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「私だってそろそろヒーローに勝ちたいしね!」




 体重を軽くされている筈なのに、その一歩一歩には重圧を感じた。


「来る、な!」


 はやてが魔法弾で迎撃を試みるが、円盾で軽くいなされてしまった。私の銃弾? 顔面に当たっても弾かれているよ。


「くっ、防御力の高い形態って訳か……」


 スピードの速い青紫、物量の蔦とも違う、単純明快な強さを誇る姿。搦め手、罠、全てを上から踏み潰して進む為の、力強さを備えた形態。それがあのピンクのタリスマン、竜兄曰くライラックフォームらしい。

 そしてそれは搦め手が主体のこちらにとっては天敵に近い力だ。


「オォッ!!」


 迎撃に手間取っているウチに、どうやら射程圏内に入ってしまったようだ。長大なランスは、どうやらリーチも長いらしい。

 振り上げた槍が、私たちへ迫る。


「ぬわぁっ!!」

「くっ!」


 大槍の一撃を、私たちは何とか躱す。はやては空に逃れ、私は必死に後ずさって避けた。

 一瞬先に私の身体があった場所に、槍が突きたてられる。鋭い先端は容易く鉄の屋根を突き破り、籠められていた衝撃で周囲がへこみクレーターが出来た。うっそぉ。


「火薬無しの、余波だけでへこませるって、どんだけ馬鹿力なのさ!」

「軽いジャブだが?」

「ジャブどころかデコピンで死ぬって!」


 紫電を放って苦し紛れの牽制を試みるが、あっさりと鎧で四散した。そもそも左腕を失って出力ダウンしてた……。


「軽いな! 静電気か!」

「それでも常人相手なら感電死する電撃なんだぞ!」


 これだからヒーローは! これだからもう!


「そらっ、そらっ!」

「うおっ、ひぃ!」


 暖炉に火かき棒を突っ込むような気軽さで槍をひょいひょい突く竜兄。青紫のレイピアのように神速の突きという訳ではない。しかし一発一発の重みがやばい! 多分イチゴ怪人三人くらいが一撃で吹き飛ぶ。


「エリザベート!」


 上空からはやてが槍をインターセプトする。その手には魔法で作られた光るハープーンが握られている。魔法で生み出した即席の武器。

 普通の武器相手なら弾くどころか折り砕くことも可能な魔法武器だが、ジャンシアヌの膂力と硬質な槍に押し負けてしまった。


「きゃっ!」


 弾かれてくるくる飛んでくるはやてを、私は体で受け止めた。


「ちょ、大丈夫か!」

「う、うん……」


 ちょっと顔を赤らめたはやてが返事を返す。ダメージは無いか。一先ずは安心。

 しかし、竜兄からすれば二人が纏まったチャンス他ならなかった。


「……決める!」


 桃色のタリスマンを取り外し、盾槍に着け変える。タリスマンを装着した槍は、淡く輝き始めた。

 直感的に危険を感じ取る。武器へのエネルギー集中! それは私の必殺技とよく似ている……!


「放蕩娘め! 一旦落っこちて反省しろ!」


 メガブラストだ! 強力なエネルギーの奔流は、屋根の上から私を吹き飛ばすのに不足ない。私を列車から叩き落としてその後仕切り直すつもりか。

 そして、この屋根の上では避けようが無い!


「くっ――」


 どうする? 喰らったら大ダメージ。竜兄は分からないだろうけど、腕一本失って出力がダウンした私じゃシールドもスラスターも出力低下している。受けるのも、吹き飛んで着陸するのも危険が伴う。

 せめて、腕に抱えたはやてだけでも放り投げて逃がすべきか。


「はやてちゃ……」

「……大丈夫」


 ポツリとはやてが呟く。

 何が、と問い返そうとする前に彼女は腕を前に突き出し、手の平から円形の魔法陣を展開した。


「私が――」


 稲穂色の魔法陣が広がり、私たちと竜兄を遮るように広がった。これは……盾か? 防御の魔法でメガブラストを防ぐつもりか?


