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「燃えろ、ブレイズロア!」




 炎の壁を背に、翼を広げたレッドドレイクは言い放った。


「俺たちの勲章になれ、怪人共!!」


 そして急降下。こちらに向かって真っ直ぐに飛んでくる。速い。とても避けられるスピードでは無い。

 私の前に躍り出たのはヘルガーだ。


「シャアッ!!」

「ぬぅっ!!」


 降下の勢いを乗せた右腕の一撃。それをヘルガーは両腕を交差させて受け止めた。だが竜の腕についた鉤爪は鋭い。灰の毛皮を切り裂いて鮮血が散った。


「ヘルガー!」

「チッ、流石に強ぇな」


 銃弾では穴も空かないヘルガーの毛皮がいとも容易く切り裂かれた。やはりヒーローの攻撃力は侮れない。

 もう一度レッドドレイクは腕を振り上げて追撃しようとするが、それは流石に許さない。私は紫電による牽制を放つ。それをレッドドレイクは右腕で受け止め、退避する為にもう一度上空へと舞い上がった。


「電気をまた右腕で受けた……それ以外でなら電撃が効くのか」


 でなければ防ぐ意味も退避する意味も分からない。右腕は電気を弾くがそれ以外でなら通用する。そう見ていいだろう。だがそれを狙うにしても翼による機動力が厄介だ。あっという間に電撃の範囲外へ逃げられてしまう。

 となれば、空中戦だ。


「電磁スラスター!」


 私は背中に紫電の翼を展開し、浮かび上がる。

 対等のステージに上ってきた私に対し、レッドドレイクはニヤリと笑った。


「わざわざやられに来たようだな、怪人」

「どうかな、選択肢はもう一つあるように思えるが……」


 すなわち、倒しに来た。私は腰元のサーベルを抜き放つ。レッドドレイクも右腕を構える。

 空気が張り詰め、すぐに弾ける。


「シャアッ!」

「はっ!」


 互いに翼を広げ、すれ違いざまに得物を振りかざす。右腕の一撃はサーベルで受け流した。だが、その刃は赤い鱗を断ち切れずに終わった。


「チィッ! 小癪な!」

「やはり硬いな……」


 ローゼンクロイツ謹製のサーベルは並大抵の物では無い。ガイアフロートという特殊な立地に乗り込む私の為に百合が開発部門のヴィオドレッドに命じて造らせた私専用の品だ。鋭さも丈夫さも、量産品とは一線を画していた。弱小クラスの怪人なら一刀両断だ。そんなサーベルを以てしても、鱗には傷一つ付いていなかった。

 そのまま何度か空中で打ち合う。その度に鉤爪と刃が擦れる硬質な音が響き渡った。


「打ち破れない、か。だが機動力は互角だな……」


 今までの攻防で分かったこともある。翼による空中機動力は互角だ。負けてはいないことは朗報ではあるが、私はローゼンクロイツの飛行要員の中においては速い方だ。その私が追いつけないということは、誰も空中では敵わないということになる。クソ、メタルヴァルチャーを連れてくるんだった。

 機動力は互角。それはいい。だが他は?


「っ! うあっ」


 再びの克ち合い。だが私の身体は大きく吹き飛ばされた。押し負け。パワーの差だ。

 機動力が同じだとしても、他は大きく離されている。それが現実だった。


「燃えろ、ブレイズロア!」


 体勢を崩した私を追撃すべく、レッドドレイクの右腕に炎が集まる。花畑を焼いた火炎。耐火性能のない私がまともに食らえばひとたまりもない。


「さ、せるかぁッ!」

「何ッ!」


 業火が私に向けて放たれる寸前、木の上から飛び出したヘルガーの跳び蹴りが右腕に炸裂する。克ち上げられたことで炎はあらぬ方向へ飛んでいき、空中で四散するだけで終わった。


「落ちろ!」

「いや、離れろ!」

「グッ!?」


 そのままヘルガーはレッドドレイクに組み付いて引きずり下ろそうとするが、それは許さない。右腕のエルボーが関節へ伸ばされたヘルガーの腕を叩き、たまらずヘルガーは組み付きを諦め地面に退避する。

 私は体勢を立て直し、花畑の上に着地したヘルガーの横に並んだ。


「助かった」

「あぁ。だがガチのヒーローだぜ、アイツは」

「らしいな……」


 今の数合で分かった。レッドドレイクはかなり強力なヒーローだ。未熟でも偽物でもない。相当なスペックと戦闘経験の持ち主だ。

 それでも怪人部隊が合流できればまだ目はあるが……。


「シマリス君、消火装備は!?」

「無いッス! むしろ爆装してるんで手が出せないッスよ!」


 ……難しそうだ。炎が収まるまでは二対一で凌ぐしかないか?


