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それぞれ集合、そして決戦




 それは奇跡だった。

 万分の一。あるいは億分の一の壁を越えて成り立つ可能性の極地。あり得ないということはあり得ないと誰かが言ったとして、しかし言った当人ですら目を疑うような偶然。


 逃げ延びようとする卑劣な立て籠もり犯が。


 生存本能に忠実な無限に捕食成長分裂するエイリアンが。


 悪意によって呼び出され生贄を求める悪魔が。


 そして強い願いに引き付けられた、願いを叶える呪物が。


 その時、街の中心で一堂に会した。


 まず、呪物が反応した。

 願いを叶える効果を持つ呪いのアイテムは、叶える願いの善悪を問わない。ただ強い願いがあればそちらに呼応する。蝉時雨は迂闊だった。街中という人混みの中では叶えるべき願いは無数に存在してしまう。故にその時は、そこにあった最も強い願いを叶えた。

 どうにか警察から逃れようとする立て籠もり犯の願い。

 生きようとするエイリアンの本能。

 呼び出されたからには生贄を欲する悪魔の道理。

 それらを強い願いと判断し、呪物『魔法使いの小指』は発動する。十字路の中心に浮かび、眩いばかりに輝き光った。

 逃げる。生きる。生贄。それら全て叶える形で。


「え、あ、ぎゃ?」


 まず必死に、がむしゃらに逃げていた立て籠もり犯の身体が浮かび上がった。ケチは犯罪者である彼に特別な能力は何も無い。だからそれは彼の力による物では無く、そして手足をバタつかせる以外に抵抗する手段も無かった。フワフワと持ち上げられた彼は、何も出来ずに呪物へと誘引されていく。


「ィィーー!?」


 研究所から逃亡していたエイリアンもその引力に引っかかる。ユナイト・ガードのヒーローたちに攻撃されて小さくなった身体は素早いが非力で、その力には抗えない。大型の状態なら訳無くても、今の状態では為す術無く浮かされ引き付けられてしまう。


『ぬ、おおお!?』


 ローゼンクロイツの裏切り者クリメイションによって呼び出された悪魔は、彼の願いである『契約者の生存』、つまりクリエイションを生き返らせるべく生贄を求めて街へ飛来した。生贄は当然人間だ。街の中心で力を行使すれば大量の生贄が手に入る。故に中心部を目指していたが、それが徒となった。呪物の吸い込みに巻き込まれてしまった。悪魔は強力な力を保有しているが、実体を持たない。呪物の力はむしろそういった存在にこそ強く作用した。故にこそ、悪魔もまた引き寄せられる。


「ぎゃあーーっ!?」

「ィィィーーー!?」

「ぐおおおおっ!?」


 三者は悲鳴を上げ、呪物の発する光の中へと吸い込まれていく。

 そして光が収まった時、そこにいたのは……。







 逃げ出した立て籠もり犯を追ってレストランから飛び出した百合はそれを目撃してしまった。


「何……あれ……」


 街の大動脈である主要な道路。それが交差する中心部に、『それ』は屹立していた。

 ビルに匹敵する程の巨体。黄色い血管が波打つ不気味な表皮。ドラゴンめいた翼と角に、牙の生え揃った凶悪な顔面。そして形だけは人に似ていても大きさはまるで違う手足。

 そこにいたのは悪魔の形をした巨大な化け物だった。


『グオオオォギイィィィーー!!』


 突如現われた恐ろしい化け物を見上げ、百合は呆然としていた。


「っ、百合、こっち!」

「あ、はやて!」


 巨大悪魔の存在にはやても面食らったが、普段から荒事に慣れているために判断は早かった。固まっている百合を抱え上げ、軽くして空を飛びその場を離れる。それで我に返った百合を放し、二人はビルの上に降り立った。眼下には佇む悪魔と、逃げ惑う人々が見下ろせた。


