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「んー……味噌ラーメンを一つ」




「へーい。君たちが新しく参加するバイオ怪人かい?」


 休日の昼下がりのある日。私は街中の地下駐車場で次の作戦から参加するバイドローンのバイオ怪人と初顔合わせをした。

 構成員で封鎖した駐車場内で偽装トラックから降りてきた二人を迎える。


「ヒーハー!! そうだぜお嬢ちゃぁん!! 俺たちが愉快で素敵なバイオ怪人二人組さオーバー!!!」

「………」


 これは……なんとも対照的な二人だ。それは姿形にも表れていた。

 ハイテンションな方は赤いたてがみのような髪と蝙蝠の翼を持った大柄な男だった。蠍のような巨大な尻尾も付いている。顔こそは人間の物だが、古代神話のマンティコアを思わせる容貌だ。

 一方でダンマリの方は中肉中背でシルエットは普通の人間と変わらない。しかし赤い男とは反対に顔だけが人間と違っている。青い瞳を八つ(・・)湛えた、蜘蛛とよく似たおぞましい面構えだった。

 二人ともそれぞれ赤と青のシンカーとよく似た紳士服を着ている。恐らくこの服がバイドローンの幹部に与えられる衣装なのだろう。


「私は聞いているだろうがエリザベート・ブリッツ。君たちの名前は?」

「アッパーだぜオーバー!! 仲良くしようぜブラザー! いやシスター!? どっちでもいいかオーバー!!!」

「……ダウナー」


 名は体を表すと言うべきか、分かりやすい名前だった。赤い大柄がアッパー。青い蜘蛛面がダウナー。


「それで、どんなことが出来るんだい?」


 シンカーはスライム状に溶かした怪人を潜ませ、好きに召喚する事が出来る能力の持ち主だ。とても強力な能力。そして予め聞いた話だと二人はシンカーと同格だと言う。この二人もそれに匹敵する力の持ち主だと考えていいだろう。


「俺は見ての通りだぜオーバー!! 飛べるぜスカイ! 毒あるぜポイズン! 後は怪力だぜオーバー!!! ついでに顎も強いぜオーバー!!!」


 ギラリと太く鋭い牙を剥き出しにして笑うアッパー。表情が豊かだなぁ……。

 アッパーは見た目通りの動物的特徴を兼ね備えた怪人らしい。特殊な能力は無くてもスペックが高い正統派の怪人だな。


 一方のダウナーは顔が蜘蛛な以外は普通の人間に見える。背丈も高くない。


「ダウナー殿は、どんな能力なんだ?」


 そう聞いてみると、ダウナーは鋏のような顎を開いて、


「……面倒くさい」


 と溜息交じりに呟いた。

 ほ、ホントに対照的な二人だな……! おしゃべりでハイテンションなうるさいアッパーと、どこまでもローテンションで寡黙なダウナー。この二人ってコンビなのか? 狙ってないでこの真逆具合だと奇跡だぞ……。


「ガッハハ!! そう言わずにダウナー!! 実践すればいいじゃないか話が早いぜオーバー!!!」

「実践?」


 アッパーの言葉に私は首を傾げるが、ダウナーはそれでやる気になったのか複眼を私に合わせて口を開いた。

 そして一言呟く。


「……【動くな】」

「ッ!!」


 その言葉を聞いた瞬間、私の体に異変が起こる。

 動かないのだ。口も開けず、指一本自由にならない。

 まるで針金で雁字搦めにされたようだ。縛られて動けないといった感触。

 ……と思ったら義手の左腕は動いた。ガシュガシュと握ったり開いたりする様子を見てアッパーが目を丸くする。


「ほお!! エリザベート女史は機械の腕をお持ちのようで!! 流石かつては機械化怪人で名を馳せたというローゼンクロイツだぜオーバー!!!」


 三十秒ほど経って、拘束が急に消えた。今のは一体?


「……説明」

「――が、面倒くさいようだから俺がするぜティーチャー! ダウナーの発した言葉を聞いた奴は動けなくなっちまうんだチェインド!!」

「……言う事を聞かせる能力か?」


 相手に無条件で言う事を聞かせてしまう能力。もしそうならかなり強い。

 しかしアッパーは首を横に振った。


「そこまで便利じゃないぜオーバー! 拘束! 命令できるのはそれだけだオンリー!」

「ふむ……」


 実質百合の停止の魔眼と似たような能力らしい。あちらは完全停止が可能で目を合わせる必要があるが、こちらは声を聞かせるだけで発動できるらしい。その分、隙があるようだが。


「縛られて動けないという感覚だったな。それに左腕が動かせたのは?」

「意識を失わせることは出来ないんだぜオーバー! 外側から拘束するってだけで、実はある程度のパワーで抜け出せちまうんだブレイク! それから機械には通用しないんだぜメカニック!」

「だからか……」


 結構制限があるようだ。しかし強力なのは確かな能力。

 効果時間は三十秒……いや、今のがお試しと考えるともっと長いか。


「成程、二人とも使えそうな怪人であることは分かった」


 今能力を見せてもらったダウナーは勿論、アッパーも見た目で十分強力なことが理解できる。腕の筋肉など服の上から分かるくらい隆々としていて、下手すれば私の機械の腕でも敵わないかもしれない。

 実力的に私より格上の怪人だ。それを言ったら、大抵の怪人がそうだが……。


「頼りにしている。シンカー殿共々よろしく頼むぞ」

「お任せあれだぜオーバー!!! 盾突く奴はガンガンブッ潰してやるぜデストロイ!!!」

「………」


 ホントに対照的な二人だなぁ!