「――守る、から!」


 魔法盾がその形を確かなものとすると同時に、ピンクの光が眩い輝きを放った。

 色付きの竜巻を纏い始めた槍を構え、竜兄が叫ぶ。


「ライラック・メガブラスト!!」


 放たれたのは、桃色の花弁を孕んだ色の付いた竜巻だった。その見た目の華麗さとは真逆に、呑み込んだ物全てを引き裂く力を持った、正真正銘の災害。

 受けたのは、魔法少女の盾。稲穂色に輝く光は、真正面から竜巻を受け止めた。


 一瞬、弾いた。

 しかし怒涛のように迫る竜巻は、盾を襲い続ける。


「ぐっ……」


 はやてが苦悶の声を漏らす。それと同時に、魔法の盾が罅割れた。


「う、あぁ!」


 振り絞るような必死の声音。見るからに、長くは持たないと知れる。

 このままでは、魔力を使い果たしてしまうかもしれない。魔法少女は感情を糧に魔力は無制限に引き出せるが、一度に使い過ぎれば一時的に枯渇してしまうこともある。そしてここで変身が解けたら、暴風吹き荒れる中に生身が晒されることになってしまう。そうなれば、命は無い。


「無理か」

「! だい、じょうぶ!」


 はやての声に、恐怖が混じる。


「役に、役に立つから――!」


 まるで捨てられることを恐れているかのような声。いや実際そうなのかもしれない。バイドローンでの使役は、そういった価値観を植え付けたとしてもおかしくはない。

 可哀想だとは思う。でも私は彼女を元の安穏とした生活に戻せるほどの力を持ってはいないし、むしろ利用する側だ。はやての恐怖を祓う方法は無い。結局はバイドローンと同じ穴の狢。

 だからこそ、私は彼女の肩にそっと手を置いた。


「君だけが頑張る必要は無い」

「え――」


 私はヒーローでは無いし、もう彼女も違うだろう。

 だからと言って、心を通わせた人間を見捨てるほど腐っている訳でもない!


「あむっ!」


 千切れた義手からケーブルを引っ張り出し、口に咥えた。私は自分の機能――第三の改造、代替の能力を引き出す。私の血管や神経をエネルギーパイプに置き換え、義手の発電機関が再びリンクする。


「んんぐっ!」


 体にビリビリと電流が流れるのを感じる。神経に直に流している所為で特に痛いし気持ち悪い。だがこれで私は発電機関をフルで使えるようになった。

 奥歯でケーブルを噛み締めながら、私は叫んだ。


「シールド!!」


 コマンドワードに反応し、電磁のバリアが発生する。紫電の膜は私たちを追おうドーム状で発生したが、私はそれを弄って形を変える。

 電磁バリアは魔法陣に纏わりつき、まるで支えるような姿になった。


「これ、は」

「魔法陣の形だけを維持して。不足分は私が補うから、余計な魔力を籠める必要は無い」

「なんで、私がやればいいのに」

「共同作戦だ。最後まで、もご、一緒に頑張るのが筋だろう」


 ケーブルを咥えながらの所為で若干不格好に決めた。

 あ、そういえば私もはやてだけ投げて逃がそうとしてたじゃん。

 ……まぁ、言わなきゃ大丈夫!


 そう、それにそもそも。


「私だってそろそろヒーローに勝ちたいしね!」


 私は発電機関の出力を徐々に上げていく。

 もう屋根から落ちた時のことを考えて温存なんて言ってられない。全力全開だ!


 真正面から衝突しあうピンクの竜巻と、紫電が混ざった稲穂色の魔法陣。

 割れていく魔法陣を紫電が支え、その形を保たせる。


「ぐぐぐ、ぐ」


 出力を上げる度に私の神経を苛む痛みは増していく。だが同胞の命を守る為なら多少の痛みは堪えて見せようじゃないか!


「む、ぐぐ、がぁーっ!!」

「くっ、まさかッ!」


 気合を入れる私の叫びと、驚愕する竜兄の声。

 そして遂に、魔法陣が砕けた。


「まさか……メガブラストを……」


 桃色の竜巻は、既に晴れていた。屋根の上を吹きつける風に、残された花弁が散っていく。ズタズタに引き裂かれた鉄の屋根がその破壊力を物語っている。

 その中で、私たちは――なんとか、健在だった。


「はぁ、はぁ……ほら、一矢報いられた」

「う、うん……」


 疲労困憊の私と、少し困惑気味のはやて。

 だが、無傷だ。


「耐えきっただと!」


 竜兄の驚愕の声が聞える。

 実の兄とはいえ、ヒーローの鼻をあかせたのは嬉しい。

 けど、まだここからだ。


「カウンターアタックは終わらないっ!!」


 疲労した体に鞭を打ち立ち上がらせる。

 傷口から未だ血を流す太股。だけど補助器具のおかげでまだ動く。まだ戦える。

 筋力強化を受けて酷使した右腕が内出血する。でもベイオネットはまだ持てる。まだ戦える!


