表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/97

レイラの寂しさ

「……ねぇ、レン」


 俺たちは既に夕食を食べ終え、横になっていた。


「なんだ?」


「……寂しく、ない?」


 そして、レイラが突然そんなことを聞いてきた。


「寂しいって、何が」


「……家族と、一緒にいれなくて」


「別に。冒険者学園の泊まりとかで、結構慣れてるから。そういうお前は?」


 レイラは返答をしばらく返さなかった。暗くて、右側で横になっているはずのレイラの姿は、輪郭すらまともにつかめない。


 返答なしか、と諦めて、寝ようと寝返りを打つ。すると、


「…………寂しいよ」


 消え入るような声で、そう言った。


「……でも、言えない。寂しいなんて、言えない。だって、お父さんもお母さんも、忙しいもん。私の相手なんて、してる暇ないもん……」


 まあ、そうだろう。レイラの親は、領主夫妻なのだ。領主ならば、俺の住んでる村の中でも、トップクラスの忙しさなのは間違いない。それなら、遊ぶ暇など、ないのは仕方ないだろう。俺の両親は、早いうちに冒険者稼業を引退して、俺とエミを育ててくれた。相当恵まれていたのは、否定できない。


「……メイドとか、いなかったのか?」


「……ん。メイド雇うくらいなら、村のためにお金を使う、って」


「そっか……」


「でもね、五年前までは、お母さんが遊んでくれてた。楽しかったよ、すごく。でも……“魔王のいたずら”があってから、遊んでくれなくなっちゃって……寝るときも、遊ぶ時も、ご飯も……ずっと一人で……」


 全然、構ってくれなかったの。とレイラは言う。俺は何も言えなかった。幸せな家庭に生まれた俺が、そんな辛い生活を送ってきたレイラに、かける言葉などあろうか。


「……だから、冒険者になった。けど、特例で、冒険者学園にも行ってなくて、全然魔法もダメで……誰も、拾ってくれなかった。それでも、ずっと一人だった。それが嫌で、簡単なクエストを受けて、レベルを上げて、中級魔法まで使えるようになった……けど、それに一年もかかっちゃって……あの時、レンが私を見捨てたら、冒険者は辞めよう、って思ってたの。けど、レンは私と一緒に来てくれた」


 半ば強制的だったけどな、とは言わない。それだけの覚悟を、俺に託していたらしい。


「……寂しかった、んだな。俺も、父さんが死んだとき、同じような感じだった」


「え……?」


「……苦しくて、悔しくて、でも、どこにもその気持ちをぶつけれなくて、ずっともやもやしてたな。それでも、母さんは俺を育ててくれた。エミは俺を慕ってくれた。学園のやつらも、俺がリザードマンを倒して、スゲーって言ってくれた。それが励みになって、こうやって、俺も父さんと同じ、冒険者をやってる。寂しいときは、一人で抱え込んじゃダメだ。誰かを頼って、誰かのぬくもりを感じる。これが、最善策だな」


 見えないと分かりながら、俺はレイラに笑顔を向ける。レイラがふふっと笑うのが聞こえた。


「ありがと。ちょっと、マシになった。ねぇ、レン」


「ん?」


「ぬくもり、感じていい?」


 どうするつもりなのか、見当がつかなかった。でも、


「好きにしな」


 いいよと言うのが恥ずかしくて、ぶっきらぼうになったが、レイラに許可を出した。すると、ゴソゴソという音がして、俺の右腕を何かが引き寄せた。レイラが、抱きしめたのだ。


「……ホントだ。寂しいの、軽くなった。レン、あったかいね」


「……そうだな」


 こういうことをするあたり、やっぱりまだ子供なんだな、と思いながら、レイラの抱きしめを受け入れる。


「明日」


「ん?」


 レイラの呟きが、かなり近くで聞こえた。


「頑張ろうね、ネぺ、ネペ……」


「ネペント」


「それ。その討伐」


 俺は修正したのに微笑を浮かべる。そして、


「そうだな」


 心の中で、レイラは絶対に守ろう、と誓った。



 翌朝、俺はレイラよりも先に目が覚めた。どうやら、レイラは俺の腕に抱き着いたまま一晩を過ごしたらしく、俺も右腕が若干だるかった。


「……さて、朝飯でも、作っておくか」


 立ち上がり、レイラの枝にかけられたポーチを、勝手に探って食料を取り出す。中に入れた感じは、もう、底がないんじゃないか、と思わせるような感じだった。


「さて、朝はそんなにガツガツは嫌だな……あっさりしたスープと、簡単なサラダかな。物足りなければ、適当に何か作るか」


 もう一度食材をポーチに戻す。中身を確認して、何を作るか見当をつけた。そして、顔洗うついでに、水を汲みに行くことにする。しばらくレイラを一人にすることになるが、魔物の気配はないので、問題はないだろう。


「水筒水筒~っと」


 枝に掛けられた水筒を手に取る。昨日の水は既に全て使ったため、残っていても蒸発しきれなかった水滴ぐらいだろう。


 川に向かい、顔を洗って、水を汲む。夏場なので、寒くはないが、やはり上半身は肌着だけだと、少し冷える。


 元の場所に戻り、レイラが寝ているのを確認。服はまだ濡れていたので、レイラが起きるまでは我慢をすることにする。


 水がなくなったので、もう一度調達に行こうか、と思ったところで、魔法で作れるのを思い出す。


「いやでも、……今日戦闘あるしな。魔力は温存しておきたいし」


 ということで、結局は汲みに行くことにする。鼻歌を歌いながら戻ってくると、ちょうどレイラが目を覚また。レイラも服を洗ったので、ローブと上半身の服は干してある。つまり、肌着。まあ、子供に劣情を抱くほど、俺も終わってはいないので、何とも思わない。


「おはよ」


「ふぁ……おはよぉ……ごはん?」


「ああ。火、起こしてくれないか? 俺、魔力温存しておきたいからさ」


「ふぁい……」


 目はまだ半分ほど閉じており、眠いのが伺える。


「顔洗ってくるか?」


「……うん。レンも、ついてきて」


「え、いや、でも……」


「一人、怖い……」


 昨晩のあの話を聞いては、一人にさせるのは悪いかな、と思い、食材を置いてついていくことにした。水筒の中にあった水をレイラに少し飲ませ、鍋に足りなかった分を入れる。硬めの野菜を水に浸けて、レイラと共に、川に向かった。水筒も持って。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