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「ゆ、許してお姉ちゃ~~ん!!」




「ああ、一匹も逃がすな。丁重に密封して移送しろ。……それから研究所には護衛と監視を派遣してくれ。また何かやらかすかもしれないしな」


 数時間後、ジャンシアヌは後始末の陣頭指揮を執っていた。押っ取り刀で駆けつけたユナイト・ガードの隊員たちに指示を飛ばし、残された諸々を片付けていく。


「そうだ、そいつは警察に叩き返してやれ。脱獄に立て籠もり、そしてこの大破壊……一生ムショからは出てこられないだろうな」

「うぅ……」


 気絶している立て籠もり犯を、隊員たちが抱えて運んでいく。怪我はしていないが融合していた反動かかなり憔悴しているようだ。しばらくはまともに立てず、元気になったところでその時には既に刑務所の中だろう。

 矢継ぎ早に指揮を飛ばすジャンシアヌへ話しかける影があった。

 狛來だ。


「竜胆さん、指示されていた瓦礫の撤去、終わりました」

「おう、お疲れさん。じゃあ少し休憩したら悪魔の捜索に参加してくれ。……まぁ、いないだろうけどな」


 呪物を破壊すると、三つの存在が結合して出来ていた巨大悪魔はそれぞれの姿へと戻った。立て籠もり犯は立て籠もり犯へ。エイリアンはエイリアンへ。悪魔は悪魔へ。元の姿へと戻り、そして捕まった。

 立て籠もり犯はそのまま警察へと連行される。裁判を改めて受け、刑務所の中へと入れられるだろう。脱獄している最中に罪を重ねすぎたため、もう一生出てこられないかもしれない。自業自得だ。

 エイリアンは余さず捕獲した。一匹でも逃がすと大変なことになる。オールブーケ・フォームで消耗していたジャンシアヌは最後の力を振り絞って一匹残らず捕まえ、ユナイト・ガードへと引き渡した。ユナイト・ガードでは対処不可能な為、このままフォーリナー研究所へと戻されることになる。……あんな事件を引き起こした研究所自体の信用が最早ないので、ユナイト・ガードから護衛と監視役を送り込むことになるだろう。

 そして悪魔は姿を消していた。分離した時には影も形もなかったのだ。魔術師たちが残した見解だと力を使い果たし現世から追放されたという見方が強いらしい。一応潜んでいたりしないか捜索をさせているが、痕跡すら見当たらない為本当に消滅している可能性が高かった。

 そして魔法使いの呪物はジャンシアヌの一撃を受け、跡形もなく破壊された。これでもう、同じ悲劇が起こることは二度とない。

 街は破壊されたが早い段階で避難が完了していたので、死者はゼロ。それが今回の騒動の顛末だった。


「……すぐ、行っちゃいましたね」

「ああ、そうだな」


 狛來は脱力したように溜息を吐き、ジャンシアヌは仮面の下で苦笑する。

 ローゼンクロイツの面々はさっさと姿を消していた。自体が片付くや否や、あっという間に逃げ去ってしまったのだ。それは本当に見事な退却ぶりで、駆けつけたユナイト・ガードに影も掴ませなかった。

