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「ホント、分かりやすい奴らばっかだなぁ……!」




「ううっ!」


 突如として注がれた強烈な光に、私は顔を覆った。腕の間で薄く目を開けその光を投射する存在を確認すれば、その正体はすぐ知れた。


「ヘリコプター……!」


 光の中に浮かぶシルエットの正体はプロペラを元気に回して飛ぶヘリコプターだった。それも報道や救助に使われるような物じゃない。無骨な武装を施した、軍用ヘリだ。

 コックピットの下に提げられた銃口がコチラを照準する。


「やっ、べぇ!」


 そう叫んで私を庇ったのはヘルガーだった。

 銃口がマズルフラッシュを焚いた瞬間、凄まじい音と共に銃弾が殺到する。ヘルガーはそれを背中で受け止めた。


「ヘルガー!」

「いてててっ!」

「あっ無事か。そういえば怪人はそうだったな」


 生半可な銃弾では怪人の皮膚を貫けない。普段超人超常存在と戦いがちな所為で忘れていたことだ。


「いてぇのは変わりねぇよ! 早く脱出しねぇと!」

「分かっている、だが――ロランジェ!?」


 私は素早く部屋の中を見回しロランジェの姿を探した。だが、いない。銃弾で瞬く間に削られていくホテルの一室の中に私を翻弄した美女の姿は影も形も無かった。いるのはベッドの後ろに隠れているコンラッドだけだ。

 まさか、もう逃げたのか。


『ふふふっ、ゲーム開始ね』

「ロランジェ!」


 聞こえてきた声は何かを通しているかのようにひずんでいる。スピーカーだ。


『お宝探しの第一幕、逃走劇! 果たして哀れな逃亡者ちゃんは、秘密を守って逃げ延びることができるでしょうか。さぁ、スタートです!』


 そしてプツッという音と共に黙る。完全にいなくなったようだ。大した逃げ足である。


「楽しんでやがるな……」


 元より奴は、こういうのが見たかったのだろう。その為にアメリカから機密を盗むなどという大立ち回りを演じてみせた。ロランジェが盗んだ宝を巡って島中が大暴れするこの光景を見るために。だからこそここでの会話をライブ放送した。

 つまり私は池の中の鯉を暴れさせる為の、餌だ。まんまと嵌められたな。


「ぐっ、どうするエリザ!」

「当然、私たちも逃げる」


 未だ止まぬ銃弾の嵐からヘルガーに庇われながら、私は素早く部屋に目を走らせた。ドアは、流れ弾が当たって破壊されている。鍵やチェーンという手間をかけることなく外へ出られるだろう。

 だが……。


「出るぞ!」


 そう言って私は走り出した。後ろからコンラッドとヘルガーが続く。突如として動き出した私へと銃口が狙いを変えた。弾丸が発射される。

 私は怪人ほど丈夫ではない。このままでは死ぬ。だが……。


「電磁シールド!」


 残念ながら私も普通の人間ではない。

 作動した発電機構によって電気の膜が生まれ、私に届く前に鉛玉は焼き切れた。そしてシールドが持続する間に私は、部屋から脱出することに成功する。

 コンラッドとヘルガーも続く。擦過熱で少し発火したのか、背中からブスブスと煙を上げているヘルガーが文句を言った。


「最初からそれ使えばよかったじゃねぇか」

「何があるか分からないんだから温存するに越したことはないだろう。それに……」


 外に出るべく廊下を駆けていると、にわかに騒がしくなる。ホテルの客が起き出したのか? いや、違う。何故ならここガイアフロートは、悪の組織の巣窟だから。

 廊下の突き当たりより飛び出してきたのは、武器を抱えた怪人たちだった。


「ヒャッハー! 本当にいやがったぜ!」

「お宝は俺たちがいただきだぁ!」

「ホント、分かりやすい奴らばっかだなぁ……!」


 全員明らかに私目当て、正確に言えば私が持っているヒント目当てだ。

 ライブを見てヒントを奪いに来た奴ら。元々このホテルに泊まっていた奴ら。それから多分、お祭り騒ぎに浮かれているだけの奴ら。様々な怪人が私たちの持つヒントに向かって殺到してくる。


