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「……まぁ、パフェとか好きだけど」




 揺れる車内でも微かに伝わる振動から戦闘が始まったことを察知する。念の為無線封鎖を行っているから状況を聞くことは出来ないが、足止めが始まったならこちらも行動を起こすべきだろう。


「……ここには無さそうだしな」


 一応潜伏していた貨物車も探してみたが、目当ての物はなさそうだった。ここにあるのは高級食材が主で、コンテナ一つ一つが冷蔵庫だ。まぁ私は食材に興味は無いが……。

 ふと興味が湧いたのではやてに話しかける。


「コーヒー以外に好きな食べ物でもあるか?」

「……まぁ、パフェとか好きだけど」


 照れながら答えるはやてに私は笑みを浮かべる。


「なら、作戦が終わったなら食べに行くか。ローゼンクロイツのフロント企業は皆優秀だからな」

「それは悪の組織としてどうなの? ……あぁ、でも」


 はやては憂いの表情をしながら自分の首輪を指し示した。


「シンカーの許可が無ければ外出できないわね。した瞬間に折檻確定よ」

「……ふむ。首輪か」


 そういえば気になる。


「その首輪、脱走防止か?」

「……そうよ」


 はやてが頷く。元は敵だった魔法少女を従えているのだ。いくら拷問で屈服させたとはいえ野放しにはしないだろう。あの首輪はそのための防止策か。


「どんな仕組みなんだ?」

「……なんでも、対となるウィルスに働きかけることで離れていても活性化させることが出来るそうよ。首輪に何かの機構が仕組まれているというより、ウィルスそのものが私を殺すという訳ね」

「成程、な」


 ウィルスを操るバイドローンらしい、悪趣味な首輪だ。

 しかし有効だな。リモコン式の爆弾ならば電波を遮断すればその隙に解除できるだろうが、未知の力で連動しているウィルスでは対処のしようが無い。どうしたものか? 少し考えを巡らせるが……。

 ……まぁ、今はその時ではない。それにはやてとは同じ作戦の参加者と言う以外に関係性は無い。少なくとも、今はまだ。

 作戦の方を遂行するべきだ。


「では、前に行こうか」

「……分かったわ」


 私の提案にはやてが頷きを返す。先頭へと続くドアへ警戒しながら近づいた。先に行くのははやてだ。魔法少女であるはやてはその身に常に障壁を纏っており、銃弾程度なら弾き返せる。私も電磁シールドを展開出来るが、常に纏うには出力が足りない。一方の魔法少女は使った分をすぐに補填出来る為何時間でも張っていられる。まったくずるい話だ。

 今まで居た貨物車の前方の車両は、また貨物車だった。暗い照明の中で積まれたコンテナを見上げながら、はやてに話しかける。


「ここにあるかね?」

「さぁ? ……少なくとも、守ろうとするだけの価値はあるらしいわ」


 そのはやての言葉とほぼ同時に、マズルフラッシュが瞬いた。ユナイト・ガードの待ち伏せ!

 はやての障壁が銃弾を防いだ隙を見計らい私はすぐ近くのコンテナに身を隠した。私はベイオネットに銃弾を装填しながらはやてに問う。


「あしらえるか?」

「問題ないわ。一人で十分」


 そう言うとはやてはそのまま天井近くまで舞いあがり、急降下。展開していたユナイト・ガードの隊員たちにすれ違いざまに軽く触れると、その身体を浮かせた。


「な!?」

「これは……!?」


 困惑するユナイト・ガード隊員たちに目もくれず、はやては隊員たちが5メートル程浮きあがったところで能力を解除した。


「寝てなさい」

「ぐわっ!」

「うぐえっ!」


 元の体重に戻って地面に落下した隊員たちは、そのまま頭を打ったり背中を打って気を失った。骨を折ったりした隊員はいるかもしれないが、死者はいないだろう。装備が上等だ。


「鮮やかな手並みだな」


 私は物陰から出てはやてを褒め称えた。私の言葉にはやてはふいと顔を背ける。


「別に。……ほら、早く確認しなきゃ」

「それもそうか」


 肩を竦めた私は一応ユナイト・ガード共に纏めてネットを被せ、端に放置した。ローゼンクロイツ謹製のワイヤーで出来た暴徒鎮圧用ネットだが、果たしてユナイト・ガード相手に通用するかな。


