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vs.ウィンブル

 “ルミナスカリバー”の八連撃をかます。しかし、ウィンブルはその攻撃を、右手だけで持った大剣を必要最低限動かしただけで捌き切る。


「軽いし、遅いな」


 鳩尾に鋭い痛みが伴う。レイラ達のいる方へと、勢いよく飛んで行く。どうやら、蹴飛ばされたらしい。


 何度か回転した後、両足と剣を地面に着けて、少しずつ勢いを殺す。そして、なんとかレイラ達の元に辿り着く、数歩前で止まった。


「——っ!」


 再び駆け出そうとする。この時俺は、間違いなく自分をほとんど見失っていた。僅かに理性が残っている——そんなところだろう。


 しかし、走り出すことはできなかった。腕を掴まれたからだ。


「落ち着いて、レンっ!」


「放せ……! あいつを、生かしておくわけには……!」


「無理だよ、一人じゃっ! あいつを倒さなきゃいけないのは分かるけど、レン一人じゃ無理っ! いつもならそんなこと分かるはずなのに、なんでそんなに暴れるのっ!? いつものレンに戻ってよっ!」


 確かに、俺一人じゃ無理だ。俺には、この剣があっても、あいつには勝てない。でも、レイラ達が参戦したところで、一体どうなる。


「私たちが勝ってるとこは何っ!?」


 俺たちが、勝っているとこ。そんなもの、あるのだろうか。


「私たちだって、もうレベル五十は二人とも超えてる。魔族が相手でも、少しくらいは戦えるよ?」


 勝っているところ。数の理。しかし、幾ら四対一になっても、行動範囲が狭められるだけで、むしろやりずらく……


「レン、いつもみたいに指示を飛ばしてよ。従うからさ。もし、それでもだめなら、その時は諦めよう? 今、できることをしないと。いつもそうだったでしょ? どんな強い敵でも、レンの指示と、連携で、何とかしてきたじゃん。今回も、そうしよう?」


