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「……ここがいかなる場所か、知っての狼藉か」




「……超常の技術で作られているのかどうなのか、イマイチ分かり辛いな」


 先程と同じような隊列で遺跡を進む。遺跡はコンクリートのような材質で作られていて、大勢で進んでいる所為で足音がうるさく反響する。

 通路の造形は……よく分からない。古い神殿っぽいと言われれば近いような気がするが、どこか日本的な雰囲気も感じる。古墳時代とか、飛鳥時代の。


「そういえば、どんな遺跡なんだ?」


 この古代遺跡が重要で作戦目標な事と、必要な機械の規格は予め聞いておいたがそれ以外の情報はほとんど知らなかった。

 私は隣のはやてに訊いてみるが、しかしはやても首を捻る。


「さぁ……シンカーは必要じゃないことは教えてくれないし、私も興味なかったから」

「そうか」


 他の怪人に訊いてみようにも、近くのダウナーは寡黙だしかといって饒舌なアッパーは戦闘員たちを挟んで後方だ。どうせ起動させれば分かる話だし、そこまで訊きたい訳じゃないな。


 どんどんと奥に進んで行く。

 途中魔術的な罠があったが、イチゴ怪人に引っかからせて事なきを得た。失っても痛手じゃないイチゴ怪人はこういう作業に向いている。捨て駒が向いているというのも変な話だが。

 進んで行くうちに構造が複雑になっていく。一本道の通路からホールや部屋に繋がっていたり、別れたりし始めた。その度に迷ったりする所為で時間がかかる。


「ホントは陣地にいる調査員にやらせたいんだが……」


 こういう調査は戦闘員や怪人にやらせるもんじゃない。調査的な技能を使えないから効率が悪い。しかし魔術師が潜んでいる遺跡に非戦闘員を連れてくる訳にもいかない。

 だが僥倖もある。はやての魔法がかなり助かった。


「……この先に、魔術師が三人隠れてる。多分隠し部屋がある」

「よし、ヘルガーと二班で強襲」


 言う通りに壁に隠し戸があり、そこを開くと魔術師が三人隠れていた。すかさずヘルガーたちが襲いかかって制圧する。洞窟の外まで運ぶのが面倒なので、気絶させて縛って転がしておく。

 はやてが使える魔法の中に、魔的な物の探知が出来る魔法があった。障壁や呪具に反応する魔法で、これで魔術師をレーダーのように探せる。魔術師を効率的に潰して回れるし、地図代わりにもなる。ありがたい魔法だった。

 魔法を使ったはやてによれば、一際大きな反応が奥の方にあるという。おそらくはそれが首魁だ。私たちは奥へ奥へと進んだ。




 やがて訪れたのは、広い空間だった。

 天井は高く、学校の体育館くらいあった。壁や天井には精緻な彫刻が彫られ、神や獣が躍動感溢れる姿で刻み込まれている。

 そして私たちが入った入口とは反対側に、祭壇と地球儀を合わせたかのような建造物が鎮座している。大きさは人の三倍くらいで、かなり巨大だ。その前に、ローブを着た人間が十人ほど固まっていた。

 ローブの集団の中でも威厳ある佇まいをした人物が口を開く。


「……ここがいかなる場所か、知っての狼藉か」


 しわがれているが、深みのある声だ。彼がこいつらの長……だろうか。

 私は彼の質問に答える。


「古代遺跡だろう? 超常の技術で作られた」


 少なくとも、バイドローンからはそう説明を受けていた。そんな私の答えに、老人は鼻を鳴らす。


「ふん、無理解者めが。所詮お前たちも神々を愚弄する現代文明の徒に過ぎん」


 老人は頭に被っていたフードを脱いだ。罅の入った禿頭と、皺が刻まれた目元、たくわえられ結われた髭が露わになった。深い藍色の瞳が私を睨みつけるように捉える。


「許せんな。無理解者が我々フォーマルハウトの崇高な使命を踏み躙らんとすることも……」


 目線が私から逸れ、隣のダウナーに向けられる。身に着けた紳士服を見て、その視線がより憎々しげに変わった。


「我らを蹂躙した病人共が邪魔をすることも!」


 老人が言葉と同時に手を振り上げる。すると後ろで控えていた魔術師たちは一斉にローブの中からそれぞれの得物を取り出す。ある者は先程も見た小瓶や呪具を握り、ある者は歪んだ剣のような武器を構えた。

 はやてが小さく警告する。


「気を付けて、どれも貴重な触媒か強力な呪具よ」


 やはり、ここに集結しているのが敵の最高戦力か。厄介なことで。

 老人が叫ぶ。


「フォーマルハウト元老であるこの儂、斑目マハヴィルが始末してくれる!!」


 老人――マハヴィルが魔術を使って手の平に灰色の光を生み出し、それを三つに分けてこちらに発射した。一発は手前に、一発は前衛のヘルガーが弾いて、一発ははやての障壁に当たって砕けた。

