表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/281

「紫電銃槍超放電!!」




「ん……!?」


 脳に埋め込んだマイクロチップを経由して届けられた情報に私は驚愕した。


「ヤクトが落とされた……!」


 シルヴァーエクスプレス内のヤクトの信号途絶。それが示すのはただ一つ、ヤクトが撃破されたということだ。耐久力こそヘルガーに譲るかもしれないが、重厚な装甲の防御力はあの中では一番だ。そんなヤクトが撃破されたともなれば三人は相当な窮地に追い込まれたということを意味する。

 幸いにもヤクトは遠隔操作。人的資源が被害を被っていないのはいいが……。


「……救援に向かうべきか?」


 こちらのブツはまだ見つかっていない。しかし向こうがピンチなら助けに行った方がいいか?


「いや、一刻も早く見つけるべきだな」


 ヘルガー側はあくまで足止め。本命は私たちが目標を見つけることなのだから、それをさっさと済ませることが最大の支援だ。

 その為にも……。


「はやてちゃん! まだ片付かないのか!?」

「やってる! けどコイツ近づけさせてくれない!」


 現状を突破せねば。

 私たちは貨物室の一つで苦戦していた。相手はユナイト・ガードの部隊。そして。


「くそ、あの機械兵が邪魔過ぎるな……」


 展開したユナイト・ガードの中心に聳え立つ、黄色と銀色の装甲を身に纏った機械の巨体。3メートル程の大きさはビートショットを彷彿とさせるが、姿形は大きく異なっている。

 形状で一番似ているのはニワトリだろうか。短めの逆足二本で巨体を支え、トサカのようなセンサーで標的を察知し、全身に装備した機関銃で狙い撃つ。

 銃撃の火力は私にとっては脅威だが、本来はやてにとっては何の障害にもならない筈だ。魔法少女の障壁はそれこそミサイルにだって耐えて見せる。

 だがあの機械兵の放つ銃弾は一味違った。


「くっ!」


 貨物室内を飛び回り仕掛けようとしたはやてを、ニワトリ機械兵の放った弾幕が掠める。銃弾が着弾した衝撃で透明に張られた球形の魔法障壁が一瞬可視化したかと思うと、着撃した銃弾から発せられた光によってガラスのように砕け散った。障壁が無効化されたのだ。

 そうなれば魔法少女の耐久力は少し丈夫なだけの一般人だ。必死に残りの銃弾を躱し、距離を取る。


「厄介な……魔法防御貫通弾か……」


 私はコンテナの陰で歯噛みした。魔法防御貫通弾。それはいくつかの悪の組織で量産される、その名の通り魔法的な防御を貫く弾丸だ。着弾時にレアメタルを媒介にした魔術が発動し、障壁を打ち砕く。魔法少女の特効兵器だ。

 本来は悪の組織で対魔法少女用に運用されていた銃弾だったが、どうやらユナイト・ガードも製造し運用しているようだ。悪の組織などでは製造に手間がかかり過ぎてあまり量産できなかったが、流石は国家権力といったところか。弾幕を張れるくらいに量産されているようだな。


「どうするか……」


 お返しと言わんばかりに魔法弾を機械兵に放つはやてを見ながら私は呟いた。魔法弾は装甲に着弾したが、表面に一瞬はしった魔法陣によって無効化された。対魔法の装甲か。


「どこまでも魔法少女殺しだな。いや、本来は邪悪な魔術師を相手にする兵器なんだろうけど……」


 魔法を操るのは魔法少女だけではない。邪悪なたくらみを目論み闇に潜む魔術師は大衆に向けて危険な魔法を放つ。魔法は近代兵器の防御を容易く無効化出来る為対抗できる兵器を開発するのは理解できるが……まさかこんなところで克ち合うとは。

 機械兵に搭乗したユナイト・ガードのパイロットが拡声器で叫ぶ。


「評価試験予定のプロトタイプだが、運搬していたのが行幸! このまま蜂の巣にしてやる!」


 それはまた運が悪いな……。どうやらあの機械兵は積み荷だったようだ。魔法少女であるはやてを止める為に、コンテナから引っ張り出してきたという訳か。

 だが、機械というならば……これが最善か。私は脳裏に浮かんだ策の一つを選び、宙を舞うはやてに叫んだ。


「コンテナを浮かして遮蔽にしろ! 時間を稼げ!」


 私の指示を聞いたはやてはハッとした表情で頷き、銃弾を躱しながらコンテナに触れた。ふわりとコンテナが浮き、空中に漂う。はやて目掛けて放たれた弾丸が、コンテナに当たって散る。


