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「ここで命を賭けないのは、ヒーローらしくないよな」




「うあっ……」


 まるで浮き輪のように私たちの胴体に太い触手が巻き付く。私と竜兄をいっぺんに絡め取ったその触手は、私たちを握りつぶそうと徐々に圧力を強めていく。

 内臓が圧迫され、軋みを上げた。


「あぐっ……か、はっ……」


 苦、しい。潰され変わってしまった内蔵の形を感じ、このままではまずいと直感する。

 脱出すべくジャンシアヌの力でマスケットを出現させる。が、痛みのあまりに力が抜け、空中の銃はボロボロの落ちていった。

 これは、やばい。

 死を間近に感じた瞬間、電光が奔り、私を捕らえていた触手を焼いた。


『チッ!』


 器用にも触手がした舌打ちを聞きながら、解放された瞬間に舞い上がり触手の攻撃から待避する。

 私たちを救ったのは、ビートショットの援護射撃だった。


『何をやっている! 本体は!』

「げほっ、失敗した!」


 私は咳き込みながら巨人から離れ、ビートショットの方へ向かった。背後から触手の群れが迫るが、ビートショットのガトリングレールガンには敵わず撃たれて焼け焦げる。

 ビートショットの背後に回り込み、体勢を立て直す。


「もう一回やらなきゃ……」

「ぐっ……うぅっ……」

「りゅ、ジャンシアヌ!」


 抱えた竜兄がうめき声を上げ、顔を起こす。


「こ、これは……そうか、俺は意識を失っていたか」

「あぁ、数分だがな」

「作戦は……失敗したようだな」


 竜兄は頭を失った首から触手が伸びている光景を見ながら悟った。


「また、やり直しか……」

「いけるのか?」


 竜兄は意識を失った。それは攻撃を受けたわけでは無く、反動だ。もう一度同規模の攻撃を撃った場合大丈夫なのか?


「……エネルギーはすぐ溜まる」


 それは私も知っている。雲より高い位置にあるこの場所は、日の光を糧とするジャンシアヌなら無尽蔵のエネルギーを得られる。

 だが、私はエネルギーがあればどうにかなる訳では無いとも知っている。


「体が先に駄目になるぞ」

「くっ……」


 目の前にある顔からは呼気の気配を感じ取れる。酷く乱れていた。まるで高熱を出した病人だ。

 アッパーを倒したとは聞いていたが、どうやら無傷では無かったらしい。この様子では、相当苦戦したのだろう。


「そのざまじゃ命を落とすぞ」


 竜兄の消耗は思った以上だった。これ以上の戦闘は危ぶまれる。


 私はこの場から撤退する選択肢さえ頭をよぎった。竜兄の命の危険を感じ取ったからだ。私にとっては家族こそが一番大事。竜兄が命を落とす事と比べれば、他人類が全員異形と化すこと程度(・・)、些細なことだ。

 しかし逃げ出せば後にシンカーから報復を受けて百合も竜兄もどの道死ぬ。両親二人が巻き込まれる可能性も無視できない。やはりよぎったのは一瞬だけだった。

 それに、


「死んだとしても、見逃すわけにはいかない……!」


 竜兄は諦めていない。なら、手を貸さざるを得なかった。

 私は自分の残りの体力に当たりをつけながら問う。作戦時間は長くない。ビートショットの弾幕も、無限ではないだろう。


「勝算は?」

連装(ブーケ)しかない。俺の最高火力はそれだ」

「……命の危険があるのは、まぁ仕方ない。しかし今度は対策されるかも」

「だが、それしかない。それ以上はない」


 竜兄は苦々しく言った。次にあのメガブラストで吹き飛ばせなければ、次がないことを自覚しながら。

 しかしシンカーを貫くにはやはりメガブラストが必須だ。一度撃ってみて確信した。それしか巨人を傷つける術は無い。

 二の矢はない。いや、本当か?


(……落ち着け、考えろ。私の手札には何がある?)


