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「いや、ここから逆転は流石にないだろう」




「何……!?」


 突如現れたビートショットにダウナーは困惑していた。いきなり巨体がなにもない空間から出現したら、そうもなるか。

 ビートショットは世界中のどこにでも現れることが出来る。

 電磁生命体の技術による空間転送は座標さえ分かってしまえば距離に関係なく飛ぶことが可能だった。そして私の作った即席の発信装置によって信号を増幅さえすれば、正確な位置を伝えることは簡単だ。


「ク……」


 慌ててダウナーはキメラをビートショットへ嗾け殺到させた。ビートショットの左右から大柄なキメラが襲いかかる。

 ビートショットはそれに一瞥すらくれることなく裏拳で頭部を破壊した。モーションは軽く振っただけに見えたが、込められた破壊力は凄まじかった。鋼鉄の豪腕がキメラの頭を爆砕し頭部を失ったキメラは行動不能になる。

 呼吸代わりにビートショットは蒸気を吐いた。


『お前が、バイドローンのダウナーだな』

「………」


 ビートショットの問いにダウナーは押し黙る。答えを期待はしていなかったのか、再度問い返すこともなくビートショットは自身を中心に展開し始めた親衛隊に問うた。


『あれが当方の標的か?』

「はい。あのバイオ怪人を止めねば全人類がバイオ怪人となってしまいます」

『強化されるのならば、一見問題のないように思えるが……』


 機械であるビートショットは異形の身体になる恐怖がいまいち分からないようだった。しかしダウナーに向けて拳を構える。


『雷太から頼まれているからな』


 ビートショットにとって雷太少年の言葉は正義への鎹だった。その言葉を実直に信じ、悪に立ち向かう。

 右手に超電磁ソードを展開し、キメラを捌きつつダウナーへ歩を進める。


「……!」


 ダウナーはたじろぎ、キメラを嗾けることしか出来ない。

 何故能力で拘束しないのか? 出来ないからだ。


『意識を失わせることは出来ないんだぜオーバー! 外側から拘束するってだけで、実はある程度のパワーで抜け出せちまうんだブレイク! それから機械には通用しないんだぜメカニック!』


 初めて二体のバイオ怪人と顔合わせした時、アッパーから説明された言葉だ。その言葉通り、私の左腕だけにはダウナーの能力は効かなかった。

 全身機械であるダウナーにも、当然能力は通用しない。


「ビートショット殿の道を切り拓け!」


 親衛隊が勢いづく。キメラを銃撃し、ビートショットを援護した。ビートショットならば万が一にでもキメラに劣りはしないが、親衛隊は律儀にもその万が一、億が一すら潰していく。

 的確な連携によって、瞬く間にビートショットはダウナーに肉薄した。


「……ッ!!」


 ダウナーの足が跳ね上がりビートショットの胸を穿つ。綺麗なハイキックだ。ユナイト・ガードの隊員が受ければその頭は宙を舞っていただろう。しかし今は甲高い音が広間に響いただけで、ビートショットの分厚い胸部装甲には傷一つつかなかった。


『ハァッ!!』


 そして返しと言わんばかりに振るわれた超電磁ソードは、いとも簡単にダウナーの左腕を切り飛ばした。


「……ッ!! グッ!!」


 左腕の断面を押さえて呻くダウナー。咄嗟に距離を取るが、ビートショットは逃しはしない。


『オォッ!!』


 電光の軌跡を残す斬撃が奔り、ダウナーを追い詰めていく。膨大な電気を纏った超電磁ソードは怪人程度なら容易く切り裂き、その上電流を流して内部から焼き焦がす。掠めただけで電撃が体内を迸る致命の剣は、超人的な耐久力を誇るバイオ怪人すらも少しずつ疲弊させていた。

 刻まれるダウナーとてただ黙ってやられているわけではない。残った三肢を使って反撃を試みる。

 例えば関節部。例えばカメラアイ。弱点と見られる部分を狙って重点的に突く。それは高い防御力を持つ敵に対する最適な反撃方法だっただろう。だが阻まれる。超常的な身体を持つバイオ怪人の攻撃であってもビートショットの装甲は貫けなかった。

