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「そして共に、憎悪を晴らしましょう」




「っ、ここは……こんなところまで来てしまったか」


 ジャンシアヌ、竜兄はフェイスガードに隠された視線をシンカーから周囲へ向けた。どうやら、シンカーと大立ち回りを演じている内にこの部屋まで縺れ込んでしまったらしい。それにしても壁すら壊すとか……。

 シンカーも部屋を見て、そして倒れ伏したダウナーを発見した。半魚人の牙をギリ、と軋ませる。


「ダウナー……!」


 バイオ怪人たちには奇妙な絆がある。そしてそれは、激昂するにたり得る着火剤となったらしい。憤怒の形相で親衛隊とビートショットを睨みながら、ダウナーを庇うような位置に着地した。

 一方のジャンシアヌはビートショットの隣に立つ。


「あー、会うのは初めてだな。俺はジャンシアヌだ」

『当方はビートショット。ユナイト・ガードとの縁で、名前だけは聞いている。花の力を使うヒーローだとか』

「そうだ。よろしく頼むよ、ビートショット」


 ジャンシアヌはビートショットの装甲をコツンと叩いた。二人は初対面だが、ビートショットはそれなりに有名なヒーローで、ジャンシアヌはユナイト・ガードとの繋がりが深いヒーローだ。お互いに名前程度は聞いたことがあったらしい。

 軽く自己紹介し合った二人は怒りに身を震わせるシンカーへと向き直る。そしてジャンシアヌはダウナーへと目を落とした。


「あれは、焦げている奴は倒したのか?」

『分からない。念の為とどめを刺そうとしていた最中だった』

「それはバッドタイミングだったな」


 ジャンシアヌはライラックフォーム。つまり盾槍を扱うパワー重視の形態だった。シンカーの物量に力尽くで抗うための選択か。おそらく壁を破壊していたのもほとんどがジャンシアヌの力によるものだ。


「そしてついでに悪い(バッド)ニュースだが、いなすのに精一杯だった所為でキメラはほぼ健在だ」


 その言葉を示すように、破壊された壁からどろどろと緑色のスライムが流れてきた。多い。濁流のようだ。その内の何体かは盾になるようにキメラに立体化しシンカーを守るように立ちはだかる。

 ビートショットは電子音声を唸らせた。


『ぬぅ……面倒だな』


 先のギガ・ワイド・ブラストさえあればあれらを一気に吹き飛ばすことも可能だったが。


『範囲攻撃は先ほど使った所為でしばらく使えん』

「そうか。俺も諸事情で少々厳しい」


 ビートショットは無限のエネルギーを持つがあまりに放出し続けると機械の身体が保たない。そしてジャンシアヌ、竜兄はアッパーとの戦闘でダメージを受けていることを聞いていた。二人とも万全では無い。

 しかしそれでも、後ろから見ているヒーロー二人の背中は頼もしく見えた。


「ま、なるようになるか」

『人間は楽天的だな。雷太やゐつもそうだが』

「前向きって覚えておけ」


 掛け合いながら二人は各々の得物を構えた。盾槍と超電磁ソード。一分の隙も無い構えだ。

 その姿を見てポツリと呟く。


「震えてくるな……」

「まぁな……」


 ヘルガーと共に戦慄する。

 どちらも高い殺傷力を持っていることは、身を以て知っていた。特に足が震え上がるようだ。動かないけど。

 だが幸いにして向けられている相手は私じゃ無い。

 その対象であるシンカーは、床に転がっているダウナーへとしゃがみ込んだ。


「息はありますが、この傷ではキメラ共を素材にして塞いでも意味がありませんね……」

「……グ……」


 炭化した口で呻くダウナーを目にしてシンカーは首を横に振った。最早ダウナーには顔を上げる気力すら無さそうだ。

 そんなダウナーへシンカーは手を伸ばし、そしてその首をつかみ取った。


「何だと!?」

『!!』


 二人のヒーローが驚愕する。それは親衛隊も、私も同じだった。

 なんとシンカーはダウナーを掲げるように持ち上げると、その首を切断したからだ。


『仲間を……?』

「戦えなくなったバイオ怪人に価値はありません。せめてその力、活かしましょう」


 手刀でダウナーの首から下を切り落としたシンカーは、自身を囲うスライムに首を差し出した。緑のスライムの一部が変形し、その首を包む。


「そして共に、憎悪を晴らしましょう」


 絆、ではなかった。見誤っていた。シンカーたちの連帯感は、人を超えたバイオ怪人という優越からくる、能力主義……!

