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「前にも見せただろう? 悪の組織はパクりが大好きなのだ」




『かああああぁぁッ!!』


 まるで雪崩打つかのように大量の触手が私たち目掛けて伸ばされる。一本に掴まれればそのまま殺到されて絡め取られてしまうだろう。だから躱す。私とビートショットは広い空へ待避した。

 しかし空を飛べないヘルガーはそうもいかない。


「うおっ、あっぶね!」


 外壁をなぞるように伸ばされた触手を必死に避けるヘルガー。飛び跳ね、掻い潜り、躱しきれない触手は爪で切り落とす。しかし反撃の余裕は無い。怒濤のように迫る触手たちに手一杯だ。あれはしばらく攻撃に転じられないな。


「よし、私たちで仕掛けるか」

『癪だが、了解した』


 ビートショットと共に旋回し、シンカーに向けて飛ぶ。触手を迎撃に伸ばしてきたが、空の上なら余裕で回避可能だ。


「しかし、多いな」


 触手の数は尋常じゃ無かった。蛸が八本で、烏賊でも十本。しかしシンカーの下半身から生えた触手は明らかに百を超えている。数え切れない。

 いくら回避が余裕とはいえ、それはシンカーから離れているからだ。近づけば、大量の触手による迎撃に阻まれる。


「どう仕掛ける?」


 私はビートショットに問うた。今までは私が作戦を立てていたが、事ここに至れば話は違う。相手は怪人だ。ならば、私よりビートショットの方が戦闘経験は遙かに豊富だ。聞いた方がいい。

 ビートショットは端的に答えた。


『正面突破だ』


 その言葉とほぼ同時に、急加速しシンカーへ突撃していった。いやちょっと!?


「おま、考えなしかよ!」


 慌てて追随する。が、当然一直線にシンカーへ向かえば、前からは大量の触手が防御のために伸びてくる。


『邪魔だ!』


 迫り来る触手を、ビートショットは雷撃と超電磁ソードで焼き焦がす。しかし数が多い。捌ききれない。

 抜群の切れ味を持つ超電磁ソードでも数の暴力を前では快刀乱麻とはいかず、次第に手間取り始める。


『む、ぐ』

「後退だ後退! 下がって!」


 進撃のスピードが落ちてきたビートショットに指示し、致命的になる前に下がらせる。そのまま攻め続けたら飲み込まれてしまうところだった。少し遠くなれば、触手の密度は薄くなって楽になる。そのまま安全圏まで離れ、私はビートショットに詰め寄った。


「一体何を考えてるんだ! どうしたって真正面からは無理だろう!」


 あんな巨体と触手の数、たった二人じゃどうしようも無いに決まってる!

 そんな私の文句にビートショットは不満そうに答える。


『じゃあ貴様が考えろ。当方は方法を問われたから答えただけだ。いつもなら雷太やドクトルが考えてくれる』


 その返事に私は呆れた。

 お、お前……。そうか、こいつ脳筋だったのか。

 そう言えば雷太少年と一緒にいたときこいつは少年の指示に従っていた。なまじ丈夫なだけに、細かいことを考えるのは好きじゃ無いらしい。

 仕方ない、やはり私が作戦を立てなければ。


「むぅ……」


 大量の触手は私たちとヘルガーに対してひっきりなしに伸ばされている。回避に手一杯なヘルガーと違い、空中の私たちは回避が容易。こうして考え事をしていても避けきれる。

 だが、近づけば壁のように触手は阻んでくる。


「炭化させれば、再生はしない、が……」


 触手は切って捨てても再生してしまうが、電撃などで炭と化した場合は蘇らなかった。しかしいくらビートショットの電撃といえども触手全てを焼き焦がすことは難しく、焦げた部分を捨てて少し短くなった触手として再生してしまう。

 物量の差が激しい。削り合いで光明を見い出すのは不可能だ。


「ならやはり、本体だな」


 巨人となったシンカーだが、つまりスライムを操り纏っているに過ぎない。それならば、本体を一撃で貫けばそれで終わるはずだ。

 肝心なのはその本体の位置だが。


「頭か、心臓か」


 生物の大事な場所と言えば、その二つだ。特に頭はダウナーの首が埋まっていることもあり、怪しく思えた。あの巨体を操るにも、生物の構造上脳に当たる位置から操作するのがやりやすそうだ。


