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『超絶美少女である新総統閣下のフィギュアを流通させて(ry




「ねぇ、ローゼンクロイツってどんな組織?」


 そんな百合の言葉に、私たちは顔を見合わせた。

 今日は私と百合、それからお付きのヤクトと私の部下のヘルガーが総統室に集まって書類仕事を合同で片付けていた。

 主に私とヤクトが馬車馬のように働き、百合には総統の決定が必要な物のみ任せ、ヘルガーには茶汲みなどの雑用をさせる。まだ総統が代替わりしてようやっと半年というくらいの今の時期、ローゼンクロイツはやることが多く忙しい。

 そう、半年。私たちがローゼンクロイツにやって来てから半年経った今、百合はその質問を口にした。


 驚愕の目線で注目される執務机の百合は、自分の言ったことの意味を理解したのか慌てて弁明した。


「あ、そういうことじゃなくって……悪の組織ってことは理解しているし、ヒーローとも敵対しているってことは分かるんだけど、具体的に何をする組織なのかなって……」

「……つまり?」

「目的って、何?」


 可愛らしく首を傾げる百合。その可愛さに思わず悶えそうになったけれど、質問にはちゃんと答える。


「ローゼンクロイツは理想国家の建国を目的とした組織だよ」


 ローゼンクロイツの掲げるお題目は、『差別の無い理想国家の建国』。要は、新しい国を作り上げる為に活動しているという訳だ。


「え? それだったら、悪の組織としての活動じゃなくてもいいんじゃ……?」


 百合はハテナマークを頭に浮かべた。

 確かに、その目的は一見綺麗に見える。悪の組織のような非合法な活動をせずとも、政治的な手段で活動することも可能に思えるだろう。

 しかし、ローゼンクロイツの理念に問題が存在した。


「差別の無い国。それは生まれや外見で差別をしないという意味だけれど、ならば何を以て個人の能力の判断基準とするかというと……」

「弱肉強食。弱き者は淘汰され、強き者が全てを得る。それがローゼンクロイツの理想社会です」


 私の後を継ぎ、ヘルガーが答える。

 そう、ローゼンクロイツの理想とは完璧な弱肉強食。だからこそ強者の証である総統紋を持つ百合に従い、私との勝負に負けたヘルガーは落ちぶれた。強き者が勝ち、弱き者は廃れる……。それがローゼンクロイツの理念だ。

 百合が苦い顔をする。


「それは……」

「そう。現代社会では受け入れがたい理屈。だからこそ、ローゼンクロイツは悪の組織として活動しているという訳」


 まるで旧世代のような暴力前提の理屈。

 当然そんな理念を現代で通そうとすれば、社会全体から批判される。そうでなくとも建国や独立という行為には血が流れるものだ。地球の歴史において、無血で国が独立できた例は少ない。

 故に、ローゼンクロイツは悪の組織として武力と非合法に訴えているのだ。


「そっか……。よかった」


 私の説明に、百合はホッとしたような顔を浮かべた。

 ……何がよかったのだろう? 百合としても弱肉強食の理屈は受け入れがたい物の筈だけど……。

 そんな私の視線に気づいたのかは定かではないが、百合は疑問を抱いた訳の説明を始める。


「その、他の悪の組織について調べたら掲げる目標が『人類抹殺』とか『家畜化』とかがあったから……」

「あぁ……」


 それを聞いて私も納得した。

 悪の組織は一枚岩ではない。それぞれが自らの理念を掲げ活動している。

 オーソドックスに『世界征服』を掲げる悪の組織もいれば、『人類を抹殺し地球を解放する』という自然回帰派な連中もいる。

 まぁ、どれにしろ一般社会が受け入れられないからこそ悪の組織に身をやつしている訳だが……。

 それらと比べれば、確かに我が組織の目標は穏当だ。


「もし、目標を達成しても人がたくさん死ぬような事態にはならなそうだなー、って」

「確かにね」


 目的である建国を果たしても、ローゼンクロイツの理念通りでは即座に人は死なないだろう。少なくとも、国のトップである総統――百合が陣頭を取って虐殺しない限りは。そしてそれはあり得ない訳だから、建国しても大虐殺は発生しない。