 そのままスライムはシンカーをも包み始める。だぷんと揺れ、ダウナーの残りの死体をも飲み込み一塊となったスライムは、色と輪郭を変え形を持ち始めた。

 見る見るうちに見上げるほどの高さとなり、四肢が生み出されていく。

 太く強靱な人型。緑色と青色の斑模様の肌。背中からは蜘蛛の足と触手がうねりながら展開し、蛸のような異形の貌にダウナーの頭が額に埋め込まれていた。


「これは、あの時の……!」


 ジャンシアヌは見覚えのあるように呻いた。隣のヘルガー知っているようだ。多分、ヘルガーからの報告にあった巨人だろう。ダウナーを取り込んで前と少し変わっているのかも知れない。

 しかし変化はそれだけに留まらない。


『!? 溶液が……』


 広間にはスライムとは別の液体が散らばっていた。ビートショットのギガ・ワイド・ブラストによって破壊された培養槽から漏れ出た液体だ。スライムたちはそれを吸い上げるように取り込んで、シンカーは更に巨大化していく。


『U、Guuuuuuuuu!!』


 くぐもった雄叫びを上げるシンカー、だった存在。

 その大きさは5メートルは越え、広間を埋め尽くすほどに肥大化していた。

 睥睨する巨人は天井に背を擦りつけながら、広間に展開した有象無象たちを見下ろす。


『Guhaha……良い気分です。無様を晒したダウナーに替わって思い知らせてあげましょう……』


 そう言いながら巨人は腕をゆっくりと振り上げ、そして叩き降ろした。


『バイオ怪人の、真の強さを!』


 腕を振るっただけで、広間が破砕した。


「うおおおぉっ!!」

『グゥッ!』


 床は地割れのように砕け、天井からは瓦礫が降り注ぐ。壁も破壊され、部屋という形その物が砕け散った。

 私たちにも被害が及ぶ。入り口も破壊され、隠れていた私たちにも破片が飛んでくる。


「うっ!」


 壁の破片が飛んできた。当たれば無傷では済まない。そう思い身構えた私の前に、広い背中が立ちはだかった。


「っと、大丈夫か」

「あぁ、助かった……」


 ヘルガーが庇ってくれた。幸いヘルガーもたいしたダメージじゃ無い。だが、親衛隊員や戦闘員はそうでは無かった。


「うぐ、げほっ」

「手が……」


 飛んできた破片に当たったり、崩壊に巻き込まれて怪我を負った人員が目についた。これはいけない。これほどのパワーは予想外だ。少なくとも、一度体勢を立て直さねばならない。

 ヘルガーに目配せし、庇われたまま抱き上げてもらう。退却となれば足の速いヘルガーに持ってもらう方が確実だ。


「よし、戦線を放棄して一時撤退を……」


 そこまで指示しようとして、気付いた。

 壁が破砕したことにより、視線が通ってしまっていることに。


『――ほう。なるほど』


 得心がいったという風なシンカーの冷えた声が届く。

 ヘルガーに抱えられながら恐る恐るそちらを向くと、異形の貌がこちらへと向けられていた。

 蜘蛛と蛸に似た数多の眼が身も凍る輝きを帯びる。


『なるほど、なるほど……これは全て、あなた方の手引きでしたか……』


 まずい、ここまで隠してきたのに。いや、最早それ以前に!


「ヘルガー、全力で逃げ――」


 その瞬間には、もう事が起きていた。


『お前の所為かああああああああぁぁっ!!!』


 爆砕、崩壊。

 咆哮と共に放たれた衝撃波で、私たちは皆吹き飛ばされた。






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