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「……どうするの、エリ……怪盗さん」




 特注品なのだろうか? 他と比べても頑丈そうに見えるコンテナは自動ロックを開き、その内容物を解き放った。

 現れたのは、見上げるほどに巨大な生き物だ。


「でっか……」


 見ていた私も思わずそう呟いてしまう。まず体高が四メートルある。それでだけでも巨大だが、その生物はなんと四足歩行で、前後の体長はそれ以上だった。

 太い四つ足、長い尻尾。身体は魔法陣の描かれた黄色い鱗に覆われている。何よりも目を引くのは、頭部に生えた三本の角だった。まるで鋼鉄のような光沢を持ったそれは、中世の馬上槍のようだ。

 詳しくない者でも一目で分かるだろう。

 それはトリケラトプスだった。


「おい恐竜が出てきたぞ」


 コンテナの縁に腕だけをかけ、頭だけを上に出してぶら下がって見ていた私は、その下で内部を漁っている蝉時雨に声をかけた。

 蝉時雨は探す手を止めずに答える。


「あー、どっかの魔術学派が魔術で恐竜の再現を行う! だとか宣っているらしいってのを耳にしたな」

「へー……もしそうなら歴史的大発見だね」

「実際には牛や馬なんかを見てくれだけ整えて強化しただけっぽいが」


 ということは、私たちが遺跡で戦ったフォーマルハウトの猛牛と同じようなものか。しかしほぼ牛のままだったフォーマルハウトの奴とは違い、全身の鱗は硬そうだし尻尾も当たったら痛そうだ。


「その学派、ディザスターの傘下だったりしないよね?」

「違うんじゃないか? ああいう手合いは研究費を稼ぐために成果物を誰にでも売るし。ていうか、探すのに集中させろよ」

「はいはい」


 私は会話を打ち切り観戦に集中する。魔術都市であるアル・カラバで造られた怪獣だ。少なくともフォーマルハウトの猛牛よりも強いだろう。どうなるかな。

 チペクウエと呼ばれた恐竜は標的を見つけ鼻息を荒くする。やる気満々だ。突進の為の準備として、後ろ足で地面を掻き始めた。

 その上空でジェットストームが喚く。


「畜生! お前の所為で赤字だ! せめて高かったこいつの餌になれ!」

「待った、そいつは肉食かい?」

「うるせぇ! やれ!」


 ジェットストームの号令に従い、チペクウエはプライマル・ワン目掛けて真っ直ぐに突進する。その速度、重量感共に、間違いなく猛牛より数段上だ。ヘルガーが辛うじて受け止め切れたあの突進、それよりも強力なそれをプライマル・ワンはどう受け止める?


「ふむ……流石に……」


 迫り来る恐竜を前に、プライマル・ワンは逃げる訳でも受け止める構えをとる訳でもなく、ただ腰を落とし拳を握った。

 三本の角を向け、チペクウエはトラック並みの迫力でプライマル・ワンへ肉薄する。


「ちょっと疲れそうだ」


 そして角が赤青のスーツを貫く直前、プライマル・ワンはチペクウエの顎の下に潜り込み、その拳を叩きつけた。

 アッパーカット。だが、あの重量と突進の勢いでは、

 そんな私の想像を超え、プライマル・ワンは巨体の恐竜をかち上げた。


「うっそぉ……」


 上空を舞うチペクウエを前に、そう呟く。ジェットストームも、唖然と空に上がった恐竜を目で追っていた。

 そしてチペクウエは、落下を始め……、


「ん?」


 あれ? こっちに落ちてきてない? いや気のせいじゃない。明らかに落下地点は……!


「ちょっ、待避ーーー!!!」


 声を潜めることも忘れ私は叫んだ。迫る巨体を見たはやては勿論、戦いの様子の分からなかった蝉時雨もただならぬ私の叫びになりふり構わずコンテナを飛び出した。私も電磁スラスターを起動して舞い上がる。


「うおおおぉっ!!」


 轟音と共にさっきまで私たちがいたコンテナに落下するチペクウエ。コンテナはひしゃげ、原形も留めないほどにぺしゃんこになった。あっぶね……あのままあそこにいたらコンクリートのシミってレベルじゃないぞ。

