ミフィアの特訓
「直ったぁ〜!」
俺は床に寝転んだ。
なんとか台車を直し終え、無事使えるようになった。
「おお……まさか本当に直すとはな」
「これで、金を払ったも同じだろ」
「……何故そこまでこだわるんだ?」
「さあな。なんか、タダにするのはミフィアに悪い気がしただけだ」
向こうでレイラが、「人の値段決めるとか、どうなのかねぇ」とミフィアに話しかけている。
「そうか……まあ、こいつを大事にしてやれ。それじゃあ、奴隷の儀式を始めるぞ」
「そんなのあるのか」
「といっても、簡単だ。ミフィア、こっちに来い」
ミフィアがこっちに歩いてくる。確かに、お尻の部分の布が膨れているな。まったく気にしてなかった。
「兄ちゃん、ミフィアの奴隷紋に手をかざせ」
「分かった」
ミフィアの右手をとり、布を少しめくって奴隷紋を露わにする。その奴隷紋に手をかざすと、グレーブスがその上に更に手をかざした。
「奴隷ミフィア。今ここに、レンを主とする」
次の瞬間、奴隷紋が赤く輝いた。二人の手をのけると、ミフィアの奴隷紋は青いものから、赤いものになっていた。
「これで、お前らの隷従化は終わりだ。お前らは、主と奴隷の関係になった……大事にするんだぞ」
「ああ、分かってる。任せろ」
そして、俺たちは泊り宿、"隷紋ホテル"へ向かった。午前中にホテルを出て、既に昼過ぎだ。
♢
「あぁ〜……腹減った」
「ご飯、まだ食べれるかな?」
"隷紋ホテル"のことはよく分かっていない。飯は三食出るらしいが、それに時間制限があるのか、そこまでは聞いていなかった。なので、もし時間制限があれば、もう食えない、ということになる。
「……それは困る」
「とりあえず、戻るだけ戻ろ。ミフィア、お腹空いてる?」
「……ん」
小さく頷く。流石にまだ怖いのか、手枷と首輪がなくなった分、奴隷感は減ったのだが、やはり奴隷よりもアマツキツネとしての迫害が怖いらしく、フードを被って、髪も耳も隠している。
「こりゃ……変身魔法とかはないのか?」
あれば楽である。ミフィアが恐れくことはなく、普通に暮らしていけるようになる。しかし、
「無理。必要熟練度が高すぎて、私には到底届かない」
「そりゃそうですよね……」
こうなっては仕方ない。ミフィアが普通に暮らせれるよう、村の中の考え方を根本から変えるしかあるまい。
そして、"隷紋ホテル"に着いた。中に入って、カウンターの青年に聞くと、どうやら食事は一日三回までなら、いつ食べてもいいらしい。とのことなので、早速食べた。ついでに、ミフィアもこのホテルに泊まるので、二日目から料金が三人分へと増加した。払えるだろうか……
そして、現在三時頃。夕食は少し遅めでいいため、しばらく時間がある。
「レン、何するの?」
「そうだな……正直、ミフィアの戦闘に関しては、結構悩んでるんだよな……ミフィア、お前って戦えるのか?」
「むり、じゃ、なぃ……と、おもぅ」
無理ではないらしい。
「武器の類を持ったことは? 魔法の使用経験は?」
「ぃち、ぉう……ぉと、さんに、ぜん、ぶ……ためささ、れた……それ、で、けんが、いいだろぅ……って」
こうやって会話ができるあたり、少しは心を開いてくれたみたいだ。
「へぇ……あのおっさんも、色々やってるんだなぁ……じゃあ、剣の特訓をするか。できるか?」
「たぶ、ん……でも、たたかわ、なきゃ、ダメ……?」
「そうだな。できれば戦わない方が安全でいいけど、この世界は世知辛い。魔物も人間も、全てが敵になることもある。だから、自衛の術くらいはあった方がいいかもな」
「……たた、かぅの……こわ、い」
「そりゃ、最初はみんなそんなもんだ」
「そうそう。私なんて、最初にスライム退治に行った時、怖すぎておもらししちゃったし」
聞きたくもない過去話だ。というか、男子の前でそういう話はどうかと思う。こっちの身にもなれ、レイラよ。それと、その満面の笑顔でするような話じゃないからな。
「でも、大丈夫。私も一人で強くなれたし、レンが一緒にいてくれるようになってから、もっと強くなった。レンはね、弱いのに強いんだよ。レベルなんて関係ないような人だから。だから、意思さえあれば、人間強くなるのなんて、簡単なんだよ」
いや、簡単じゃねえよ。俺、すっげー苦労してるし。戦闘回数は少ないけど、レベル一のくせして、何故か強いのとばっか当たるんだよ。不運もここまで来ると、流石に清々しくなってきた頃だぜ。
「だから大丈夫。もし危険だったら、私もレンもエルも守ってあげるから」
