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レンの心配

 気付かないうちに、山のてっぺんにいたらしい。歩いていた間、多くのことを考えた。その内容は、主にこれからのことだ。もし今度『暴走』してしまえば、レイラ達だけで止めれるかどうか、不安なところがある。今回は運が良かっただけかもしれないし、人数が多かったからというのもあるだろう。


 多くの恩恵スキルを手に入れてしまう以上、レイラ達だけでの対処は難しいかもしれない。それに、人間到達域を超える、350のレベル。更にマックスの熟練度。これらのことを考えても、既に崩壊の未来しか見えない。


 それを恐れてどうする、冒険者なら死んでもおかしくはない。冒険者学園では、そういう風に教わる。仲間同士での殺し合いも、ないわけではない。でも、これはいくら何でも圧倒的過ぎるのだ。


「……やっぱり、もう解散したほうがいいのかな」


 これが、俺の今の意見だ。


 山の頂上に着いたので、マレル村とは反対側を見下ろす。初めてのクエストの際にも言ったかもしれないが、この山は東側が崖なのだ。西側は緩やかなのに。


「確か、崖のどこかにあるって言ってたっけ……お」


 崖を見下ろして、治癒草を探す。そして、一輪の青色の花を見つけた。単子葉類の花で、花弁は細長い。茎と葉の色は、薄い黄緑だ。


「とりあえず、崖を降りて採るしかないか」


 治癒草の真上に移動し、崖の縁に両手でぶら下がり、足を引っ掛けられそうなところに足をかけ、一度安定させる。飛行魔法が使えれば楽なのだが、必要熟練度が千二百とまだまだ届かない。


「まさか、な」


 ミナたちが熟練度がマックスになっていたと言っていた。それが残っていれば、飛行魔法も使える。


「……眩く輝く光の魔力よ、翼となりて我を鳥と成せ。《ライトウイング》」


 しかし、魔方陣は発生しない。当然と言えば当然だ。『暴走』のときだけの特殊能力なのだから。それに、レベルが下がっている時点で、恩恵スキルと熟練度はないと考えていいだろう。


「……仕方ない、普通に降りるか」


 そして、慎重に程よい足場と手のかけばを見つけては降り、安定させる、を繰り返す。そして、十分ほど降りた時、


「……魔物の気配がするな。でも、この状態じゃまともに戦えないか……早いとこ採って、上に戻ろう」


 そして、少し速度を上げる。


 更に十五分経ち、やっとのことで治癒草に辿り着いた。


「普通に採っていいんだよな。後は、これを央都に持って行って、すり潰して色々すれば、薬になるのか……作り方は教わっておくか。誰か知ってるだろ」


 そして、治癒草を左手で茎の下の方の部分を千切り取る。そして、ポーチに入れる。


「早いとこ戻るとしよう……——っ!?」


 気配がいつの間にかすぐそばにある。しかし、この状態で後ろに向くのは、むしろ危険だろう。それに、敵は俺の少し離れた背後にいる。つまり、空を飛んでいるのだ。上に向かうのは、得策ではないかもしれない。


「……一旦下に降りて、山を迂回するか」


 そして、腕と脚の力をもって、山からできる限り離れて、森の木がクッションになるように飛び降りる。この下は森のはずなので、衝撃は多少減るはずだ。


「あれは……」


 そして、背中を下にして落ちる中、敵の正体を見た。太陽のごとく燃えるような羽毛に、巨大な翼。そして、その形は間違いなく鳥のそれだった。


「不死鳥……フェニックスか」


 そして、俺は森の中に背中から落ちていった。



 レンが出ていって、半日が経った。山の頂上には、そろそろ辿り着いているだろう。


 現在、私とミフィア、隊長の二人とエルの、四人と一匹でレンの寝ていた部屋にいた。


「……恐らく、あいつはパーティーを解散するって言いだすだろうな」


「私も兄さんと同じ意見」


「……ん。ミフィアも、レン様ならそうすると思う」


「レンだもん……その可能性が、一番高いよね」


 エルまでもがクルルと鳴いて同調する。満場一致で、レンはパーティーの解散を提案するということになっていた。


「ったく。主人公が『暴走』してパーティーの解散をしようと提案とか……随分とつまらないテンプレだな」


「でも、仕方ないよ。レンさんは主人公にありげな、仲間思いな気質だもん。それで、自分のせいで仲間が傷ついて、場合によっては死んじゃうなんて考えちゃったら……そうなると思うよ」


 この二人は、話してる内容自体は少し分かりずらいが、よくレンのことを理解していると思う。ほんの一か月の接点だというのに。


「何とかして、引き留めれないかな……私としては、もっとレンと冒険したいよ。それに……一人になっちゃったら、レン、どこで死んじゃうか分からないんだもん……心配だよ」


「分かってますよ。私も、何とかして止めたいと思っています。でも……こういうのって、難しいんですよ。アニメみたいに簡単に引き留めれない気がしますし……」


「いや、簡単に引き留めれるだろ。ここまでありきたりな状況なんだからな。『暴走』と聞いて、仲間を放置して一人でクエストに向かって、帰ってきたら解散しよう……この流れだったら、普通にやっても引き留めれるだろ」


「そうかもだけど……」


 ジュンとミナの言っている、“あにめ”とか“てんぷれ”とかは分からないが、レンを引き留めるのは、私自身も簡単だとは思っていない。それに、レンは昨日大事な家族を一人失っているのだ。その傷心に漬け込むような『暴走』……心の傷は、更に広がっているかもしれない。


 その時、外で雷が鳴り響いた。


「……一雨来そうだな」


「もしかしたら、しばらく止まないかも……」


「夕立だろ。そこまで長引かないはずだ」


「レン、大丈夫かな?」


「あいつは冒険慣れしている。それなりに対処はするだろう。それに、昨日までの襲撃で、山の中の魔物も減っているはずだ。その面では、心配はしなくても大丈夫だと思う」


 信じたいけど、そう都合よくいかないような気がする。


 ——レン、お願いだから無事でいて。



「……一雨来そうだな」


 小さく呟いた。カカリ山を迂回しようと歩みを進めた瞬間、雷が鳴り響いたのだ。


「台風だったら最悪だな……一応、今日は動かないでおくか。危険かもしれないけど、食料はあるし、しばらく野宿だな」


 ポーチから何枚か大きめの布を取り出し、周囲の枝に結び付ける。初めてのクエストのとき、レイラがやっていたやつだ。一年の旅の間でも、何度かお世話になった。


 そして、地面にも布を敷き、敷布団代わりにする。


 少し離れたところの枝を斬り落とし、それを戻って魔法で燃やして、簡単に焚火を作る。これがあれば、焼くことも蒸すことも、その他色々なことができるようになる。それに、暖もとれる。


 この辺は広葉樹が多いし、今は夏で葉もしっかりとついている。多少の雨ならしのげるだろうが、少し心配なこともある。風だ。風には、葉も上に結んでいる三枚重ねの布も、効果を成さない。


「……まあ、我慢するか」


 そして、夕食の調理を始めた。念のため気配を確認するが、フェニックスはどこかに行っているようだ。今は。

 ミナの話し方、ジュンに対してはタメ口だけど、その他に対しては敬語なんだよな……どこで分けるのか、なかなか難しい。


 それから三日間、雨が止むことはなかった。そして、やっと止んだかと思った矢先、レンはフェニックスと対峙する。次回、「VS.フェニックス」

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