「ヌッ!」


 パイロットが呻く。重要度の高い物品の積まれたコンテナゆえか、防弾性能は高いようだ。好都合。

 そのままはやてはコンテナに隠れつつ他のコンテナも触り、障害物を増やしていく。浮きあがる物、魔法を解かれて落ちる物。私たちとユナイト・ガードの間に遮蔽が積み上がる。


「おのれ……! 二手に分かれて障害物を掻い潜り追い立てろ! 飛び出したところを狙い撃つ!」


 成程な? 確かに有効な手だろう。この障害物が一時しのぎで、時間を稼ぐ手立てでなければ、な。


「機械兵なら電装系の用意はあるだろうから、こちらだな」


 本当は電撃で機械兵を暴走させてユナイト・ガードを撹乱。その後にはやてを突っ込ませるというのが一番スマートなんだが、流石にクレーンと違い機械兵器はその辺のガードは固いだろう。

 なら、強力な一撃の方がいい。エネルギーを消費するから、あまりやりたくは無かったんだが。


 脚を半歩開いて腰を落とし、Iベイオネットを構える。狙いはコンテナの向こう側で隊員が追い立ててくるのを待っているであろう機械兵。


「チャージ開始」


 発電機関を作動し、ベイオネットへとチャージしていく。内蔵されたシリンダーが紫に輝き、機構が作動していく。それはビートショットのチャージとどこか似ていた。

 すぐにベイオネットは黒金の機構に紫電を纏い、バチバチとスパークしていた。限界までのチャージ!


「いくぞぉ……」


 これこそ機械式の義手とIベイオネットの機構を利用して実現させた、私の新しい奥義!


紫電銃槍超放電(ランス・メガブラスト)!!」


 引き金を引くとともに、銃口から紫の雷電が放たれた。忠光でユニコルオンへ向けて撃った時よりも、遥かに強力だ。

 落雷よりも太く強烈なエネルギーの奔流はコンテナの隙間を縫い、或いは撃ち貫き、目標の機械兵へと突き刺さった。

 紫電は装甲を貫き、機械兵を灼いた。


「何ッ!!」


 パイロットが叫び、バシュウッ! という音と共に椅子と共に射出された。イジェクター完備か。人に優しい設計だことで。

 紫電を受けた主無き機械兵は一瞬の静寂の後、爆発四散した。轟音と共に炎が噴き上がる。


「何っ!」

「アンチマジックラプターが!?」


 混乱するユナイト・ガードの隊員たち。私は滞空するはやてを顎でしゃくり、掃討することを指示する。一瞬呆けた表情になっていたはやては頷いて、コンテナの魔法を解きつつユナイト・ガードたち触れて浮き上がらせ戦闘不能にしていく。機械兵――アンチマジックラプターというらしい――を失って浮足立ったユナイト・ガードたちは、二手に分かれて分断されている事もありはやてを相手に為す術なく戦闘不能にされた。

 私は仕事を終えたはやてに近づいて微笑みかける。


「流石だな」

「それを言うなら貴女でしょ? 何あの威力」

「まぁ、奥の手の一つさ」


 私は肩を竦め、ベイオネットを担いだ。

 左腕の強化された発電機関と、Iベイオネットの機構を利用してより強力になった私の必殺技。それが紫電銃槍超放電(ランス・メガブラスト)だ。ビートショットのメガブラストには遠く及ばなかった以前とは違い、今回の技は八割ほどの威力再現に成功している。例え戦車が相手でも一撃で葬れる。

 まぁ、今回の相手が魔法防御を重視していたというのも大きかったが。


「さて……おや?」


 目的の物を探そうと言おうと思った瞬間、すぐ近くの墜落したコンテナが目に入った。プレートには何も書かれていない。白紙のプレート、逆に怪しい。


「これは、もしかしたら……」


 はやての魔法によって浮きあがり、墜落した影響かドアが歪んで半開きになっていた。いくら硬く造っても、いや硬いからこそ自身の重量には耐えられなかったようだ。

 扉を開いて中を確認すると、衝撃が伝播しないようワイヤーで宙空に固定された内容物を発見した。

 心臓。というのが一番近いだろう。どうやら石で出来たような、砂色の心臓だ。

 予め聞いていた目標の特徴と一致する。


「はやてちゃん、これじゃないか?」


 私がはやてを呼んで確認すると、心臓らしき物に触れながら頷いた。


「うん、間違いなくこれ。目的の聖遺物」


 どうやら間違いないようだ。私はホッとしながら槍部分でワイヤーを切断する。


「よし、ならばお暇する準備を整えよう。向こう側がどうなっているか……」


 分からない、と言いかけて私は扉が開く音に口を噤んだ。振り返れば、見覚えのある緑色の影。


「……追いついたぞ、馬鹿妹が」


 ……ジャンシアヌ、竜兄だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