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「あー、テステス」




 ガラスをぶち破って飛び出した先には、当然何も無かった。すぐに私たちは重力に掴まって落下する。ホテルは確か三十階建て。そこから一つ下に降りて二十九階。高いが、地面に激突するまであまり時間は無い。

 強い風が下から吹き付けてくる中を、私は叫んだ。


「電磁、スラスター!」


 すぐに背中から紫電の翼が展開し、私の身体はふわりと浮き上がった。もう地面まで五メートルも無い。結構ギリギリだ。


「いでっ!」

「っと、っつぅ……!」


 そして翼を持たない怪人二人はそのまま地面に激突する。だが生きている。どころか大してダメージも無かった。怪人の頑健さならこのくらいの距離からの落下は痛痒にはならない。精々が二階から飛び降りた程度の痛み。

 だが、問題はここからだった。


「クソッ、やっぱり外にもいるよなぁ……!」


 ホテルの外。玄関口の広場やその先にある道路には、夜だというのに埋め尽くさんばかりの怪人で溢れていた。ホテルの中に突入してきた連中と同じように、放送を見て私たちを狙いに来た怪人共だ。


「ヒャッハー! ヒントを寄越せェ!」

「やるかよ馬鹿野郎が!」


 突撃してきた怪人をヘルガーが思い切り蹴り飛ばす。だが二の矢三の矢はいくらでもいる。次々と殺到する怪人たちと大立ち回りを演じ始めるヘルガーとコンラッド。宙に浮いている私にかかってくる奴は、今のところいないが……。


「っ、そういえばお前がいたな」


 上から来る暴風に、私は髪を抑えながら顔を上げた。そこあったのは最初に狙ってきた軍用ヘリだ。

 サーチライトで私たちを照らし出すソイツは、今また私たちに銃口を合わせつつあった。

 だが、さっきとは違い先手は譲っていない。


「くらえ紫電を!」


 私は左腕を突き出し電撃を発射する。一条の雷は真っ直ぐにヘリまで届き、コックピットの中へと吸い込まれた。そして、ヘリはバランスを崩す。

 中にいるであろう怪人は電撃が平気でも、操縦桿などの電子機器は耐えられまい。

 制御を失ったヘリはそのまま錐もみ回転しながら落ちていく。道路に満ちる怪人たちを巻き込んで、派手に爆発した。

 夜空を爆炎が照らし出す光景に私は口笛を吹いた。


「ヒューッ! ドデカい花火だな」

「言ってる場合か! アイツら死んでないだろ!」


 呑気な私の発言にヘルガーがすかさずツッコミをいれる。その通りだ。墜落事故で大爆発が巻き起こったが、怪人があの程度で死ぬとは思えない。負傷して戦線離脱ぐらいはあり得るかもしれないが、大多数は継戦続行が可能だろう。


「分かっている! 行くぞ!」


 私たちはヘリ墜落の混乱が収まる前に包囲を抜けることにした。怪人の群れの中の一方向を私が指差し、ヘルガーとコンラッドは怪人を殴って蹴って掻き分けていく。私はそれを上空から援護しつつ、時折私目掛けて放たれる飛び道具などを迎撃した。

 そしてホテル周辺を抜け、大通りへ抜け出す。


「コンラッド、方向は!?」

「合ってます、そっちです!」


 この中で唯一地の利を持つコンラッドに逐一確認しつつ、私たちは逃走劇を続けた。都市を走る大動脈である道路へ抜けても追跡は終わらなかった。むしろ、車などが入り乱れて激しくなる。


「ヒヒッ、芸術は爆発だー!!」

「勝手に爆発してろ!!」


 中にはミサイルをぶっ放す奴なんかもいた。ヒュルヒュルと煙の尾を引いて飛来するそれを、ヘルガーはジャンプすると空中で蹴り返した。ミサイルは元の持ち主のところまで飛んでいき、周辺の怪人たちを巻き込んで爆発する。


「ギャアーッ!!」

「酷いカオスだな……」

「だがまだ、混乱している内はいい」


 追いかけてる方も訳が分からなくなるほどの混沌。それはまだ逃げる目がある。まずい状況は……。


「――来ました」


 コンラッドの緊張した一声。それを聞いた瞬間、私とヘルガーは空気が張り詰めるのを感じた。

 追いかけてくる怪人。その中からプロテクターに身を包んだ一団が姿を現わす。ソイツらは明らかに他の連中とは格が違った。


「ディザスターの、行動部隊です」


 ディザスター。その名を聞いて、私の中に嫌な記憶が蘇る。

 魔術都市アル・カラバ。蝉時雨やはやてと起こした一騒動で、ディザスターの連中と私たちはヒーローも交えた三つ巴を演じた。今回もディザスターとは、敵同士の関係となるらしい。


