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アジュールが異空間から出た先は街中の裏通り。

目眩ましの魔術をかけて、街を歩く。

とにかくアジュールの容姿は目立つ。

一目で貴族と分かる色彩と整った顔立ちでもって、素の姿のままでは到底歩き回ることなど出来そうになかった。

目眩ましにより他の人には一般的な姿として写っているはずだ。

簡単な魔術のため、ある程度の魔力の保有者には効かないが。

活気のいい街中は嫌いではない。

程よい喧騒と人混み。

前世はあまり人と関わるのは好きではなかったが、最近はお気に入りの場所が出来た。

「いらっしゃい、アル」

「こんにちはー」

受付のお姉さんに挨拶をして、勝手知ったる顔で入っていく。

冒険ギルドと書かれたそこは、いろんな情報の宝庫だった。

前世は役割も仕事もあったから、あまり興味はなかったが、一度訪れて以来面白くて填まった。

依頼の欄を見てまわる。

アジュールはここでは子供が暇つぶしに遊んでいるように見られている様だ。

まぁ、間違ってはいない。

冒険者になるには10歳を過ぎないと登録出来ないので、毎回いろいろ見たり話を聞いたりして過ごしている。

「アル、何か面白いのあったか?」

「うーん。最近魔物増えたね」

ここでギルドマスターをやっているルドヴィさんが話しかけてくる。

「そうだなぁ。大戦直後はめっきり数が減ってたのにな。しかしあのままだと冒険者は採集しかやることなかったから、良かったと言うべきか…複雑だよ」

「ふーん。魔物ってどっから来るの?」

「さぁなぁ」

ルドヴィさんはそう言って肩を竦めた。

「増えてるのか…」

「アルは心配しなくても、魔物はここらの腕の立つ奴等が片付けてくれるって!」

「魔術団は動かないの?」

「あー。あっちは無償だからな。こっちの食い扶持を持ってかない様にってのと、単純に人手が足りないのな」

そうなのか。前はあまり依頼が来なかったから、そんな仕組みになっていたのは初耳だ。

魔術団に行く依頼は急がないか、規模の大きな依頼のみだということだった。

知らなかった。

狭い世界で生きていたんだな、と思い知らさせられる。

「ふぅん」

「今の第1師団長はかなりすごいぞ」

「知ってるの?」

「大戦の時に見ただけだが。呪術も凄かったし、何てったってあの魔術師アーヴィ様の片腕だったんだからな」

「へぇ…」

「最近婚約されたと聞いたが、おめでたい事だ」

「…」

「お。もしかしてアルもクラウス様のファンだったのか?残念だったなぁ」

「違う」

「泣くな!女は相手の幸せを願うものだぞ!」

泣いてないし、あいつには幸せになってほしいとはずっと思ってるし。

頭をポンポンされて微妙な気分になる。

「クラウス様も、やっと前を向く気になったんだ。良かったじゃねえか」

それはどういう意味なのか聞こうとしたが、騒がしい団体によって会話は中断された。

「おーっ。アルまた来てたのか」

「ダラスさん、こんにちは」

このギルドに所属している冒険者のパーティーの1つのリーダーであるダラスさんは強面の剣士で怖そうに見えるけど、優しい。

「アルちゃん、お菓子あげる」

「マティルさんありがとう」

マティルさんは綺麗なお姉さんで弓の名手なのだそうだ。怒ると怖いらしい。

「アル!今日面白いの見つけたんだ!」

「ちょ、シャル引っ張らないで」

シャルはまだ冒険者になりたての子供で、魔力保有があり重宝されているようだった。

歳の近いアルを見つけると、いつもあれこれ遊びに誘ってくる。

帝国民にしては珍しく黒髪に黒い瞳で、前世黒髪で珍しがられていた自分に少し似ていて無下に出来なかった。

シャルも整った顔立ちで、自分で将来かっこよくなるよ!とか言っていた。

性格はかなり人懐っこく皆から可愛がられている。

「シャル、あまりアルちゃんを困らせないように」

苦笑しながら注意してくるクラレンスさんは治療士で大人しいお兄さん。

分かってると叫ぶシャルに強制連行される。

「こっちこっち」

腕を掴まれて行ったのはギルドの裏手。

地面近くにキラキラ光る物が落ちていた。