 発電機関は電磁スラスターを維持し続けなければならない。それを捨てて私がメガブラストを放っても、巨人は倒せない。かといって今も弾幕を張り続けるビートショットの代わりは出来ない。ヘルガーにしても、やはり火力がないので触手を捌く以上の働きは期待できない。ユナイト・ガードの親衛隊も、飛行手段を持たない以上同じだろう。魔術は、残念ながら役に立つものは覚えていない。

 ……なら、切り札はどうしてもこれになる。私は左腕に取り付けられた煉瓦色の装置と、白いタリスマンを見た。これをどう使うかが鍵だ。しかし、私の体力にも限りがある。そしてその限界は近い。

 四つの穴がついた装置を眺め、ふと思いついた。

 装置の穴が四つなのはそれぞれに対応したタリスマンを嵌めるためだが、四ついっぺんに使うことは出来るようになっている。設計上は私でもジャンシアヌの力を全て使えるということだ。しかしそんなことをすれば私の体は持たない。内から弾けて木っ端微塵だろう。

 だから私がやるわけにはいかない。白いタリスマン一つでこのざまだ。とてもじゃないが四つなど操れない。だが……。


「ジャンシアヌ」

「なんだ? 何かいい策でも思いつい……」

「ほい」


 私は左腕から装置をパージし、竜兄の手の中に落とした。突然の行動に竜兄は慌ててキャッチする。


「うおっ! あっぶねーな! 落としたらどうするんだ!」

「いいから、それ、使える?」

「は? これローゼンクロイツ製だろう?」

「いや、ジャンシアヌの力を使うために開発した装置だし……それにジャンシアヌだって、元はローゼンクロイツ怪人の毒素が原因で生まれたんだろ? どうにかなるんじゃないか」

「どうにかって」

「ヒーローなんだし」


 ヒーローは理不尽な存在だ。いくらでも奇跡を起こし逆転してくる。

 言ったとおり、ジャンシアヌはローゼンクロイツと関わりがある。フランス支部のローゼンクロイツ怪人が全ての発端なのだから、ジャンシアヌの私たちとの関係は深い。

 なので、これくらいのことは以外と簡単だったりしないだろうか。


「……どうなってもしらんぞ」


 竜兄は渋々といった様子で受け取った装置を眺め、そしてバックルへと押し当てた。

 するとバックルの端から細い蔦が伸び、装置に巻き付いた。根のようなものも這い、落ちないようしっかりと固定された。


「……いけた」

「……自分で言うのもなんだがヒーローって自由だな」


 やっぱチートだわ。

 問題はこれでどうなるかということだ。


「その装置には四つのソケットがついている。後は分かるな?」

「……やれということか。連装(ブーケ)を超えた全連装(オールブーケ)……」


 元々装置についていた白いタリスマンと、手の中の他三つのタリスマンを見て竜兄は呟く。そう、ジャンシアヌの力が装置を認証したのならタリスマン四つの技が使える。

 しかし、竜兄にかかる負担は分からない。鎧が強化されるだけでデメリットはない可能性はあるが、逆に竜兄に全ての負担が集中する可能性もある。

 一か八か。


「私みたいだな」

「……仕方ない。似た者同士と言うわけだ」


 諦めたように竜兄は溜息を吐くと、覚悟を決めたようにタリスマンを手に持った。既に着いている白いタリスマンを撫で、それ以外のソケットにタリスマンを一つ一つ装着していく。


「まぁ、世界のためだ」


 青紫のタリスマンを装着する。


「ひいては家族のためだ」


 薄緑のタリスマンを装着する。


「ここで命を賭けないのは、ヒーローらしくないよな」


 桃色のタリスマンを装着し、そして全身が光り輝いた。

 光が消えた時、そこにいたのは四つの花を咲かせた新たなる戦士だった。

 右肩に白い花。左肩に桃の花。胸元に薄緑の花を咲かせ、帽子のような兜には青紫の花が開いていた。

 目元のバイザーは、虹色に輝いている。

 アルラウネの四つの力を全て使える、新たなる姿。その名も、


「全連装……オールブーケ・フォーム!!」


 色とりどりの花を身につけたジャンシアヌは、今までとは別格の風格を身に纏い顕現した。






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