「……わか、った。たた、かぅ。……ぃ、いきる、ために、たたかう」
消え入るような声ではあるが、すごく意思のこもった声だったと思う。少なくとも、俺はそう感じた。
♢
とりあえず、武器は明日買うことにして、今日は俺が持ち合わせている剣を使ってもらう。長さは腕の長さくらいだ。ミフィアも、一度使った剣もこのくらいだった、と言っていた。珍しく運がいい。
現在、俺らは村の外れにいる。ここには魔物も出るが、そのへんは俺らで対処するつもりだ。
練習を始めてから、既に一時間半は経っていた。ちなみに服装はレイラの持っていた魔法効果のある、動きやすい長ズボンと長袖だ。防具は持ち合わせていないらしく、今その服だけ。下着もどうやら貸したらしい。
「剣を振る時は目を閉じちゃダメだ。振り切るまで敵をしっかり見る──これが大事だぞ」
「わか……った」
現在、俺との打ち合いだ。実剣を使ってはいるが、ミフィアの腕なら俺に攻撃を当てることはそうそうないと思うので、問題は無い。現に、俺は一度も攻撃を受けていない。
ミフィアが無言の攻撃を仕掛けてくる。最初の方は、剣を持つのにも苦労した。決意はしたものの、やはり恐怖が先に立つらしい。まあ、当然っちゃ当然だが。
しかし、流石は能力値が高いアマツキツネだ。俺の教えたことをどんどん吸収し、おそらく今のミフィアなら、並大抵の冒険者と戦っても勝てるだろう。
その時だった。
「──っ!」
魔物の気配を感じた。
「ストップ!」
ミフィアが剣を持ったまま、動かなくなった。視線を村の反対に向ける。次の瞬間だった。俺に向けて、何かが飛んできた。
「《フレイムショット》!」
レイラの魔法が間に合い、なんとか難は逃れた。
「さんきゅ……今のは」
「スライム、だと思う。ちょっと暗くて何かまではわからなかったけど……あの攻撃は、間違いなくスライムだった」
そして次は、六発同時に飛んでくる。
「《ウォールバリア》!」
土属性の魔法だ。地面から、正方形の土塊が浮かび上がる。そして、それがスライムの攻撃を防ぐ。
──スライム。ネバネバした液体で核を包んだ魔物。基本的に弱いが、個体によってサイズが違うため、核への攻撃手段が変わってくる。攻撃はスライム液を飛ばしてくるか、のしかかって飲み込む。種類によってスライム液の効果はかなり変わってくる。麻痺させるものもいれば、毒状態にさせられることもある。種類は色で判断できる。魔法と物理、共に耐久力が大きく、核を潰さない限り、倒すのは難しい。
「……レイラ、牽制してくれ」
「了解。エルはミフィアのとこに行ってて」
レイラの指示に従い、エルがミフィアの方に飛んでいく。ミフィアが抱きとめたのを見たあと、
「《ウインドカット》!」
風の刃がスライムを襲う。二体の核を潰し、残りはスライム液を散らしただけだった。スライムは死んだ後、核へと集まり、周囲にスライム液を撒き散らす。その液に生存時の効果はほとんど残っていないが、洗い落とすのがすごい大変らしい。
だが、今はお構い無しだ。鞘から抜いた剣を右手に持ち、右に伸ばす。"ルミナスカリバー"が発動する。この剣技は自由度が高く、俺も疲れを無視して何度も行使する程に気に入っているものだ。それに、今の俺の熟練度なら、五連撃までは可能だ。既に二体居なくなり残りは五体。ちょうどいい。
動きの遅いスライム五体の核に、剣を当てにいく。そして、五体斬った確信があった。しかし、
「レン、気を付けてっ!」
「……え?」
後ろを見ると、身体を薄く広げた黄色いスライムがいた。つまり。一体斬り逃した。俺、飲み込まれちゃう?
しかし、それは杞憂となった。つまり、ミフィアが剣を核に突き刺して、スライムを倒したのだ。
そして、スライム液が爆散して、二人揃ってネバネバベトベトになる。
「うえぇ……」
「大丈夫、二人とも?」
一人だけ無事なレイラが、エルを抱えて駆け寄ってくる。足元にも大量にスライム液が飛び散っているので、それを避けながらだ。
「まあ、なんとか……──っ!」
嫌な予感がして、俺は二人を抱えて真横に飛んだ。次の瞬間、俺らのいた場所へと、黄色い液体が飛び込んできた。間違いなく、パラライズスライムの攻撃だ。しかも、その液の量はさっきまで殺っていたやつと同等。つまり、そいつはさっきまでのヤツらと違い、間違いなく巨大だ。
「に、逃げろ────っ!」
三人して、ダッシュで村へと帰った。これは、勝てない。今は、無理だ。
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