旅の成り行き
それから二ヶ月間、俺らはとにかく、"スレーブ村"で金を稼ぎまくった。簡単なものも難しいものも、とにかくクエストを攻略しまくった。
おかげで、俺は相変わらず一レベのまま、剣の熟練度が800、魔法の熟練度が150、二刀流はそこまで上がってないが、230を超えた。レイラに関しては、レベルしか教えてくれなかったが、70を超え、ミフィアも最初は五レベだったにも関わらず、今では53と、この村に来た頃のレイラとほぼ同等になるまで上がった。
そして、稼いだ金額はなんと──三千万コンだ。ホテルの料金が二ヶ月で五百万コンだったが、それでも二千五百万コン余る。マレル村にいた頃は、十五万コンですら飛び上がってたってのに、今となっちゃ数千万も稼ぐのだ。人間、何があるか分かったものじゃないな。
ミフィアは相変わらず無口だが、前よりは話すようになったし、それなりに流暢にもなった。ただ、俺がミフィアを構う回数が多いせいで、何度かレイラに「ミフィアにばっか構いすぎぃっ!」と膨れられた。
まあ、そんなこんながありながらも、俺らは着実に強くなり、そして仲を深めていった。
そして、俺らは"スレーブ村"を出た。勿論、エルの引く竜車に乗ってだ。
"スレーブ村"を出た先には、分かれ道があった。そこで俺は右を、レイラは左を選択し、ミフィアが俺が主人だからと俺を優先したことにより、右へと進むことになった。レイラが「卑怯だ」と言ったが、それは仕方がない。
実際、俺が選んで進んだ道は、央都とは真逆で南方向に進むものだった。しかし、俺らはあろうことか、方向の分かる道具は一切持ち合わせていなかった。今更ながらの痛恨のミスだ。
その先にあったのは、数年前に魔物の襲来によって滅んだ、"ノーラル村"、という村だった。
村の状態は酷いもので、家はまともに形を保っているものはほんの数軒、保っていたものも、屋根が崩れ落ちてしまい、人の住めるものではなかった。間違いなく、"ホーセス村"よりも酷い状態だった。
しかし、そんな村の中に、何故か干し肉など、保存可能な食料が大量にあった。このまま放っておいても腐るだけだ、ということで、俺らのものとして持っていくことにした。勿論、レイラに反対されたが、数日かけて村を回り、誰も生存者がいないことを確認の後、冥福を祈ってから持っていった。
それから一週間ちょっとかけて元の道を──レイラに文句を言われながら──戻り、次の村である、農業が盛んな"ベリル村"へと向かった。
ここでは農業の手伝いと、一、二回ほど魔物を追い払って、野菜を少しもらって、二週間ほどで発った。
一週間かけて着いた次の村は、農業が盛んな"ベリル村"と違い、畜産が盛んな村だった。"ミール村"という村で、ここでは牛乳から作られた沢山の食べ物──アイスクリームという冷たい食べ物もあれば、クリームというものを付けて食べたビスケットは、想像以上のものだった。
その後、北門から出ればそのまま央都に行けるが、その東にある村がリューレン村で世話になった武器の生産地、──"プラコール村"があるのだ。
東門から出て五日かけ、俺達は"プラコール村"へと来た。
宿を決め、竜車を置いてから、俺達は武具屋へと向かった。
「この村って服もあるのかな?」
「あると思うよ。私、ローブからマントに変えたいんだ。ローブって動きにくいからさ。いっつも"フレイムブロー"の時に脚を開きにくいんだよ。だから、マントに変えたいっ!」
「ミフィアも、そろそろ、防具の一つか二つ、欲しい。痛いの、嫌だから」
「そうだな。金もまだ二千万あるし、それなりには買えるだろ。俺もズボンと上着をエンチャント物にしたいからな。お前らの武器も新調しておくか?」
「んー……このロッド、家から持ってきて結構気に入ってるんだけど……エンチャント効果はないけど……」
