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『Guhuhu……さぁ、第二ラウンドを始めましょうか』




「くっ……キリがないな」


 湧き上がる緑のスライムを撃ち散らしながら俺はマスクの下で渋面をつくる。倒しても倒しても湧いて出る怪人共。敵戦力は無尽蔵に思えた。

 ユナイト・ガードと俺の生み出したマスケット銃の火力で現在は相手を圧倒出来ているが、こちらは弾数という上限が存在する。或いは俺だけならば太陽の光でほぼ無限に戦えるが、それも屋内では難しい。

 こちらの弾が切れるか、相手がくたばるのが先か。消耗戦の様相を呈してきたな。


「三班リロード!」

「了解、フォローする」


 隊員の言葉を聞いた俺はカバーするように銃列を生みだし、装填する隙を埋めるように砲火を放つ。ユナイト・ガードに協力している俺は彼らとの合同訓練にも参加している。これくらいの連携は朝飯前だ。

 だが歴戦の怪人から見れば隙に見えるのか? 黒い甲冑の騎士が俺の元へ切り込んできた。


「ハァッ!!」


 徒手に見える甲冑の騎士はその腕甲をスライドさせる。出現するのは銃身。機械式の怪人か! こちらを向く銃口に俺は撃ち終えたマスケット銃を呼び寄せ盾にした。

 騎士の銃が吠え、散弾を射出した。ショットガン! だから俺の方へ接近したのか。

 十字にクロスさせた銃のガードをすり抜け、いくらかの銃弾が俺の身体を襲う。


「ぐっ、くはっ!」


 全弾クリーンヒットならともかく、一部だけが当たっただけではアルラウネの加護は貫けない。鎧を貫通した弾丸は皆無だ。しかしそれでも衝撃を殺し切れる訳では無い。身体を襲った衝撃に俺はたまらず息を吐く。

 だがただではやられない! ガードに使ってショットガンの直撃を受けたマスケット銃が砕け散る隙間から、新たに生み出した銃口を黒い騎士に対して向ける。


「ファイア!」


 火を噴いたマスケット銃の弾丸が騎士に着弾し、炸裂した。当たったのは胸部。一瞬撃破を期待するが、硝煙が晴れて明らかになったダメージは少しだけ歪んだ胸甲冑だった。


「硬いのは非常に面倒だ……!」


 銃を生みだせる形態、リリィフォームは火力や面制圧力は一級品だが防御にやや難がある。このまま銃弾を喰らい続ければ不味い。倒すか引き剥がすかしたいが……!


「……このまま押し切る!」


 こちらの内心の不安でも察知したか。俺の反撃を受けた黒騎士は、このまま押し切れると踏んだらしい。ショットガンを展開した腕とは反対の腕で赤熱するブレードを引き抜き、俺に向けて振るう。


「ハァッ!」

「チッ! ファイア!」


 辛うじて躱した俺は更なるマスケット銃を宙空に生み出し、黒騎士に向けて放った。黒騎士は避けることなくその装甲で全ての銃弾を受け止め、そのまま俺に対してブレードの第二撃を斬撃した。横薙ぎの一閃が俺のマスクを掠める。


