決着、マレル村襲撃
“土蜘蛛”を飛び越えるくらい飛び上がったレンは、落下と同時に、右手の黒剣で“トルネードストライク”を発動させた。そして、その剣は——“土蜘蛛”の背中へと刺さった。そして、
「……《ワールド・フリーズ》」
「……え?」
熟練度千八百を超えないと使えない、超級……いや、絶級魔法を放った。
「飛べっ!」
ジュンの声が届くと同時、私も思い切り飛び上がる。そして——世界は氷に包まれた。着地すると、一気に足首までが凍り付く。
魔法を直接受けた“土蜘蛛”は、完全に氷像と化していた。剣が刺さっているから、恐らく体内まで凍り付いているだろう。
「レン……」
いくつもの疑問が浮かぶ。レンの光っている目は何なのか。何故絶級魔法を使えるのか。あの跳躍力は何なのか——しかし、それを聞く前に、レンが剣を抜いて、“土蜘蛛”から飛び降りた。そして、詠唱もなしに——
「《バーニングネオ》」
「な……っ!?」
剣先に浮かんだ赤い魔方陣から、光速の光が飛び出し、“土蜘蛛”に触れると同時、私のとは比べ物にならない破壊力をもって、“土蜘蛛”を粉砕した。そして、周囲の氷は、一瞬にして消滅した。私たちの足も、解凍された。
「なん、で、その、魔法、を……」
言葉になったかすら危ういほど、私は動転していた。当然だろう。なんせ、“バーニングネオ”は、熟練度関係なく、使える人は使えるのだ。しかし、レンは使えないはず。それに、絶級魔法を一度放った後なのだ。魔力が足りるわけが……
南に視線を向けたレンは、またもや詠唱なしに、
「《エクスプロージョン》」
今度も、ミナがさっき使ったのよりも間違いなく高火力で、魔物の集団を爆裂した。なのに、レンはまったく疲れたよ様子を見せない。
そして、剣を一度強く握るや否や、一瞬で移動した。かと思えば、残っていた魔物の集団が、あっという間に瞬殺された。いや、「あっ」など言う暇もなかったかもしれない。
「……今の一瞬で、剣技を三つほど使ったな。それに、“フレイムソード”もだ。使った剣技は、見分けはつかないが、間違いなく全部上級や超級のものばかりだ。体力が持つわけがない……」
「それに、魔法も、幾ら威力を抑えてたとはいえ、魔力量が尋常じゃない。あれじゃあ、無尽蔵だよ」
レンの現状に、驚きを見せたジュンとミナが呟く。あの一瞬の攻防の内にそれを見破ったジュンもどうかと思うが、それを成し遂げるレンは……人知を超えている。
「っ!?」
ジュンが剣を持ち上げ、剣技を発動させようとした。しかし、もう魔物は倒されたはず——ジュンの剣が、半ばで折れた。
「吹き荒れ……っ!?」
ミナが詠唱をしようと瞬間、爆風に飲まれた。
「レン……かはっ!?」
そして、私は鳩尾に回し蹴りを喰らい、吹き飛んだ。
「お兄ちゃんっ!」
エミの声が響く。歪む視界で状況を見ると、レンは姿を見せたエミに向けて、“トルネードストライク”を放とうとしていた。
「だめ……っ」
止めようと動くも、受けた痛みがそれを邪魔する。そして、レンは地面を蹴った。ミフィアが止めようと間に入るが、剣技の効果で吹き飛ばされる。
しかしどういうわけか、ケイルが横からレンの剣を叩き落そうとすると、弾かれることなく、一時的にレンの動きを止めた。
今しかない……っ!
「落ち着けレンっ! どうしたっていうんだよっ!?」
ケイルが話しかけてえいるうちに、そっと自分にヒールをかけて、痛みを少しだけ抑える。立ち上がり、ロッドを拾い、恐怖で重たい脚で、ゆっくりっとレンに近付く。
「なんか言えよっ! 妹を攻撃しようとするとか、お前らしくないぞっ! それに、お前が今やってるのは、仲間割れだっ!」
レンが左手に持つ白い剣を振り上げる。ケイルが目を見張るが、その時既に、私はレンのすぐ後ろまで近寄っていた。
レンが私の気配に気付いたのか、肩を跳ねさせてこっちに視線を向ける。でも、もう遅い。
「やあああぁぁぁっ!」
悲鳴じみた掛け声を上げて、レンの頭めがけて、ロッドを振り降ろした。レンは防ぐことなく、側頭部にロッドの先が当たり、そのまま気絶した。
「……よく止めてくれた。本来なら、この場で一番強い俺がするところを……」
「……よく、自分で言えるよね……でも、レンは私の仲間だから。仲間が暴れたなら、仲間の私が止めなきゃ、ダメだと思う」
「そうか……とりあえず、治療を急ごう。レンは中で寝かせよう。一応、レンによる被害は、そこまで大きくない」
「……レンの手当て、私にさせて。私も、回復魔法は使えるから」
「分かった。運ぶのはどうする?」
「多分、できる。レン、体重軽いから」
「分かった……負傷者を中に運べ。重傷者を先に治療だ。燃えているところは、軽症か無傷の魔術師で消しておいてくれ」
ジュンが指示を飛ばす。私は、その指示を聞きながら、レンの頭の傷を治療した。所々、火傷もしている。
「……レン、あんなに強いんだ。知らなかったな、一年間も一緒にいたのに」
しかし、あのレンは、実際レンではなかったのだろう。自我を忘れ、怒りのままに剣を振るい、魔法を放つ。いうなれば、『暴走』。でも、あれを操れるようになったなら、それは『暴走』ではなく、『覚醒』になるだろう。
「でも、今回はレンに助けられたね。ありがと」
煤の付いた頬を、そっと撫でて汚れを落とす。
その後、一晩中、レンは眠っていた。
暴走の疲れで気を失っていたレンは、懐かしい声を聞く。しかし、その声は途中で途切れ、夢だったと思い知らされた。そんな中、レンは自分が暴れていたと聞かされ——次回、「暴走の情報まとめ」
ブクマ、ポイント、感想随時募集




