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「その手を放しなさい!」




「大人しく、捕まっておけ!」


 竜兄が一気に距離を詰めてくる。動けなくなった私を仕留め――もとい、確保するつもりだ。

 だがお生憎、竜兄がジャンシアヌの力を手に入れたように私も相応の力を手にしている。

 屋根の上から滑り落ちないよう気をつけてステップを踏んで躱す。


「動くッ!?」


 足を傷つけたことによって私の動きを封じたと思ったのだろう? だが私の足は装備部門謹製の補助器具で動かしている。足が多少傷つけられても外部動力で動かす事が可能だ。……痛いには、痛いが。

 そして出来た隙に切り込むっ!!


「はぁっ!!」

「ぐっ!」


 ベイオネットの穂先が、ジャンシアヌの鎧の胸を突く。刃は葉っぱのような鎧に僅かな切れ込みを入れ、その切れ味を証明した。

 よし、劣化コピーとはいえユニコルオンの武器だ。腐っても鯛というべきか? コイツなら例えヒーローの装甲であってもダメージを与えられる!


「ちっ!」


 追撃を躱す為の竜兄の切り払いを一歩下がって避ける。連撃を許す程優しくは無いが、それでも初めての有効打だ。


「……流石に、ただの機械ではないか」


 竜兄が自分に入れられた切れ込みに感嘆の声を上げる。尋常の鉄の刃であったなら、おそらく弾かれていただろう。葉っぱのように見えて、硬さとしなやかさを備えているようだ。ヒーローの装具って奴はどいつもこいつもそんなもんだ。

 だが本物から一段……二段……さ、三段くらい劣るとはいえヒーローの武器のデッドコピーだ。鈍らでは無い。

 微かに見えた突破口に、私の心の内に光が差す。


「喰らい過ぎると不味い、が……」


 が、光が差したのはほんの一瞬だった。

 竜兄が手で鎧の切れ込みをすっ、と撫でる。すると傷がいとも簡単に消えてしまっていた。

 まるで何もなかったかのように緑色の胸鎧が陽光を浴びて煌めいている。


「ちょ……自己再生?」

「植物だからな。太陽と水さえあれば傷を癒すぐらいは出来るさ。俺の場合は水は無くてもいい」


 だからってそんな……一瞬で再生出来るほどの治癒能力だなんて。

 ようやっと5のダメージを与えたと思ったら、毎ターン100回復出来る能力が明らかになった気分だ。心が折れそう。


「隙ありだ」

「あっ、しまった!」


 がっくりきたところを狙われてしまった。青紫のフォーム特有のスピードを生かし、背後へと回られる。抵抗しようとベイオネットを構えるが、パシンと手刀で叩き落とされた。

 竜兄は無防備となった私の腕をねじり上げ拘束した。


「いっ、ででで!!」

「大人しくしておけ」


 くそぅ、なんて力だ。振り解けない。

 抵抗しようにもベイオネットは足元だ。重量があるから風で吹き飛ばされ屋根から落ちるようなことはないけれど、このままでは拾えない。

 無理やり脱しようにも……。


「変な動きすれば折れるぞ」

「分かってるよ……」


 腕はがっちり極められていて、少し力を入れただけで折れてしまうのが実感できる。仮に腕を犠牲に脱出したところで、攻撃手段を失ってしまえば詰みだ。

 身動きできない。仕方ないので、私は竜兄に話しかけた。


「ねぇ竜兄。ヒーロー楽しい?」

「……楽しくはないな。だがやりがいはある」

「竜兄はそうだよねぇ……」


 昔から正義感は強かったから。戦いは辛いことがあるだろうがそれでも正義を体現しようとするだろう。

 まぁ、止めはしない。百合と違って竜兄は敵には容赦しないし、頭も回る。そんじょそこらの怪人に負けるタマだとは思わない。

 だけど私も止まる訳にはいかない。




 どうしたものか。そう思った瞬間、竜兄の鎧の表面で光が爆ぜた。


「ぐっ!?」


 突然の衝撃に怯んだ竜兄。

 どこから? そう思って空を見上げるとそこにいたのは先に逃がした筈の、翼を生やした少女。

 堕ちた魔法少女、ウィンド†はやての姿があった。


「その手を放しなさい!」


 宙に浮かんだはやてが魔法弾を手中に作り、竜兄に向けて放つ。私を拘束している竜兄は避けることも出来ずそのまま受ける。


「ちっ……」


 しかしジャンシアヌの鎧へのダメージは薄い。電撃だけではなく魔法への耐性も備わっているのかもしれない。そう言えば精霊から預かった鎧だったっけ。

 だが目暗ましにはなる。


「竜兄、言ってなかったけど」

「後にしろ!」

「私の腕一本、もう無いんだよね」

「……何?」


 掴まれていた左腕(・・)捻って、竜兄の拘束から無理やり抜け出す。


「なぁっ!?」


 メキャァ! とすごい音がして義手が破損し脱落するが、私は脱出に成功した。


「はっはー!」


 フレームが砕け、ケーブルの千切れて完全に取れてしまった左腕を一応回収し、竜兄の元を離れる。


「おま、その腕、くそっ!」


 逃げた私を追おうにも、魔法弾が飛来してその場に釘付けにされる。ついでにベイオネットも引き摺って私は竜兄から距離を離した。

 そんな私の隣にはやてが着地する。


「……無事? ……ではないようだけど」

「今までと比べれば無事の部類さ」


 ビートショットとかユニコルオンとか廃工場とか。まぁ現時点で被害総額と報告書の枚数はとんでもないことになっているけど。

 それより。


「……なんで戻って来たんだ? そのまま離脱しても問題は無かっただろうに」


 シンカーの計画なら、私がいなくてもヘルガーがいれば実行可能の筈だ。無論ヘルガーは困るだろうから、来るとすればヘルガーが無理やり来る可能性は想定していた。

 だけどはやてが戻ってくるのは想定外。


「……駄目だった?」


 しゅんとして上目遣いで私を見つめるはやて。

 うっ、止めてくれそんな叱られる子犬みたいな目。


「駄目、ではないけど……」


 しかしはやてが駆けつけてくれる理由が無い。バイドローンが私を助けるメリットはあったかな……?

