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「――ギガ・ワイド・ブラスト!!」




「ユナイト・ガード……?」


 どこかで聞き覚えのある名前だ。しかし私が記憶の引き出しから探り当てるより早く、ユナイト・ガードとやらの隊長らしき人物が言葉を発する。


「お前はローゼンクロイツの摂政、エリザベート・ブリッツだな?」

「ふむ、よく知っている」


 本気で感心した。

 私は最近活動を始めた、いわば新参者の怪人だ。

 当然知名度もマイナーである。しかしユナイト・ガードの隊員は私の名前を正確に口にした。

 少なくとも、リサーチに優れた勢力であることは間違いない。


「あ、アンタたちは……」


 雷太少年が警戒の声を発する。どうやら、ビートショット一行はまったく知らないようだ。

 しかしユナイト・ガードの隊長は、雷太少年たちの方を振り向き朗らかな笑顔を浮かべた。


「安心してくれ、ビートショット殿、雷太殿。我々は味方だ」

「え……」


 雷太少年が驚く。隊長はそんな雷太少年に見せつけるように胸のマークを叩く。

 それは『U』と『G』を組み合わせた黄色い紋章だった。


「我々ユナイト・ガードはヒーローの支援組織だ」

「っ! そうか、思い出した……! 最近設立の噂があったヒーローを助ける組織か!」


 隊長の言葉を聞き、私は思い出した。父さんから聞いたことがある。『近日、ヒーローを支援する組織が発足するらしい』と……。

 成程。この奴原はその類か。


「つまり、なんだ? 警察のようなものかね」


 ビートショットの周囲に展開し庇うようにこちらへ銃を向けるユナイト・ガードを見下ろしながら、私はそう言った。ヒーローと連携し治安を維持する組織。それは警察とほとんど同じだ。

 しかし、ユナイト・ガードの隊長はフッと笑みを零した。


「警察を下に見る訳ではないが……同じにしないでもらおう」


 隊長のその言葉と同時に工場の外に展開していた隊員が突入してくる。一階部分だけではなく、吹き抜けの二階部分にまで。しかし全員が突入した訳ではなく、何割かの隊員は外で警戒しているようだ。気配から何人か残っているのが分かる。


「我々は国家間を越えて組織された武装組織であり、悪の組織と断定された団体への積極的な武力行使が許されている。勿論、人員の動員もだ」


 大体入って来たのは、五十人くらいだ。全員ユナイト・ガードの徽章を身につけている。


「更に言えば、最新式の特殊武装も許可されている」


 ユナイト・ガードの隊員は全員現代兵器で武装していた。厚めの防弾チョッキに、通信機を内蔵している様子のヘルメット。全身が灰色を基調としたカラーリングで、この倉庫内では中々見えにくい。手に持った銃器はマシンガンのように見える。銃身が短く、全体的に四角いシルエットをしている。長い弾倉が装弾数の多さを物語っているようだった。うーん、見たことの無い銃だ。海外の最新型だろうか。


「いくら怪人とはいえ、この数。倒し切れまい?」

「ふむ、確かに」


 隊長の言葉通り、この数を相手にするのは骨が折れる。ヒーローや百合ならば余裕だろうが、彼らに及ばない私ではこの状況、結構なピンチだ。

 しかし直接的な戦闘能力が戦況を決定づける訳ではない。


「では少し距離を置くとしよう」


 私はそう言って、天井近くまで浮きあがるとそのまま逆さになり天井に立った(・・・・・・)


『何ッ!?』


 ビートショットの驚愕する声が聞こえる。まぁ、目の前で人間が重力を無視したらそういうリアクションにもなるか。

 私が天井に立ったカラクリは、電磁石だ。電気エネルギーを操れる私は、電気の流し方を考えればいつでも磁力を発生させることが出来る。今回私はブーツの底に仕込んだ鉄板を電磁石に変え、天井の鉄骨に張り付いたという訳だ。

 百合のように重力を操っている訳ではないから、頭に血が上ってしまう。長時間続けていたら内臓も口から出てしまうかも。

 早めの決着をつけてやる。


「では諸君らに室内の落雷を味あわせてやろう!」


 眼下の全員にそう告げた私は、義手を中心に電気エネルギーを収束させていく。飛行を止めてわざわざ逆さまに張り付いた訳は、発電機構を攻撃に使う為だ。電磁スラスターで滞空したままでは、電気エネルギーを攻撃に使えない。そんな事をすれば発電機構が停止し、たちまち墜落してしまうだろう。

 だが、電磁石は電磁スラスターよりも電力の消耗が少ない。この状態ならば、躊躇なく電気エネルギーを攻撃に回せる。

 問題は残りのバッテリー容量的に今用意しているこの攻撃を行ったらエネルギーが空っぽになってしまうということだが。カンダチmkⅡは生命エネルギーを消費してチャージすることも可能だが、既にIランサーで消耗してしまった私の体力はたかが知れている。この攻撃で現状を打破できなければ、私は破滅だ。

