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(……何が間違っていた)




 四つの花を咲かせた姿に変身した竜兄は、手を握り開き具合を確かめる。


「……どう?」

「色々出来そうだ。少なくとも、身体能力は全部合わせてトップだな」


 それはつまり、ジェンシャンの速さもライラックの硬さも力も併せ持つということだ。それだけでもとんでもない怪物である。


「武器は?」

「それは……実践で使った方が早そうだ。来るぞ!」


 竜兄の警告。それは触手が威勢を盛り返したことを言っていた。

 シンカーはなりふり構うことを止めたのか、その巨体のほとんどを触手にばらけさせて伸ばした。最早巨人の原形を留めているのは両腕だけだ。

 そして身体すらも触手に解いたため、その心臓のあるべき場所、中心部が見えた。


「やはり、心臓にいたんだ」

「姿を現したのはもう隠す必要が無いと考えたからだろうな」


 そこには最低限の触手と、背骨と肋の変形したドームによって身を守ったシンカーがいた。アレを倒せば、私たちの勝ち。

 しかしそれには、より勢いを増した触手たちをどうにかしなければならない。


『む、落とし切れん!』


 触手の数はさっきの倍近くにまで膨れ上がった。ビートショットの弾幕も限界が訪れ、触手がこちらへ伸びる。


「ジャンシアヌ!」

「行くぞ!」


 私と竜兄は掛け合って触手の中に突っ込んだ。

 触手の合間を抜け、飛び出そうとする。しかしそれはさせないと触手たちは阻んでくる。簡単には抜け出せそうにはない。


「仕方ない。白撃銃!」


 竜兄のかけ声と共に、百丁近いマスケット銃が出現した。借りただけの私とは違う、本家本元の力!

 銃口が爆ぜ、数多の銃弾が触手にたたき込まれる。しかしそれだけではまだ足りない。まだ真正面に分厚い触手の壁が残っている。


「紫突剣……」


 竜兄の手の中に紫の剣が生まれる。しかしそれはいつものレイピアではなかった。


「改!!」


 手からしみ出した蔦が青紫の刀身を補強するかのように這い、支えられたことにより刀身は肥大化する。固まった時には、竜兄の身長ほどに長い剣になっていた。


「道を拓け! 触手共!」


 振るわれた瞬間、スパン、という小気味いい音と共に目の前の触手が裁断された。抜群の切れ味だ。そのまま触手が再生するよりも早くくぐり抜ける。文字通り、切り開いた。


「その剣、どうして長くなったの!?」

「ガーベラフォームの蔦で補強してみたら、強度が増して長い刀身を形成できたんだ。力も強くなっているから、軽々と振れる」


 そうか、全ての力が使えるから、組み合わせでより強力に出来るんだ。蔦とレイピアを合わせたことによって、竜兄は切れ味、剣速、頑強さ全てを擁立した刀剣を手に入れた。

 そして多分、それだけに終わらない。


「!! 今度は腕……!」


 触手じゃ私たちを止められないと判断したのか、次は巨人の両腕が私たちへ迫る。動きは緩慢だから、避けることは不可能じゃないけど……。


「そのまま進め」

「竜兄? ……分かった!」


 竜兄の言葉を信じ、そのまま一直線に突き進む。当然巨腕との衝突コースだ。このままだと押し潰される。


「白撃銃……」


 宙空にまた、マスケットが出現した。だけど一丁だ。それだけじゃあの腕はどうにもならないけど……。

 そう思っていたら今度は桃色の盾槍が現れた。あれは、私が散々苦しめられたあのライラックフォームの盾槍だ。

 何をするつもりかと思ったいたら、宙空でその二つが融合した。


「いや、白撃砲!!」


 槍がそのまま砲身となり、まさしく大砲と化したそれは腕へと照準を合わせる。


「ファイア!!」


 竜兄のかけ声と共に爆炎を噴いた。轟音と共に。

 吐き出されたのは砲弾一発ではない。散弾だ。数多に別れた砲弾は巨腕を吹き飛ばし、粉々に破砕した。


「っつぁー!!」


 その爆風に踏ん張りつつ、私はその威力に感嘆した。あのでっかい腕を一発で!


