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「コイツ、知性がある!」




 三者が呪物によって融合した悪魔は巨大だ。ビルならばまだ並ぶが、逆に言えばビルほどの大きさを持っていても見下ろすことは出来ない。

 つまりそれが出来るのは、空を飛ぶ者たちだけだ。


「見れば見るほど大きい……」

「だね。これは骨が折れそう」


 巨大悪魔を上空から見下ろすのは二人の少女だった。百合とはやて。前者は反重力で、後者は身に生えた翼によって空を舞っている。今回集まった面子で自在に空を飛べるのはこの二人だけだ。

 二人は上空を旋回しながら巨大悪魔の様子を窺う。


「メアリアードさんには急所を探せって言われたけど……そんなのどこにあるんだろう」

「普通に考えれば、頭か心臓だけど」


 概ね生物の急所はその二つだ。しかし、とはやては改めて巨大悪魔を見やる。

 巨大悪魔は足元で攻撃するヒーロー二人に対し、地団駄を踏むように攻撃していた。それは傍目からでは子どもが駄々をこねているようにしか見えないが、実際には地を揺るがす程の強烈な攻撃だ。ジャンシアヌも狛來も回避に専念し、巻き添えにならないよう隠れたコールスローも必死に逃げている。


「あんなのに常識が通用するかどうか……」


 そもそも生まれから非現実的だ。物理法則に則っているかすら怪しい。そんな相手に動物の常識が当てはまるかどうか。そこから始まるだろう。はやては回りくどさに歯噛みした。


「それに、取り込まれた人を探さないと」


 一方で百合の心配事はそちらだ。この巨大悪魔の中に取り込まれてしまったであろう立て籠もり犯。その安否を確認することを最優先していた。命は命。犯罪者であっても必ず救うべきだと、百合は決心している。

 それを横目で見て、はやては頷く。はやて自身は自分が手を下すならまだしもそれ以外で悪人がどうなろうとも構わない腹づもりだが、百合の願望は出来るだけ叶えてやりたい。この場にいるローゼンクロイツ全員がそのつもりなのだから、方針は人命最優先に定まっていた。


『幸い、周辺の非難は完了しています。姿を目撃されることも、民間人を巻き添えにすることもありません』

『悪の組織と共闘しちまっている、俺たちには有り難いことだな!』


 通信の向こうでジャンシアヌが降る巨大な足を躱しながら言った。その声を聞いて百合は首を傾げる。


「どこかで聞いたような……?」

『ンンッ! ゲフ、ゴホン。気のせいだろう……』

『ジャンシアヌさん、前、前!』

『ぬおおおっ!?』


 眼下では突然気を逸らしたジャンシアヌが踏まれかかるという一幕があったりしたが、それはさておき。

 特定しなければならないのは二つ。立て籠もり犯の安否と急所の二つだった。


「ってことは、私の出番か」


 バサリとはやてが翼を広げる。


「私の魔法で悪魔の体内を探る。その間、百合は護衛をお願い」

「うん、分かった!」


 はやての魔法は多種多様だ。その中には生命などを探知する魔法を含まれている。捜し物は大得意だ。

 なのではやては即座に探知の魔法を発動しようとした。稲穂色の魔法陣を展開し、魔力を走らせていく。

 だがその瞬間だった。


「っ、こっちを向いた!?」


 今まで足元のみを攻撃していた巨大悪魔が、突然標的を変えた。見上げる視線の先にいるのははやてだ。


『グギィィィーー!!』

「そんな……くっ!」


 上空のはやて目掛け、その巨大な腕を伸ばす。それは緩慢な動作に見えたが、あまりのサイズ差にそう見えてしまうだけで、実際には躱しがたいだけのスピードを持っていた。

 すかさず魔法を中断し回避しようと試みる。しかし、間に合わない。


「まず……!」


 やられる。そう覚悟したが。


「はやてちゃんっ!」


 はやてを庇って前に立った百合が、反重力で迫る巨腕を弾き飛ばした。その気になればビルだって平らに出来る百合の重力操作は反重力も相応に強力だ。まるでゴム鞠を殴りつけたかのように勢いよく跳ね上がる巨大悪魔の腕。


