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新たな冒険の始まり

「記憶が無い?」


「はい、そうなんです。何度聞いても、何も覚えてないって」


事件が解決し、その三日後にマレル村の家は大体が元に戻った。完全に戻るにはもう少しかかるらしい。理由はと言うと、ミナの作った魔法の効果によるものだ。


ミナの作った魔法は、無機質の時間を戻す魔法だった。だから、戻ったのはレンガ造りの建物だけで、木造は戻らなかったのだ。そうした理由は、もし魔物の破片でも落ちていれば、それが復活しかねない。それを危惧してのことだった。木造に関しては、建築について知識のある人が先導して、マレル村のレンガ造り組が建てる。木造組は、もうしばらくホーセス村で過ごすことになった。


それから更に三日経って、俺らは央都に戻ってきていた。そこで事件の事情聴取について聞かされたのが、今のミナとの会話だ。


「その二人は、どんな様子なんだ?」


「あの二人は元々結構明るい方で、戦闘時の無表情な様子はなくなってました。元に戻ったという感じです」


「誰かに操られていて、それが消えたから戻った……ということか?」


「どうでしょうか……そんな話、信じにくいですが」


「ああ。俺も、人を操る魔法なんて、聞いたことがない」


二人で考え込む。この事件は俺たち二人だけが関わったものだから、事情を知っている俺のパーティーメンバーとジュンだけにしか、情報は与えていない。そうでもしないと、国中に王女が連れ去られたという情報が流れる可能性があるからだ。


「レン、ちょっといいか」


そこで、ジュンが話しかけてきた。


「ここで話せる内容か?」


「ああ。内容的には、全く違うものが二つある」


「じゃあ、ここで話してくれ」


「分かった……一つ目は、魔王軍の情報だ。お前が知っているかは分からないが、魔王軍に"使者"と呼ばれる存在がいる」


「……噂には聞いたことがある。父さんに聞いたことだけど、俺らが戦ったウィンブルも"使者"の一人だってことも」


「ああ。話では、"使者"は十人ほどいるらしい。ただ、その中で正体が掴めているのは、たったの二人だ。お前の言う"空の使者"ウィンブルと、"地の使者"ナグマズだ。それで、今回新たな"使者"が動き出したことが分かったらしい。偵察隊がお前ら二人が挑んだダンジョンの調査をしていた時、帰りに魔王軍の侵攻が確認されたらしい。帰り際、魔王城側に軍団が見えたらしく、双眼鏡で見たところ黒いタキシードを着た男と、

その他の魔物が大量にこっちに向かっていたらしい」


「もしかして、この事件が魔王軍の仕業だっていう可能性があるのか?」


「どうだろうな……タキシードの奴は、間違いなく魔族だったらしい。だから、"使者"の可能性があるということだけが分かってる」


「王女誘拐の混乱に乗じた、央都の制圧……」


「可能性はあるだろうな」


俺の呟きにジュンが肯定する。


「……それで、もう一つは?」


「これだ」


ジュンがポケットから一枚の紙を取り出す。


「内容はこうだ。『レン御一行様を、我が居城"ヴァンパレス城"に招待する』」


「招待状? なんだって俺に……というか、"ヴァンパレス城"ってどこだ?」


「確か、マレル村の東の山を越えて、何百キロか進んだところだったと思いますよ」


「何百……それで、他に何か書いてなかったのか?」


「あとは……『央都騎士団の隊長二人も招待する。この招待は、増援を望むものだ』と書いてある」


「お前ら二人も呼ばれて、それに増援……何かの事件か、魔物ってことか?」


「そうなるだろうな」


「分かった。今日帰ったら準備して、レイラ達にも伝えておくよ」


「頼む。移動手段は──」


「私がフェニックスと戦ったところまで運べるけど、そこからはどうする?」


「竜車もテレポート出来るなら、そこからはエルに移動させるよ」


「それでいくか」


そうして、この前の事件はあらかた収束し、新たな冒険が始まろうとしていた。



「へぇ、“ヴァンパレア城”かぁ。すごいところから招待されたね」


「お兄ちゃんって、いつの間にかすごい冒険者になってたんだね」


 そうそう、一つ忘れていた。マレル村を出る際、俺らに新たな仲間が加わった。まあ、予想はついただろうが、俺の妹である、エミことエミリーだ。母さんが死んでしまって、身寄りがなくなったから、どうしようかということになった。最初は領主が預かることになっていたんだが、エミ自身が、俺についていきたいと言い出して、特例で既に冒険者になっていたため、一緒に来ることになったのだ。これまで前衛二人に後衛一人だったのが、エミが加わったことで前衛後衛、共に二人ずつになった。しかも、エミは聖魔術師という特殊なジョブについているため、状況によって使い分けが可能なのだ。