 なのでこの騒動は、ジャンシアヌとその部下である狛來のお手柄……ということで収まるだろう。英雄として奉り上げられるのは、二人だけだ。

 狛來にはそれが不満だった。頬を膨らませ、この中で唯一事情を知るジャンシアヌにだけ愚痴る。


「街を救ったのは、あの人たちも一緒なのに」

「いやぁどうだろうな。そもそもの原因がアイツらが持ち込んだ物な訳だし……それに」


 ジャンシアヌは空を見上げた。そこには周囲のビルがなくなり、すっかり見えやすくなった空が広がっている。すがすがしいそれを見ながら、フッと笑う。


「アイツらは、悪でいたいのさ」


 燦々と降り注ぐ光を浴びるのは、眩しいのだろうと。

 紅葉竜胆は妹を思い、苦笑した。






 ◇ ◇ ◇






「私にすら黙って勝手に出かけた挙げ句、立て籠もりの現場に巻き込まれたぁ!? そんなのがお咎め無しになるわけないでしょうが!」

「うぅ、立て籠もりは私悪くない……」

「あぁ!?」

「ひぇっ……」


 総統室。そこでは本来の主である百合が正座させられ、大目玉を食らっていた。雷を落とすのは彼女の姉にして摂政、エリザである。

 その隣でははやても連座されていた。


「は、はやて、助けて……」

「いやアンタを連れ出した時点で私も同罪だし……大人しく怒られとこうよ、いつもの逆で」

「そんなぁ!」


 泣き出しそうになっている百合と全てを諦めた目をしているはやてを見て、蝉時雨と一緒に応接用ソファに座っている美月が微笑む。


「まぁ、怒られておきなさい。危険なことに自ら巻き込まれにいったことは事実なんだから」

「私は黙ってた美月ちゃんにも説教したいところだけどぉ?」

「あっえっ、それはその……」


 ギロリと矛先を変えるエリザに、慌てて顔を逸らす美月。それを見て苦笑する蝉時雨。


「連鎖してんなぁ、姦しく」

「蝉時雨、アンタには後で始末書提出してもらうから」

「……僕にもか」


 ガックリと肩を落とす蝉時雨だが、それは当たり前だった。意気揚々とお宝を探しに出かけては、それを迂闊に持ち出して一騒動起こしてしまったのだから。


「アルデバランなんて連中も連れて帰ってくるし。取り敢えず、アイツらはアンタの下、魔術部門で働かせるから。しっかり面倒見るのよ」

「はぁ!? 聞いてねぇぞ!?」

「今回戦力として働かせちゃったんだから、牢屋にぶち込めないでしょ! これでワンオペじゃなくなるんだから感謝しなさい」


 減刑を代償に戦ったアルデバランを、最早囚人として扱う訳にはいかなかった。とはいえ無罪放免も怖いので、しばらくは蝉時雨の魔術部門に所属させることにした。魔術の専門家ではあるので、役立ってくれるだろう。

 エリザは溜息をつく。


「メアリアードも勝手に動いてたみたいだし、ウチの奴らはホント……みんな自分勝手に危険に巻き込まれるんだから」

「「「「いや、それはエリザ(お姉ちゃん)(お前)に言われたくない」」」」

「え゛」


 等という一幕がありつつ、エリザは説教を終え今回の収拾をつける。


「まぁそれなりの大騒動だったが、実質的な被害は機材やインクの消耗などごく僅かか。呪物は手に入らなかったが実戦的な魔術結社を丸々抱え込むというプラスはあった。ローゼンクロイツに敵対的な怪人もいくつか始末できたそうだし……結果的にはかなりのプラスね」

「あれ、じゃあ説教いらなかったんじゃ……」

「それとこれとは別」


 にべもなく切り捨て、エリザは報告書の束を机に放った。


「一時はどうなるかと思ったけど、丸く収まってよかっ……」

「おいエリザ」


 全て終わったと背伸びしようとしたその時、扉を開けて入ってきたのはヘルガーだった。その手には大量の紙束が抱えられている。


「執務室にいないと思ったらこっちにいたのか」

「ヘルガー、何の用? 説教は終わったから仕事に戻るつもりだったけど……」

「領収書だ」

「え?」


 ドサリとエリザの目の前に置かれた紙の束には、ビックリしてしまう程の額が書き込まれていた。


「ユナイト・ガードからいくつかのルートを経由してローゼンクロイツのフロント企業に届けられた領収書の山だ。いずれも末尾には『貴女の部下がしでかしたことは、自分で始末を付けなさい♪ 母より』と書かれている。金額から察するに今回起きた被害の修繕費の一部らしい……結構な額だぞ」

「………」


 目を皿にして領収書を読み込むエリザの頬には一条の冷や汗が流れていた。それを見た百合たちはコッソリと部屋を抜け出そうとする。


「ヘルガー、入り口を塞いで」

「はいよ」

「あっ!」


 だがエリザの指示で総統室唯一の出入り口に立ち塞がるヘルガー。大柄なヘルガーの脇をすり抜けることは難しい。

 領収書を投げ捨てたエリザは怒気を漲らせながら立ち上がる。


「……説教、再開しようか?」

「ひっ」


 いつも妹にはだだ甘なエリザがここまで怒るのを、百合は初めて見たという。


「ゆ、許してお姉ちゃ~~ん!!」






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