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「おいおいお爺ちゃん、結構肉体派?」




 灰色の光が飛来する。動けるのは私だけ、狙ってくるのも、私だけ!


「ちっ!」


 駆けだして紫電で応戦する。だが私の雷撃は障壁に弾かれてしまった。


「上昇したんじゃないの、出力……!」


 マハヴィルに続いて部下の魔術師たちも魔術を放ってくる。アッパーの活躍で数は減ったけど、こちらの数がそれ以上に減った所為ですっかり逆転されてしまった。一対……六かな? 絶望的な差だ。せめて援護でもなければ勝負にならない。


「はやてちゃん! 魔法は使える!?」


 飛んでくる魔術をステップで避けて背後のはやてに問いかけた。苦しそうな吐息と共に返答が返ってくる。


「魔力は、あ、るけど、はぁ、弾を飛ばすだけの、力が……」

「じゃあ魔法で武器を頂戴!」


 魔術師の一人が一際大きな火球を作り出す。半径3メートル程の火の球。まるで小型の太陽のようだ。


「『燃えよ、燃えよ、燃えよ――」


 あれが当たったら骨すら残らないだろう。電磁シールドを展開するか? いや物理攻撃相手ならともかく、魔法攻撃にどれ程効果があるか分からない。


「う、ぐ……エリザ!」


 はやてが背後から声をかける。魔法の武器を作り終えたようだ、ナイスタイミング。火球から目線を逸らさず下がり、はやての声を頼りに手を伸ばす。硬い感触、グリップっぽい。武器だ、だけど……これは?


「――灰に還れ、終わらぬ者よ!!』」


 呪文が完成する。つべこべ言ってる暇は無い! 私は武器を構え飛んでくる火球へと突き出した。

 円形の魔法陣と火の球が衝突する。


「ぬあっ!!」


 両腕で持っても凄まじい衝撃が体を襲った。特に機械化していない右手側の肩が悲鳴を上げる。火球の衝撃もさることながら、武器自体が重いのだ。


「うぅぅ、があぁっ!!」


 それでも扱いは一度見ている。私は何とか火球を逸らして、上へ打ち上げた。小さな太陽は天井にぶつかり、無数の火の粉になって散った。


「はぁ、はぁ、これ……」


 改めて、作ってもらった武器を見る。稲穂色の魔力で形成された武器は変わった形だが見覚えがある。螺旋状の槍と、円形の盾が一体となった武器。

 これは、ジャンシアヌの盾槍か!


「強い武器なら、それかな、って……」


 背後でがくりと項垂れるはやての気配を感じた。体力が限界みたいだ、次の武器は望めない。

 私は左腕で盾槍を振るい使い心地を軽く確かめる。Iベイオネットと左程変わらない。急ごしらえの為か花の造形はコピーしておらず、魔法陣を元にしたシンプルなデザインだ。おかげで変な引っかかりが無くて振るい易い。

 しかし咄嗟に出て来たのがジャンシアヌの武器か……怖かったんだなぁ、アレ。


「よし!」


 これなら何とかなるかも。強さは折り紙つきだ。身を以て。

 私は槍部分に紫電を纏わせた。超電磁ソードと同じ要領だ。棒や刀に使うのとは訳が違い纏わせなければならない面積も広いが、そこは出力アップが役に立ってギリギリで穂先を覆えた。

 魔法盾で敵の魔術を弾きながら進む。


「くっ、うおおぉぉっ!!」


 痺れを切らした魔術師の一人が突撃してきた。手には剣状の呪具を握っている。それで斬りかかるつもりだ。

 だが流石に、素人剣術に負けるほど弱くは無い。穂先で剣尖を払い、魔術師へと槍を突き込む。

 先程放った電撃は通じなかったが、槍に纏わせることで電圧の上がった紫電は高威力だ。槍の鋭さ、重さと相まって易々と障壁を貫く。


「うぐぅ!」


 膝に槍を突き込んで戦闘能力を奪った。後遺症が残るかもしれないが、死なないだけ勘弁してほしい。そのまま魔術師を放って、また挑んできた別の魔術師を捌いて敵の本隊に肉薄した。


「どりゃあぁっ!!」


 槍を振るって魔術師共をなぎ倒す。アッパーの攻勢に耐えてギリギリだった障壁を破れば、後は接近戦が苦手な魔術師たちだ。まるでボーリングのピンの如く、面白いようになぎ倒されてくれる。

 槍を受け止めたのは、マハヴィルだけだ。


「ぬぅ、阿呆めがここまでやるか……」

「おいおいお爺ちゃん、結構肉体派?」


 なんとマハヴィルは私の突き込みを片手で掴まえ、胸の前で押しとどめた。槍の穂先を握られこれ以上動かない。

 力が強いだけじゃない。纏わせた電撃に直接触れても、手の平が焼け焦げていない。電撃は弾かれていた。

 肉体を強化する魔術はあるにはある。だがこれは……。


「根本から弄ってる……? さっきの牛みたいに魔術で改造しているのか?」

「ほう、魔術に対して微かな造詣はあるようだ……。一先ず正解と言っておこう」


 魔術によって肉体を強化している訳じゃなく、魔術によって肉体を改造しているのか! 筋肉を魔術によって強くするのが肉体強化の魔術だが、おそらくマハヴィルは魔術によって肉体を先んじて変容させている。スポーツに例えるなら薬を打ってドーピングするのが強化魔術で、マハヴィルが自身に施したのは手術によって筋肉を増やしたり骨を補強する行為だ。施術に魔術は必要だが、動かすのに魔術は必要ない。

 つまり、コイツは怪人級だ!