 それを皮切りに魔術師は続々と魔術を発動する。勿論こちらとて黙っているだけでは無い。


「応戦する! 一斉射撃!」


 私の掛け声と共に戦闘員が銃を構え、魔術師たちへ発砲する。少し遠いがこのくらいの距離なら数撃てば当たる。しかしやはりというべきか、銃弾は障壁に防がれ届かなかった。


「チッ、流石に出来がいいな」


 洞窟で戦った魔術師たちよりも障壁が堅い。戦闘員の火力では貫けないな。

 だが、これだけ広い空間なら多少暴れても問題ないだろう。


「アッパー! 出番だ! 存分に暴れろ!!」

「ヒャッハー!! ようやっとまともに戦えるぜバイオレンス!!」


 後ろから赤い影が翼を広げて飛び出す。皮膜の翼がはためき、アッパーは魔術目掛けて飛翔する。

 迎撃する為の火矢の魔術がアッパーの顔面に直撃するが、まるでそれが涼風のようにアッパーはそのまま突き進んだ。


「やらせん!」

「ケダモノめが!」


 魔術師が二人程前に出て魔法盾を展開する。円形の魔法陣が広がってアッパーとの間の壁になるが……。


「オォォォォバアァァァァァァ!!!」


 衝突。そして破壊。


「ぐあっ!!」

「うぎゃっ!!」


 急降下した巨体にあっさりと魔法盾は砕け散った。術者である二人は天高く吹っ飛ばされる。荒っぽい着地を果たしたアッパーはその場で腕を振るって更に一人殴りつけた。


「ぐげっ!!」

「オラオラァ! こんなものかオーバー!!」


 勿論魔術師とてただ蹂躙されるだけでは無い。火や光、様々な魔術をぶつけてアッパーを止めようと試みている。

 しかし、その筋肉の塊のような巨体を前に全ての魔術は弾かれていた。魔術への耐性がある感じじゃない。単純に丈夫過ぎて効いていないんだ。なんて筋肉だ。


「俺を止められる奴はいないぜドンストップ!!」


 よし、相手がアッパーの対処に追われているうちに近づいて制圧を……。


「……慮外者共めらが」


 マハヴィルが呟く。目の前に暴虐の嵐があるにも関わらず、その声音はいらついてはいるが落ち着いている。周りの魔術師たちとは大違いだ。

 その余裕がなんのなのか。見極めようと私が突撃の指示を途中で止めると同時にそれは起こった。

 何の前触れもなく、マハヴィルの瞳から藍色の光が発せられたのだ。


「なんだ!?」

「エリザっ!」


 咄嗟にはやてが光から私を隠すよう庇った。陰になった私に光は届かない。

 やがて、部屋全体を照らす程の光は収まって消えた。

 ……何だったんだ? 攻撃では無さそうだけど……。


「今のは一体……はやてちゃん、大丈夫?」


 肩に手を掛け揺さぶる。ただの目暗ましなら何も問題ない筈だ。

 しかしはやての返答は無く、その代わり彼女は荒い息を吐いて膝をついた。


「はやてちゃん!?」

「はぁ……はぁ……これ……」


 息も絶え絶えな様子だ。全力疾走の後か、もしくは熱病に浮かされているかのように顔が赤くなって汗が噴き出ている。

 そしてはやてに続くように、周囲のみんなも同じ症状に襲われた。ばたばたと倒れ伏す。

 ヘルガーは何とか堪えてふらつくだけで済んだが明らかに消耗している。ダウナーは座り込んでしまった。特に酷いのが戦闘員たちで、ほとんどが気絶してしまっている。

 ほぼ全滅だ。


「何だこれは……!?」

「い、いきなり力が、ごっそり抜けて……はぁ、うぅ」


 苦しそうにはやてが呻く。体力を引き抜く魔術? いや、詠唱は無かった筈だ。

 残った戦力は私と辛うじてヘルガーだけか? いやそうだ!


「アッパー!」


 最前線で戦っていたアッパーの存在を思い出し顔を上げた。そしてアッパーもまた、同じ症状に苛まれているのを目撃した。


「ぐっ……これは、か、かなりクるぜタイヤード……」


 アッパーも倒れ、起き上がれない様子だ。

 動けるのは私だけ。どうしてか問うまでもない。あの光の所為だ!! あの光を浴びた存在は消耗するんだ!!


「ふん……他愛もない」


 私たちの惨状を前にマハヴィルは満足そうに瞼を撫でた。もしかして、あの眼……。


「まさか……邪眼か」

「ほう、流石に分かるか」


 間違いない、百合と同じように、瞳に特殊能力が秘められているんだ。


「そういうのって、目を合わせるのが発動条件なんじゃないの?」

「改良したのだよ。元の所有者から抉り取り、三年かけて改造を施し、そして移植したのだ。くくく……コストはかかったがその甲斐は十分にある」


 得意げにマハヴィルが語る。くそっ、百合と同じような能力ってだけで勘弁願いたいのに、その改良版と来た。複数人に掛けられる邪眼、その威力はご覧の有り様だ。


「高い買い物は後で後悔するよ!」

「ならさせてみろ!」


 マハヴィルが再び手を翳し灰色の光を放った!






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