 ◇ ◇ ◇





 シルヴァーエクスプレス襲撃作戦、及びその祝勝会から数日後。私たちは次の作戦への準備に追われていた。

 次の作戦にはかなりの準備が必要だ。ローゼンクロイツもバイドローンも、重装備を用意することになる。ヒーローやユナイト・ガードに捕捉されないようなるべく早くに作戦を決行する必要がある為、私は各所を駆けまわっていた。今回の顔合わせも、その一環。


 二人の怪人といくつかの事項について話し合った後、私は駐車場を後にして歩道を歩いていた。

 格好は目立たないよう、シンプルな若者らしいパーカーだ。……竜兄の着ていた物に少し似ているのは血縁由縁の似通ったセンスだろうか。


「忙しい……次は湾口で取引か……」


 顔合わせの次は湾口部の倉庫にて海外マフィアとの取引だ。作戦に必要な機材を作る為の部材が日本でも手に入らずローゼンクロイツ内部で作ることも出来ないから、海外から買い寄せるしか無かったのだ。


「若干怖いな……」


 別にマフィアと会うのは初めてではない。中高生の時にちょっとしたバイトに関わって会話を交わしたことはある。兄貴にばれた際に散々追いかけ回されたけど……。

 怖いのは、今私の護衛が誰一人いない所為だ。


「構成員は金の準備が必要だから仕方ないんだけど……」


 駐車場を見張らせていた構成員はバイドローンの二人と解散後、そのまま取引用の金を取りに行かせた。全員でだ。あまり人数もいなかったし仮にも現金を輸送するので私の護衛に人員を割けなかったのだ。

 それでも普通ならヘルガーがいるのだが。


「多忙が祟る……」


 ヘルガーは別の案件で私の名代として働いてもらっていた。手が足りないので、狼の手も借りる。今は本部でヒーコラ言ってる筈だ。それにパーティーの時は平然と立っていたが、まだジャンシアヌと戦った時のダメージが癒えていない。私は手加減されていたがヘルガーはそうではないからね、結構容赦なくボコボコにされて外傷より内部にダメージが蓄積していた。しばらく荒事は慎まなければ、次の作戦に間に合わない。だから置いてきた。

 なので、今は一人きりだ。


「単独行動はもうこりごりなんだが」


 廃工場でのトラウマが思い返される。あの時も私一人。イチゴ怪人を大量に引き連れて、構成員も離れたところに待機させていたが、どちらも物の役に立たなかった。なので実質単独だ。

 あの時はバイドローンに助けられたが、今度も同じとは限らない。


「……お」


 そんな感じで憂鬱と歩道を歩いていたのだが、ふと目を向けるとラーメン屋があった。

 丁度いい、昼食にするか。抜くと百合がうるさいし……。


 暖簾をくぐり、ガラガラと戸を開き店の中に入ると、古ぼけた店内が目に入る。私の他に客は無く、閑散としている。カウンターの向こうの厨房に厳つい顔をした老齢の店主が一人だけいる。

 この店大丈夫かと少し不安になったが、味などに拘りの無い私はそのままカウンター席に座った。

 壁にかけられたメニューの木札から一つ選んで注文する。


「んー……味噌ラーメンを一つ」

「……あいよ」


 無愛想に注文を受け取った店主は鍋の前に立ち黙々とラーメンを作り始めた。

 しばらく時間がかかりそうなので、ぐつぐつと鍋が煮立つ音を聞きながら携帯端末を眺め明日以降の予定を確認する。

 明日は湾口で手に入れた物資を装備部門に届けないとか……ついでに何か作ってもらうかな。もしくは改造室に寄るか……。


 そんな風にしていると、入口の扉がガラガラと勢い良く開かれる音が聞こえた。

 同時に元気な子どもの声も耳に入る。


「こんちわー! おっちゃんいるー?」

「ぷっはー! 走って来たからあっついねー」

「はぁ……はぁ……なんで意味なく走るんだよ……」


 小学生くらいの子どもたちの声だ。三人いるっぽい。

 まぁ、休日だし子どもが来ることもあるか……。そう考えて私は端末から顔を上げずにそのまま聞き流した。


「ドクトルがおっそい所為でしょー?」

「お前は僕の作ったシューズを履いているだろう! 雷太も何か言ってやってよ!」

「まぁまぁ……とにかくおっちゃんのラーメン食べようよ、ゐつも」


 ……ん? ドクトル? 雷太? ゐつ?

 聞き覚えのある単語に顔を上げると、三人の少年少女とばっちり目があってしまう。

 元気そうな少年、眼鏡をかけた少年、動きやすそうな服装の少女……。

 向こうも、私の薄紫の瞳を見て気がついたようだ。


「「「「……あ」」」」


 こ、この子ら……!


「ビートショットの協力者たち!」

「ローゼンクロイツの女幹部!」


 えぇ!? 何でこんなところで!?






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