「はぁああああぁっ!!」


 ケーブルを口から吐き出し、一直線に竜兄に向かって走り出す。どうせ残りの電力は空っぽだ。だったらもう左腕はどうでもいい!


「くっ、まだやるか!」


 闘志を失わない私を目にした竜兄は、迎撃の構えをとる。

 私は叫ぶ。竜兄に向けてでは無い。背後でまだぽけっとしているはやてに向けてだ。


「はやてちゃん! 一番得意な魔法を、下に向けて使って(・・・・・・・・)!!」

「えっ……」

「早くっ!!」


 困惑した声を返すはやてだが、命令は聞いてくれたようだ。変化はすぐに表れる。

 ガタン、と足元が大きく揺れた。


「!? これは……!?」


 レールの段差に乗り上げた揺れでは無い。もっと大きな、もしくは致命的な揺れ。

 私の背後ではやてが魔法を使うのを目撃した竜兄が察する。


「まさか、軽くする魔法を」

「そう、使ったのさ、この車両(・・・・)にね!」


 軽く出来る上限は分からない。

 しかし、超重量であるビートショットを羽根の如く軽く出来たのだ。列車だって、出来ないとは限らない。

 結果的には、可能だったようだ。前方と後方の車両には適応できていない所為で脱線とまではいかない。それでも浮かぶほどに軽くなってしまった車両は安定を大きく崩した。


 足元が大きく揺れる。

 竜兄は棘をスパイク代わりにして足元を保っていた。しかし元々体重を軽くされているのもあり、その体勢は大きく崩れ最早まともに保てない。


 一方の私も、発電出来ない所為で足裏の電磁石さえ使えない。揺れの一つ一つが私を投げ出しにかかってくる。でも私はベイオネットの重さと不断の決意で竜兄に向かって真っ直ぐ駆けだした。


「来たっ、至近距離!」

「くッ!」


 お互いの距離が得物のリーチになる。しかし体勢を直せない竜兄の槍先は宙を泳いだままだ。

 私の槍が、先に届く!


「だが、銃弾は効かん! 槍も、軽く傷付くだけだ!」


 確かにそうだ。銃弾は全然通じなかった。槍の穂先だって、青紫の形態の時でさえ軽い傷をつけるだけだった。

 だけど、ローゼンクロイツの技術力は竜兄の予想を上回る!


「セット!」


 私のコマンドワードに反応し、ベイオネットの機構が作動する。色々仕組んだベイオネットの、最後の大仕掛けだ。

 ベイオネットを、無防備になった竜兄の胸鎧目掛け突き刺す。お互いの予想通り、槍は葉っぱを模した鎧に受け止められ、深くは刺さらない。

 でも、竜兄の予想通りなのはここまでだ。

 私は引き金を引いた。


「バンカー!!」


 槍が、射出された。

 最後の、機構。Iランサーを撃ち出す、パイルバンカー!!


「がッ!?」


 濁った白色の槍は機械の力で押し出され、ジャンシアヌの鎧を深く貫いた。それでも人体を貫くまでは至らない。しかし、決死に踏ん張っていた竜兄を吹き飛ばすには十分な力だ。


「ぬぁ……ッ!」


 列車の上から飛ばされ、宙に投げ出される竜兄。胸以外の鎧は健在。地面に叩きつけられてもまず死にはしないだろう。

 蒸気を上げ冷却するベイオネットを屋根に突き刺して落ちそうな自分を支えた私は、竜兄にウィンクした。

 喧嘩していた、あの日のように。


「アデュー☆ 今日は私の勝ちだね!」

「おま……おぼえてろよぉ……ッ!」


 そんな悪役みたいな捨て台詞を吐いて、竜兄の姿は遠く消えていった。

 ガタン、と魔法が解けて車両が元に戻る。

 一瞬の静寂の後、私は息を整えて後ろに振り返り、はやてに向けてにこりと笑った。


「……貴女のおかげで大勝利だよ、はやてちゃん」


 この日、私は初めてヒーロー相手に明確な勝利を収めたのだった。






 数日後、占領され姿を消したシルヴァーエクスプレスが分解された姿で見つかる。

 積み荷はもちろんもぬけの殻で、果てには装甲板や備え付けた機関銃すらも解体され影も形も無かった。

 辛うじて残されていたのはフレームや車輪。そして乗員やユナイト・ガードが拘束され眠らされた姿で転がされていただけであった。






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