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「ふふふ、昔からこうされるとお姉ちゃん弱いよね~」




 喫茶店での作戦会議で襲撃の計画は決まった。目的のブツが輸送されるまで少し日数が空いているので、その間に襲撃の準備をする。

 目下取り急ぎ行うべきは襲撃のメンバー決めだ。私とヘルガーは歩きながら本部の廊下で話しあう。


「私とヘルガーは確定として、後は誰にするか」

「後は大量のイチゴ怪人でいいんじゃねぇか? そのユナイトなんたらがいるなら、数がいるだろ」


 確かに、イチゴ怪人は雑魚とはいえ大量に用意できるという利点がある。一体一ではユナイト・ガードに敵わないが物量同士のせめぎ合いに持ち込めれば勝ち目は十分。少なくとも拮抗状態は作り出せるだろう。

 しかし……。


「駄目だそうだ。バイドローン側で提示された侵入できる人数は精々が五人。それ以上は無理らしい」


 シンカー曰く侵入できる最大人数は五人。シンカーとはやて、私とヘルガーが確定として、


「成程、後一人か……」

「こちらが決めていいとのことだ。とはいえ、一人ではなぁ……」


 我がローゼンクロイツの怪人はお世辞にも強いとは言い難い。他の悪の組織と比べて遅れをとっている。ヘルガークラスになれば別だが、基本的には他の組織の怪人に劣る性能だ。

 つまり、誰を連れて行っても、なぁ。


「うーん、ここはイチゴ怪人の強化版を連れていくか? エンハンスド君みたいな」

「それでいいかもな。捨て駒に出来る奴が一人ぐらいいるのは悪くない」


 結局いつも通りにイチゴ怪人を連れて行こうと決定しかけた時、私たちの背後から声が掛けられた。


「それでは、拙はいかがですか?」


 振り向いてその姿を確認すると、そこにいたのは百合の側近、ヤクトだった。


「いつから聞いていた?」

「暫し前から。拙ならば不足は無いと自負しておりますが」

「ヤクト? お前がか? 確かに強さ的には申し分ないが……総統閣下の護衛はどうするんだ」


 ヘルガーが疑問の声を上げる。私も同意見だ。

 ヤクトは百合の副官にして護衛だ。基本的に片時も傍を離れず、百合を守り続ける。今みたいに本部にいる時ならば多少離れることはあるが、それでも危機が及んだ際には身を挺す務めがある。百合の傍を離れるのは、本分を外れるのでは?


「拙の身は機械です故、人間の身では成し得ないこともこなせます。例えば二つの身体を同時に操る、など」

「……遠隔操作か!」


 私がイチゴ怪人でやったように、別の身体を操作するということか。確かに機械であるヤクトならば通信によって別の身体を動かす事も出来るのかもしれない。


「拙の旧世代ボディを使用しましょう。これでもいくらかアップデートを重ねて来た身ですので」


 機械型怪人であるヤクトは部品交換やボディそのものを交換することでその身を強化できる。機械型怪人の強いところなのだが、当然交換には部品の新造が必要な為コストがバカにならない。ヤクトぐらい強い怪人なら文句は無いのだが、平怪人が機械ばかりになるとローゼンクロイツ財政はあっという間に破綻するだろう。だが、こういう時は役に立つ。


「……じゃあ、ヤクト、よろしく頼む」

「お任せを。……ところで何故バイドローンと共同作戦を?」

「あ、あー。それには長い説明が必要になるのだが……」


 私は説明を開始した。

 ……これ、もしかしなくても百合に話がいくんじゃないか?






 ◇ ◇ ◇






 話がいきました。

 秘密作戦が敵にバレ、義手を損傷したことが発覚してしまった。百合を心配させないよう隠蔽していたのだが、ヤクトに話がいった以上隠しきれない。

 案の定百合は私を心配し、隠していたことを怒った。


 私は今総統室で椅子に座り、百合に背を向ける形になっている。

 頬を膨らませて(いるだろう)百合は、そんな私の背後に立っていた。


「もうっ、お姉ちゃんに重い罰を下していたらキリがないから、軽い罰で済ませてあげてるんだからね!」

「ははは。いや申し訳ない」


 という訳で現在、死にかけた罰が執行中だ。

 今、百合は私の髪の毛をいじり遊んでいる。髪の毛の感触からして、どうやら三つ編みにしているらしい。

 もう既にポニテにされたりツインテールにされたりして写真を取られた。恥ずかしいが、百合に髪の毛をいじってもらえるという至福の時間の対価としては安い物だ。

 三つ編みが一本完成したのか、百合の手を離れた髪の束が背中に落ちる感触を感じた。百合は二本目の編み込みに入ろうと髪を持ったが、手を放してはらりと髪を下ろすと私の左手に手を伸ばす。

