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「……竜兄!?」




 作戦の決行日である。

 よく晴れた青空の下、とあるビルの屋上に今回の作戦に参加するメンバーが集結していた。

 ローゼンクロイツ側からは私ことエリザベート・ブリッツと、ヘルガー、そしてヤクト(旧世代躯体)。

 バイドローン側からはシンカー、そしてウィンド†はやての二人だ。


「本当にこの人数でシルヴァーエクスプレスが攻略出来ると?」


 シンカーの能力を見ていないヤクトが疑問の声を上げる。まぁ、そうだよね。私もシンカーの力を見ていなかったら絶対無理だと思う。

 未だ原理は不明だが、シンカーが呼び出す軍勢が頼りだ。そして、侵入方法も。


「……時間だ」

「では、やってもらおうか」


 懐中時計で時間を確認したヘルガーの報告を聞いて、私はシンカーを促す。


「分かりました」


 頷いたシンカーはコンクリートの屋上の床をステッキ軽く叩き、先日廃工場で見せたように緑色のスライムを出現させた。その光景をみたヤクトが機械式のカメラアイを見開く。


「成程、この能力が……」

「えぇ、私の能力、深き者の軍勢シンカーワン・レギオンです」


 スライムは私たちの目の前で蠢き、おぼろげな形を作り始める。それは、不細工なワニのように見えた。


「生き物を溶かし、スライム状に変えて忍ばせる能力……。このように、バイオ怪人の中には超能力に目覚める個体もいます。そしてそれは、怪人だけではなく自我が薄い戦闘員の中にも」


 完全に変異を終えたスライムは、やはりワニの形に固着した。身体部分が異様に小さく、大きく開いた口が人一人は入れるぐらいに広がっている奇妙なワニに。

 口の中には、闇が広がっていた。粒子のような物が渦巻く超自然の闇。これもまた、超能力の一つなのだろう。


「この先には対となるもう一体の戦闘員と繋がっています。そして……」


 シンカーはワニに近づき、その口の中、闇の中に手を入れた。闇の中からパチンと指を鳴らす音が聞こえ、その後シンカーは手を引き抜いた。


「これで、向こう側のもう一体も目覚めました。シルヴァーエクスプレスにスライム状にして潜入させたもう一体が」

「そういうことか……」


 ヤクトが感心したように駆動部を動かす。そう、これが難攻不落のシルヴァーエクスプレスに侵入する方法だ。予め潜入させていたスライムから瞬間移動可能な戦闘員を実体化させ、内部に直接転移する。

 悪の組織や超常現象蔓延る現代において、超科学や魔術に対する対策はそれなりに進んでいる。だが、そもそも発現が偶発的で体系作ることのできない超能力は対策が困難だ。魔法、魔術による転移は結界で防げても、この戦闘員による転移は防げないだろう。


「では、行こうか」


 私は皆を促し、先陣を切ってワニの口内に進む。

 内部構造のマップは手に入れてあるが、後は出たとこ勝負。

 ローゼンクロイツとバイドローンの共同作戦が、今始まった。






 ◇ ◇ ◇






「ここが内部か……」


 ワニの口の中の闇を潜ったその先は、貨物室の一つだったようだ。薄暗い室内にいくつかのコンテナが積まれている。

 一瞬どこか違う倉庫に出てしまったのではないかと不安になったが、足元から微かに伝わってくる振動を感じて杞憂だと悟る。ここは確かに、電車の中のようだ。


「成功だな」


 振り返ると、屋上に居たワニと同じ戦闘員が大きく口を開けていた。その中から、ヘルガーが現れる。


「先に行くなっての……ここか」

「あぁ、貨物室、その一つだろうな」


 ヤクト、はやてが続き最後にシンカーが出てくる。シンカーがステッキで床を叩くと、ワニはスライム状に変わり床に沁み込んで消えた。


「一応隠しておきましょう。心配せずとも私が再び出現させることが出来ます」


 シンカーはそう言うと、貨物室を見回した。


「……ここは、重要度の低い貨物を積んだ部屋ですね。目当ての物はありません」

「確かに、そのようだ」


 コンテナに張られたプレートの一つに近づいてその内容を読み取る。どうやらこのコンテナの中身は医療用の精密機械のようだ。勿論高価で重要なものではあるが、政府にとって重要な物が満載されているシルヴァーエクスプレス内では優先度の低い物になる。


