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王女誘拐事件2

その日、央都を回ってみたが、結局何も見つからなかった。そして、今日の捜査は諦めて宿屋に泊まることにした。泊まる宿屋は、俺らがここに来た際に泊まっていたところだ。竜車もまだ置いてある。


夕飯の後、ミナが「後で情報整理にお部屋に寄りますね」と言い残して、一度別れた。


部屋に入ると、この前泊まっていたままの状態で、特に変化はなかった。ベッドの毛布が整頓されているくらいか。


部屋に備え付けの風呂に入り、戦闘服のコートだけを脱いでベッドでゴロゴロしていた。


その時、部屋の入口の扉がノックされて、ミナを部屋の中に入れた。


「結局、何も見つけれませんでしたね……」


「そうだな。まあ、明日には騎士の誰かが目を覚ますだろ。そうすれば少しは情報が入るはずだ」


今日は三十分おきに気配を探ったが、結局恐怖の感情は感じれなかった。


「そうだといいのですが……でも、なんで感情を感じ取れなかったんでしょうかね?」


「今日言ったやつのどれかか、央都内しか探してないからその外にいるかだな。外にいたら魔王軍側にいるか、国側にいるか……」


「魔王軍側にいれば、かなり厳しいかもしれませんね……」


そして、魔王軍側にいると、魔王軍が戦犯である可能性が出てくる。ウィンブルを思い出すが、すぐに頭から捨てて、ミナに向き直る。


「一応、情報整理できたんだろ? 念の為まとめておこう」


「そうですね」


今日集めた情報を頭の中で整理する。


「……まず分かっているのは、相手は相当な手練だということ。そして、痕跡はなくてミユリスも行方が一切わからない。残り期間は一週間程度だけど、あの子の状態を考えるなら、三日以内には見付けたいな。もしずっと眠ってるんなら、それはそれで色々と問題だしな」


「そうですね……一度だけ、外も見て貰えませんか? 恐怖だけじゃなく、全ての感情を見てみてほしいです。魔王軍側にいれば、可能性は大きくなりますし」


「分かった」


目を閉じて集中力を高める。そして、央都全体から更に外、国内と魔王軍側に向けて第六感を広げる。しかし、国内側は多少反応はあるが、魔王軍側の反応は一切なしだった。


「……魔王軍側に反応はない。国内側もいくつかあったけど、恐怖はなかった」


「そうですか……今日は諦めましょう。明日、他の手段も考えてみて、もし誰か騎士が目覚めたら、そこからリスタートです」


「そうだな。じゃあ、今日はここでお開きで、おやすみ」


「はい、おやすみなさい」


ミナが部屋を出ていき、俺はベッドに入る。数日前までここでは女子二人が寝ていたが、特に気にすることは無く、すぐに眠りに着いた。



翌朝、ミナと朝食を食べ終えてから、宿屋を後にした。俺は元々竜車を置いているので、この宿を出る際に一括払いすることになっている。だから、ミナだけ料金を払った。


感情を探ったが、案の定反応はなかった。


「さて、あまりうろうろしない方がいいな」


「何故ですか?」


「王城の奴らが報告に来るかもしれないからな。俺が元々この宿に泊まってることは知れてるだろうから、この辺でいれば見つけやすいだろ」


「そうですね。どこかで、何か飲んでますか?」


「それもありだな。あそこのかふぇって店でいいんじゃないか?」


「カフェですか。こっちにもそんなものが出来だしたんですね……」


どうやら、"ニホン"にあったものらしい。色々興味が湧くが、今はそれは後回しだ。


カフェに入り、二人でコーヒーを注文し、店内の椅子に座ってのんびりしていた。十分くらいした頃、店に央都の紋章を付けた男が入ってきた。腰に剣を吊るしている。


「ここにおられましたか。グリスタードが目を覚ましましたので、王城までお戻りください」


「分かりました。報告、ありがとうございます」


ミナがお礼を言い、俺も軽く頭を下げて、店員に料金を払ってから王城に向かう。グリスタードは、恐らく流血していた騎士の誰かだろう。名前的に男四人のうちの誰か。


王城に入り、医務室に入る。すると、昨日入った時には倒れていた、一番奥のガタイのいい男が上半身を起こして、その横に王代理もいた。


「来て下さり、ありがとうございます」


「意識が戻ったようで、何よりです」


王代理の言葉に、ミナが笑顔で返す。しかし、そんな社交辞令はどうでもいい。


「犯人の情報を教えてくれ。あまり時間をかけたくないんだ」


王城側の人間が少し顔を顰めるが、俺は俺でかなり急いでいるのだ。


「……悪いが、情報はない」


「……どういうことだよ。情報がないって……姿の特徴とか、武器とかあるだろ」


「いや……姿は見えなかった。"暗視魔法"を使っていたが、まったくだ。気付いたら斬られて、気を失っていたんだ。武器は傷から考えて剣だと思うが……」


「足音とかは?」


「聞こえなかった。声も聞いていない」


つまり、本当に情報がない。他の騎士がどうかは分からないが、恐らく同じ回答だろう。


「……姿が見えなかった。つまり"隠蔽ハンディング魔法"か。装備の魔力付与じゃ、気配を消すのが多分精一杯だ。だったら、相手は魔術師、それか魔法の類を使えるジョブの奴だな」


