じゃあな、ミリー」
「じゃあね、フレイ、リア、フィー、サリュ。また明日!」
寮内にある、各階へと繋がる転移魔法陣を前にして、別れの言葉を口にする。
「じゃあ、俺たちも行くか」
「ええ」
それを見送った後、フレイ等も己の階へと向かうため、転移魔法陣へと手をかけた。