「強すぎ! これなら無敵じゃん!」

「そうも、いかねぇ!」


 今度は真正面から拳で殴ろうとするもう一つの巨腕を、竜兄は先と同じような大砲を三つ作って吹き飛ばした。圧倒的だ。しかし竜兄の表情は芳しくない。


「こいつぁ……消費がきっつい! 太陽の恩恵をフルに受けられる雲の上でこの消費! まともに使えねぇ!」


 なんと。てんこ盛りのオールブーケ・フォームは燃費に弱点を抱えたフォームらしい。当然と言えば当然か。四つ分の力を出しているんだ、不足してもおかしくない。

 しかしシルヴァーエクスプレスですら無尽蔵で、それ以上の好立地の雲上でですら厳しい燃費とは、普通には扱えない形態だ。

 だが、この場でならギリギリ!


「なら一気呵成! 突っ込むよ竜兄!」

「おう!」


 触手も粗方捌き、巨腕も無い! 私たちは一気にシンカーの懐に飛び込んだ。






 ◇ ◇ ◇






(……何が間違っていた)


 肋骨を変形させた檻の中で、シンカーは己の内に問うた。


(情報をギリギリまでふせていた所為か? しかしそうしなければもっと早くに造反されていた恐れがある。戦力が足りなかったか? しかし私の裁量で引き出せるのはあの二人だけだった。ならば……そもそも、協力者として奴を選んだのが間違いだったか?)


 自問自答しても答えは出ない。

 シンカーにとってこの作戦は野望の全てだった。


 かつてただの人間であった彼はバイドローンによって拉致され、そしてウィルスを注入された。

 その時は不幸を呪った。しかし彼は幸運なことに生き残り、バイオ怪人として迎えられた。それだけではなく、生き物をスライム化させる超能力すらも手に入れた。

 どんな宝くじを引き当てるよりも低い確率を、彼は手にした。その時彼の運勢は、まさに絶頂だっただろう。


 バイオ怪人となった彼は自分が人間より遙かに優れ、故に人間全てを玩具にしても構わないと考えるようになった。キメラを増やし自分の手勢を増し、バイドローン有数の幹部までに成り上がった。

 憎き魔法少女すらも隷属した。バイオ怪人となってから唯一の汚点を作った少女を支配下に置くことは、彼に至高の優越感を与えた。


 しかし同時に、人間たちに対し苛つきを覚えた。

 何故自分たちよりも人間の方が蔓延っている? 何故自分たちは日陰を歩まねばならない? 何故奴らは……この疼きを知らない!?

 バイオ怪人としての宿命、発作とそれを押さえるための投薬をせねばならない事に彼は耐え難い屈辱を感じた。


 だから、全人類をバイオ怪人にしてやろうとした。同じ苦しみを味わせてやろうと。

 逆にバイオ怪人にしてやるという慈悲さえ与えたつもりだった。そしてこの作戦を成功させることによって、全知的生命の頂点に立つ筈だった。アッパーとダウナーも賛同した。利用する相手は簡単に始末できるくらい実力差がある相手を選んだ。


 完璧な作戦の筈だった。

 それが今や、同胞を喰らい、醜い姿を晒して藻掻いているに過ぎない。

 それも、怪人ほどの力を持たない、ほとんど人間の小娘に!


(いや……まだだ)


 しかしシンカーはまだ諦めていなかった。まだ己の野望を実現する術は残されている。


(ジャンシアヌとビートショットさえ倒せば、最早後は雑兵同然! キメラをほとんど使い潰してしまっているが、素体はある……!)


 シンカーはニヤリと口角を上げた。ユナイト・ガードの隊員たちを素体とし、ウィルスを打ち込めばまたキメラは量産できる。そして必要なウィルスは、この遺跡の中で培養済み。


(ヒーロー共を退ければ、勝てる!)


 しかしそれは、怪人にとって永遠の命題。

 結局はそこに行き着くが為に、怪人はヒーローと対峙し――そして敗れ去ってきた。


 そう、太陽を背負い、雷の翼を羽ばたかせた、あの花の銃士のようなヒーローに。


「エリザベートォォォ!! ジャンシアヌゥゥゥ!!」


 慟哭した先で、彼らは刀を振り上げた。






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