「ミフィアは、そろそろ、変えたい。この剣も、気に入ってるけど……すぐ刃こぼれするから、もっと丈夫なのに、したい」
現在、店が立ち並んでいる通りを歩いていた。俺もミフィアも、それなりに身長は伸びた。俺は三センチほど、ミフィアも四センチ伸びた。胸も少しサイズアップしただろうか。しかし、レイラは──
「……相変わらずちっこいな」
身長と胸、両方の意味を込めて言ったところ、
「ちょっと黙ろうか」
目の笑っていない笑顔で、すっごい黒いオーラを出しながら、右手に"フレイムブロー"の炎を纏わせる。
「ご、ごめんなさい……」
「まったく……ふざけたこと言ってたら、レンのアレがちっさいってお風呂で嘆いてたこと、大声で叫んであげてもいいんだよ?」
「お前、どこでそれを……!?」
俺だってもう少しすれば十四になるのだ。そういうことだって興味を持つ……いや、やったことはないぞ。本番も、自慰も。レイラとミフィアと一緒に、毎晩盛ってるんじゃないか、などと言いそうだが、マジで何もない。というか、いつの間にかレイラがそういう知識を入れ始めていたことすら、今初めて知った。
「うわっ、ちょっ……! エル、暴れるな!」
急にエルが俺の頭の上で揺れだし、大声で叫び始めた。相変わらず俺の頭の上が好きなこいつだが、こんなに暴れることは今まで無かった。ったく、なんだってんだ。
「あ、この店がいいんじゃない?」
レイラが指さした店は、周囲の店に比べて一回り小さく、しかし、こういうとこでこそ、いいものが見つかるのだ。
ということで、俺達はとりあえずその店に入った。
「いらっしゃいませ」
店の店員は、赤い髪のツインテールの少女だった。吊り上がった目元が特徴だろうか。作業服を着こんでいる。まさか、この子が作ってるのか……?
「本日のご要件は……ああっ!?」
「はい……?」
少女が目を輝かせて近寄ってくる。俺は仰け反り、一歩下がるが、下がったぶんまた寄ってくる。一体なんだというのだ。
「その剣って、もしかして……マレル村で少量しか取れないっていう、特殊な鉱石から作られた、伝説の剣士が作り方を残したっていう、この世に一振りしかない剣ですかっ!?」
「そ、そうだと思う、けど……」
「どうやって手に入れたんですかっ!?」
「いや、冒険者になった時に、誕生日プレゼントだって言われて……」
そういえば、誕生日プレゼントだからって、こんな凄い剣をくれるものなのだろうか。そもそも、今までに俺以外に誕生日に登録した者はいなかったのだろうか。──もしかして、父さんと母さんが原因? "庶民の英雄"である俺の両親が原因なのだろうか……?
「そんなあっさりと……あの、譲ってくれませんかっ!? 言い値で買いますっ!」
「いや、それは流石に……これがないと、俺戦えないから……」
「そうですよね、すみません……おほん。すみません。自分を失ってました。お見苦しい姿をお見せしてしまい、ごめんなさい」
少女が頭を下げた。急に大人しくなったものだから、少し調子が狂う。
「では、改めまして……ようこそ、武器屋レプラコーンへ。何をお探しですか?」
「……なしてその名前に?」
レプラコーンといえば、確か鍛冶妖精だった気がする。武器屋の名前にするにはもってこいだと思うが、相当な自信がないと付けれないだろう。まあ、この店の製品、どれも高品質ではあるけど。
「そりゃあ勿論、私がレプラコーンだからです」
「……そうなんだ、すごいね」
「あ、信じてませんね? いいでしょう、見せてあげますよ」
すると少女が、謎の光に包まれた。詠唱はしていない。
光が収まると、そこにはさっきの作業服の少女ではなく、ピンクの薄地のドレスに、赤い髪には白い花飾り、背中からは透き通った羽が生え、一メートルほど宙に浮いている。
「おぉ……これ、偽装魔法か何かか? 詠唱してなかったけど、こんなことできるんだな」