 硬い金属の腕に、百合の白く細い手が触れる。私の無骨な機械の義手と、華奢な百合の手。あまりにも違い過ぎる両者の手の対比がいやに記憶に残った。


「それで、他の悪の組織と協力するんだって?」

「あぁ、そうだよ。……多少危険ではあるけど、勝算はあるから大丈夫だよ」


 私はそう言って百合を安心させようとするけど、百合の声は晴れない。


「いつもそう言っている気がする……」


 言われてみれば、私もいつも言っている気がする。

 ということは、いつも通りに瀕死になって帰ることになる……?

 いやいや、そんな事は無い。今回こそはきちんと成功させて見せるさ。


「まぁ、ヤバそうになったらすぐに帰るさ」


 百合に振り向いてそう嘯く。百合は不安そうな顔をしているけれど、それ以上言うことは無いようだ。なんだかんだ言ってちゃんと戻ってくるとは思っているのだろう。その辺りの約束は守っているしね。怪我は負うけど。


「工場の作戦はおジャンになったから、頑張りたいところではあるけど……」

「そういえば」


 私の言葉を遮り、百合が言う。

 心なしか、少しジトッとした目で。


「……工場で作っていた物に関して、ヤクトから報告書が上がってるんだけど」

「あ……」


 工場内での作戦――新総統フィギュア量産計画は当然ながら百合の未認可だ。恥ずかしがり屋の百合はそんな物の製造を認める訳が無い。更に言えば私は演劇部時代にも百合のキャラグッズを勝手に作りその度に百合に怒られていた。

 私は冷や汗を垂らし、引き攣った笑みを浮かべながら弁解する。


「いや、そのね? ローゼンクロイツのキャラグッズといえば何を作るかって話になると、やっぱり総統閣下の品物がいいって思ってね? だから他意は全然なくてね?」

「そうなんだ。じゃあローゼンクロイツの利益のみを追求して作ったんだ」

「そ、そうそう! 超真面目スーパー真面目! これは組織に貢献する為の作戦であって……」

「じゃあ、お姉ちゃんの部屋を家探ししてもいいよね?」


 百合のその言葉に、私の笑みがピシリと固まった。


「生産出来たフィギュア、残ってないよね?」

「……ナンノコトヤラ」


 ……忌まわしきビートショットにベルトコンベアーを破壊されたが、それ以前に生産できた分は勿論のこと確保してある。

 その数、百個。作戦実行は出来ない数だが、私用として確保するには十分な数だ。

 私は目線を逸らし、百合に追及から逃れる。が、そんな態度にこそ百合は確信したようだった。


「……没収」

「ちょ……」


 私が制止する間もなく、百合が指をパチンと鳴らす。

 すかさず気配を消して傍に立っていたヤクトが動き出し、総統室を退出する。私の部屋に赴きフィギュアを没収するつもりだ。


「ま、待て、ヤクト!」

「駄目に決まってるでしょ、お姉ちゃん」


 追いかける為に私は立ち上がろうとしたが、百合の両腕が肩に回され後ろから抱きすくめられるようにして止められた。しまった、立てない。無理やり立ち上がって百合を跳ねのける訳にもいかず、それ以前に百合に抱き締められているという幸福に私の全身の細胞がこの場を離れることを拒否する。くっ、これでは立てない!

 それが分かっているのか、百合はにこにこ笑顔で私の頭に顎を乗せる。


「ふふふ、昔からこうされるとお姉ちゃん弱いよね~」

「そりゃね」


 大事な妹を振りほどく訳にはいかないよ。

 私は大きな溜息を吐いてフィギュアを諦めた。あぁ、愛しの1/6新総統フィギュア……。


「なら次はポスターとかにするかな……」

「どんな形でも許さないからね!?」






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