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「ドッカーーーン!!」




『ギィギギギイィィィーー!!』


 吠える巨大悪魔が、雷の魔法を滅茶苦茶に放つ。四方八方へ向け乱射される魔法はビルや道路を容赦無く穿ち、廃墟へと変えていく。

 そんな雷の一つを己の紫電で打ち払いながら、エリザは悪態をついた。


「ったく、バカスカ打ちやがって! 誰が弁償すると思ってるんだ、国だぞ!」

『いやそこは責任を取れよローゼンクロイツ。大本は大体お前だぞ』


 空を飛ぶエリザへ遥か足元のジャンシアヌが文句を付けたが、都合の悪いことは聞き流してエリザは通信機へ叫ぶ。


「ヘルガー、まだか!?」

『もう、ちょい……だぁっ!!』


 応答があった、次の瞬間。ビルの屋上から宙へ飛び出してくる影があった。それは狼の顔をした大男、ローゼンクロイツ最強の怪人であるヘルガーだ。そしてその腕には美月を抱えている。

 宙へ勢いよくジャンプしたヘルガーは美月の身体を掴み、思い切り振り上げた。


「お届け、だ!」

「わ、わあああっ!」


 豪快なフォームを取ってエリザたちへ向け美月をぶん投げるヘルガー。突然に宙へ投げ出された美月はいつも怜悧な彼女には相応しくない、情けない悲鳴を上げて宙を舞う。


「おっと」

「わ、ナイスキャッチ!」


 そのままでは哀れ重力に掴まって真っ逆さまに落ちていく運命だった彼女を捉まえたのは、同じく空を飛ぶはやてだった。見事腕の中に友人を収めた彼女に百合が拍手をする。

 一方で空を飛ぶ術を持たないヘルガーはそのまま落ちていく。


「確かに届けたぞ! こっからは地上で攪乱する!」

「よろしく!」


 落下しながらエリザへそう告げるヘルガーを一瞥することなくエリザは応じた。タフな怪人であるヘルガーならこの高さから落下しても大してダメージを負うこともない。宣言通り、そのまま地上での戦いに参加するだろう。

 重要なのは彼が届けた美月の身柄だった。


「うう……時間がないからってここまで乱暴なことします……?」

「これが悪の組織の流儀さ。美月ちゃんも早く慣れないとね」

「……ホント? はやて」

「割りと……」


 はやては腕の中で恨めしげにする美月へ体重を軽くする魔法を掛けてやる。これで自力で飛ぶことはできないが、はやてと手を繋いでいれば問題なく空を行ける。


「さて、美月ちゃん。ドラム缶のインクはちゃんと補充してきたね?」

「あっはい。全部」


 ヘルガーが持ってきたドラム缶いっぱいのインクは既に吸収済みだ。イザヤの力で収めた自分の身体からインクを染み出させて、複製を作ることができるようになった。美月も戦力復帰だ。


「何を作ればいいですか?」

「レイスロットの氷雪機神と言いたいが、流石にそれは足りないだろう?」

「まぁ、はい」


 美月は頷く。強力な存在であればあるほどインクは大量に必要になり、氷雪機神ともなればプール並みのインクが要る。とても今補充できた分では足りなかった。


「だったらビートショットだ。雷に対抗する手段がほしい」


 エリザの選択は雷への対抗策だった。雷の魔法は一本一本ならエリザでも対応できるが、複数となるとエリザの出力では厳しい。より強い電撃の使い手が必要だった。


「分かりました。エリザさん、いきます」

「ほいよ」


 美月の手がエリザの頭に触れる。そして染み出したインクが形を作り、エリザの記憶から写し取った駆体を模っていく。

 鉄の身体、雄々しき一本角。エリザと今まで何度も対峙してきた機械のヒーロー、ビートショット。その複製だった。


「行って!」


 主である美月の指示で、電磁の翼をはためかせ羽ばたく複製ビートショット。雷の魔法が遠慮なく打ち出される爆心地に飛び込むと、己から発した雷でそれを打ち払っていく。その出力はエリザとは桁違いで、本物と遜色ない。

 幾度も死闘を演じてきた相手だ。記憶の再現性もバッチリだった。


「よし。これで雷の被害は抑えられる。……これ以上削られると厄介だからな」


 意味深なことを呟き、エリザたちはしばらく耐え凌ぐ時間を送る。雷の魔法はエリザと美月で。飛行型エイリアンはアルデバランの面々が。魔法で姿を隠すエイリアンたちは蝉時雨が見つけ出し、ヘルガーと連携して狩っていく。