俺は断固として信じなかった。そもそも、妖精とかそういうオカルトじみたことは信じない質なのだ。これ、だいぶ前にも言ったよ。
「魔法じゃないです、ちゃんとした妖精の姿ですっ!」
「すごいすごい。レイラ、ミフィア、これ見てどう思う?」
取り敢えずレイラ達にも妖精かどうか、感想を述べてもらった。
「間違いなく妖精だよね、これ……」
「……ん。まちがい、ない」
……嘘だろおい。妖精なんて存在するのか? いや、アンデッドモンスターが存在するんだから、確率としてはあるかもしれないけどさ。
「認めましたか?」
レプラコーンを自称する少女が、上からざまぁといった顔で、俺を見下ろす。そして俺は、最終手段に。
「そんなことはいいとして……」
「そ、そんなことってどういうことですかっ!?」
「俺らは武器を見に来たんだよ。自称レプラコーンの店主さん、何かいい武器は——」
「自称じゃないですから!」
すると、少女が再び光に包まれ、元の作業着に戻った。
「まったく……武器ですね。その前に聞きたいんですけど、そのコートとプレートって、リューゼさんのものですよね?」
「え? ああ、うん。まあ、そうだけど……」
まさかこんなところで父さんの名前が出るとは思わず、少し驚いた。この少女、ぱっと見は俺というほど歳が変わらないのだ。それなのに俺の父さんの知っている。父さんは俺が生まれて一年後には冒険者をやめているのだ。ほぼ同い年であろうこの少女が、父さんのことを知る機会なんか——
「私、現在十七なんですけど、八年前、リューゼさんが店に来たとこ、見たことがあるんです。それで、その時、私の父とリューゼさんが話し終えた後、色々と説明を受けまして……」
八年前、それはまだ、父さんが生きていたころだ。父さんが死んだのは、大体六年前だ。……そういえば、八年前に一か月くらい家にいなかったこと、あったっけ。あの時だろうか。
「それで、もしリューゼさんの子供が来たら、よくしてやってくれって言われて。それで、なにやら金額を三割引きにしろとかなんとか……」
「……三割引き?」
「はい。あなた、リューゼさんの息子さんですよね?」
「まあ、そうだけど……」
「では、あなたは三割引きで装備品をお売りします。どうぞ、好きなだけ買ってください」
「……マジか」
「まじです」
少女がニコッと笑う。強気な目元のわりに、こうやって笑うと、案外かわいいんだよな。
「じゃあ、ロッドとこいつが下げてるのと同じくらいのリーチの剣と、その他服とか防具を……あれ?」
急に少女の顔色が悪くなった。
「どうした? あ、もしかして、この店って衣類置いてない?」
「い、いえ、そんなことはないですけど……私、レプラコーンでは珍しく、裁縫ができるんですよ? ですから、衣類だって作れますとも、ええ……」
そして、何故か少しずつ俺の視界の左側へと移動していく。そっちに何かあるのだろうか。
「おい。何を隠してる?」
少女がビクッと肩を跳ねさせる。
「い、いえ……何も隠してなんか……」
「なら、そこをどいてもらおうか」
「そ、それより、早く武器を選んではどうですかっ!?」
「いや、お前が隠しているものを確認するのが先だ」
俺は少女の肩を掴み、右側へと追いやる。
「あぁあっ……!?」
「ふむふむ……剣、ロッド、服、防具を一度に買うと、二割引き……よしきた」
俺はニヤリと笑う。だってそうだろ? 三割引きの二割引きだ。つまり、四割四分引きだぞ?
「おいお前ら、好きなの選べぇいっ!」
俺は声を荒げた。
「やめてぇっ!?」
少女が叫ぶが、これは正当な権利だ。自分で決めたモノなんだから、商人として今更条件を取り下げるのは、恥でしかない。
今日はとことんついてるぜっ!
あと三回くらいで央都行けるかな……
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