「どうかな……隠蔽ハンディング魔法って、一回の持続時間短いから、ずっとかけてないと難しいよ? それに、長時間使ってると、集中力がきつくなるから、その線は薄くした方がいいと思う」


「でも、それなら後はどうやって……」


「魔道具はどうでしょう」


 王代理の言葉に反応する。


「魔道具にも、姿を消すものはあります。央都の中にも八軒ほど魔道具店はありますので、そこを回って、販売履歴を見てはどうでしょうか」


「確かに、それなら可能性はありそうですね」


「……そうだな。一旦行ってみよう」


 そして、俺達は王の紋章を借りてから、王城を後にした。



 その後、七軒を王城から近い順に回ったが、隠蔽ハンディングポーションを買ったという客はいなかった。


「残り一軒……城壁近くにある、魔道具店“ポイズンミスト”……なんだってこんな名前にしたんだか」


「そういうのは後です。あれでしょうかね」


 ミナの指さす先に、フラスコに紫色の液が入っているような看板がぶら下がっている、奇妙な雰囲気の店があった。名前も相まって、なんかまじでやばいものとか売ってそう。


「あれ、店の人留守か?」


「そうなの?」


「ああ。気配が感じれない……まさかとは思うけど」


 嫌な予感がして、急いで中に飛び込む。そして、鼻腔を血の嫌な臭いがくすぐる。


「大丈夫かっ!?」


 カウンターの裏に、右肩から左腰に掛けて切り裂かれたばあさんが倒れていた。


「ミナ、まだ息はあるから回復は任せた」


「分かりました。レンさんは?」


「俺は販売履歴表を探す」


 ミナが頷いて、上位回復魔法の詠唱を唱える。


 カウンターの上を見ると、酷い有様だった。店内も荒らされており、商品はぶちまけられ、棚も砕かれている。


「……これか」


 そして、カウンターの上からボロボロに破かれた紙束を見つける。恐らく、これが履歴表なのだろう。もしかしたら、犯人が俺らが履歴表を見て回ってるのに気付いて、証拠を消しに来たのかもしれない。なら、このばあさんはとんだとばっちりを受けたわけだ。


「一応、傷は塞いで、奥まで運んでおいたよ」


「サンキュ」


「……これ、直せそうにないね。やっぱり、犯人のせいかな」


「多分そうだろうな。でも、直せないわけじゃない。あまり知ってる人がいない魔法でなら、直すことも可能だ」


「あまり知られてない魔法……?」


 この魔法は、初級魔法と大差のない魔法なので、詠唱の必要がない。


「《リペア》」


 手から一センチほど離れた位置に出た魔方陣が、白く輝き、そしてその光が消える頃には、紙束が元の状態に戻った。


「修復魔法? 聞いたことない……」


「そうだろうな。この魔法、使える対象のものがあまりなくて、いつの間にかほとんどの人が忘れちまったんだよ。母さんは色んな本読んで、忘れられた魔法もそれなりに知ってたから、俺も知ってた」


「そうなんですか。でも、これで確認できますね」


 俺も「ああ」と同調して、紙束をめくる。そして、三枚目に隠蔽ハンディングポーションを買った主の名前が載っていた。


「……“ハンゾウ”?」


「忍者の名前ですね……でも、姿を消すとか、そういうの、忍者っぽさありますね……」


「ニンジャって?」


「日本に昔いた、隠れ仕事専門の人たちです。敵の持っている情報とか、書物とかを奪うんですよ」


「へぇ……」


 また“二ホン”について面白いことを知ったが、今回は後回しだ。後でジュンに色々と教えてもらおう。


「でも、“ハンゾウ”なんて冒険者、知りませんけど……」


「忘れてるだけじゃないのか?」


「いえ、本当に聞いたことありません。騎士団レベルの冒険者に、こんな名前の人はいませんでした、間違いなく。日本風の名前の人は、気になるので記憶に残るはずですが……」


「そうか……じゃあ、ギルドに行ってみよう。あそこなら、色んな情報があるはずだ」


「そうですね。行ってみますか」


 そして、俺達は店を後にした。

 なんとか犯人の名前を掴んだにもかかわらず、他の情報が一切ない。そんな中、ギルドで気になるクエストを見つけ——次回、「王女誘拐事件3」

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