『決まったか?』

「あぁ。頭をぶっ飛ばす」


 熟考の末、私は頭部に狙いを定めた。

 問題はどうやってあそこまで近づくか。


「ギガ・ワイド・ブラストなら触手を纏めて焼き焦がせるな」

『だがその場合、当方は反撃に転じられない』

「そうだな。そして私だと出力が足りない」


 触手の壁だが、一時的にならギガ・ワイド・ブラストでなぎ払えると思う。だが全部焼き焦がすのは無理だ。すぐに再生され復活するだろう。

 しかもギガ・ワイド・ブラストはかなりの出力を割く為、連続して攻撃に回るのは無理だ。したがってギガ・ワイド・ブラストで活路を開いた後に、ビートショットのメガブラストで頭を吹き飛ばすという事は出来ない。

 そして私だと出力がゴミだ。武装した人間程度すら倒せない私の範囲攻撃では、よくて痺れさせる程度だろう。当然頭部を一撃で吹き飛ばす事も不可能だ。

 火力が足りないな。


「だとすると、やっぱり待つしか無いか」


 火力はヘルガーも出せない。つまりここにいるメンツじゃ突破出来ないってことだ。なら強い火力を持つ――ここに向かっているはずのジャンシアヌに頼るしか無い。


「問題はそれまでの攪乱。と言うよりは私たちが持つか、だな」


 この猛撃を前に私たちが耐えきれるか……。頑丈なビートショットはまず可能だとしても、紙のように脆い私や触手の攻撃に晒され続けているヘルガーは危険だ。触手の数は減らさなければならない。

 すぐに再生してしまうとしても、電撃を浴びせれば動きは鈍る。だが一条の雷程度では無理だ。


「どうにか……ギガ・ワイド・ブラストのような一瞬の爆発では無く継続して減らし続けられるような方法はないか……」


 私がそう口にすると、ビートショットがマニピュレーターを打ち合わせた。


『あ、そういえば』

「なんだ?」

『ドクトルに多対一状況への対策を提案して、改造を受けたのだった』

「あぁ……廃工場の時のか」


 あの時のイチゴ怪人の数の暴力に対抗する手段を考えていたのだな。


「それは今使えるのか?」

『可能だと思う。初使用が貴様の前なのは癪だが……』


 不服そうなビートショットの声。それはそうだな。私対策な訳だし。


『しかし、世界の危機ではある。飲み込むことも大事だと、ラーメン屋の店主も言っていたからな』


 ビートショットはそう言って、空中で静止した。


『三十秒持たせろ』

「簡単に言ってくれる……了解した」


 ピタリと空中で機動を止めたビートショットを見咎めて、触手がこちらへ向かってくる。まるで今まで躱され続けた事による鬱憤を晴らそうとしているようだ。

 三十秒か、丁度いい……実験には持って来いだ。


「さて、お披露目といこうか」


 義手に茶色のアタッチメントを装着する。四つのジョイントがついた装置だ。その穴の一つに――白いタリスマンをつけた。


「紫に染まった百合も、きっと乙な物だぞ」


 起動する。たちまちに身体が軋み、義手から痛みが広がっていく。まるで身体が浸食されているかのような苦痛だ。


「しかし我慢できないほどじゃない……!」


 これ以上の痛みも慣れっこだ。

 苦痛は左腕から胴体、そして私の顔半分まで広がって、そこでようやく止まった。

 痛みも引いていく。締め付けられているかのような違和感は残っているが、それ以外は普通に動かせる。

 試すか。


「白撃銃……だったかな」


 私の周囲に、白色のマスケット銃が浮かんだ。その数、十丁。

 その姿を見たビートショットが驚愕する。


『それは!?』

「前にも見せただろう? 悪の組織はパクりが大好きなのだ」


 白い銃列は、一斉にその銃口を触手たちに向けた!






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