「ここじゃなさそうだ。なら前と後ろ、どちらに進む?」

「……前、でしょう」


 私の問いに、シンカーが答える。


「何かトラブルがあった際、後続の車両を切り離す可能性があります。その場合、やはり優先度の高い貨物は前の車両に積んでおいた方がいいですからね」

「成程な。では前に行こう」


 身体にかかる慣性から進行方向を判断し、私たちは陣形を組んで列車前方へ向かう。

 隠れるような真似はしない。今はまだ侵入がばれていないようだが、最新の機械を積んだシルヴァーエクスプレスの設備では隠れきることは出来ないからだ。だから最初からどうどうと進む。

 やがて、貨物室の出入り口に辿り着く。


「ふむ、ロックがかかっているようだ」

「では拙が」


 ヤクトがドアの、その施錠を司るコンソール前に立ち機械の手の平を翳す。するとディスプレイは文字化けした表示を表し、ドアが勝手に開いた。


「クラッキング出来るのか。流石は総統の近衛を務めるだけある。……ちなみに総統は今どんな感じだ?」

「改造室でドクターにイチゴ怪人の説明を受けています。イチゴ怪人の新型の強化仕様の説明を聞いているところですね」

「そろそろイチゴ怪人以外も開発して欲しいところだな……」


 愚痴りながらも私は扉を潜り、その先の車両へ向かう。車両接合部のドアは連動しているようで、再度クラッキングする必要な無いようだ。今や全てのドアが開き放題なのだろう。

 しかしそれはつまり、侵入がばれるということである。


 ウゥー、ウゥー。

 頭上のスピーカーからサイレンが鳴り響く。同時に、アナウンスも。


『警告、警告! システムがクラッキングを受けた。恐らく内部犯だと思われる。至急警戒せよ!』


 アナウンスを聞きながらも臆さず前進した私たちを迎えたのは、ホテルの廊下のように部屋の立ち並んだ車両だった。


「客室車か? この列車は輸送列車じゃなかったのか」

「高レベルの防備ともなれば要人輸送にも役立ちますからね。貨物だけを運ぶのは勿体無いと思ったのでしょう」


 シンカーの答えに私は成程と頷いて、手頃なドアを蹴破る。


「おらぁ! 悪の組織だぁ!」


 そう怒鳴りながら中に押し入るが、客室はもぬけの空だった。広い客室は整えられてはいるが、人の気配も荷物も無い。


「居ないか」

「毎回毎回人を運んでいるという訳でもないのでしょう。それに倉庫に隣接する区画ですから、客室車両の中でも優先度の低い……」


 シンカーは途中で言葉を切り、廊下の先を警戒する。その隣でヘルガーも、ヤクトも臨戦態勢だ。


「来るか?」

「いや、この先の車両で展開しているな」


 鼻をひくつかせるヘルガーが答える。ふむ、携帯端末で確認したマップでは、この先は食堂車と出ているな。ある程度スペースのあるところで迎え撃とうという魂胆か。


「どうする?」


 ヘルガーの問いに、私は手持ちの武装を構えながら答えた。


「シンプルに行こう。真正面から乗り込むぞ」


 私はそう答え、廊下を駆けだす。

 助走をつけたジャンプキックはドアを容易く蹴破り、吹き飛んだドアが反対車両の扉をも吹き飛ばして炸裂する。

 視界が開けた瞬間、多数のマズルフラッシュが瞬くのが見えた。

 だが当然、無策では無い!