 各々で巨大悪魔の猛威に対処していく一同。だが巨大悪魔にも知性がある以上、ただ黙ってやられる筈もなく。


『ギガギイィィィーーー!!』

「っ、新手か!」


 雄叫びを上げると、巨大悪魔は新たな攻撃手段に出た。身体から分離したエイリアン。それらが一部集合すると、互いに喰い合い始めたのだ。


『な、なんだ、共食い……!?』

『いや、違う!』


 凄惨な現場を見た蝉時雨は戸惑うが、その生態を先んじて知っていたジャンシアヌが否定する。そしてその言葉通りに、ただの共食いではあり得ない光景が繰り広げられた。

 喰い合ったエイリアンたちは肥大化し、見る見る内に巨大となっていったのだ。


『な……!』


 巨大となったエイリアンは皮膚も分厚く、巨躯ゆえにパワーも段違いだ。地上にいた面々は新たな強敵に苦戦を強いられる。

 そしてその余波は空のエリザたちにも波及していた。地上から飛行型を迎撃する余裕が消えたので、鬱陶しい群れが圧力を増したのだ。


「ちっ、面倒な」

「火力が足りないよ、エリザ!」


 悲鳴を上げるはやて。その手は魔法弾を発射してエイリアンたちを撃ち落としているが、明らかに足りていない。エリザ自身は雷の魔法の対処に忙しいし、美月が操る複製ビートショットもまた同じだ。手が空いているのは百合くらいだが、仮にも生き物であるエイリアン相手に命を奪うような強力な攻撃はできない。

 なので空中も、押し込まれつつあった。


「まーずいね。これは……」


 冷や汗を流すエリザ。想定以上だ。このまま崩されかねない。

 だがそんな苦境を、硬質な羽ばたきの音と共に鉄の爪が切り裂いた。


「! メタルヴァルチャー!」

「遅れました」


 飛行型エイリアンの群れを切り捨てて颯爽と現われたのはメタルヴァルチャーだった。コールスローを手伝っていた彼が戻ってきたということは。


「設置が完了したのか」

『勿論っす!』


 コールスローからの明るい声。作戦が上手くいったことを察し、エリザが頷いた。


「よし、これで次へ移れる。美月ちゃん!」

「はい!」

「ビートショットは使い潰していい! だから下に送って、地上班の援護をしてくれ!」

「分かりました!」


 言われた通りに美月は地上へビートショットを送った。現われた巨大な増援により、地上の趨勢は回復する。

 一方で戦力の一角を欠いたことで再び空中が鬼門となった。


「わ、わ、お姉ちゃん、どうするの!?」

「問題ない」


 新たに加わったメタルヴァルチャーと共にどうにか凌ぎながら、エリザは不敵な笑みを浮かべた。


「温存する必要は、もうなくなったからな!」


 その言葉と共にエリザは電磁スラスターを解いた。彼女を支えていた翼が消え、すぐに落下が始まる。


「お、お姉ちゃん!?」

「百合、引っ張ってね!」


 全ての防御を解いた完全な無防備の時間。その僅かな時を使って蓄えた電力を、全身に漲らせる。

 そして、爆発させた。


「ギガ・ワイド・ブラスト!」


 エリザの身体を中心に四方八方、全方向に拡散する紫電。全力全開の一撃は飛行型エイリアンの群れを粗方焼き尽くしていく。次々に灼かれ、黒焦げになって散っていくエイリアンたち。障壁を持つはやてに守られた百合と美月、そして更なる高空へ避難していたメタルヴァルチャーだけがそれを免れる。

 群れが消えたことで空が一瞬、とてつもなくスッキリする。


「こっちも!」


 そして地上では、同じように複製ビートショットがギガ・ワイド・ブラストを放っていた。しかし地上側のエイリアンは既に空中より屈強になってしまっていた為、戦果を上げられていない。精々が範囲から離れる他の地上班の面々を撤退させることができたぐらい。


「お姉ちゃん、これで何を?」


 落下するエリザの身体を重力で捉え、百合は疑問を発する。一時は掃討した。だがすぐにまた分裂してエイリアンが発生することは百合にだって分かっている。今の一瞬だけ開けたところで、無駄。すぐにまた元通り。

 だがエリザはニッと笑ってみせる。


「こういうことさ。――コールスロー!」

『了解!』


 応答の合図。そして、カチリと鳴り響く通信機越しの音。


「ドッカーーーン!!」


 景気の良い声と共に、巨大悪魔を取り囲むビルたちが爆発した。






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