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ウルフ討伐後

ウルフは倒した。俺は血塗れになりながらも、レイラの協力もあって、生き延びた。傷はほとんど受けていない。


「レン、やったね」


レイラが笑顔で話しかけてくる。彼女は離れたとこからの火属性魔法だけでの攻撃なので、返り血は浴びていない。そいえば、ケイルたちは無事に逃げれただろうか。


「そうだな。今日は、もう遅くなったし、疲れた。どこかで休もう」


「うん。それにレン、返り血すごいしね。早いとこ洗わないと、のかなくなるよ」


「そうだな」


わざわざ服の汚れを心配してくる。やはり子供というのは、楽観的な生き物だな。でも、それが今は俺の心の安寧にすごくいい。


「じゃあ、休める場所を探すか。出来れば、水の確保が出来る川が近くにあった方がいいけど……お」


耳を澄ましてみた。すると、僅かにだが、水が流れる音がした。少し距離があるだろうか。父さんに目隠ししての特訓で鍛えられた聴覚が、ここで大いに役に立った。


「こっちに川があるみたいだ。傾き的に、こっちが山の頂上だろうから、こっちに進もう。どこかにここよりは小さいけど、空間があると思うよ」


「はーい」


俺が歩き出すと、レイラが隣をちょこちょことついてきた。どうやら、さっきウルフに襲われたことで、先にどんどん行くと、何か怖いことが起こるんじゃないか、ということを思ったらしい。


しかし──


「レン、血の匂いが臭い」


きゃっきゃと笑いながらそんなことを言うので、本当は俺で遊びたいだけなんじゃないか、という疑念が浮かぶ。


「うるせぇ」


とだけ返しておき、俺たちは山の頂上に向けて、木の生えていない空間を探しながら、歩いていった。



二十分ほど歩いた頃だろうか。俺もレイラも、そろそろ脚が疲れてきた。レイラに関しては、さっきから息も上がっていて、足取りは結構重そうだ。


すると、風の流れが変わった。魔物が現れたとかではない。物理的に、風の流れが変わった気がしたのだ。


気になった方に目を向けると、そこにはちょっとした空間があった。


「レイラ、あったぞ」


「……ほぇ?」


既に歩くことだけを考えていたらしく、変な声で返事をしながら、俺の元に歩み寄り、俺が指さす先を見る。


「寝床っ!」


「お、おい! ……たく」


見た瞬間に、空間に飛び込み、寝転んだ。俺は苦笑いしながら、その空間に足を踏み入れる。魔物の気配はない。そして、川の音も聞こえる位置だ。結構いい感じの場所かもしれない。傾斜もそれほどなく、寝るにもちょうどいいだろう。


「ロッド折るなよ。それで、寝る時はどうする?」


「あ、それなら、道具は持ってきてるから、安心して」


そして、レイラが腰についたポーチをまさぐった。そして、巨大な布を数枚取り出す。


「……ホントそのポーチ、何でも入るよな」


そのポーチのサイズからは、全く予想できないサイズの布だ。人二人は覆えるだろう。


「これをここに……と、届かなぁいっ!」


木の枝に結びたいようだが、低身長のせいで届いていない。俺が仕方なく、溜息をつきながら結んでやると、「ありがとっ!」とお礼を言ってくる。そして、今度は別の布を地面に敷く。そしてもう二枚敷いて、一番上の布の、上五分の一を谷折りに折り曲げる。


「下二枚が布団替わりで、上一枚が毛布替わりね、枝のが屋根替わり」


そういうことらしい。レイラの奴、案外ちゃんとした知識は持っているようだ。


「それじゃ、水浴びをしよーう!」


「俺は後でいいよ」


「ううん。レンが先ね。ちゃんと服も洗ってよ。乾かなかったら、明日の朝魔法で乾かすから」


「へいよ……あまりウロチョロするなよ。気配は近くにないけど、いつ襲われるか分からないからな」


「分かってる。ほら、私も、洗いたんだから、早く行ってよ!」


「分かった分かった」


 そして、俺は水の流れる音を頼りに、川を目指した。



 しばらく歩くと、予想通り川が見受けられた。そこまで大きくはないが、小さいというわけではない。深さも膝くらいまではあるし、幅も一メートル前後はある。


 俺は上半身の肌着以外の服を脱いで、水に浸けた。手にひんやりと水の温度が伝わる。


 しばらく服を擦っていると、付着したウルフの血が、少しずつ流れ出した。


「こりゃ、のきそうにもないな……帰ってから母さんに頼むか」


 完全に洗い落とすのを諦め、その服で体を拭いた。もう一度洗ってから、手に掛けてレイラが待っているところに向かう。十分程度で終わったから、まあレイラも遅いと怒ることはないだろう。



「早い!」


 戻ると、開口一番にそう怒鳴られた。


「は、早いって言われても……」


「早すぎ! ちゃんと体洗ったの!?」


「拭くには拭いたけど……」


 何故か、懸念していたことと真逆の意で怒られていた。


「ま、まあ、早いに越したことはないだろ? お前だって、早く洗いたいって言ってたし、な?」


 俺は濡れた服とチェストプレートを、近くの枝に掛ける。流石に乾かないと思うが、明日の朝にはレイラが最終的に乾かしてくれる。なので、心配はない。


「ほら、行って来いよ。待ってるから」


「むぅ……あ、食料置いておくから、晩ご飯作っててよ。できるでしょ?」


「はいはい……帰りに水汲んできてくれ」


 俺が言うと、レイラは「仕方ないなぁ」と言いながら、ポーチから小さな鉄製の入れ物を取り出した。どうやら水筒らしい。


「じゃ、頼んだぞ。準備は済ませておくよ」


「は~い」


 レイラが姿を消した。俺はレイラが置いていった食料を眺める。それなりの量があり、野菜、魚、肉に加え、米もある。米は水がないとどうにもならないので、放置。


「というか、ナイフまであるのか……準備のいいやつだ」


 軽く微笑を浮かべながら、まな板用と思われる木の板を地面に置き、そこに野菜や肉を置いて切っていく。料理は母さんに将来必要だから、と叩き込まれたので、それなりにできる。


「調味料もあるのか。流石領主宅だな。泊まり込みの冒険で、こんな豪華な料理食えるの、ここぐらいだろうな……」


 独り言を漏らしながら、俺はトントンと野菜を切っていった。


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