 これで戦闘はずいぶん楽になると思うが、今回のクエストがどのようなものか分からない以上、無茶は禁物かもしれない。


「……俺が知らないだけで、結構有名な城なんだな」


「そうだよ。なにせ、その城の持ち主である“ヴィレル・ヴァンパリウス”さんは、レンのお母さんと同じように、多くの魔術師に尊敬される凄腕だからね。魔力量も世界一なんて言われてるし、元央都騎士団後衛隊隊長もしてたらしいし」


「へぇ、初めて聞いた。央都騎士団隊長か……」


「お兄ちゃんの考えてること、多分私と一緒かな」


「ああ……父さんと母さんのこと、何か知ってるかなって思ったんだけど」


「知ってると思うよ。リューゼさんとフィミルさんと、同じ頃に騎士団に入ってたと思うから」


 そのヴィレルという人に、会ったら色々と聞いてみようかな。


「レン、準備終わった」


「ありがとな」


 完全に呼び捨てになったミフィアに、俺らの準備を任せていた。任せていた、というよりは、率先してやってくれたというのが正しいだろう。最近、そういうところをよく見かけるが、恐らく気を使っているらしい。同郷である俺らへの気遣いだろう。


「よし、俺らの準備は終わったな」


 その時、扉がノックされた。「開いてますよ」と返事をすると、ミナとジュンが姿を見せた。


「ちょうど終わったみたいだな」


「ああ。お前らが央都離れて大丈夫なのか? 魔王軍が侵攻してきてるはずだけど」


「問題ないそうです。騎士団で爆裂魔法を使える隊にさっき撃たせに行ったら、引き揚げていきました」


「そ、そうか」


 なかなかに惨いことをするな。


「“使者”っていうのも、そこまで強くないのかな?」


「さあな。人を操る能力の可能性があるからな。でも、あの二人からは魔力なんて感じなかったし、魔法じゃないのか……?」


「今は後にしましょう。ヴィレルさんのクエストが先です。準備が終わっているのなら、早いうちに出発しましょう」


「分かった。竜車はこの宿の馬車置きに置いてるから、宿の前まで移動させておくよ。エル、行くぞ」


 エルが一鳴きして、最近はいつもいるミフィアの腕の中からこちらに飛んできて、俺の頭の上に乗った。



 エルに竜車を宿の入り口前まで移動させて、既に待っていた荷物を持ったレイラ達と、ミナのテレポートでこの前フェニックスと戦った元森へと来た。相変わらず焼け野原だ。


「エル、巨大化」


 竜車を運んだあと、ミナの魔力消費量を減らすために小さくなっていたエルが、再び巨大化する。竜車のタイヤを取り外し、底についている格納用の空間にしまい、エルの上に登って縄で繋いだ竜車をみんなで引き上げる。これがなかなかの重労働ではあるが、移動の時短には仕方のないことだ。それに、せっかくホウロウが作ってくれた機能なのだから、使わないわけにはいかない。


「毎回こんなことをしないといけないのか?」


「まあ、そうだな。でも、たまにしか使わないし、竜車は素材とかも軽い木材を使ったから、まだましな方だよ」


 魔法を自在に操れるようになれば楽になるだろうが、それはまだ遠い話だろう。


 専用の縄でエルの四肢に竜車を固定し、確認の後全員が竜車に入って、飛び立った。

 ヴァンパレア城に到着したレンたちは、そこで噂の魔術師“ヴィレル”と会う。しかし、レンはヴィレルと他の場所で昔に会っており、フェニックスの戦いのときの謎の声も判明する。次回、「ヴィレル・ヴァンパリウス」

 ちょっと時間が空いての投稿になりました。カクヨムにて前に書いていた恋愛もの(?)も再開したので、そっちも読んでいただけると幸いです。

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