「間に合ったっ。はやてちゃん、無事?」

「あ、うん……」


 巨大な質量があっさりと弾かれる様を見てはやては目をぱちくりとさせる。やはり百合の能力は強力だ。その心根故に攻撃は不得手だが、こと防御に絞るならこれほどまでに頼りになる存在もそうはいない。


「いや、それよりも……」


 気になるのは巨大悪魔の動きだ。はやてが魔法を使おうとした途端に標的を変えた。明らかに魔法を察知しての行動だ。それが意味するところは、つまり。


「コイツ、知性がある!」

『ギギギギ』


 巨大悪魔は醜い乱杭歯を剥き出しにする。ひょっとして嗤っているのだろうか。その瞳は明らかにはやてたちに向いていた。

 推測の真偽はともかく、このままでは簡単に魔法を使わせてはもらえそうにない。


「でも百合なら」


 それでも強行して魔法を使うことは出来る。百合が守ってくれるなら。彼女の防御力ならば巨大悪魔の剛腕相手でも充分防ぐことが可能だ。

 そう思い直し、はやては再度魔法を使おうとした。しかし巨大悪魔は、既にその対抗策を思いついていた。


『ギギィィィーー!!』


 雄叫びを上げると巨大悪魔の一部が剥がれた。まるで垢のようにボロボロと脱落していくそれは、少しすると空中で形を変え浮き上がる。

 触手と牙を持つそれにはやては見覚えはない。だが足元からその光景を見上げるジャンシアヌたちにはあった。


『エイリアン! それも、羽が生えた!?』


 巨大悪魔から分離したのはジャンシアヌたちが必死に潰した中型エイリアン。しかも蝙蝠の翼を生やした飛行型だった。


「ィィィーー!」

「ィィィーー!」


 飛行型エイリアンたちは奇声を上げ、はやてたちに襲い掛かった。


「くっ!」

「きゃあっ!」


 その数は凄まじい。夕方に舞う鳥の群れ程に多い。バサバサと耳障りな羽音を立てて迫る飛行型エイリアンたちは、あっという間に百合とはやてを覆い尽くした。


『総統閣下!』


 メアリアードの悲鳴じみた声が通信機越しに走る。だがそれはつまり、受け取り手もまだ健在であることを示していた。


「大、丈夫です!」


 エイリアンの群れが膨れ上がり、球状となった後爆発するようにして散った。百合の反重力。しっかりとはやてを庇いながら、百合は群れを蹴散らした。

 弾かれた飛行型エイリアンたちは体勢を崩され、空中での姿勢制御に苦心していた。そこへ、狙い澄ましたはやての魔法弾が突き刺さる。

 狙われた飛行型エイリアンは、それで爆散した。しかし……。


「!? 増えた!?」

『それが奴らの性質だ! くっ、まさかとは思っていたがそこも再現されているのか……!』


 飛行型エイリアンはただ四散しただけではなかった。砕けた肉片の中から、一回り小さくなった二匹が翼を広げる。エイリアンが持つ分裂増殖能力。飛行型はそれも受け継いでいた。


『やはりコイツの肉体はエイリアンの物だ! だから自ら分裂して手下を増やすことが出来る。多分、この質量の分だけいくらでも……』

『それって、どんだけだよ!? クソッ、こっちにも!』


 コールスローの声も聞こえる。飛行型エイリアンの群れが狙うのは上空の二人だけではない。足元のヒーローたちも、隠れているコールスローにも飛来し始める。


「まずい、これじゃ……!」


 歯噛みするはやて。巨大悪魔に対して一行が持つ優位は数だった。数で翻弄しながら倒す策を見いだす。それが自分たちの勝機。しかし飛行型エイリアンが加わっては、その優位が覆されてしまう。特にこれでは、魔法を使う隙がない。


「ィィィーー!」


 悔しがるはやてに一匹の飛行型エイリアンが迫る。百合の防御は強力だが、数が相手では流石に抜け出る者が現われた。その一匹が隙だらけのはやてに牙を突き立てようとする。


「はやてちゃん!」

「しまっ」


 魔法に集中する為にいつも張っている障壁も甘い。手傷を負うことをはやてが覚悟した瞬間。


「ィッ!?」


 その一匹は撃ち落とされた。

 身体には、ボルトが刺さっている。


『待たせたな、応援を連れてきた!』


 通信に響くのは、蝉時雨の声だった。






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