 弱肉強食の掟だって、法整備すれば多少なりともは緩和できる。もし建国が実現しても、人が大量に死ぬことは努力次第で避けることが可能だ。

 少なくとも、『人類抹殺』よりかは平和的といえる。


「なら、ローゼンクロイツの総統はかなり当たり(・・・)だったかもね」

「ふふ、そうだね」


 私の冗談に、百合がクスリと笑う。

 穏やか時間だ……。私とヤクトが雑談している間も高速で書類を片付けたりパソコンに打ち込んでいる以外は。


「あれ? 総務の出資これで合ってる!?」

「ヴィオドレッド殿め……。この草案が通ると思ったのか? 再提出させなければ……」

「お前らは回復早々忙しそうだな」


 コーヒーを淹れたヘルガーが、若干呆れた声音でそう呟く。

 私とヤクトは、ユニコルオンにやられた傷が癒えたばかりだった。

 正確に言えばヤクトは新しいボディが製造されて、私は義手を作ったばかりである。

 ようやっと仕事に支障が無くなったので、溜まりに溜まった仕事を片付けているという訳だ。


「寝込んでいた分も、働かなくちゃね」

「新しい体に馴染む為には、あまり動かないこの仕事は適切とも言えるでしょう」

「そこでリハビリじゃなくて労働ってところがお前ららしいよ……」


 新しいコーヒーを私の傍に置き、空になったカップを回収したヘルガーがそんなことを言う。


 こんな風に、書類とパソコンと格闘するのが私たちの一つの日常。

 そして悪の組織である私たちには、もう一つの日常があった……。






 ◇ ◇ ◇






 場所はとある廃工場。

 山奥に打ち捨てられたこの場所は、普段人の姿は無く静寂を保っている。

 しかしこの時ばかりは、慌ただしい喧騒が工場内を満たしていた。

 なぜならば今ここで、悪の組織と正義のヒーローの激突が繰り広げられているのだから。


『見つけたぞ! ローゼンクロイツ!』

「くそっ! なんでここが分かったんだ!?」


 迫る雷撃を工場の赤錆びた床を転がって避け、鉄パイプを投げる私。

 真っ直ぐとヒーローへ飛んでいく鉄パイプは、しかしいとも簡単に弾かれた。

 その紺碧の装甲に。


「ビートショット! おのれぇ!」


 そう、目の前に居るヒーローは一度対峙したことがあるヒーロー、雷電の機械兵ビートショットだった。

 ビートショットはその巨体を震わし、一条の雷電――ノーマルショットを放つ。

 稲妻が向かった先は、廃工場のベルトコンベアー。

 稼働(・・)しているそれを雷電は的確に討ち抜いて、その機能を停止させた。


「あぁっ!」


 私は悲鳴を上げながら爆発するベルトコンベアーを見ていた。

 爆発と共に四散するのは、ベルトコンベアーの部品とその上で流れていた幾つもの物体。

 それは、紅い軍服を着た小さなマネキンのように見えた。

 私はあらん限りの声量で嘆いた。


「我が総統の美少女フィギュアがぁーーーーー!!!」


 砕け散る樹脂の手足を前に、私はただただ立ち尽くすしかなかった。

 そんな……わざわざ名工と呼ばれるフィギュア職人に外注してデザインした1/6スケール新総統フィギュアが……。


「な、なんでこんな物を……」

『さぁ……悪の組織の考えることは分からない……』


 困惑する雷太少年とビートショット。

 しかしその後ろから現われた眼鏡をかけた少年が吹き飛んだ1/6(略)の一つを拾い上げた。


「このフィギュア、内部に電波の発信装置が埋め込まれているね。送受信というより、周囲に何らかの電波を発する作りだ。……洗脳電波、かな?」

『そうなのか、ドクトル少年』


 眼鏡をかけた少年――ドクトル少年はビートショットの発言に眼鏡をくいっと上げて答える。


「僕の見立てに間違いは無いよ。この……未来の大発明家、江時村(えじむら) 益三(ますぞう)にはね」

「さっすがドクトルだぜ!」


 隣の雷太少年が絶賛する。ドクトル少年の言葉を微塵も疑っていない様子だ。

 実際、ドクトル少年の見立ては正しい。

 流石は……雷太少年の親友にして数々のガジェットの開発者か。


 江時村益三は雷太少年と同級生の幼馴染だ。あだ名はドクトル。

 昔から様々な機械を作っては失敗ばかりしている奇妙な子どもだったらしく、友人も少なかったが、不思議と雷太少年だけは幼少の頃からずっと友達だったようだ。

 そして雷太少年がビートショットと出会った時、真っ先に相談したことから彼は雷太少年の協力者になった。

 以来、ビートショットと雷太少年を助けるガジェットを開発しつつ彼らを応援している。今回のように、現場に出てくることも少なくないようだが……。


 眼鏡を光らせたドクトル少年が私をびしっと指さす。


「おそらくはこのフィギュアを流通させて、内部の洗脳電波によってローゼンクロイツの信奉者を増やす作戦!」

「うぐぅ!」

「なんて古典的な作戦なんだ……」


 ドクトル少年に図星を指されて唸る私と、呆れる雷太少年。

 よもや『超絶美少女である新総統閣下のフィギュアを流通させて内部から発した洗脳電波によって新総統の信奉者を増やし新たなローゼンクロイツ構成員を迎えれるついでにローゼンクロイツ内部に販売し儲けつつ私用にいくつか確保しよう作戦』が見破られるとは!


「くそっ、穴の無い完璧な作戦が……」

「いや、大量の材料がこの廃工場に運び込まれるのを目撃されているから。何千体作るつもりだったんだよ……」


 雷太少年の言葉も、怒りに震える私の耳には届かない。

 立ち直った私は右手を掲げ命じる。


「出でよ! 15(イチゴー)槍騎士部隊(ファランクス)!!」


 私の号令に、工場内の物陰からイチゴ頭の兵士たちが現れる。

 イチゴ怪人だ。しかし全員、かつてのクルセイダー君の鎧を簡略化したかのような甲冑と対雷タワーシールドより少し小ぶりな盾。そしてくすんだ白色の槍を持っていた。

 彼らは15(イチゴー)槍騎士部隊(ファランクス)。悪の正義(?)を為す誇り高い騎士たちだ。


「くっくっく……どうだ見たか。立派な鎧を着込んだイチゴ怪人たちに驚いて声も出まい……」

『いや、鎧はいいのだが何故槍を持たせた』

「前回一番ビートショットに痛手を与えたのってマシンガンの一斉射撃だったような」

「その場に居なかったが後で修理した時ビートショットの装甲に結構な傷がついていたぞ」


 全員に一斉に突っ込まれ、がくっと崩れる。


「えぇい、うるさい! やれ! 私の騎士たちよ!」


 私の命令にイチゴの騎士たちが一斉に盾と槍を構える。今回イチコマンダーを用意していない為命令は一括にしか出来ない。なので全員が一斉に動いた。


「さぁ、槍の切れ味……刺し味? ……貫き味を思い知るがいい!」

「決め台詞は考えてから言えぇ!」


 うるさい! 黙って貫かれろ!






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