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「ジェットストーム、貴様の野望を砕きに来た」




「な、なんだぁ?」


 物陰に潜みながら小声で呟く。突然の闖入者に、倉庫内の全員が混乱していた。私たちも、ディザスターたちも。


「貴様ッ!」


 それでもすぐ立ち直ったのは流石荒事に慣れた人間と言うべきか。ギャングたちは銃を構え、乱入者に発砲する。

 銃弾の雨霰が男を襲うが、要所に纏ったプロテクター以外は薄く見えるタイツは容易く銃弾を弾いた。斉射を受けながら男は一歩、また一歩と倉庫内へ歩みを進める。


「ひ、ひぃ!」

「フンッ!」

「ぶげらっ!!」


 ついに男はギャングの一人の前に立ち、その手を振り上げてギャングを殴った。無造作な一撃だが、ギャングは数メートル吹き飛びコンテナの一つに叩きつけられ沈黙した。男は手近の他のギャングたちにも同じことを繰り返し気絶させていく。


「お前はッ!」


 ジェットストームが立ち上がる。男はジェットストームへ向けて指さした。


「ジェットストーム、貴様の野望を砕きに来た」

「なぜここに……!」


 慄くジェットストーム。


「お前は……プライマル・ワン!!」


 聞き覚えのある名前に、潜む私も反応してしまう。


「プライマル・ワン、だって?」


 よく見れば、男の姿はポスターやネット画像で見知ったプライマル・ワンのものだった。赤と青のスーツ、銀のプロテクター。そして胸の中心で輝く光にその回りを覆う金色のアーマー。日本でも大抵は知っている、アメリカなら誰もが知っている最強のヒーロー、プライマル・ワンの姿だった。


「マジだ」

「マジか、うわホントだ」


 蝉時雨も驚いている。はやても同様だ。アメリカから遠く離れた土地になぜだ? ……いや、それは類推出来るか。ディザスターがここにいるのだものな。


「マンハッタンでお前の怪しい動きを察知し、遠路はるばるここまでやってきた甲斐があったな。ようやくお前に引導を渡せる」

「やってみるがいい! 総統に逆らう愚か者めが!」


 罵ってジェットストームは背中からジェットを吹かせ天井に浮かび上がった。倉庫内は飛び回るには限られた空間だが、その飛び方は危うげない。屋内で飛行することに慣れた動きだ。


「って、やべ」


 私たちは身をかがめた。二階にいることが見つかる!

 幸いにもジェットストームの全注目はプライマル・ワンに注がれていた。


「ここで死ね! プライマル・ワン!」


 ジェットストームは二丁拳銃を取り出し、プライマル・ワンに向けて発砲した。先ほどと変わらず、プライマル・ワンはその身で受けて容易く弾き返す。


「どうした!? そんな豆鉄砲じゃ通じないぞ!」


 お返しと言わんばかりにプライマル・ワンは手近のコンテナに手をかけ、


「うそぉ……」


 そんな呟きが私の口から漏れた。

 なんたって、人の何倍もあるコンテナがまるでお菓子の箱のような気軽さで持ち上げられたのだから。しかも片手で。


「ふぅん!」


 そのままプライマル・ワンはコンテナを投げ飛ばした。狙いは勿論ジェットストーム。


「チィッ!」


 ジェットストームは空中で身を捻って躱した。コンテナはそのまま壁にぶち当たり、中身の魔導書類を散乱させた。


「あぁ! 勿体ない! あれでいくらになると思ってる!」

「静かにしてろ馬鹿!」


 悲鳴を上げる蝉時雨をぶっ叩いて黙らせる。


「バレたらどうする! あの戦いに巻き込まれたら命はないぞ!」


 見たとおりプライマル・ワンは凄まじい身体能力を持つ。怪力、跳躍力、スタミナ。いずれも人類とは思えないほどのものだ。鉄板をもぶち抜く腕力、五メートルを軽く飛ぶ脚力に七十二時間戦える体力。

 王道の強さ。それがプライマル・ワンだ。


「くそが! お前ら!」


 ジェットストームが声を上げると、倉庫内に積まれたダンボールやコンテナの隙間からギャングが顔を出した。さらにその手には筒状の物が握られている。


「むっ……」


 プライマル・ワンが警戒する。それもその筈、あれはどうみても対戦車のバズーカだ。

 二丁拳銃を仕舞ったジェットストームはプライマル・ワンを指さして命じた。


「ぶっ放せ!!」


 応じたギャングたちはプライマル・ワンめがけ一斉発射した。煙の尾を引いて四発の弾頭がプライマル・ワンへ飛来する。

 だが狙われたプライマル・ワンに焦燥はない。


「フッ!」


 その場でプライマル・ワンは跳躍し一発を避け、一発を上から叩き落とした。二発の爆発を利用して更に飛び上がり、三発目を躱し、四発目は蹴り上げて天井にかち上げた。壁と天井で爆発する三発目と四発目。何というアクロバットだ。怪力でありながらこんなにも身軽なんて。

