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「エリザベート・ブリッツ嬢ですね!」「へ?」




 無理でもやるしかない。


「よし、装備確認」


 私は後ろで控える戦闘員たちに振り返る。背後の通路には、十数人程度の戦闘員がいた。

 彼らは一応連れてきた他の構成員たちの護衛だが、数も少なければ怪人もいない。ローゼンクロイツ製の武具を身につけているし筋力強化程度の改造を受けた人間もいるが、そこらの兵隊と同じくらいか少し劣る程度の戦力でしかなかった。

 シマリス君ぐらいは連れてくるべきだったな……。


「……装備確認、完了しました」


 戦闘員たちのまとめ役が報告してくる。戦闘員たちに配備された武器はライフルやグレネードといった標準的な武装だ。いずれもローゼンクロイツの技術で作られた物だが、流通している物と比較して格段に優れているという訳でもない。様々な国の技術が結集したユナイト・ガードの銃器とは比べものにならないだろう。

 少し不安になりながら、自分の装備も確認する。

 まずは腰に佩いたサーベル。これは蝉時雨から貸し与えられた奴をそのまま持ってきた物だ。掛かった魔術のおかげで頑丈なので、ここ最近は愛用している。他には一応拳銃と、後は鎮圧用ネットとかぐらいだ。

 ……言っておきながら、私も心許ない。


「よし。いいか、前衛はキメラにやらせる。お前たちはユナイト・ガードたちに虚仮威しすればいい」

「虚仮威し、ですか?」

「あぁ、どうせユナイト・ガードの防具に通常の弾頭は効果が無いんだ。だったら威嚇で十分」


 相手を傷つける必要も無いからね。

 ヘルガーにも確認を取る。


「お前も前線には出なくていい。あの弾幕は抜けるかどうか怪しいからな」

「まぁ、確かにな……」


 ヘルガーが唸る。キメラたちをほとんど近づけずに仕留めたあの弾幕の練度は凄まじい物がある。迂闊に近づけば、いくら足の速いこいつでもひとたまりもないだろう。一瞬で決着をつけても駄目だしね。

 さて、こっちの被害がキメラ共で済むといいのだが。


「よし、突撃する。キメラたちの後に続け」


 私の言葉に戦闘員たちとヘルガーが頷きを返す。私はキメラに命じ、先に通路へ身を晒させた。

 曲がり角の向こうから鋭い声が響き、ガチャガチャと大勢の足音が鳴る。キメラを発見し、戦列を整えているのだ。

 この瞬間が、まず私たちのターンだ。


「行くぞっ!」


 号令を出し、曲がり角から身を躍らせる。キメラたちの間からは、迅速に隊列を整えようとするユナイト・ガードたちの姿が見えた。

 故に、この一瞬だけは攻撃に回れない。


「フルファイア!」


 私の言葉と共に、戦闘員たちの銃器が一斉に火を吹いた。私も拳銃を構え、ユナイト・ガードたち目掛けトリガーを引く。

 手に持った拳銃はローゼンクロイツのオリジナルだ。指揮官用の装備であるこの拳銃は発信器や臨時の通信機などの役割もこなせるように作られた高性能品だが、生憎戦闘に置いてはただの7mm口径拳銃だった。

 一斉に発砲された銃弾がユナイト・ガードたちへ殺到する。


「専念防御!」


 しかしユナイト・ガードの隊長格らしき人物が命令すると、全員が一斉に急所を庇う防御態勢を見せた。盾を持った隊員が前に出て、それ以外の隊員は腕で露出した顔を守る。

 その所為か、銃弾は何発か当たったものの効果を発揮した命中弾は皆無だった。


「くっ! 続け……」

「カウンターアタックッ!」


 更に射撃を続けようとした私目掛け、構え直したユナイト・ガードの銃弾が飛んできた。ほぼ全員が私を狙っている。指揮官だと当たりをつけたのか。銃弾はそのほとんどはキメラの肉の壁に阻まれ届かなかったが、その内の一発が合間をすり抜け真っ直ぐ飛んでくる。