「捨て身!」

「そも、そちらの銃弾では拙を貫けまい!」


 黒騎士はそう言い捨て、ブレードで俺を執拗に狙う。内心で舌打ちをする。確かにマスケットの銃弾であの装甲を射抜くのは難しい。普通の鉄では無さそうだ。

 どのみちコイツに狙われては銃列を生みだしてユナイト・ガードたちを援護は出来ない。俺は剣撃を躱しながらバックルの白いタリスマンを外し青紫のタリスマンに着け変えた。


「紫突剣!」


 右手に青紫の刀身を持つレイピアを生みだし、ブレードを受け止める。克ち合う剣と剣。その隙を狙うように黒騎士は片手のショットガンの照準を合わせる。

 顔面に向けて放たれる散弾。だが生憎だな。この形態ならそれはあまり怖くない。

 俺は散弾を身を逸らして避け、黒騎士の背後に回った。


「何っ!?」

「残念だが、この形態は弾丸を見てから避けるなど余裕だ!」


 青紫の形態、基本形態ジェンシャンフォームはスピード自慢の姿だ。銃弾を確認してから回避するという芸当も、当たり前のようにこなせる。

 背面から装甲の隙間を狙い刺突する。瞬速の突きは狙いを過たず黒騎士を貫いた。


「ガッ!」


 傷口がスパークし、声を洩らす黒騎士。かなりのダメージの筈だ。しかし倒れるような真似はせず振り返りざまに俺に対して斬りかかる。


「チッ」


 苦し紛れではあるがインターセプトとしては上等だ。相手も手練だな……。俺は苦々しく思いながらも追撃を諦め後退する。

 数歩の距離を開けて下がりつつ、周囲の状況を確認する。

 俺の銃撃が無くなった所為で緑のスライムから発生する怪人が数を増やし始めていた。しかしユナイト・ガードによる統制のとれた射撃によってそこまで増えていない。抑えられていると言えるだろう。

 だが狼の怪人がフリーになってしまった。ユナイト・ガードの隊員に殴りかかっては反撃が来る前に素早く撤退し、一撃離脱戦法を繰り返している。かなりの銃弾を浴びている筈なのにピンピンしてやがる。ヒーロー並みの丈夫さだ。

 ……勝敗が決するほどではないが、押され気味か。

 なら切り札の切り時だろう。俺はユナイト・ガードの隊員たちへ向けて叫んだ。


「状況に風穴を開ける! フォーメーション・Mだ!」


 俺の言葉に指揮をしていたユナイト・ガードの隊長が振り向いて一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに頷いて部下たちに指示をする。


「フォーメーション・M! 三班と四班が開けろ! 他はカバーリング!」


 隊長の指示にユナイト・ガードは一体の生き物のように蠢動する。戦列の中央を担っていた三班と四班が左右に分かれ、俺の居る真ん中ががら空きとなる。


「何……!?」


 周囲から潮を引くように下がった隊員たちに驚きを見せる黒騎士へと、俺は渾身の前蹴りを喰らわせた。


「オラァッ!」

「む、ぐっ!」


 鉄の装甲に覆われた黒騎士だが、アルラウネから受け取った加護がもたらす筋力は常人の数倍だ。蹴りで鉄は蹴り壊せなくとも、トラックを横倒しにするぐらいは出来る。

 キックを受けた黒騎士は軽く吹き飛び、怪人たちの展開している陣地へと着地した。


「開いた? だが……」


 怪訝そうな声を上げる黒騎士。目の前に展開していた部隊は左右に割れ、隙だらけだ。しかしあからさまな意図を以て崩れた陣形に飛びこむほど怪人たちも馬鹿では無い。

 だが、この場では飛びこまない方が不正解だ。


「――ハァ……!」


 バックルのタリスマンを外す。しかし今度は取り換えず、青紫の細剣の柄へと装着した。刀身が淡い光を帯び、並々ならぬエネルギーを纏い始める。

 そんな剣を構えた俺を見て、怪人たちが察する。


「不味い! 奴の狙いは――!」


 阻止しようとしても無駄だ。ユナイト・ガードたちの射撃によって俺の方へ近づく道は断たれた。訓練通りだ。

 そう、ユナイト・ガードが左右に分かれたのは俺の射線を開く為。フォーメーション・Mの意味は……!

 俺は眩いばかりの輝きを放つレイピアを銃撃に手間取る怪人たちに向けて突いた。


「ジェンシャン・メガブラスト!!」


 レイピアから青紫の花弁を含んだ色付きの風が舞いあがり、竜巻となり怪人たちへと襲いかかる!

