クエスト
「……ふむ、そういうことなら、支援はしよう」
俺のベリル村への支援という提案を受け、現王はそれについて許可を出した。既に状況も説明済みだ。
夢のこともあって、ずっと気を張りっぱなしなのだが、現状何も起きていないものだから、正直もう警戒をやめようかと思っている。もしかしたら、魔王軍が俺を気疲れさせる作戦としてあんな夢を見せたのかもしれないし。
「それで、貴様は今からどうするのだ」
「どうせレベルは上がらないけど、腕が鈍らないようにクエストでも消化してくるよ。使者が来るなんて噂も出てるらしいけど、今のところ魔王城からこっちに強い気配は来ていない」
「ふむ……それならよかろう。存分に戦うがいい」
王城を後にし、取り敢えず宿で待機してもらっていたレイラ達と合流する。
「そっか、支援はしてもらえるんだ」
「そういう事になった。んで、俺たちは今からクエストに行こうと思う。強敵との連戦ばかりで疲れているかもしれないけど、オロチにマリオネット。あの二人を見ただけでも、使者は特別な能力に加えて、その他の能力も高いように思える。だから、せっかくパーティーの編成としては理にかなっているから、それぞれの熟練度を上げておきたいんだ」
「私の聖魔法ってあまり上がらないよ?」
「そこが問題なんだよな……アンデッドでも浄化すれば結構効率いいけど、そういう話も聞かないしな……」
脳裏をこの前倒したクロータイガーのゾンビ化した姿が過るが、それは記憶の奥底にしまいこむ。あれは、単に俺の生来の運のなさが導いた結果だったのだから。そうでないと、困る。
「とにかく、レベルに関して上げておけば魔法の威力も上がる。エミはまだこの中では低いから、そっちを優先にあげるようにしよう。熟練度は、俺とミフィア、エルが傷を負った時の回復魔法で少しずつ上げればいいよ」
低い方とか、レベル一の俺が言えないけどな、と心の中で付け加える。
「分かった。じゃあ、後ろで魔法での支援でいいの?」
「いや、もしものことがあったら困るからな。エミは支援魔法だけで頼む。後方からの攻撃は、レイラとエルの熱線で補う」
レイラの了解とエルのクルルの声が重なる。
「よし、それじゃあまずは、クエスト探しにギルドに向かうか」
♢
ギルドで、三つのクエストを受注した。内容は全て討伐で、まず最初に向かうクエストは、央都の近辺で見かけられ、巣がかつてヴィレルが潜伏して父さんと出会ったという場所だと特定された、悪鬼王の討伐だ。
エルの背中に竜車を乗せて、空で移動をしている。
「オーガってどんな感じなの?」
レイラを含め、ここにいる全員が聞きたいであろうことを、レイラが代表として俺に聞いてきた。勿論、俺も他のメンバーも見たことはないが、俺には父さんの魔物ノートで情報はある。エミのおかげでそのノートは手元にあるにはあるが。
「額にツノが生えてて、主に棍棒か大剣で戦うらしい。ロード……王って言うくらいだから、もしかしたら筋骨隆々、天をも貫く大剣、なんて感じじゃないのか?」
ちょっとふざけを含めたイメージを言ってみるが、どうやらその姿を想像してしまったらしい三人が震え上がった。
「冗談だよ……多分、会話をするくらいなら出来ると思うけどな、それだけの高レベルの魔物なら」
「話せるのかー……倒しづらいなぁ……」
「問題ない。すぐに倒す」
「そのまっすぐさ、見習いたいよ……」
「お兄ちゃん、後どのくらいで着きそう?」
レイラがミフィアの発言に溜息を吐いているのを横目に、エミの質問に答える。
「央都から魔物の巣まではそれなりに距離があるからな。今日は森の中で野宿して、明日の昼頃に着くつもりだ」
「野宿……」
そういえば、エミって野宿したことあったっけ。もしなかったら、色々と教えた方がいいだろうか。料理は出来るだろうけど、寝場所の作り方とかは知らないだろうし。学園でも、卒業前の一年間で習うけど、エミはそこまで習ってないしな。
「大丈夫だ。魔物なら俺とミフィア、エルが第六感とか索敵で探せるし、食料もかなり詰め込んでる。流石に夜は寒くなってきたけど、防寒着も一応持ってるからな」
