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「やれやれ、実の兄とは知らなくても助けるんだからな……」




 轟音を立てて巨大悪魔周囲のビルが崩落する。ビルと同等の大きさを持つ巨大悪魔だが、それは裏を返せば抜きん出てはいないということ。崩壊したビルの瓦礫から逃れることはできない。一斉に爆破されたビルの破片はまるで雪崩れ込むかのように巨大悪魔へと注がれ、その半身を埋め立てた。


『ギイイィィィーー!?』

「よっし、ドンピシャ! よくやったコールスロー」

『お褒めに与り恐縮っす! ま、朝飯前っすけどね』


 ビルを破壊したのはコールスローが仕掛けた爆弾だった。あらゆる道具を使いこなすコールスローなら爆薬の設置もお手の物。どこにどう仕掛ければ狙い通り崩落するのか、見極めるのは簡単だった。その途中爆薬が足りなくなるハプニングもあったが、それはメタルヴァルチャーが本部から持ってきた爆弾を輸送することで解決した。あとは、見ての通り。


「複製ビートショットも下敷きですけどね」

「それは、仕方ないさ」


 ボソリという美月の呟きに、エリザは肩を竦める。

 大量の瓦礫は巨大悪魔の下半身から下を完全に埋め尽くしている。その周囲に残っていたエイリアンたちも巻き添えだ。当然その中心で敵を引き付けていた複製ビートショットも一緒に埋まってしまったが、必要経費だとエリザは割り切った。


「巻き込まれた間抜けはいないな?」

『ああ、退避は間に合った』


 通信機越しに聞こえるジャンシアヌの声。人的被害はなさそうだとエリザはホッとする。


『しかし民間の建物を壊すのはいただけないな……』

「言ってる場合でもないだろう。それにこちらは悪の組織。使える物は何でも使うさ」


 流石にヒーローとして活動していると迂闊に建造物を巻き込むことに抵抗があるのだろう。ジャンシアヌは苦い声だ。しかしエリザたちは悪の組織。百合の手前人的被害には細心の注意を払うが、保険などには気を使っていられない。


 そうして得られた千載一遇の好機。逃す手は無い。


「ジャンシアヌ、頼むぞ!」


 エリザの仕事はここまでだ。電気エネルギーを一時的に使い切ってしまった彼女にもうできることはない。

 託されたジャンシアヌは地上で答える。


「応! 任せとけ!」


 地上班を率いて、ジャンシアヌは瓦礫の山を駆け上る。目指すは身動きが取れなくなっている巨大悪魔、その胸元にある筈の呪物だ。


『ギギギィィィーー!!』


 その狙いは巨大悪魔も分かっていた。自身の急所へ向かってくる一行を妨害する為、再び自分の身体からエイリアンを分離する。

 殺到する新たな軍勢。だがそれを貫く槍と矢があった。


「ったく、こっちとしては絶好のお宝奪取チャンスだってのに!」

「しょうがない。放置した挙げ句得る物なしが一番最悪」


 ジャンシアヌに迫るエイリアンたちを悉く迎撃する突撃隊長と狩人。それを見て巨大悪魔は雷の魔法を発動するが、その電閃は届くより早く掻き消えてしまう。


「そういうことだ。残念だが次の宝に思いを馳せるとしよう」


 邪眼を発動させたリーダーを追い越し、残りの面々が駆けていく。


『ギィィィーー!!』


 前と同じ手では止められないと確信した巨大悪魔は、今度は新たな一手に出た。エイリアンを分離するのではなく、身体から直接触手生み出し一行へ向け伸ばしたのだ。ジャンシアヌは先頭の己へ迫る触手の一本を切断するが、それは即座に再生してしまう。