「超電磁シールド!!」


 私はコマンドワードを叫び、発電機関から発した電気エネルギーで電撃の壁を作りだす。銃弾は電気の膜に炸裂し、爆発を引き起こす。


「くっ、廃工場の銃弾と同じか。長くは持たないな」

「だったら突っ込むなよっ!」


 文句を言いながら私の背後から飛び出したのはヘルガーだ。ヘルガーはそのまま壁と超電磁シールドのわずかな隙間を縫い、前方に展開していた部隊――ユナイト・ガードの部隊を襲撃する。


「おらぁ! 寝てろ!」

「ぐあっ!」

「うぐっ!」


 ヘルガーが拳を振るえば一人吹き飛び、ヘルガーが足蹴にすれば一人昏倒する。銃弾や電撃は簡単に対策で来ても、純粋な物理攻撃――殴る蹴るの打撃は軽減できない。突然飛び込んできた暴力の嵐にユナイト・ガードは対応できず倒れていく。


「くそぉっ!」


 だが、流石は特殊部隊と言うべきか、ただでは終わらない。一人の隊員が勇敢にも立ち向かう。その手には同士討ちを恐れたのかライフルを捨てスパークするナイフが握られていた。青白い光を閃かせ、ヘルガーを切りつけに向かう。


「むっ」


 ヘルガーは警戒した。私との一騎打ちのように、ヘルガーは電撃に強くない。対応するために振り返ろうとするが……。


「させるかぁ!」


 同じように電撃のナイフを構え、突進する隊員が反対方向に。距離が近い。しかしヘルガーは近づくその隊員の頭を容易く鷲掴みにして地に叩き伏せる。


「ぐえっ!」

「ちっ!」


 舌打ちしたのはヘルガーだ。近い隊員に対応した為に、ヘルガーはもう一方の隊員に対し背中を向ける格好だ。そしてその距離は既に振り返っても間に合わない近さ。


「勝ったぁ!」


 そう叫んだ隊員だが、先に触れたのは少女の柔い手だった。


「へ?」


 突然頬に触れた手の感触に呆けた声を上げる隊員だが、直後驚愕の声を上げることになる。


「なぁっ!? 俺の身体が、浮いて……!」


 突如として宙に浮く隊員の身体。その隣で肩を竦めるのは、はやて。


「眠ってなさい。まだ、楽なうちに、ね」


 宙に浮かんで身動きが取れない体勢の隊員に、悠々と振り返ったヘルガーが拳を叩き込む。


「がふっ!!」


 顔面を叩き伏せられた隊員はそのまま壁まで吹き飛び、激突して昏倒した。ずるりと床に崩れ落ちたその顔面は、白目を剥いている。

 勇敢だった隊員にヘルガーは手をはたきながら言葉を贈った。


「よかったな、俺一人には勝てたぞ」


 そして訪れる一瞬の静寂。立っているのは、侵入した私たち五人。どうやら食堂車に展開していた部隊は全員無力化したようだ。私は超電磁シールドを解き、溜息を吐き、隣のシンカーに話しかける。


「第一ステージ、クリアってところかな」

「油断なりませんよ、何せ……」


 前方車両より、複数の足音。後続の部隊が駆け付けてきたようだ。


「我々にとってのヒーロー(ラスボス)は自由に動き回れますからね」


 扉を開き、集団が現れる。そのほとんどは今さっき打倒した部隊と同じ格好、ユナイト・ガードだ。

 しかし、先頭の一人は違う。シンプルな薄紫色のパーカーに、ジーンズにスニーカー姿の、若い青年。目つきは鋭いが、おおよそ戦う背格好では無い大学生ぐらいの……???


「……え?」

「どうした?」


 呆けた声を上げた私に、ヘルガーが怪訝な声で問いかける。しかし呆然とした私はそれに反応できない。

 そしてそれは向こうも同じようだ。


「……え?」

「どうしました、紅葉(・・)さん?」


 紅葉(あかは)。それは私と同じ名字だ。それは重々承知だ。なにせ、彼は……。


「……竜兄(りゅうにい)!?」

「……エリザ!?」


 彼は、私の実の兄なのだから。


 




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