 俺らの横を、風が通り過ぎた。いや、風ではなくミフィアだ。攻撃を仕掛けてこようとしたウィンブルを止めに入ったのだろう。


「やろ、一緒に。あいつを、倒せなくてもいい。追い返せれば、今はいいんだよ。死んじゃった人は蘇らない。今生きてる人たちを守ろうよ」


「……分かった。悪い。自分を見失ってた。作戦を伝える」


 相手は魔族。人間の言葉も理解可能だ。つまり、大声で指示を飛ばすのは至難の業だ。今のうちに、レイラにだけは伝えておく。


「あいつの動きを封じてくれ。それまで、俺とミフィアであいつの狙いがお前に向かないようにする。なるべく早く頼むぞ」


「了解」


 ミフィアが剣を弾かれて、遠くへ飛ばされた。そこにすかさず攻撃を仕掛ける。


「なんだ、戦線離脱かと思えば、何かの茶番劇の後にお戻りか。さっきまでの威勢はどうした?」


「ちょっと落ち着いたんでね。ただ、お前を殺すのは、変わりないぞ」


「そうかい。まあ、死ぬのは君たちだろうけどね」


 ウィンブルがニヤリと笑う。鍔迫り合いだった剣の交点が、僅かにこちらに傾く。


「このままお前の肩はおさらばだ」


 俺は体を左にずらし、右肩に迫っていた自分の剣から身体を外す。


 ウィンブルの大剣が俺の剣をスライドして地面に突き刺さったところで、俺は剣をウィンブルへと振り抜く。しかし、僅かに間に合わず、ウィンブルが後ろへと飛び下がる。


「ミフィアッ!」


 俺の呼びかけに答えて、エルに掴まって上空へと上がっていたミフィアが、ウィンブルに向けて落下の勢いを使った突進を向ける。


 しかし、僅かに体をずらしただけで、それをかわす。衝撃で僅かに動きが止まったミフィアに、大剣を突き刺そうとする。


「《フレイムショット》!」


 俺の右手から飛び出た火球が、ウィンブルへと飛ぶ。勿論、僅かに体をずらしてかわされる。しかし、その隙にミフィアが距離をとる。


「ちっ、ちょこまかと……」


 舌打ちしながら悪態を吐くが、そんなものに意味はない。


「ぜりゃあ!」


スキル無しの攻撃を仕掛ける。"ルミナスカリバー"であんななんだ。上位剣技までしかまだ使えない俺では、どの剣技を使おうが弾かれるだけだ。それに、今やらなければならないのは、レイラの準備を整える時間稼ぎだ。


「遅いと言っただろうが」


ウィンブルが攻撃を仕掛けてくる。なんとかそれを回避しつつ、俺も攻撃を試みる。しかし、効果は芳しくない。


「しゃがんでっ!」


声が聞こえたと同時に、俺は膝と腰を折ってしゃがんだ。そして、俺の頭上を剣が水平に渡る。


俺はバックステップで下がり、レイラの様子を横目で確認する。魔法陣が展開しており、しかしレイラの口はまだ動いている。あの魔法はそれなりに詠唱に時間を食うらしい。


「──ぃあっ!?」


ミフィアの声が響くと同時、俺は地面を蹴る。足を払われて倒れたらしい。俺はそのカバーに入る。


少しだけ通常攻撃を仕掛け、即座に剣技を発動させる。発動したのは、中級剣技"サイクロン"だ。円形に水平斬りをする剣技である。


ウィンブルがガードしたことにより、僅かに後ろに下がる。俺とミフィアも距離をとり、叫ぶ。


「エル、やれっ!」


そして、エルの口からドラゴンの特殊攻撃、体内の熱を光へと変えて吐き出す、熱線が放たれる。高速で飛んだその熱線は、間違いなくウィンブルを捉えた。しかし、


「危ないな……だが、我にとってはなんのことも──」


「《ウォールプリズン》ッ!」


レイラの声が響くと、ウィンブルが土で出来た立方体の箱へと閉じ込められた。


レイラは、俺が出した指示──"ウィンブルの動きを封じる"をやってのけたのだ。


中から文句のような声が聞こえるが、簡単には破壊出来ないらしく、数秒経っても出てこない。


「エル、もう一回だっ!」


再び熱線が放たれる。立方体を破壊しながらの攻撃──かわす術はない。はずだった。


「……ったく、めんどくせぇ方法使ってきやがって……だが、我にそんな姑息な真似が通用するとでも思ったか?」


ピンピンしていた。服や顔に煤が付いてはいるが、それ以外の変化は一切ない。ドラゴンの熱線が効かないのだろうか。


「ミフィア、隠密で背後に回れ」


「……ん」


すぐそばにいたミフィアに指示を出す。


「そろそろ、お前らも終わりにしてやろうか……《ブラックボックス》」


大剣を持たぬ左手を持ち上げ、何かを唱えた。そして、その手の先に黒い魔法陣──そして、黒い箱が浮かび上がる。


本来、闇属性の魔法陣は紫っぽい。だから、あの魔法は闇属性ではない。謎の、未だ知られていない属性──なのだろうか。


その手は、俺でもミフィアでもなく、レイラに向いていた。


「──っ!」


俺は地面を蹴った。スキルを発動させるでもなく、ウィンブルの突き出すその左手を目指して、突っ走った。


「させるかぁっ!」


魔法が放たれた。恐らく俺は、ここで死ぬのだろう。剣と魔法が、交錯した──


俺は、左下に振り切った直後、ウィンブルの腹を目がけて、右上へと斬り上げた。


「……え?」


「かはっ」


ウィンブルの息を吐く音。俺は間違いなく、こいつが使った魔法を直撃で喰らった。はずだ。なのに、何も起きていない。身体が傷ついたわけでも、背後で爆発が起きたわけでもない。


それが指し示すことは、──魔法が、消滅した、ということだろう。

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