レイラとミフィア、エルの三人一匹で旅をしていた際は、そこまで使ってこなかったのだが、せっかく持っているのだから使わないとな。
「別にひっついて寝たら寒くないでしょ?」
……それに、何だかんだでこの美少女達に囲まれて寝るのは、流石に理性が心許ない。
♢
その夜は、結局俺以外はひっついて寝て、俺は一人で防寒着に包まれて眠った。エミには一通り野宿については教えたから、これからは四人で準備が出来るようになる。エルには流石にやらせてはいないが。移動で疲れてるだろうし。夜中に魔物や山賊が襲ってくることはなかった。
「さて、今日は悪鬼王の討伐をするけど、準備はいいな?」
「うん。ロッドも問題なかったし、しっかり寝たから、全然大丈夫!」
「ん、問題ない」
「私も大丈夫」
最後にエルがクルルと喉を響かせて、全員の準備が整った。
「よし、それじゃあ行くか」
ここから巣までは、徒歩でも二時間程度で着くはずだ。だから、ここからは奇襲の可能性も考慮して、竜車を木々の中に隠して、地上を歩いて向かうことになった。
第六感を働かせて森の中の様子を探るが、特にこれといった反応は感じない。
「エル、反応はあるか?」
頭の上で首を横に振るのを感じとり、エルの索敵にも察知しないことを確認した俺は、出発することにした。
予想通り、二時間歩いたところで、森の木々が少なくなり始めた。この辺りは魔物の醜悪な魔力によって、木がそれに耐えきれずに枯れてしまうことがあるのだ。そのために、巣の近くは木の密集度が下がり、疎らに生えているだけになる。
手頃な木に俺が隠れ、敵の様子を探る。俺以外はもう少し後ろに木に姿を隠させている。
巣の様子は、簡単に言うと二段の棚のようになった崖に、上下共に三つずつの大きな穴が空いているような見てくれだ。そして、今そこに悪鬼王は見当たらず、しかし気配はヒシヒシと感じていた。
──気配からして、下の真ん中にいるのか。音は特に聞こえないけど、気配を感じるということは起きているしハイドもしていないはずだ。
「きゃあぁっ!?」
レイラの叫び声が森に響いた。
「ちょ、離してっ! 触らないでよっ!」
レイラ達が隠れているはずの木に視線を向けると、赤に青、黄色に緑と、色とりどりの悪鬼がレイラ達を取り押さえようとしていた。
「くっ……!」
油断した。これがミナの言ってた“ミスディレクション”とかいう、視線誘導か。第六感に頼って敵を判断するからこそ、ハイドしている敵には気付きにくいという欠点をついてきたのか。
即座に剣を抜き、背後の気配を気にしながらまずレイラを取り押さえようとする赤と黄色の悪鬼へと剣を振るう。レイラに当てないために縦に振るったが、やはり攻撃の軌道が読まれていたらしい。あっさり躱された。
舌打ちをしながら、剣を横に伸ばして“ルミナスカリバー”を発動させ、自由になったレイラを放置してミフィアとエミを押さえる悪鬼四体に斬り掛る。エルはどうやら、先に察知してギリギリ躱したらしい。いないことがそれを物語っている。
「れやぁ!」
武器を持たない四体の悪鬼を上半身と下半身に分裂させた俺は、残りの二体に向けて残り三発にイメージした“ルミナスカリバー”の剣を振るう。そして、赤は首から、黄色は右肩から左の脇腹にかけて背中の肉を残して斬り裂いた。噴き出る血を距離を取って避ける。残りの一発は必要なくなったので、そのまま使わずに剣技を終わらせた。
「危なかった……無事か?」
レイラが声を上げてくれたおかげで気付いたからいいものの、運が悪ければそのまま連れ去られたかもしれない。流石王が率いるだけのことはあり、知性としても戦略を考える程に高いようだ。
「厄介な敵だな……」
レイラたちの無事を確認した俺は、仲間が殺されたにも関わらず動いていない悪鬼王へと視線を向ける。
悪鬼王へと挑むレン。しかし、その強さに苦戦を強いられ、レイラ達が加勢するも覆らず……そんな状況を一転させたのは──次回、「エルの裏技」
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しばらく投稿しなくてすいません。カクヨムの方で書いてて、こっちに移すのが遅くなりました。