 黒煙の中に着陸したプライマル・ワンは無傷だ。邪魔だと言わんばかりに腕を振るって黒煙を吹き払う。


「これで終わりか?」

「おのれ……!」


 地上で不敵に挑発するプライマル・ワンと、上空で歯噛みするジェットストーム。

 力関係は一瞬で露呈していた。


「うぅん、流石はプライマル・ワン。全米一は伊達じゃないね」

「そのようだな。組織のNo.2といえど一対一じゃ敵わないようだ」

「……私、勝てないかも」


 三人でのんきに感想を言っていられるのも直接敵対していないからだ。あの場にいたら、そこらで寝ているギャングと同じ末路を辿っただろう。情報では前もって知っていたが、目の当たりにするとやはり凄まじい強さだと実感する。ウチにいる怪人じゃ全員束になっても敵うかどうか怪しい。敵対したくない相手だ。

 だが、今だけは好都合だ。


「よし、今のうちに行こう」


 幸いにもプライマル・ワンが襲撃したことによって階段の見張りがかり出されいなくなった。これなら一階へ降りても見つからない。

 蝉時雨が不安そうな顔をする。


「……大丈夫か? あんな激しい戦いをしている一階へ降りても……」

「見つからないようにこそこそ探すだけさ」


 今ディザスター側の注目は全てプライマル・ワン一人に向けられている。全てのリソースを振り絞ってなお勝てるか怪しい存在との戦いなのだ。故にそれ以外の警戒を解除せざるを得ない。だから、静かにしてれば多分大丈夫だ。


「音を立てないように降りて、目当ての物を探すぞ」


 私たちがひっそりと階段を降りている間にも、戦いは激化する。

 ジャンプしてバズーカ持ちを潰し回るプライマル・ワンを止めようとして、ジェットストームが空中から襲いかかる。

 手に持っているのは青白い光の剣だ。ビームサーベル、と言うべきか。


「フンッ!」

「くそが!」


 脳天めがけて振り下ろされたサーベルをプライマル・ワンは腕のプロテクターで受け止めた。サーベルの光を弾き、火花が散っている。ビームを弾くなんて、あの装甲も普通じゃないな。


「おのれおのれおのれ!」


 激昂したジェットストームが何度も何度も斬りつけるが、その度にプライマル・ワンは手足のプロテクターを駆使して防御する。だがその隙に周囲からギャングが包囲を狭めていた。

 バズーカが切れたのか、ギャングたちは銃弾で援護する。しかしプライマル・ワンのスーツはやはり銃弾を通さずプライマル・ワンにとっては多少煩わしそうにするだけだった。

 通常なら、一流のヴィランとの戦いにおいてその煩わしさすらも致命傷だろう。しかし超一流のヒーローにとっては匙に過ぎない。

 ジェットストームと格闘を続けながら周囲のギャングも暇を見つけては倒していく。


「すご……」

「まさに最強のヒーローだな。よし、このコンテナから始めよう」


 無事に下の階に降り、コンテナの一つの陰に隠れた私たちは物色を始めた。魔導書に詳しい蝉時雨が探し、私たち二人が警戒する。

 はやてはコンテナに近づく敵に備え、私は渦中の戦いを見張ることにした。

 戦いはギャングの数が減り、ジェットストームが焦り始めたところだった。


「くっ……少数勢力で来たのが仇になったか……?」


 ヒーロー相手では、数の暴力は役に立たない。まずそれを覆せるのがヒーローの大前提だからだ。ギャングたちは普通の人間相手なら倍の数の民衆相手に十分優位に立てるほど強いが、ヒーロー相手には物の役にも立たなかった。

 ジェットストーム自体はよく戦っているが、それも手玉にとられているように見えた。


「ええい! この街に来たのが無駄になるが、かくなる上は仕方があるまい!」


 そう叫ぶと、ジェットストームは上空へ浮き上がりプライマル・ワンの射程圏から外れると、腕のカバーを開いて現れたコンソールを操作しだした。

 それを見逃さずプライマル・ワンは手近な物――今倒そうとしていたギャングを掴むと、ジェットストーム目掛けて投げ飛ばした。


「チッ!」


 ジェットストームは舌打ちをしながらも難なく飛来するギャングを躱す。哀れにもギャングは悲鳴を上げながらダンボールの山に突っ込んだ。

 避けながらもジェットストームは操作をぶらさなかった。コンソールの操作を終え、決定キーを押す。


「解き放たれよ! チペクウエ!」


 その言葉と同時に、コンテナの一つが開いた。






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