 だが回避した代償として、私たちの姿は露見してしまった。


「な……なんだ貴様ら!」


 我に返ったジェットストームが私たちを見咎める。くっそー、見つかってしまった。

 仕方が無いので、開き直って二階欄干部分へ着地し腰掛ける。


「やあどうも。今宵は随分手荒い歓迎だね。……私は……」


 ローゼンクロイツを名乗るわけにはいかない。ディザスターから標的にされれば、日本でもうだつの上がらない私たちの組織など木っ端の如く滅ぼされる。

 なのでここは適当言うことにした。


「私は……魔術怪盗、蝉時雨」


 えっ、て顔で階下の蝉時雨がこっちを向く。


「訳あって魔導書を頂戴する。こんなにあるんだ。一個くらいいいだろう?」

「コソ泥が!!」


 ジェットストームは怒り、私へ向け二丁拳銃を発砲した。私は電磁シールドを展開し、弾丸を焼却する。


「おいおい、ますます手荒いな」


 銃弾を防ぎながら、眼下の蝉時雨へ向け目で合図する。幸いにも、見つかったのは飛び上がった私だけだった。蝉時雨とはやてはまだ発見されていない。なので、最低でも蝉時雨は捜索を続行してもらう。

 蝉時雨は恨みがましそうな目をしながら他のコンテナを探すべく移動し始めた。はやてはどうするか迷った後、私に加勢することにしたようだ。捜索に自分はあまり役に立たないと考え、私を守ることにしたらしい。有り難い。やはり私一人では不安だったからね。

 空を飛んだはやては私の隣に立った。はやての纏った魔法少女衣装を見てジェットストームが唸る。


「……確か、日本の魔法少女って奴だったか?」

「おっと……詳しいね」


 魔法少女が主流なのは日本だ。したがって私たちが日本人であることも知れてしまうが、どの道顔を見られれば日本人だと分かってしまうから隠す必要は無い。私の方はマントを纏い下には別の服を着ているから、ローゼンクロイツだと知られる心配は無い。


「……どうするの、エリ……怪盗さん」

「適当に時間を稼ぐ。蝉時雨が目的のブツを見つけるまで飛び回って攪乱する。撃破は考えなくていい」


 もっとも、そう簡単にできたら苦労はないのだが。


「ディザスターに、そしてこの俺様に楯突こうとする無謀を分からせてやる……」


 そう言って空中のジェットストームが二丁拳銃を仕舞い、ビームサーベルを構えた。それを見て私も欄干の上に立ち上がり、背中の電磁の翼を起動させつつ腰に佩いたサーベルを抜き放つ。

 バイザーと紫の瞳が交差した一瞬、同時に飛び上がった私たちは空中で切り結んだ。相手を警戒しつつ互いに一閃。ビームサーベルが私のマントを浅く切り、サーベルはアーマーに跳ね返される。


「お前に構っている暇はないんだ! コソ泥!」

「ならどうぞお構いなく! 勝手にしているので!」


 すれ違って一旦距離をとって、再び交差。首狙いの私の一撃をジェットストームが攻撃を捨て身を捻って躱し、また互いに外れ。

 やはり空中での動きがいい。私も倉庫内で飛び回った経験はあるが、向こうの方が場数を踏んでいる気配がする。本気でやり合うとその経験の差が出て出し抜かれかねない。


「チッ、は……魔法少女!」


 空中で振り返って名前を出さないようにはやてを呼ぶ。私一人では手に余る。加勢が必要だ。

 はやては頷き、私の元へ飛ぼうと翼を広げ――そして目を見開いた。


「後ろ!!」


 はやての叫びを聞き、私は即座にその場で身を捩った。背後から飛来したコンテナが私を掠め、倉庫の壁に激突する。マントの裾が破れ、切れ端が宙を舞う。あと一センチ、いや数ミリ違っていたら私も持って行かれていた。ギリギリ間一髪だ。

 激突したコンテナはひしゃげ、中身の道具類も潰れている。一瞬回避が遅れていたら、私も同じ末路を辿っていただろう。


「ヒェッ……」


 誰がやったか、問うまでもない。

 そうだよ、敵はジェットストームだけじゃない。


「何が何だか分からないが、盗みを働くというならとりあえず拘束させてもらうぞ!」


 あぁもう! 職務熱心なことで!






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