 返す刀が、ダウナーの臓腑を抉った。


「……グガッ!!」


 焦げる臭いが漂うと共に半ば炭化した臓腑が裂かれた腹からこぼれ落ちた。一見致命傷。しかし怪人ならまだ動く。

 そしてダウナーはビートショットから逃げながらキメラの一体の頭を掴んだ。


「……来い……!」


 キメラの輪郭がグニャリと歪み、緑色のスライムに変じた。何度も見た、シンカーの能力で現れるときと同じ姿だ。スライムとなったキメラはダウナーの腕を這い上がると、その身体の、特に傷口に巻き付くように纏わった。

 すると、スライムが再び輪郭を取り戻した。しかもダウナーの傷を塞ぐ形で。腹の穴は埋まり、新たな左腕が生まれる。

 それを入り口付近から見ていた私は驚愕した。


「再生した!?」

「あれは……シルヴァーエクスプレスでシンカーがやっていたことと似ている。キメラを身体の一部とする力だ。アイツは巨大化したが」


 隣でシンカーが言った。ならばあれは、シンカーの能力か。キメラを消費して身体を癒やす……。ここにいるキメラ戦力そのものが回復アイテムに化ける訳か。厄介な。

 だがビートショットは怯まない。


『全て破壊するまでだ!』


 その言葉と共に、全身に電撃のオーラを纏い始めた。

 それを見た親衛隊は、慌てたように後退していく。


「まずい! 後退しろ!」

「入り口まで待避だ!」


 ビートショットが何をしようとしているのか、私には良く分かる。何故なら私も使い、使われた技だからだ。

 装甲の隙間から溢れ出る程の電気が、次の瞬間爆発するように広がった。


『ギガ・ワイド・ブラスト!!』


 膨大な電気エネルギーによる範囲攻撃!

 凄まじい威力の雷撃がキメラたちを黒焦げにしていく。ユナイト・ガードの装備に通じなかった私の低威力の電撃とは違い、ビートショットの大出力の雷はキメラたちの耐性すらも貫いて容赦なく感電死させていった。

 そしてそれは、ダウナーにも例外なく襲いかかる。キメラの一体を盾にして逃れようとしたが、そのキメラが焼け焦げた瞬間に別の雷撃がダウナーに落ちた。範囲内にいる限り、逃れる術はない。


「……ガァッ!!」


 電撃が晴れた時、ビートショット以外に残っていたのは息も絶え絶えなダウナーのみだった。

 広間は凄惨な有様だった。そこかしこに焼け焦げたキメラの死体が転がり、壁にあった培養槽らしき物は全て割れ、中身の液体すらもほとんど蒸発していた。

 辛うじて生き残ったダウナーも、身体の半分が炭化している。


「怖ぇ……」


 部屋の入り口付近に待避した親衛隊の影から眺めたその景色に、遊園地での記憶が蘇る。あの時、一歩間違えればあんな有様……いや、私の場合は全身炭と化していただろう。

 親衛隊隊長も冷や汗を流している。待避が遅れていたら、ほぼ間違いなくユナイト・ガード謹製の耐性防具すら貫通して丸焦げだ。気持ちはとても分かる。


 そんな破壊を生み出したビートショットは、蒸気を噴き出して冷却を終え、再び超電磁ソードを展開した。とどめを刺す気だ。

 キメラは全て倒した。ダウナーの能力はビートショットには効かない。


「やったか……」

「フラグじゃないか?」

「いや、ここから逆転は流石にないだろう」


 ヘルガーの言葉にそれはないと肩を竦めた。

 別の能力があればもう既に使っている。それ以前に、意識があるのかどうかすらも怪しい。


「全財産賭けてもいいね」


 その瞬間、広間の壁が破砕した。


『何ッ!』

「壁がっ!?」


 全員が全員驚愕を露わにする。そして私も、別のことに気付いて驚く。

 視線の先には、携帯端末の表示。


「シンカーの信号が……ここに!?」


 それはつまり、あの壁破砕は……。


「ぬぅん!!」

「クソッ、なんて力だ!」


 まるで縺れ込むようにして大量のキメラとスライムを従えたシンカーと、ジャンシアヌがなだれ込んできた。

 ヘルガーが口を開く。


「……全財産だっけ?」

「いや、勝てばチャラ……だ」


 再び混沌が巻き起こった広間で、私は頬をヒクつかせながら言った。






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