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現状

ベリル村に着いた俺たちは、まず村長の元へと向かった。


日も暮れだしているとはいえ、この由々しき事態の中、あまり時間をかけるわけにもいかないのだ。


「それで、央都に野菜を送らなかったのは、なんでなんだ?」


村長の部屋の中にて、俺一人と色褪せた緑の短髪を持つ村長との二人、俺は村長に依頼を終わらせるべく、質問を投げかけた。レイラ達には、外で待ってもらっている。理由はというと、あまり大人数で押しかけては、相手に悪いからだ。


「……実はですね」


村長が言うには、唐突に作物が全て枯れ、央都に送る野菜のノルマに達することが出来なかったらしい。そして、その原因は分からないのだそうだ。水をやるのをサボったわけではなく、草もちゃんと取っていたらしい。なのに、だ。


「……マジで不測の事態、ってやつかよ」


確率的に一番ないと思っていた急な作物の全滅。しかし、それがまさかの現実になっていたとは。


「……ってことは、この村の食料はどうなってるんだ? ミールから肉や牛乳を送ってもらってるのは知ってるけど、ここの主な食料って、野菜だよな?」


「はい。貯蓄はありますが、それもそう遠くなく底をつきそうで……」


やはり、早い所解決しないといけないようだ。


「分かった……でも、原因が分からないんじゃな……よし、調査は俺らでするよ。あと、現王に頼んでここへの物資も送るように頼んでみる」


「ほ、本当ですか⁉︎ 助かります……今日はもう遅いです。豪華な食事が出せるわけではありませんが、どうぞお休みくださいませ」


「ああ、ありがと」


そして、今日はベリル村の宿に泊まることになった。



「私達もレンが話してる間に色々見て回ってたけど、畑の中は何も無かったよ。前お世話になった人に聞いたけど、なんか、土の性質が変わっちゃったって言ってたの」


「土の性質……? そんな、一気に変わるものか?」


「んー……農業なんかやったことないから分からないけど、そんなにすぐに変わることはないんじゃないかなぁ……」


「そうだよな。変なものが降ってきたわけじゃあるまいし……」


「魔王軍の仕業だったりしてなー」


椅子に座りジュースを飲んでいたエル(人の姿)がストローを咥えたまま言った。


「「まさか、なー(ねー)……」」


その言葉に対して、俺とレイラで諦めの色を込めた言葉を呟く。しかし、そうなると本当に原因不明だ。それに、土の質が変わったってことは、これまで通りに作物が作れなくなるという訳だ。


「難しいこと、考えても分かんない。今は、出来ることする」


「……そうだな。俺達は明日村を出て、央都でケールカバルスに報告、んでここへの物資の支給を頼まないといけない。それに関しては変わることは無いからな」


「そうだね」


「お兄ちゃん、お風呂入れるって」


飲み物を取りに行ってもらってたエミが、部屋への入り際にそう告げた。


「先入ってこいよ。俺は、俺用の部屋でのんびりしてるからよ」


「はーい。行こ」


レイラが返事をして、エル以外──エミとミフィア──が立ち上がる。


「エルは?」


「レンと入るから、どーぞ先に」


エルはどうやらまだ、レイラ達に弄られまくった頃のことが忘れられないらしく、俺から離れるのを拒否することが多い今日この頃だ。


「そういえば、なんでも一つ言うこと聞いてもらうってやつ、使ったのか?」


「あー、色々あって忘れてた……」


ヴァンパレス城にいた頃、エルはレイラ達にあまりに気持ちいいほっぺの触り心地故に怒り、レイラ達に何か一つ、個人でなんでも言うことを聞いてもらうという条件で一時は解決したのだ。その時にミフィアの分は消費したのだが、レイラとエミに関しては、まだ使ったのか聞いていなかったのだ。


「どう使おうかなぁ……」


コップを手に持ち、机に平伏しうなだれる。


そんなエルを尻目に、俺は今回の案件に考えを巡らす。エルは魔王軍の仕業じゃないのか、と先程言ったが、もしかしたらあながち間違いではないかもしれない。


前回戦った相手であるマリオネットは、生死に関係なく、生き物を操った。ならば、それとは別に、植物を操る者がいてもおかしくはない……と考えている。しかし、これはあくまで推測でしかない。


そんなことを考えていると、部屋の扉のノブが捻られた。ここの管理人でも来たのかと思い、スルーしていると、


「あれ、お兄ちゃんまだいたの……」


大きめのタオル──バスタオルと言うらしい──を脇から下に巻き、大事なところをギリギリ隠したエミだった。一年ぶりくらいにこうして妹の裸に近い姿を見たものだから、最初に抱いた感想は──


「……成長したな、お前」


「そりゃあ、もうちょっとで成長期に入ろうとしてるもん。大きくもなるよ」


たしかに、俺が旅に出ている間に、エミは二度の誕生日を迎え、十一歳になったのだ。入ろうとしている、というよりは、男子よりも成長期の入りが早い女子なのだから、既に入っているだろう。


胸は目に見えて大きくなっているし、くびれもはっきりして、体格がどことなく丸くなっているように思える。身長も最初別れた頃に比べ、二、三センチは伸びただろう。


「それで、何しに来たんだ? 忘れ物?」


「うん。下着と寝間着」


あぁ、そういえば全員手ぶらで行ってたな。ポーチもベッドの上に全員分あるし。


「そっか。んじゃあ、俺は部屋に戻ってるから、出たら呼んでくれ」


「はーい」


エミが部屋に入ってくると入れ替わりに、俺とエルが廊下へと向かう。そして、すれ違いざまに、


「お前、その格好でここまで来たのか?」


「そうだけど。でも、ここからお風呂近いし、誰にも見られてないから大丈夫だよ」


「それならいいけど……そろそろ、淑女としての常識も身につけておけよ」


「考えておく」


若干呆れながら、俺は今度は部屋を出た。溜息を一つ吐いた時だった。


「おにぃちゃん」


語尾にハートが付きそうな声で背後から呼ばれ、つい仰々しい反応をしてしまった。


「おまっ……⁉︎」


そして、後ろにいたのは、白銀の髪を体の揺れとともに左右させる、エルだった。


「……紛らわしいことはやめてくれ」


「ごめんね。ちょっと、レンが疲れ切ってるみたいだから、元気出させてあげようかと」


「やり方ってもんがあるだろ……まあ、その気持ちで十分だ」


エルの頭を撫でて、意思表示をする。しかし、エルは満足ではないようで、


「んー……じゃあ、一緒にねよっ。それで、元気になるでしょ?」


たしかに、最近はエルと寝ていない。最近といっても、ヴァンパレス城を出てから、という意味であるが。それに、エルは別段寝相が悪いわけでもなく、むしろそういうバフでも付いているのかと思わせるくらい、癒されるのだ。


「そうだな。たまには、いいか」


「やったっ」


エルがにへ、っと下から笑顔を向けてくる。正直、こいつがいてくれるだけで本当に助かっているのだ。色々な意味、場所で。


たまには、感謝も伝えなければな。


「ありがとな、エル」


「どういたしまして」


その後二人で風呂に入った俺らは、同じベッドで添い寝の状況ながらに寝た。どのみち、俺らは同じ部屋でベッドは一つなのだから、片方が床で寝ない限りは指値は確定だったのだが。


翌朝、ベリル村を発った俺たちは、何事もなく央都の目前まで三日かけて進んでいた──

央都に着き、レイラに起こされたレン。しかし、そこで待っていたこととは──次回、「悪夢」

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