「チッ!」

「ぐへっ!?」


 真っ先に鉤爪を突き出して突っこんできた獣の怪人を、ヘルガーは足払いで捌きながらその首根っこを掴む。そして後続の怪人の群れに向かって放り投げた。


「ぐわあっ!」

「テメ、足引っ張んじゃねぇ!」


 衝突した怪人が揉めている内に反転して逆方向へ。逃げながらヘルガーが聞いてくる。


「ホテルから脱出する、ってことでいいんだよな!?」

「ああ、ここにいたら袋のネズミだ。まずは出なければ始まらない!」

「しかし、その後はどうしますか?」


 背後から飛んできた飛び道具をはたき落としながらコンラッドが問いかけてきた。


「ここから出て、闇雲に逃げ惑うのは得策ではないかと。私に土地勘はありますがそれは奴らも同じ。それに私たちの顔も割れていますし、ローゼンクロイツ支部に帰ったところで今度はそこが襲撃されてしまいます」


 そう。ここから逃げても追われることには変わらない。

 コンラッドはガイアフロートのことについて詳しいが、しかし追いかけてくる怪人たちも条件は同じ。中にはより詳しい奴もいるだろう。そして放送された所為で私たちの顔も知られている。少し調べればローゼンクロイツに所属していることなど丸わかり。支部に逃げたところでカチコミされてお終いだ。

 どんなに深い闇に身を潜めようと、必ず見つかる。何故ならその闇を作り出す悪の組織に追われているのだから。

 なのでその場凌ぎでは無い、根本的な解決策が必要となる。


「アテはある。コンラッド――」


 私は必要なことをコンラッドへ問う。


「……ええ、そこならば場所が分かります。……そうですか、そういうことですか」

「納得がいったようでよかった、だが!」


 頷くコンラッドの隣で、話し合っていた私たちの代わりに前方を警戒していたヘルガーが叫ぶ。


「来るぜぇ!」


 耳か鼻で予め察知していたのだろう。言葉通り、曲がり角から怪人の群れが現われた。後方からは、私たちを追う怪人たちが迫っている。前後を挟まれた。


「どうする!?」

「さて、前門に怪人、後門にも怪人だ。強行突破は少々容易くないな……」


 怪人の耐久力は先程ヘルガーが見せた通り尋常では無い。ヒーローほどでは無いが、ユナイト・ガードの一般兵士より遥かに頑丈だ。私たちの今の装備では、倒しきれるかは怪しい。

 つまり前も、後ろも無理。と、なれば。


「下だな。ヘルガー!」

「応!!」


 私の声に応え、ヘルガーはその場で立ち止まる。そして頭上へ足を掲げると、床へ向け勢いよく振り下ろした。


狼爪蹴脚(ヴォルフ・ナーゲル)!」


 ヘルガー渾身の必殺技。それがホテル廊下の床を、見事にぶち抜いた。


「上出来だ!」


 前後が封じられているのならば下に行けばいい。私たちは二択しか選べないほど品行方正ではないのだから。

 開いた穴の中へ私たちは一目散に飛び込む。

 一つ下の階には、まだ誰もいなかった。だがそれも時間の問題だ。すぐに駆けつけてくるだろうし、なんなら穴から降りてくる。次だ。


「コンラッド、そこの部屋を開けろ!」

「イエス、サー」


 コンラッドの拳がすぐ近くにあった部屋の扉を破壊する。力自慢ではなくとも怪人ならこのくらいの芸当は可能。

 部屋の中に入る。そこはロランジェの借りていたあの部屋ほどではないが、上階の部屋なので広い間取りが取られていた。なので、大きな窓もある。外の風景を映し出す綺麗な窓が。


「行くぞ!」

「あぁ、マジかよ。また総統閣下に怒られそうなことを!」


 私が窓目掛けて駆け出せば、その狙いを察したヘルガーも悲嘆しながらついてくる。コンラッドも続いた。

 手を交差させ頭を庇いながら、私はそのままガラスへと突っこんだ。


「大脱出だ!」


 豪快にガラスが割れる音と共に、私たちは夜の空へと身を投げ出した。






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