 俺の必殺の一撃は食堂車の床を削り取りながら怪人たちに迫り、その破壊の暴威に巻き込んだ。


「ぐ、おおおおっ!!」

「ぬぅっ!!」


 竜巻は緑色のスライム共を切り刻み、雑魚怪人を跡形もなくすり潰した。咄嗟に雑魚の裏に隠れた半魚人も、腕をクロスさせて胴体を庇った狼獣人も吹き飛び、車内の壁に叩きつけられる。

 そして俺との距離が近い為攻撃を一番近くで受けてしまった黒騎士は、最も強い衝撃に見舞われた。


「グッ……! ガ、ギ、■■……!!」


 装甲が剥がれ、左腕が崩壊し、頭部の兜も砕け散る。剥き出しになった髑髏のような内部機械を晒しながら、青紫の風に切り刻まれていく。


「■■、■■■……」


 そして風が吹き止み、黒騎士はノイズ雑じりの機械音声を漏らしながらその場に倒れ伏し、爆発四散した。赤い爆炎が弾け、黒騎士の姿は焦げ跡だけを残し消え去った。


「ヤ、ヤクト……!」


 這いつくばった狼怪人が呻く。一体だけに向けず、全員を巻き込むようにして放ったからか二体の怪人はまだ息があるようだ。だが強烈なダメージを受けたのには変わりない。

 起き上がる事すらままならない二体の怪人に俺は止めを刺すべく近づく。


「ぐっ……くそっ……!」


 丈夫だった狼怪人とはいえ今度ばかりは相当堪えたようだ。軍服は裂け、全身から血を流している。

 しかしもう一方の半魚人に俺は不穏な予感を覚え、その足を止めた。

 身に着けた紳士服は狼獣人同様ズタズタだ。だが雑魚怪人の背に隠れたおかげかダメージは少ないようで、杖をつきながらだが立ち上がった。


「……一番厄介な奴が残ったか」


 この半魚人が一番面倒くさい能力を持っている。軍勢を呼び出して数で対応されなければ、ユナイト・ガードの独壇場だったのに。

 半魚人はレンズの砕けたモノクルを捨て、その場に立った。そしてその人間とは大きく違う顔面に不敵な笑みを浮かべた。


「フッ……ここで消耗する予定では無かったんですがね……」


 そう言うと半魚人は杖を捨て両手を大きく広げた。


「仕方ありません。本気を見せましょう……!」


 その言葉と同時に、荒れきった食堂車に変化が起きる。俺のメガブラストに千切れ飛んだ筈の緑のスライムが浮きあがり、半魚人へ向けて吸い込まれていく。なんだ!? 何かやばい!!


「阻止する!」


 俺はレイピアを構え、緑のスライムを吸い込み始めた半魚人へと駆けだした。背後からユナイト・ガードも発砲し、半魚人を狙う。

 だが、俺の目の前に立ちあがった狼怪人が立ちふさがった。


「なっ……まだ動けるのか!?」

「お生憎様だが、これが取り得なんでね……!」


 レイピアを閃かせ切り込むが、狼獣人はレイピアの切っ先に敢えて手を差し出した。刀身が手の平の半ばまで喰い込み、狼獣人はそのまま傷が広がるのも構わず握りこんだ。しまった、剣を取られた!

 すぐに手を離し新たな剣を精製するが、半魚人はスライムを全て吸収し終えていた。

 ユナイト・ガードの銃弾は、吸収中の宙に舞うスライムに呑み込まれそのほとんどが溶かされ防がれた。僅かに半魚人へ届いた銃弾はその身を幾らか抉り取ったが、打ち倒す事も行動を中断させることも出来なかった。


「ク、クク……」


 不気味な笑みを浮かべ、笑い声を漏らす半魚人。変化は一瞬で起こった。

 緑の鱗を持つ肉体が膨れ上がり、瞬きの間にその身は三倍ほどの巨体に変じていた。

 背中からは蝙蝠ともドラゴンとも似つかない歪んだ皮膜の翼が広がり、両腕の鱗は巌を思わせるほどに分厚く、硬くなった。マグロのようなギザギザしたヒレのついた尾も生える。

 そして一番の変化は、その顔面だ。竜とも似た鋭利な魚だった顔は、口から何本もの触手を生やした異形の蛸のように変じていた。


 おぞましき容貌を持つ、巨人。

 変わり果てた半魚人だった存在はくぐもった声で恍惚の溜息を漏らす。


『Guhuhu……さぁ、第二ラウンドを始めましょうか』


 不気味に嗤う巨人を前に、俺はバックルに白いタリスマンに着けながら構える。


「あの奔放娘め……付き合う友人をいつも選ばない奴だったな……」


 少しばかり懐かしい気持ちになりながら、俺は巨人に立ち向かった。






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