央都
寝ていたレイラとミフィアを叩き起し、門で検問を終わらせた後、俺達は遂に央都に入った。
流石国の中心都市というだけあって、村とは比べ物にならないくらい人が多い。スレーブ村で央都のようだ、などと思ったが、実際見てしまえば、その差は歴然としている。
しかし、街中を歩いているのは、ほとんどが人間だ。亜人や妖精は見かけない。当然といえば当然だが、やはり差別がこういうところでは大きいのだと思う。亜人は見かけても、基本奴隷としてこき使われていた。ミフィアが助けたいと思っているのか、何度も眉尻を下げた。
門の近くにあった、馬車や竜車を置くことの出来る宿をとり、竜車を置いて、まだとっていなかった昼食をとるべく、適当に街中をふらつく。
「にしても、他の村とはマジで話にならないくらいに違うな」
「そうだねぇ。栄えてるはずのスレーブとかプラコールと比べても、全然多いしね」
「でも、亜人の子たちが……」
「それは、まあ……」
それを言い出したらどうもならない。
適当に店に入り、昼食を済ませた。"転生者"が伝えたと聞いた"イタリアン"というものを食べたのだが、想像以上に美味かった。
時刻はまだ昼過ぎだ。王城に行っても、まだ夜には宿に戻ることは可能だろう。
「どうする? 王城、行くか?」
「んー……私は早いとこ行った方がいいと思うよ。魔王軍のこともあるし」
そう。俺達は央都に来る前の"プラコール村"で、魔族であるウィンブルと戦った。その時はなんとか退けたが。その際にこう聞いた。魔王軍が動き出した、と。
「……そうだな。今から行くか」
「レン、何を言われても暴れないでね……」
「わ、わかってるよ」
何を言われるか。勿論、内容は二つある。一つは、俺のレベルのこと。これに関してはだいぶ慣れたので、なんとかなるだろう。もう一つは、ミフィア──"アマツキツネ"のことだ。正直、これも今まで何度も言われてきたことなのだが、未だに俺は慣れない。
王城の目前まで来た。石垣で他の家よりも高い位置に建てられており、表面は真っ白だ。石垣にも城壁にも、磨かれた大理石のようなものを使っているらしい。
「止まれ」
槍を持った、重装備の人に話しかけられた。間違いなく、見張りの者だろう。
「冒険者です。入団試験に来ました」
俺が腕輪を見せながら言うと、見張りは、
「……無礼のないようにすることだ」
と言いながら、通してくれた。
──央都騎士団。央都を統べる王が直接支持する騎士の集団だ。俺の父さん、リューゼと母さん、フィミルが昔所属していた。前衛隊と後衛隊に分かれており、現在その両方を"転生者"が務めているらしい。
城の中も外壁と同じく、真っ白だった。
案内役として俺らの前を、メイド服を着た女性が進む。
そして、しばらく歩き、階数を三階分ほど進むと、今まで見てきた扉の中で、最もデカい扉の前に立った。木製の扉だが、木目も綺麗で、間違いなく高級な木材が使われているだろう。
「どうぞ」
メイドがノックをすると、内側へとゆっくりと扉が開いた。
開き切ったところで、俺達はゆっくりと中に入った。
「お前らが今日の入団試験者か」
五段ほどの階段の上に、一人の中年、いや、老人……どっちとも言い難い男性が、高級そうな椅子に座っていた。赤いマントを羽織っており、頭の上には王冠が乗っている。長く縮れた白い髭と髪が特徴だ。
「魔法剣士のレンです」
俺が自己紹介をすると、レイラとミフィアが続いた。言った内容は俺とほぼ同じだ。
「……レベルはいくつだ」
やはり聞いてきたか。
「レベルは81です」
「73です……」
「……一です」
レイラ、ミフィア、俺の順で答える。レイラの返答には頷き、ミフィアの返答には顔を顰め、俺の返答には固まった。
「……冗談を言うとは、阿呆な小僧だ」
「いや、本当です」
証拠とばかりに、近くの騎士に腕輪を見せる。そして、嘘ではないと王に向けて頷きかける。
「……魔法使いだけ受け入れよう。仮入団を経て、大丈夫なら入団だ」
予想はしていた。いや、むしろ当然だろう。特に、俺に関しては。
「……俺は別にいいんだ」
王の視線がこっちに向く。
「でも、ミフィアは十分に条件は満たしてるはずだ。ミフィアは受け入れろ」
つい、口調が荒くなる。周囲の騎士が各々の武器を手に取る。
「……まあ、何もしないというならよかろう。だが、お前はわしに反逆を犯した。命を捨てたと思ってよいのだな?」
「正直、それはゴメンだな。情報と交換でどうだ」
「うむ。内容次第では検討しよう」
「……魔王軍が動いた」
俺は聞こえるように告げた。周囲の騎士はどよめき、王は再び顔を顰める。
「……再び嘘を抜かすか」
「本当だ。プラコール村からの情報を待てよ。そしたら、事実かどうか分かる」
「……いいだろう。それまで、お前は生かしておいてやろう」
「ありがとよ……俺はこの辺で帰らせてもらう。ミフィア、レイラ、しっかりやれよ」
「ま、待ってよレン、私たち、レンがいないと……」
「そ、だよ。いっしょじゃ、なきゃ、やだ」
「しょうがないだろ。それに、これは元々決まってた現実だ」
二人が俺を止めようとするが、足が動かないようだ。俺は二人を置いて、エルを頭に乗せて扉へと歩いた。その時、
「そのドラゴンも置いていくがいい。こちらで育ててやろう」
イラッときた。全て自分の思い通りに行く、そう思っているのは当然だろう。王なのだから。でも、エルを物のように──いや、エルだけではないだろう。こいつにとったら、レイラやミフィア、騎士団の全員が物なのかもしれない。自分が生きるための、道具なのだろう。
「……《フレイムショット》」
前を向いたまま、王に向けて魔法を放った。当てるようなことはしない。顔の横を掠めて、後ろの椅子にあたり、焦げを作る。
「あまり調子に乗らないことだな。戦う力のないあんたじゃ、俺でも殺せるぞ。レベル一だからって、舐めてもらっちゃ困るからな」
睨みつける。周囲の騎士は、完全に武器を構えた。
「エル」
エルが一声鳴き、飛び上がって回転して、巨大化する。周囲の騎士が一瞬怯んだが、すぐに立て直す。
翼の付け根に手をかけて飛び乗る。
「撃て」
エルが熱線を放ち、城壁を破壊した。
「せいぜい魔王軍の進行に怯えてることだな、力なき王様よ」
そのまま外へと飛び出す。そして、央都のギルドへ向けて飛んだ。
♢
「やっべー、やっちまった……」
ついカッとなってやったものの、今になってすごく後悔した。さっきギルドで五つほど高難易度クエストを受けて、現在その現場へ向かっているところだ。まずは一番近くのグリフォン討伐。
「……俺、絶対死刑だよな」
指名手配を恐れて央都から離れたが、今度戻った時には、俺の居場所はもうないだろう。レイラとミフィアも、俺をどう思ったのか……
「……とりあえず、今ある金を使って、なんとか生き延びるか」
幸い、今も千万コンはある。数年は生きれるだろう。もし都外通報や国外通報なら、ホーセス村や他の国に行けばいいだろう。この国の西側には、いくつか国がある。この国とは密接ではあるが、まあ、問題は無いだろう。
「よしエル、とりあえず魔物ぶっ殺して気晴らしにするぞ」
エルが低く鳴く。
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