「ありがとう、はやてちゃん。それで、アレは何?」

「分からない……あんなのが突然出てくるなんて」


 はやてもやはり混乱していた。兆候もまるで無かったのだ。魔法少女としての人生でも悪の組織の一員としての人生でも、経験が無い出来事だ。


「……ん?」


 だが上から見下ろしていると気付いた。逃げる民衆に逆らって進む二人がいることに。そしてそれが見覚えのある顔であることに。


「百合、あれって!」

「え、あ、美月ちゃん!?」


 それは彼女たちの友人である美月だった。人々の流れを遡って悪魔の足元に辿り着いている。それを見た二人はすぐさまその近くへと飛んだ。


「美月ちゃん!」

「……百合!? それにはやても!」

「なんで、ここに」

「僕らは二人を探しに来たんだよ」


 美月の隣には蝉時雨もいた。そして巨大悪魔を見上げる表情はどこかバツが悪げだ。


「そしたら、あー……こんなことに」

「え、何か知ってるんですか?」

「いや、一因かな。……やっぱ原因かも」

「その話、詳しく聞かせてもらおうか」


 割って入ってきた者を蝉時雨たちが確認した瞬間、百合を除く全員が戦闘態勢に入った。それはほとんど悪の組織としての本能と言っていい。

 何せそこにいたのはユナイト・ガードに所属するヒーローであったからだ。


「あー、いや。警戒するな。お前たちと敵対したい訳じゃ……」

「あ、あの!」


 ヒーロー……花の銃士ジャンシアヌはどう説明すべきかと悩み始め、その間に後ろから少女がひょこりと顔出した。


「エリザベートさんと一緒にいた人たちですよね!?」

「あ、狛來ちゃん……!?」


 美月とはやてはその顔に見覚えがあった。かつて自分たちが保護しようと奮闘した少女、狛來だったのだから。

 何故ここにいるのか問い質しそうになった二人だが、狛來が子ども用のユナイト・ガード制服に身を包んでいることを見るとおおよその事情を把握した。


「そっか、ユナイト・ガードに……」

「ヒーローになれたのね、良かった」


 悲劇の少女の成長ぶりに二人はしみじみと感動する。そんな目線を受け狛來は照れくさそうに顔を緩ませた。恩人に成長した姿を見せられて嬉しいのだ。


「えへへ、はい、見習いですけど……あの時はお世話になりました!」

「ううん。エリザの命令だったから。あ、ちゃんとした自己紹介はまだだったかも。私ははやて」

「私は美月よ。あの時ちょっと顔を合わせただけだから、憶えて無いかもだけど」

「いえ、ちゃんと憶えてます! お二人とも、必死に戦ってボクを助けてくれて……!」

「あー、待て。旧交を温めている場合じゃ無いだろ」


 話し込み始めた狛來を諫めるようにジャンシアヌはポンと肩を叩く。そこで狛來は我に返った。


「はっ、そうでした。えと、ボクらは敵じゃありません。研究所から逃げ出したエイリアンを追ってたら、激しい光を目撃して……」

「そしたらアイツがいたんだ。正直ローゼンクロイツどころじゃ無いだろ。何がどうなっている?」


 ジャンシアヌは蝉時雨を始めとする面々をじぃっと眺め、そして百合と目が合うと激しく顔を逸らした。何故か分からず小首を傾げる百合。


「つまり、協力してくれると?」

「あー、ゴホン。そういうことだな……」


 急に声色を変えつつ、蝉時雨の質問に頷くジャンシアヌ。了承を得たことで蝉時雨も腹をくくる。


「分かった。なら説明する、アイツは……」

「それには、私たちの説明も混ぜる必要があります」


 再び一段に話しかける声。その主はコールスローを引き連れた黄薔薇の美女、メアリアードだった。


「メアリアードさん!」

「はい、総統閣下。……何故このような場にいらっしゃるのか、問い詰めるのは後にいたします」

「う、はい……」


 お忍びがバレたことで叱られることが確定してしまったが、今はそれどころでは無いので後回しにされる。


「アレにはどうやら、私たちが追いかけていた輩が混合しているようなので」

「そっちもか。こっちもそうだ」

「あ、もしかして飛び出していった奴もそうかも……」

「……どうやらあの正体は、全員に心当たりがあるのかもな。分かった、説明しよう」


 こうして一同は集い、情報を共有した。

 頭上の巨大悪魔がいつ動くのか、焦りながらも。






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