 一か八か。


「やれやれ……博打は嫌いではないが、最近多過ぎるな」


 紫電が漆黒の義手を覆うように纏わりつき、その濃度を次第に高めていく。やがて私の義手は眩いばかりの光を帯びていた。


『……それはッ!?』

「まさか!」


 心当たりのあるビートショットと雷太少年が驚愕の声を上げる。そうだとも、こんな状況で君たちが示してみせた最適解だよ。

 私はある種忌々しい記憶の言葉を発し、雷電を解放した。


「――ギガ・ワイド・ブラスト!!」


 義手より迸った紫電が四方に散り、輝いた。

 かつてビートショットにより辛酸を舐めさせられた技、ギガ・ワイド・ブラスト。

 広範囲への大威力の雷撃も、私の新たな腕ならば可能になる。


『ッ! 電磁シールド!』


 咄嗟にバリアーを展開して防御するビートショット。電気への耐性を備えているであろうビートショットや、さっき見せた避雷針のような道具を持っている子どもたちへはともかく、ユナイト・ガードの連中はこの攻撃を避けられない筈だ。


 雷撃が蛇の如くのたうち回り、工場内に破壊の嵐を撒き散らす。

 暴走中のクレーンも、壊れたベルトコンベアも、新総統フィギュアの残骸も全て巻き込み、破壊する。

 電撃の嵐がやみ、残った電力で辛うじて天井に張り付く私の眼下に広がっていた光景は……。


 全員の健在だった。


「何っ……!?」


 私は驚愕に目を瞠った。ビートショット一行はまだ分かる。しかし、ユナイト・ガードの隊員も全員が雷撃の中誰も倒れずに銃を構えている。倒れ伏した人間はゼロだ。

 こ、これは一体……!?


「我々を甘く見たな、エリザベート・ブリッツ」


 隊長が防弾チョッキを叩き、誇らしげに語る。


「このユナイト・ガードの全隊員に支給される防具は、耐火、耐寒、そして耐雷アースを設計段階で組み込んだ怪人討伐用のスペシャルな防具だ。生半可な電撃では倒れん」


 確かに私のギガ・ワイド・ブラストはビートショットの物に比べ威力が格段に落ちる。しかしそれでも人間程度ならば痺れて動けなくなる威力を秘めていた。

 だが奴らの防具はそれを上回ったようだ。


「それ以外にも怪人への対策は万全だ。C班! 攻撃開始!」


 隊長の号令と共に、二階部分に展開していた部隊が天井で逆さになった私への射撃を開始する。

 生身である私が銃弾を喰らえばひとたまりもないが、幸いと言うべきか今の私には防御手段がある。

 懐から取り出した予備バッテリーを口に咥えながら義手を掲げる。


「電磁シールド!」


 装甲を展開させた義手から紫電が球状に広がる。先程もビートショットが使った雷のバリアー。今の私も使用可能だ。

 超電圧の壁に阻まれ、銃弾は焼き焦げ、私に届くことなく消滅する絶対防御。

 しかしユナイト・ガードの放った銃弾は電気の膜に触れると、その場で爆散した。


「ぐっ!?」


 さながら小型の手榴弾だ。爆発はバリアーに阻まれ私には届かないが、バリアー自体に負荷をかける。そして爆発した銃弾は一つだけでは無く、発射された全ての弾丸も同じだった。雨霰のように放たれた銃弾全てが。

 まるで高速ドラムのように爆発音が鳴り響く。


「うおおおおっ!?」


 ビートショットの電磁シールドといえども、無敵では無い。負荷がかかり過ぎれば発電機構へとダメージが溜まっていく。

 そして超電磁ソード、電磁スラスター、ギガ・ワイド・ブラストと三度に渡って酷使していた私に内蔵された発電機関はあっさりと断末魔を上げた。

 中核となっていた義手の発電機構が黒煙を噴き上げ、小さく爆発した。


「がっ!」


 電磁シールドが消滅する。そして事はそれだけに収まらない。

 電力が消滅したということは私を天井に繋ぎ止めていた電磁力が消えるということでもある。


「あっ……」


 足が鉄骨から離れ、私は重力に従い下に落ちて行く。

 まずい……まずい、まずい!

 先程の怪盗少女と同じように、私の身体は真っ逆さまに地面に向かう。……違いがあるとすれば、私にはビートショットのように助けてくれる人員がいないということだ。

 ヘルガーには別の任務を言い渡し、イチゴ怪人は全滅。待機させていた構成員は連絡付かず。

 電磁スラスターも発電機関が破壊された今、使用できない。


 絶体、絶命……!


「くっ、そおおおおおぉぉぉぉっ!!!」


 こんなところで、終わりかよぉ!!


 そう叫んで絶望に私が目を瞑った瞬間、一陣の風が吹いた。

 それを気にすることも出来なかった私だが、目を瞑っても一向に落下の衝撃も痛みも来ない。

 薄っすらと目を開くと、そこには見知らぬ顔があった。


「え……誰?」


「失礼、マドモワゼル」


 形容するなら、魚の鱗を纏った英国紳士。

 モノクルをつけたいやにスタイリッシュな顔を歪めて、微笑を浮かべた。


(わたくし)、バイドローンに所属する紳士、シンカーと申す者です」


 廃工場は新たな勢力を加え、より混沌とした状況を作り出した。






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