「むっ!」

「世話の焼ける!」


 その銃弾が私に届く前に身を以て止めたのは、ヘルガーだった。


「助かった。その調子で私の護衛を頼む」


 銃器を持っていないヘルガーの役割は私の護衛だ。指揮官である私は戦闘員たちより攻撃が殺到する。丈夫なヘルガーなら盾役に最適だ。

 しかしヘルガーは芳しくなさげな顔で振り向く。


「いや思ったよりやばいかもしれん。ほら」


 そう言ってヘルガーが向けてきた手の平には弾丸がのめり込んでいた。私は息を呑む。何故なら、並大抵の銃弾なら怪人であるヘルガーには効かないからだ。


「どういうことだ?」

「貫通力が高い銃弾だ。多分、例の爆発する弾丸と同じように特別製の」

「火力が低い分、的を貫くことに特化した銃弾か……」

「怪人の中では丈夫な部類の俺でこれだ。重要な器官を抜かれるとまずいな」


 ん? つまりそれって……


「わぁ!?」

「摂政様! キメラ怪人を貫通してこっちにまで銃弾が届きます!」


 なんてことだ。いきなり作戦が破綻し始めた。


「狼狽えるな! キメラが遮蔽になっていることは確かだ、そんなに当たらん!」


 口から出たのは虚勢に近い指示だった。

 確かにキメラたちの身体が陰になって射線から隠れているが、だからといって安心できる訳がない。しかし下がれとも言えない。

 幸いなのは、貫通こそするもののキメラたち自体のダメージが少ないことだ。バイオ怪人のなり損ないであるキメラは、身体を銃弾が突き抜けたぐらいではビクともしない。

 えぇい! だったら計画変更!


「キメラ共! 押せ押せ押し潰せ! パワーだ!」


 キメラたちのダメージが少ないことをいいことに、力押しに作戦を切り替える。キメラで圧迫し、プレッシャーをかける戦法だ。そのほとんどが体高2メートルを超えているキメラたちで押せばそのまま押し切れるかも知れないと考えての作戦だった。ライフルの弾丸が貫通重視なら先ほど見たような弾幕での圧倒は難しいだろうと判断してのことでもある。

 が、やはり上手くはいかないようだ。


「前衛、交代!」


 銃撃を物ともせず突き進むキメラたちが、ようやっと肉薄しようというところで隊長格の声が響き渡った。

 その号令をまるで待っていたかのように隊列が入れ替わる。ライフルを構えて銃撃を続けていた部隊が下がり、代わりに現れたのは……ライフルよりも口径の大きく、銃身の短い銃を持った隊列だった。

 銃の形状を見た私は焦った。


「な! まずい!」


 そんな私の予感が的中するかのように、キメラの半分が銃声と共に消し飛んだ。銃口より放射状に発射された散弾が、キメラたちの身体を四散させたのだ。ショットガンだ!

 キメラを爆散させたユナイト・ガードたちは迫り来るもう半分を前に冷静にポンプアクションで次弾を装填した。初弾で半分が消し飛んだのなら、第二射で吹き飛ぶのはそのもう半分。そしてその次は――


「待避ー!!」


 第二射でキメラたちが穴だらけになった瞬間、私は叫んで後方へ思い切り飛び退った。戦闘員たちも習う。

 キメラを掃討したショットガンの銃口が次に向けられるのは、当然、私たち。

 銃口が爆ぜ、散弾が襲い来る。

 ショットガンの弱点はその射程だ。弾丸を真っ直ぐに飛ばさない分、有効射程は非常に短い。故に戦闘員たちはなんとかその範囲外に逃げ出すことが出来た。

 唯一の例外は、構成員の最前列で指揮を執っていた私だ。

 弾丸が発射された瞬間に射程外に逃れられていない事実に肝が収縮する。


「うおっ……!」

「世話の焼ける!」


 そのままでは銃弾で穴だらけになっていたところだが、ヘルガーのおかげでそうはならなかった。

 いつものように私を抱え剛脚で駆け銃弾が届くより早く後方へ去る。


「助かったが……やっぱり常時私を抱えた方が効率がいいのかなぁ」

「それは俺の方が惨めだからやめてくれ」


 溜息をつくヘルガーにそっと降ろされながら銃を構えた。ショットガンの射程外には逃げられたがまだライフルの脅威がある。追撃が来るはずだ。


「全力後退! ここは後ろに下がって……」

「摂政様! 何故か奴ら撃ってきません!」

「何?」


 後ろへ駆け出そうした足をピタリと止め、ユナイト・ガードへ向き直る。まだライフルは余裕で届く距離なのに、奴らユナイト・ガードは動きを止めていた。何やら隊長格が指示している。


「なん……だ?」


 こちらが戸惑っていると、隊長格が副官らしき人物と何か確認を取り始めた。一応いつでも逃げ出せるように構えつつ困惑して突っ立っていると、隊長格が声を張り上げこちらに話しかけてきた。


「エリザベート・ブリッツ嬢ですね!」

「へ?」


 いきなり敵対者からお嬢様呼びされ、間抜けな声を出してしまう。


「気付かず発砲してしまい申し訳ありません。私たちは上層部の直轄部隊、通称『親衛隊』と呼ばれる部隊です」

「え、あぁ、はい」


 突然自己紹介し始めたぞ? え、どういうことだ?

 困惑する私を余所に隊長は続ける。


「上よりのご命令です。貴女に協力するように、と」

「……つまり?」

「これより私たちは、一時的に貴女の傘下に入ります」


 あまりに突然の出来事に、流石に私も理解出来ずしばらくフリーズした。






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