 まぁ、助けに来てくれたことは素直に嬉しい。ここは普通に喜んでおくか。


「ありがとね、はやてちゃん」


 無事な方の右手で、金色の髪を優しく撫でる。

 撫でられたはやては恥ずかしげに顔を赤らめて、ぷいと顔を逸らした。


「別に……飛べたから来ただけだし……」


 うーん、かわいい。

 やっぱ自分より幼い系が私の好みなのかなぁ。むっちゃ抱きしめたい。


 そんな私たちから少し離れたところで竜兄は頭を抱えていた。


「……えぇー……手ぇ無いって……えぇー……」


 私の腕が既に無いことにすごいショックを受けていた。いやそりゃそうか。久しぶりに会った身内が四肢欠損していたら誰だって驚く。ましてやそれが妹では……。


「お前……全部義肢だったりしないだろうな……」

「まぁ、今のところ腕だけだよ」


 ……足も動かないことは黙っておこう。どうなるか怖い。


「……過ぎたことは仕方ない。これ以上どっか失くす前に連れ帰る」


 ショックから立ち直った竜兄が決意を新たに呟く。

 しかしそれをされちゃ困る。


「形勢は逆転したんじゃないか? 竜兄」

「いや、お前は片方の手を失っただろう。それに義手のパワーでその巨大武器を構えていたのならもう持てない筈だ」


 おぉ、流石は我が兄。ショックを受けつつも状況は正確に把握している。

 確かにベイオネットは機械の義手である左腕を中心にして構えなければ照準を合わせることでさえ困難なだ。見立ては正しい。

 しかし今私の隣にいるのは魔法少女なんだよなぁ。


「はやてちゃん、筋力強化をくれ」

「うん……力よ」


 私の言葉にはやてが右手に触れると、魔法陣を出現した。魔法陣はくるくると回って私に腕に吸い込まれ、腕全体が淡い光に輝いた。

 力がみなぎるのを感じる。試しに引き摺っていたベイオネットを持ち上げてみたら、軽々掲げられた。


「おぉ、これが」

「……長くは持たないし、やり過ぎると筋肉と血管が悲鳴を上げるから気をつけて」

「十分だ」


 魔法少女の本分はその万能さだ。得意不得意はあれどなんでもできる!


「面倒な……!」

「第二ラウンドといこうかぁ!」


 そう叫んで、私は構え直した銃口を竜兄に向け発砲する。

 銃弾は容易く避けられるが、その隙にはやてが竜兄に向けて空を飛び接近した。

 吹きすさぶ風の中で自由に飛べるのは、防壁がある魔法少女であり、翼を持つ怪人であるはやてだけのアドバンテージだ。

 既に回避行動をとって躱せない竜兄の肩口に、はやての手がそっと触れた。物を軽くする魔法が直ちに発動する。こんな場所で宙を舞ったら、どうなるかなんて簡単に想像できる。

 しかし、そう易々と決着を着けさせてはくれなかった。


「ぬぅん!!」


 足に力を込めて浮きそうになる体を繋ぎ止める。屋根の上から滑り落ちないように出していた棘のスパイクだ。おかげで魔法はかかったのに竜兄の身体は浮き上がらない。

 だけど体幹がずれてバランスを崩した竜兄へ、魔法弾とベイオネットの銃弾が襲来する。


「どうだ!」


 足場の固定を一瞬でも剥がせない以上、避けることは不可能! これで終わりだ!


 勝利を確信した瞬間、竜兄はホルダーより新たなタリスマンを取り出した。

 青紫でも、薄緑でもない。その色は、桃色。


「まだ、力が……!」

「ライラックフォーム!!」


 バックルのタリスマンが入れ換えられて、ジャンシアヌの鎧の花弁の色が変わる。青紫から桃色――否、ピンクに近いライラック色へ。

 同時に出現したのは、馬上槍、俗に言うランス。蕾をそのまま引き伸ばしたかのようなピンクの槍は、竜兄の身長程の長さがある。

 そして普通の槍とは更に違うことに、咲き誇った花を模った円形の盾が横に括りつけられていた。そちらも巨大で、高めな竜兄の身長の半分を覆える大きさだ。

 ランスとシールドの、複合武器。


「はぁッ!!」


 槍を縦に、盾を前に構え、銃弾と魔法弾を全て受け止めた。乗用車であればグシャグシャに出来る程の攻撃を、円盾は容易く、無傷で止め切った。

 さっきまでの形態だったら大ダメージを負わせられた筈なのに!


「新しいフォーム……!」


 魔法によってバランスを崩しているとは思えないほど、どっしりとした構えで槍を持ち直す竜兄。


「ライラックフォームは小細工なしの形態。防御力、安定性、怪力! 真っ向勝負だ小娘共!」


 今まで以上の威圧感を発しながら、竜兄はこちらに向けて一歩踏み出した。






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