「くそっ!」


 槍に纏わせた電撃を解除して、電磁スラスターを起動する。背中に広がった電磁の翼で宙に浮き上がり、マハヴィルの腕から槍を引き剥がそうと試みる。

 だが奴は離さなかった。それどころか両腕で穂先を掴む。


「ぐぎぎ……!」

「ぬうぅ……!」


 引き合いが始まった。空に逃げようとする私と、地に引き摺り倒そうとするマハヴィルによる、斜めの綱引きが繰り広げられる。

 マハヴィルの力は予想以上に強い。そして重い! 今の電磁スラスターの出力なら私と後一人くらいは持ち上げられるが、マハヴィルは踏ん張り続けている。体感だと、200kgはあるぞこれ。どんだけ筋繊維ギチギチなんだ。


「くっ……なんで、今占拠したんだ!」


 相手の気を逸らす為に話しかける。それと同時に欲しい情報も問う。マハヴィルは手を緩めず油断せずに答えた。


「我々もあの列車、シルヴァーエクスプレスに聖遺物が積みこまれる情報は掴んでいた! その列車が襲撃されたとなれば次にこの遺跡が狙われることは容易く読めるだろう、小娘が!」

「成程! なぁ!」


 隙をついて一気に引いてみるが、普通に対応された。意識を逸らし切れなかったか……。

 しかし、知りたい情報は知れた。向こうもバイドローンと同じ情報を掴んでいたんだ。そしてシルヴァーエクスプレスが強奪されたというニュースを知って、誰かに聖遺物が取られたということを察知した。それで先んじてここを占拠したのか……聖遺物を確保した勢力、つまり私たちが飛び込んで来てくれると考えて。

 合理的だ。だが……。


「ここはそこまでの代物か! ここにいる戦力、安くは無いだろう!」


 この遺跡に結集しているフォーマルハウトの魔術師の数は並じゃない。大手の悪の組織でなければ、組織を構成する人員のほとんどだろう。そしてフォーマルハウトはローゼンクロイツの警戒網に引っ掛かる程暗躍してはいない。決して簡単に揃えられる戦力では無い筈だ。ならば、それだけの力を注ぐだけの価値がこの遺跡にあるということになる。

 マハヴィルは憎々しげに顔を歪めた。


「やはり無理解者か! この遺跡、『イザナ』の価値を知らぬ愚か者め! この遺跡さえ起動すれば、我が悲願にどれ程近づけるか……!」


 フォーマルハウトの悲願など知らない。だが、この遺跡はそれほどの力を持っているのか。バイドローンが狙う訳だ。

 マハヴィルが腕に力を込める。ッ、まずい!


「ぬぅん!!」

「うっ!」


 縄のようにマハヴィルの筋肉が隆起し、拮抗していた引き合いは一気に傾いた。私は思いきり引っ張られる。硬いコンクリートのような床へ投げ飛ばされ、強かに背中を打った。


「かはっ!」


 叩きつけられた衝撃で肺の空気が一気に飛び出る。全身にも衝撃が拡散して痺れている。くそ、いきなり劣勢に。

 マハヴィルは投げ飛ばした私に近づきながら、床に向けて赤い液体を吐き捨てる。血だ。ということは。


「強化……したのか。改造した筋肉を魔術で更に……!」

「ほう、洞察力があるな。魔術の心得もあるようだし、野に放たれていればスカウトしたところだぞ」


 魔術で改造した筋肉を強化魔術で更に強化すれば、当然筋力は上がる。

 だが代償は口の中を噛み切って流した血だとしても、呪文の詠唱は一切聞えなかったぞ。まさか、無詠唱か? 熟練の魔術師ならば、魔法のように詠唱をせずとも発動できるのか?


「簡単な魔術であれば、詠唱を省略できる。少し魔術への造詣が足りなかったな」


 悔しいが、その通りだ。私は身体の痺れを無理やり押さえて起き上がる。盾槍はまだある。構えて備える。

 まだやる気の様子の私に、マハヴィルは感心したような態度を示す。


「ほう、これだけの実力差があってまだやるか」

「お生憎様、そこまででは無いよ」


 確かにマハヴィルは強い。流石老域の魔術師といったところだ。優秀な怪人を揃えた私の部隊をここまで追い詰めてしまった。

 だが、私はもっと強い連中と対峙してきた。ヒーローたちという、悪役にとっては最悪の脅威と。


「ここで負けたら、栄えある黒星たちが霞むんでね」


 流石にヒーロー以外に負けたくは無い。悪役としてのプライドに賭けて!






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