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王女誘拐事件3

 俺たちは今、冒険者ギルドへと来ていた。理由は、簡単に言えば人探しであるが、ターゲットは誘拐犯と思われる“ハンゾウ”という人物だ。


「“ハンゾウ”、ですか……」


 受付のお姉さんに聞いてみる。ギルドの受付が女性ばかりな理由は、そのうちそこはかとなく聞いてみるとしよう。


 そして、お姉さんは少し戸惑い、


「聞き覚えはありませんが、一応確認してきますね。冒険者なら、クエストを受けた履歴が残っていると思いますので」


「念の為、発注の方も確認してくれますか?」


「分かりました」


 そして、俺達はギルド内の椅子に座り、お互いにコーヒーを注文する。


「もし載ってなかったら、どうします?」


「他の方法……は、もう思いつかないな。俺の予想だけど、相手は国外にいる可能性が高いと思う。確率としては、魔王軍側」


「でも、反応はなかったんですよね?」


「ああ……隠蔽ハンディングされてたら別だけどな」


「……そこが、一番の問題点ですよね」


「ああ……」


 ギルドの食料専門の店員がコーヒーを持ってきてくれたので、それをお互いに啜る。口の中を苦みが広がり、少し落ち着きを取り戻す。


「お待たせしました。確認、終わりましたよ」


 そこで、さっき確認を依頼したギルドのお姉さんが話しかけてきた。その顔は、浮かばれないような感じではあるが。


「予想はつくけど、どうでした?」


 俺が聞いてみると、


「残念ながら、発注も受注もありませんでした。お力になれず、申し訳ありません」


「いや、いいんですよ。俺らも、可能性としては考えてたんで……」


 頭を下げるまじめなお姉さんに、問題ないと告げる。しかし、問題はそのままだが、むしろ難航してしまった。


 お姉さんがカウンターに戻ったのを見て、俺達は揃って溜息を吐く。


「……参ったな。これじゃあ、当てがないぞ」


「そうですね……何かこう、ミユリスちゃんが連れていかれそうな場所についてのクエストがあればいいんですけど……」


「あの、お二人は人探しをしているようですが、何かの依頼なんですか?」


 そこで、戻ったと思われたお姉さんが再び話しかけてきた。一瞬油断していて肩が跳ねるが、それを取り繕って返答する。


「い、いや、確かに依頼なんですけど……そうだ。依頼の内容が誘拐された子供の救出なんです。それに関係ありそうなクエストはありませんか?」


 ここで一度、賭けに出てみる。ミユリスが誘拐されたことは伏せて、聞いてみたのだが、


「そうですね……隠れれる場所を考えたら、一つだけ取っておきな場所はあるのですが……」


「そのクエスト、どんな感じのですか?」


「お持ちしますね」


 央都のギルドも、マレル村と同じくクエストの受注は二階で行っている。クエスト以外は一階で承っているので、一階のお姉さんに聞いたのだが。もしかしたら、二階の方が何か掴めたかもしれない。


 そこで、二階にクエストの貼り紙を取りに行っていたお姉さんが下りてきた。


「こちらです」


 そして、クエストの紙を二人でのぞき込む。


 内容は簡単だ。ダンジョンの攻略である。央都から少し魔王軍側に進んだところに、謎のダンジョンが現れたらしい。


「このクエスト、受けた人は?」


「今のところ、誰も中に入った人はいません。あと、クエストを受けた人も一人も。このクエストは、ついさっき入ったばかりなんです」


「……このクエスト、俺ら二人で受ける。他の奴は誰にも受けさせないでほしい」


 俺が視線を鋭くして、声も低くして言うと、


「わ、分かりました……訳アリのようなので、そのように手配いたします……」


「中の宝箱とかは荒らさないので、俺らが戻ったら自由に攻略してくれていいですよ」


「は、はい」


 コーヒーを一気に飲み干した俺は、カップをその場に置いて立ち上がる。隣でミナもそれに倣う。


「行くぞ」


「はい」


 俺たちは急いでギルドを出た。そして、王城下の穴を通り抜け、他の門に比べて頑丈で厳重な北門から出る。



 一時間ほど進んだが、ダンジョンは見当たらない。


「どこにあるんだ……」


「止まってください」


 ミナの言う通りに、そこで止まる。そして、ミナが何かを詠唱しだした。


「……《アンチスペル》」


 それは、かなり魔力の消費量の多い、魔法破壊魔法の一つだった。


 黒の魔方陣から飛び出た黒い鎖が、何かを捕えるかのようにぐるぐる巻きになる。そのサイズは、かなりのものだ。俺らから見て縦では、約五十メートルはあるだろうか。幅は五メートルほどだ。楕円形をしている。