「来ちゃったか……」


 大多数に追われるより私が怖れていたこと。それは一つの組織に統率された部隊を襲われることだ。

 烏合の衆というか魑魅魍魎の衆である怪人たちはしっちゃかめっちゃかだ。指揮系統なんぞある訳も無い。だから常に隙だらけ。数は驚異だがまともに相手にせず、逃げるだかならまだ楽だ。しかし統率が取れた部隊が相手となると、難しい。

 しかも相手は、最も巨大な悪の組織と言われるディザスターだ。


「ちっ、早速きた!」


 ディザスターの部隊員が構えた小銃から赤い光が打ち出される。レーザーだ。閃光は私たちを正確に狙い追い立ててくる。

 行動部隊は怪人ではないようだが、練度が段違いだ。素早く、的確にこちらを追い詰めにかかっている。このままでは捕まるのも時間の問題だろう。

 だがその時間よりも早く目的を達成出来れば、私たちの価値だ。


「――見えました! アレです!」


 待ち望んでいた言葉をコンラッドがとある建物を指差しながら叫んだ。私たちはレーザーを避けながらその建物の中に飛び込んだ。

 人を迎え入れるに相応しい白く清潔なロビーには怪人じゃない人間たちが数多く詰めていた。いくらガイアフロートが悪の組織の巣窟とはいえ、生身の人間もいないことはない。むしろ非戦闘員の方が多く、従業員として働くのはもっぱらそういう人々だ。

 そんな普通の人間である従業員たちは、突然現われた私たちに目を白黒させていた。


「か、怪人!?」

「待ってこの人たち、さっきあった放送の……」

「話が早いな。案内して貰う!」


 私たちはその中の一人を捕まえ、軽く脅して目当ての場所へと導かせた。後ろからはディザスターたちが追撃をしてくる。放たれるレーザーから電磁シールドで従業員を守ったりしながら、私たちは施設の上階へと上っていく。

 やがてレーザーを撃っていた行動部隊は業を煮やし、突貫を仕掛けてきた。それも衝動に駆られてではなくちゃんとした作戦行動で。半分が突撃し、もう半分が援護をする。的確な戦術だ。


「ヘルガー、コンラッド!」

「分かっている!」


 部隊員たちの突撃をヘルガーとコンラッドが受け止める。突き出されたレーザーブレードを躱しながら関節を極め、へし折っては投げ捨てていく。プロテクターで丈夫になろうと、人体である以上は関節部が弱い。数多くの戦闘経験からそれを無言で見抜いた歴戦の怪人ならではの対処法だった。

 そうこうしている内に目的地へと辿り着く。その部屋の中にも多くのスタッフが仕事をしていた。


「うわ、なんだなんだ!?」

「悪いが言うことを聞いてくれ!」


 私は入り口をヘルガーとコンラッドが守っている間、スタッフを指示したり脅したりしながら準備を進めていく。


「ぐ、まだかエリザ!」

「もうすぐだ! ……どうだ!?」

「は、はい。準備OKです」

「よし!」


 背後からの苦悶の声に応えるべく私は準備を終え、そこに立つ。

 そこはいくつものテレビカメラに囲まれた中心地点。中央に鎮座したテーブルの上にはマイクが置かれている。

 私たちがいるのは俗に言う――スタジオだ。


「あー、テステス」

「呑気にやってる場合か!?」

「分かってるよ、でも大事でしょ! ……よし、オンエアだ!」


 私は意を決し、スタッフに合図を出した。

 途端、部屋のモニターへ一斉に私の姿が映る。

 モニターの私は不敵な笑みを浮かべ、一枚の紙片を取り出した。


「聞こえているか、見えてるか? まぁどちらでもいい。見ている奴がゼロじゃ無いならな」


 この私の声は、ガイアフロート全域に向かって放送されている筈だ。こうして狙われる発端となった映像と、同じように。

 つまり私たちが占拠したのは、放送局だった。

 私はカメラに向かって言い放つ。


「今から私たちが狙われる理由を無くしてやる! ヒントは、これだ!」


 カメラに写るよう紙片を広げ、私はその内容を読み上げた。


「『滅びへの道標は、北に昇りし災厄が知っている』! ……何のことかは、諸君らの推理に任せるがな」


 そう、簡単な話だ。

 ヒントを私たちだけが知っているから狙われるのであれば、公開してしまえばいい。

 ロランジェと、同じようにね。






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