「これ、何だと思う?」

「何だろう…」

鱗の様な物が数枚落ちていたが、不用意に触るのは躊躇われた。

「綺麗だよね。いちばんにアルに見せたかったんだ。アルは特別だから」

「そう」

何かを期待している顔に何て返せば正解なのか分からずとりあえずそう答えた。

途端にブハッと笑い声が背後からかかり、見るとパーティー面々が陰から覗いて笑い転げている。

「?」

何が面白いのだろう。

「シャル、残念だったな」

「ダラス、ダメよ。笑ったらかわいそ…プッ」

シャルを見るとしょんぼりと項垂れている。

「シャル?どしたの?」

「…何でもない」

騒ぎを覗きにルドヴィさんもやってきた。

「何を騒いでるんだ?」

パーティー面々は笑ってるし、シャルは話さないし、状況の分からないアジュールはとりあえず鱗の様なものを指さした。

「あれ、何かな?」

「どれだ?これは…鱗の様だが」

ひょいとそれをつまみ上げてルドヴィさんはうーんと唸っている。

「シャルが見つけたの」

「そうなのか。それでシャルは何でそんなに暗いんだ?」

「分からない」

首を捻って言うと途端にシャルががばっと顔を上げる。

「アル!あのね、俺」

いきなりシャルに手を掴まれた。顔が近い。

直後、ひょいと誰かに抱え上げられて手は自然に離れる。

「アル、寄り道はダメだと言いましたよね」

「クラウス」

気が付くとクラウスの顔の高さまで抱えられていた。

完全な子供扱いにムッとするが、高さに驚いて思わず首にしがみついてしまっていた。

何かに負けた気がする。

「え?クラウスって、あの…」

戸惑いの言葉など聞こえないかのように、クラウスは全く表情を変えない。

「帰る時間なので、失礼」

呆然とする一同を後目にさっさと転移をし、屋敷へ連行された。

何であそこが分かったのかとか色々聞きたかったが、母親に引き渡すとクラウスは帰ってしまった。

何だったんだ一体。

母親に案の定こってりと怒られ、説教が終わるともう夜になっていた。

夕食の席でも母親は機嫌が悪いまま。

気まずい空気が流れて食事もあまり味わえない。

今日は父親は仕事で戻らないらしい。

そこへ救世主のように兄の帰還が告げられ、ホッとする。

アジュールには19才になる兄と17才の姉がいる。

兄は父親と同じく王宮にて財務を行っており、姉は既に嫁いでいる。

父親に似た穏和な兄はやはりアジュールに甘い。

「ただいま戻りました」

「お兄様お帰りなさい」

「アル、また王宮に来てたようだね。クラウス様と仲がいいのはいいことだけどあまり邪魔にならないようにね」

「…はい」

全く管轄の違う兄のところまで行く情報って。

どれだけ噂になっているのか恐ろしくなってきた。

つまり、それだけ見られているということだ。

ちょっとテンションが下がったアジュールを慰めるように兄が頭を撫でてくれる。

「近々遠征もあるようだから」

「え?聞いてない」

「忙しそうだっただろう?アルに心配かけまいとしたのかな」

地味にショックだった。

「あら。じゃあ、その間十分お勉強の時間があるわね」

「…」

母親の声に二重にショックだ。

クラウスのところへ行くという切り札が使えないとなると、外へ出る理由がない。

本来そうそう外出などしないのが令嬢であるが、止めても無駄…むしろアジュールを止める手立てがないのが現状であった。

けた外れの魔術力でもって結界などないに等しいし、物理も魔術にて無効化されてしまうのだ。

しかしそれもクラウスのとこに行くという理由でもって許されている。安全面に置いても安心だということで。

「お兄様、遠征ってことは大きな事件?」

「アルは心配しなくて大丈夫だよ」

こっちでも教えてもらえない。

クラウスに聞いてもはぐらかされるし。

ギルドでも大きな依頼も動きもなかった。

何が起きているのか。

遠征なんて。

それくらいは教えてくれてもいいだろうに。

面白くない気持ちでベッドに入る。

明日クラウスの所に行って、絶対に聞き出してやる。

固く誓って眠りについた。



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