「ふぅん。意外とできるらしいな、怪人。名前を聞こうか?」


 感心したようにレッドドレイクが問う。時間稼ぎも兼ねて私は素直に応えることにした。


「ローゼンクロイツ摂政、エリザベート・ブリッツ。こちらはヘルガーだ」

「そうか。覚えておこう」

「……そうしてもらえると何か得があるのかな?」

「あぁ……俺の撃墜数に名前が付く」

「……有り難くて涙が出るね」


 意地でも向こうは逃がす気がないらしい。かといって勝つだけの戦力も……どうするべきか悩んでいたら。


「――オオオオラアアアアァァァ!!」

「!」

「うおっ」


 突如耳を劈く雄叫び。その主は燃え上がる花畑の中から身を起こしたジェットストリームだった。あ、忘れてた。


「よくも俺様をコケにしやがったなぁ……! カーネルのクソ野郎、その手下風情が……!」


 不意打ちを受けたことでジェットストリームの声音は怒り心頭だった。憤怒の形相でレッドドレイクを睨み付ける。


「まだ生きていたか、ジェットストリーム。そのままくたばっていれば楽に死ねただろうに。その上我らが隊長を侮辱するか。許せないな……」


 レッドドレイクもまた静かに怒気を滾らせる。睨み合う両者を見ながら私はヘルガーを小突いた。


「ヘルガー」

「分かっている」


 流石に付き合いが長い。一触即発の空気の中、私たちは息を潜めた。

 炎の壁が木の実にでも引火したのか、小さく火が爆ぜる。それを合図に両者は激突した。

 先に動いたのはジェットストリームだ。


「オラアァァッ!!」


 プロテクターから二本のビームサーベルを抜き放ち、スラスターを噴かせてレッドドレイクへと迫る。己に向かって振り下ろされる光刃を見切り、右腕で受け止めた。

 ビームの激しい光が明滅する。が、赤い鱗を両断はできない。竜の右腕はビームサーベルを食い止めていた。


「クソッ!」

「それで終わりか、ディザスター!」

「グハァッ!」


 返す刀ならぬ腕が、ジェットストリームの顔面を殴りつけた。耳を塞ぎたくなるような凄まじい音と共にジェットストリームが殴り飛ばされ、錐もみ回転しながら地面に激突する。

 ディザスターの№2が押されている。その事実は私の背筋を冷たくした。


「このクラスがまだこの島にいるかもしれないのか……」


 これから待ち受ける困難に戦慄する。だがとにかく、今は生き残ることだ。

 レッドドレイクは油断なく墜落したジェットストリームを見据えている。まだ生きていると確信しているのだろう。そして事実、ジェットストリームは再び空へ舞い上がった。


「クソッ、クソッ、クソがァ!! 俺様をどこまでも侮辱しやがってぇ……!!」


 ジェットストリームは怒りのあまりわなわなと身体を震わせていた。そして、全身のハッチを開放する。


「! 来るか」


 デジャヴ。かつて見た光景だ。あれは確か、プライマル・ワンの攻撃で鬱憤が溜まった時と同じ。

 キレたジェットストリームによる、無差別攻撃!


「全部吹っ飛びやがれえェェェェッ!!!」


 全身からミサイルが発射され、辺り一面に撒き散らされる。その大部分はレッドドレイクを目掛けていた。


「チィッ!」


 ミサイルの嵐をレッドドレイクは右腕で受け止めた。流石の赤い鱗。ミサイルすらも耐えている。

 だが、防ぐことしかできないようだ。私たちにとって好都合な一瞬だった。


「ヘルガー!」

「応!」


 その隙をつき、私はヘルガーを抱えて飛び上がった。目指すはレッドドレイク……ではない。炎の壁。その上だ。


「!! 逃げる気か!」

「こっちは最初からそのつもり!」


 ジェットストリームとレッドドレイクがぶつかり合ってできる隙。それを虎視眈々と狙い続けた甲斐があった。


「くっ……」

「このドラゴン野郎ぉぉぉぉ!!」

「ぐあっ!!」


 レッドドレイクは一瞬私たちを追おうとするが、ミサイルを耐えるのに精一杯だった。そしてジェットストリームは、怒りのあまりもう私たちのことが目に入っていない。

 私たちはそのまま炎の壁を乗り越え、その先にいた怪人部隊と合流した。


「摂政様、ヘルガー!」

「ぐふっ、なんとか辿り着けた……重いよ、ヘルガー」

「うるせぇ、こちとらお前と違って鍛えてんだよ」


 倒れ込むように私たちは着地した。実はヘルガーを抱えて飛行するのはギリギリだった。無事辿り着けて何より。

 力尽きた私はヘルガーに抱き上げられる。そのまま私は指示を下した。


「目的は達した、撤退する!」

「了解! ……アレは、どうしますか」


 コンラッドは了承しながらも炎の壁の方をチラリと見た。中からはまだジェットストリームの怒りの咆哮が聞こえてくる。


「どうせまた後で戦うさ。今は帰ろう。大事なヒントも抱えていることだしね」


 私は紙片を確認する。さて、問題はこれをどうするか、だな。






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