「……ここは、金塊みたいね」

「ほう」


 はやての言葉に私も近場のコンテナを確認すると、そこには金塊が入っている事を示すプレートが。ここにあるのが全てそうなら、小さな国が買える程の金額があることになるが……。


「いくつかはダミーか」

「そうでしょうね」


 貴重な物を守る手段はいくつかある。単純に警備を厚くする以外に有効なのは、偽物を用意することだ。偽物と見分けるのは観察眼がなければ至難の技だし、そうでなくとも本物を探すのは純粋に手間だ。

 ここのコンテナの何割かは、そうした金塊を守る為のダミーだろう。


「どうする?」

「ん?」

「一応ローゼンクロイツへの報酬として提示した物だけど」

「……あぁ」


 そういえばそうだったな。バイドローンは聖遺物を、私たちは金塊を狙うという話で襲撃計画が練られたのだった。

 無論金塊は欲しい。しかし今は……。


「やめておこう」

「……いいの?」

「そんな暇はなさそうだ」


 この作戦の主目的はあくまで聖遺物の奪取。それが果たされなければ金塊を手に入れても作戦は失敗だ。この次に行われるのが本命故に、それに繋がらなくなれば利益を得ても無駄に終わる。また次の作戦を練らねばならない。恐らくは、より困難な条件で。

 だったら優先するべきは聖遺物だろう。


「とはいえ運試しは悪くないか」


 そう言って私は手近なコンテナに対してベイオネットの銃口を向けた。狙うのはコンテナのロック部分。

 コンテナといっても金塊を運ぶのだ。おそらくは大金庫のように分厚い防備が存在する。銃弾では射抜くことは難しいだろう。

 だが多機能な私の武装は他にも出来ることがある。


「グレネード!」


 私はいくつかあるトリガーの一つを引いた。機関銃の銃口の下から円筒状の物体が放物線を描いてコンテナに飛び、そして爆裂した。

 対ヒーローを想定して火薬を詰め込んだグレネードは、コンテナを粉砕しその扉を無理やり開かせた。


「ちょ……無茶をするわね」

「多少はね? まぁグレネードはあのヒーローに効かなそうだったし……」


 大金庫さえも破壊するグレネードならば、ジャンシアヌに対しても当たれば有効だろう。しかし蔦を操る能力で絡め取られ投げ返されればこちらが甚大な被害を受ける。それにもし万が一当たってしまえば、竜兄が重傷を負ってしまう可能性もある。ならここで使ってしまう方がいい。


「さて、どうかな……お」


 破壊された扉の中から、金色の光が反射した。金塊だ。手にとって一応確認すると、本物らしい。


「当たりか。私の運も捨てた物じゃないな」


 まさか当たりを引き当てるとは。出来れば持ち帰りたいところだが……。


「しかし金塊は重いからな」


 当たり前だが金塊は重い。以前小金を稼ぐために運び屋をした際に金の延べ棒を扱ったが、中々に重かった。スクーターに積むのも載せてバランスを取るのにも難儀したものだ。

 ヤクトかヘルガーがいれば運ばせるところだが、今はいない。


「残念ながら、数本かっぱらうだけでおしまいだな」

「それなら」


 残念だと呟く私の隣から、はやての手が伸ばされ金塊に触れた。すると、ふわりと人間の体重以上はある金塊が浮きあがった。


「おぉ! ……ってそうか。ビートショットを浮き上がらせることが出来るんだから、このくらいは軽いよね」


 あの重厚な装甲に包まれたビートショットさえ浮かせてしまえるのだから、金塊程度軽い筈だ。ん? しかしそうなるとアレだな。アレが出来るな。


「……いや、最終手段だな」

「何言ってるか分からないけど、持っていくのはこれだけでいいのね?」


 ふわふわと手元に浮かせた金塊を示したはやてが訊く。


「あぁ、私らの取り分はそれでいい。後は聖遺物を確保するだけだが……」


 言葉を続けようとして、はやてが戦闘態勢を構えたことにより私も言葉を中断する。前方の車両より新手のユナイト・ガードだ。


「気の毒なことだ。私程度なら倒せるかもしれないが魔法少女相手はどうにもならんだろうになぁ」

「……じゃあ手を出さないであげましょうか?」

「止めてくれ。多分数分で蜂の巣だ」


 冗談めかしたはやての言葉に、私は割と真顔で答えた。

 そしてはやてが悠々とユナイト・ガードへ羽ばたいていくのを見ながら、私は身を守る為にシールドを張るのだった。






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