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旅の途中

旅に出て、三日が経った。レイラとの寝食にも慣れてきて、最近の問題点はトイレをどうするか、ということぐらいになった。今は二人で見張りながら、見ないように木に隠れてする、という方法をとっている。現状、一度も魔物や山賊等には会っていない。しかし、昨日レイラがいきなり腹を下した時は、どうしようかと思った。昨日は一歩も進まず、平地にネペント戦の時と同じように、とりあえず生活可能な空間を作って、一日休んだ。


そして、一日で復活したレイラと共に、今日も進む。


「……レン」


レイラが顔を赤らめながら俺を呼ぶ。こういう時は、大抵これだ。


「はいはい。待ってるからしてこい」


そう。問題のトイレである。レイラが小さな声で「うん……」と頷いて、木に隠れた。俺はレイラの音が聞こえないよう、道を挟んだ反対側の木にもたれかかる。いつもこんな感じだ。簡易トイレくらい持ってこればよかった。


その時、俺の第六感が魔物の気配を感じた。二体。片方は超高速で俺に近づいてくる。もう一体は──レイラの方に。


「まずい……!」


レイラの方に向かおうとした瞬間、俺の左側で何かが光った。俺は反射的に上体を後ろに反らす。前髪の先が、少しパッと散る。切られた、何かに。


即座に剣を抜く。速すぎて姿が見えない。まずい。高速で移動する魔物……


「……カマイタチか」


俺が呟いた瞬間、また右側で何かが光る。それを視認した瞬間、左に体をずらす。しかし、避けきれずに頬に小さな切り傷が入る。


「くそ……!」


父さんのカマイタチ攻略法。確か……光の下で戦え。腕の鎌が光った時に、位置を見破れ。だったか。めちゃくちゃだな。無茶にも程がある。でも……生きないといけないんだ、俺は。エミとそう約束したから。レイラも守らないといけない。


「……せっ!」


光ったのを見て、剣を振り下ろす。ガキンという音と共に、確かに金属を捉えた感覚がした。


同じ要領で、二発目、三発目と弾く。少し慣れてきたところで、また別の驚きが俺を襲う。レイラがいたはずの木陰から姿を見せたのは、──喉に鎌の刃を突き付けられたレイラと、もう一体のカマイタチだった。間違いなく、人質にとられた。


「くっ……!」


迂闊に動けない。次の攻撃をしゃがんでかわす。すると、俺を攻撃していたカマイタチが、もう一体のレイラを人質にとったカマイタチの横に並んだ。イタチ、と聞けば、可愛い姿をイメージするが、カマイタチはそれとはかけ離れている。鋭い眼光に見せびらかすように伸びた牙、腕は肘より先が鎌になっており、その鎌は太陽の光を反射して、輝いている。


しかし、正直別にピンチでもなんでもなかった。父さんのパーティープレイの時の、魔物に人質をとられた時のコツ。"口頭で作戦を伝えろ"、だ。何故かというと、そもそも魔物は人の言葉を理解しない。相当高レベルでもなければ、だが。しかし、このカマイタチはそこまでの魔物ではない。したがって──


「レイラ、撃てっ!」


青ざめているレイラに指示を飛ばす。そして、すぐに行動に移す。さっきの続きを言おう。したがって──こっちの指令はカマイタチには伝わらない。


レイラがカマイタチの脇腹に右手を近付ける。カマイタチはそれに気付かない。


「《フレイムショット》!」


そして、レイラを人質にとっていたカマイタチは、火炎玉による腹部の貫通で、死んだ。あと一体。こいつは俺が──!


「ぜあっ!」


切りかかると同時、カマイタチの姿が消える。体を右に九十度回転させると、目の前を通り過ぎる。そして、今度は高い位置に光が見えた。つまり、


「上段斬り……勝ったな」


俺は剣を振り上げて、その上段斬りを弾く。そして、体を流れに乗せたまま、腹部を剣で深々と突き刺し、貫通させる。これで、二体とも死んだ。


「すごい。あの速さ見えるの?」


「いや、太陽の光を反射するからさ。それで判断するんだよ」


「いや、それはそれで神業だよ……」


「お前、トイレは?」


「うん……済ませたんだけど、拭けてない……」


「早く拭けいっ!」


顔を赤くしてモジモジするので、つい強く言ってしまった。



まあ、このようなこともあったが、それから十日間は特に何も無かった。目的のリューレン村まで、あと数日で着くだろう。道がちゃんと続いているおかげもあって、迷うことは無い。


今日も日が暮れてきた。最近風呂どころか、ろくに体を洗えていないので、そろそろゆっくりと浸かりたい気分だ。川を探そうにも、こっちの方には川はない。俺らの故郷村であるマレル村の近くの、カカリ山にあった川は、残念なことに南へと流れており、北側にはない。


そのせいで、ろくに体も拭けないのだ。不清潔にも程がある。それに、レイラは十歳と、色々とその辺も気にし出す年頃なのだ。いくらしばらくずっと寝食を共にしているとはいえ、異性である俺にそういうのを見られるのは、抵抗があると思う。


「リューレン村、いい所だといいね」


「人は優しいと思うぞ。でも、噂で聞いたんだけど、リューレン村は魔獣の巣に挟まれてるっぽくて、よく魔物が攻めてくるらしい」


「えぇ……それはちょっと、怖いかも……」


レイラが少し、表情に恐怖を滲ませる。


「まあ、大丈夫。そういう場所には結構冒険者が集まるからさ。最悪守ってもらえばいいよ」


「それも、そうだね」


「よし。今日はこの辺にしとくか。明日も今日くらいのペースでいいな?」


「うんっ。さ、早くご飯食べよっ! お腹ぺこぺこっ!」


こういう所がある分、やっぱこいつは子供なんだな、と毎回思わされる。


俺は苦笑いしながら、「はいはい」と答えて、ポーチから食材を取り出す。適当に集めた枝や葉に、魔法で火をつける。すぐに燃え出すので、その上に少し大きめの薪を置き、しばらく待つ。少し黒くなりだしたところで、風魔法で一気に火をつける。


「よし。後は食材の準備をして、焼いて食うだけだ」


「おーっ!」


最近、大体こんな感じだ。でも、ちゃんと調味料とか考えて、飽きないようにはしている。というか、随分贅沢な生活を送っていると思う。旅人としては。


俺らは二人で食材を切り、調味料で味付けをして、焼いて食べた。その後少し雑談をしてから、俺たちは眠りについた。

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