「これが……」


「そのダンジョンだと思います」


 姿を見せたダンジョンは、半円を描くように地上に出ており、その一番高い場所でも五メートルは超えている。


「飛行船みたいな形ですね……」


 飛行船が何かは知らないが、巨大なことに間違いはない。それに、この巨体を隠す光歪魔法を使う魔術師とは一体……


「とにかく、中に入ってしまいましょう。魔物が襲ってきたら面倒です」


「あ、ああ……そうだな。早いとこ蹴りを着けよう」


 そして、その装飾多めの扉を、二人で押し開ける。中は思ったより明るく、所々に灯篭があるらしい。


「……ここが当たりだといいんだがな」


「同感です」



 二時間ほど進んだ。そして、俺らの目の前には、これまた装飾多めの扉がある。恐らく、ここが最奥の誘拐犯がいるかもしれない部屋だろう。


「魔物、少なかったですね」


「ああ。つまり、先に入った奴がいるかもしれない、ってことだな」


 俺らがエンカウントした魔物は、合計十体にも及ばなかった。つまり、既に大方殺られていると考えていいはずだ。それが意味するのは、俺が言った通り、誰かが既に攻略をした。しかし、ギルドではダンジョンクエストを受けた者はおろか、入った者すらいないのだ。


「……開けよう。ここが、今回の最終局面だ。敵は剣の使い手で、近距離型の確率が高い。ミナ、お前の魔法は有効だ。俺が敵を引き付けるから、その間に出来る限り生け捕りにできるよう頼む」


「分かりました。やれるだけのことはやります」


 ミナが腰に刺したワンドを引き抜く。俺も、背中の黒剣を手に取り、鞘から抜く。そして、左手で扉に触れようと、前に伸ばす。が、


「──開いた……?」


 扉が勝手に開き出したのだ。さっきから気配を探っているが、反応は無いはずなのに。


 そして次の瞬間、嫌な予感がして俺は身体を後ろに引く。しかし、若干遅かったのか、剣帯が斬られた。鞘を付けていて、後ろに重さで落ちる。急いで拾ってポーチに入れたいが、その余裕はないうえに剣帯でコートの前を邪魔にならないようにしていたため、この状態では少し戦いにくい。


「ミナ、拾っておいてくれっ!」


 しかし、油断している暇はなく、すぐに地面を蹴る。ミナへ向かっていた剣を弾き、その身体を蹴り飛ばそうと脚を振り上げるが、敵にかわされる。相当な身のこなしだ。


 そして、敵の姿を見ると、


「……変な衣装だな」


 黒一色で親近感が湧かなくもないが、その姿は、身体だけでなく、口元や頭まで布で覆われ、靴は俺らが普段使っている底が分厚いブーツではなく、全体的に布製の靴下のようにも思える履き物だ。そして、まったく気配を感じ取れない。人数は、見えるところには二人だ。しかし、もしかしたら中にまだいるかもしれない。


「なんだこいつら……」


 俺は小さく呟いた。そして、二人の謎人物が部屋に入って、もう一つの扉はそのまま、足音もなく姿を消した。


「勝負はこの中で、か……ミナ、剣帯は?」


「どうぞ。直しておきましたので」


「サンキュー」


 ミナから剣帯を受け取り、タスキのように装備する。これで、コートの胸元がヒラヒラすることは無い。恐らく、俺が見せた"リペア"を使って直したのだろう。


  ちなみに、さっきの攻撃はチェストプレートのおかげで、剣帯が切れただけで済んだ。


「行くぞ……」


「はい」

 誘拐犯と思われる二人との決闘が始まる。二人の攻撃をなんとか二刀流で受けるレンだったが、鍔迫り合いで僅かに押される。そこでミナがバフをかけて、一発逆転を狙うが──次回、「王女誘拐事件最終話」

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