「ちっ、エイリアンと違って分離してないからすぐ治るのか!」

「ボクが食い止めます!」


 その背中を追い越したのはヤミに乗った狛來だった。ヤミの紫黒のオーラが輝き、不可視の刃が触手を一斉に切り刻んでいく。


「狛來!」

「ボクだって……戦える、誰かの為に!」

「……ふっ、なら任せる!」


 一皮むけた狛來に触手の対処を任せ、ジャンシアヌは最短で駆ける。だがその頭上、何もない筈の空間が突如として揺らぐ。


『ィィィーー!』

「! 不可視の魔法!」


 それは巨大悪魔の魔法によって姿を隠されたエイリアンだった。新たな一手の中に織り交ぜた巨大悪魔の不意打ち。

 だが見えなかった筈のそれも、ヤミの斬撃によって切り裂かれた。


『ィィッ!?』

「やれやれ。一度見抜かれた魔法が通じると思ってるのなら流石に甘いと言わざるを得ないな」


 ヤミの足元には蝉時雨がいた。どうにかしがみつきながら、目元で何らかの魔術を発動している。それが透明になったエイリアンを見抜いたのだ。


「姿を隠した奴は僕が探し出して指示を出す。だから僕のことも守ってくれよ」

「はい! ……エリザベートさんの友達ですか?」

「そんなモンじゃないよ、生憎ね」


 蝉時雨の溜息を背後に、ジャンシアヌは更に駆ける。

 そして遂に、巨大悪魔の前に躍り出た。


『ギイィィィーー……』

「ったく、シンカーの時を思い出すね」


 見上げる巨体を前にしたジャンシアヌは、思い出した嫌な記憶を払うように帽子を模した兜を押さえた。そして、メガブラストを発動する為にタリスマンを手に取ろうと――


『ギ、ギ……邪魔を、スルな』

「……なんだと?」


 して、唐突に人の言葉をしゃべった巨大悪魔に手を止めた。

 巨大悪魔は耳障りな声で言葉を紡ぐ。


『オレはイマ、最高に心地良いノダ。コレホドまでに充実シた気分はナイ。犯罪ヲ犯した時も、脱獄シタ時モ、これだけノ万能感に満ちたコトハ』

「お前……立て籠もり犯か」


 話の内容を聞いて、ジャンシアヌは理解した。

 ずっと疑問ではあったのだ。呪物によってエイリアンと悪魔を取り込んで暴れ回っている巨大悪魔。だが、立て籠もり犯は何の意味があるのか?

 それがこれだ。巨大悪魔の意思は、立て籠もり犯のものだったのだ。


『オレはコノちからで世界中を滅茶苦茶ニしてやるノダ! オレを馬鹿にした奴ラも、舐メタ警察の阿呆ドモも、全員ぶっ潰シテヤル!!』

「やれやれ、救えねぇ間抜けだな」

『ナンダトォ……?』


 巨大悪魔の言葉を聞いたジャンシアヌは、呆れた溜息をついた。


「お前がどんな人生を歩んできたのかは知らん。だが奇跡のような最悪の巡り合わせでその力を得たことは薄々分かってるだろ。なのにそんな、独りよがりで薄汚れた欲望しか持てないのなら……」


 百合とはやての1日だけの外出。

 竜胆と狛來の初めての合同任務。

 メアリアードと巻き込まれたコールスローの炎の復讐劇。

 蝉時雨と美月のギクシャクした探検隊。


 そんな果てにいる巨大悪魔を、ジャンシアヌは断じた。


「面白くねぇ。とっとと消え失せろ」


 そして懐から煉瓦にも似た質感のパーツを取り出しバックルへ取りつけた。四つ空いた穴へ、即座にタリスマンを装填する。

 ジャンシアヌに力が漲り、鎧に四色の花が咲き誇る。


「オールブーケ・フォーム!」


 ジャンシアヌの最強形態。だがエネルギーの消費が激しいそれは、長くは保たない。


『五月蠅ェ、潰れろォ!!』


 ジャンシアヌを排除しようと、巨大悪魔は両腕を振り上げた。力任せの乱雑な行為だが、その質量は馬鹿にできない。

 切るか、吹き飛ばすか。悩むジャンシアヌの頭上で、しかしそれはピタリと止まった。


『グ、ギィ!?』

「ジャンシアヌさん!」


 百合の反重力だった。空を飛ぶ百合が両腕に対して反重力を放って持ち上げている。それを見たジャンシアヌは驚愕し、また帽子を押さえた。


「やれやれ、実の兄とは知らなくても助けるんだからな……」


 万が一にも聞こえないような小声でボソリと呟き、ジャンシアヌは右手にレイピアを取った。


『ギ、ギギギ! ナラこれでェ!』


 腕を受け止められた巨大悪魔は、今度は魔法を発動する。雷の魔法。エリザが電力を使い果たし複製ビートショットもいなくなった今、それを相殺できる者はいない。


「ちぃっ!」

『いえ、そのままで大丈夫です』


 防御の姿勢を取ろうとするジャンシアヌを諫めるのは、ビルガ越しのメアリアードの声。

 そしてその言葉通り、雷の魔法は空中で四散する。横から放たれた雷によって。


『ナッ!?』

「魔法が自分だけの専売特許だと思ってる? ならそれはお門違い。魔法は……私たちの代名詞だよ」


 はやてによる雷の魔法だった。アンバーと契約した魔法少女であるはやては得意不得意はあれどあらゆる魔法を行使可能だ。雷の魔法だってお手の物。

 最後の一手すら封じられ、巨大悪魔の醜い顔が明らかに強ばる。


『ギ、ギギギ』

「万策尽きたか? だったら、もう――」


 レイピアに蔦を這わせていく。峰となった蔦に支えられた刀身は長大な刀となり、軽々と扱うジャンシアヌの手の中で鈍く光っていた。

 そして一瞬の溜めの後、放たれる。


「大人しくお縄になるんだな! 紫緑(しりょく)斬鉄(ざんてつ)!」


 振り抜かれた刃は。

 胸の中に隠された呪物を、正確に切り裂いた。






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