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「はぁ、変な人形だなぁ。ま、縁があったらまた来るさ」




「やったな」

「はい」


 僕らは互いの健闘を讃え合った。拳を軽く突き合せ、ようやく脱力する。


「はぁ……しかし一瞬だけ戸惑ったよ。急にあんなこと言われたさ」

「私として憶えてるか不安だったんですが、ちゃんと記憶していましたね」

「ま、まぁな。そのおまじないを教えたのは僕だし」


 そう、美月が急に口走った言葉、『五時に一番高い木の下で』というのは、僕が過去に教えた願いが叶うおまじないだった。図書委員をしていた時に美月に聞かれたこと。正直忘れていたが、土壇場で思い出せて良かった。


「……覚えてたんだな」

「そうですね。一応、やりましたから」

「なんて願ったんだ?」


 無力化したアルデバランのリーダーを拘束しながらそんなことを問う。それに対し美月は顔を顰めた。


「言う訳ないでしょう。秘密にしたいからおまじないを訊いたんですから」

「そりゃそうか」


 納得した。言いたくないからおまじないに頼るのだ。


(……百合とずっと一緒にいたい、だなんて恥ずかしくて言える訳無いですし)


 何か小声で言っていたようだが、よく聞こえなかった。


 そして僕らは洞窟の外へと出る。そこではまだ戦いが続いていた。

 兵士たちは軒並み倒れ伏し、ページと突撃隊長の一騎討ち。拳と槍を構え向かい合う二人に、僕は背後から声をかける。


「おーい、終わったぞ」


 そんな僕の言葉に二人がゆっくりと振り返る。呪物を掲げて見せると、真剣だった二人の表情は面白いぐらいに変化した。ページは嬉しそうな微笑を浮かべ、突撃隊長は驚愕と絶望を浮かべた。


「嘘だろ、リーダーが負けたのか!?」

「そういうことだ。まだ続けるなら、これを使わせてもらうけど?」


 チラチラと呪物をこれ見よがしに振って見せる。突撃隊長は逡巡した後溜息をつき、槍を地面に放り投げて手を挙げた。


「はぁ、やめだやめ。流石に敵わねぇよ」


 最大のお目当ての性能は流石に把握していたらしい。潔く突撃隊長は投降した。


「そうかい。じゃあ仲間を起こして一纏めにしておくれ」


 敗北を悟った突撃隊長は素直に従う。気絶が浅い兵士を起こし、起きない兵士は引き摺って一ヶ所に固まっていく。それを見ながら、僕たちはページに近づいた。


「お疲れ様。アンタが兵士たちを抑えてくれていたおかげで勝てたよ」

「いえ。うまくいってよかったです」


 実際、僕たちがリーダーとの戦いに専念できたのはページが突撃隊長と戦いつつ兵士たちも牽制してくれたからこそだ。今回の勝利の立役者はページと言ってもいい。

 そんな彼に、僕は呪物を手の平に載せて見せた。


「作戦通りアンタを複製して取ってきた。最初に交わした契約通り、これはもらっていくぜ」

「ええ、構いません」

「それから、コイツらはどうする?」


 僕は一塊になっていく兵士たちを顎で指し問うた。アルデバランの処遇だ。


「私としては、この島から出ていってくれさえすれば構いません。ただ二度とここには来て欲しくありませんね」

「ああ。ならウチで、ローゼンクロイツで預かろう」

「よろしいのですか?」

「まあ、コイツらの親組織もウチの監獄に入ったままだからな」


 ローゼンクロイツと衝突して敗北したフォーマルハウトもまた、我が組織に拘束されたままだ。その分派も一緒に収監するというのは中々お似合いだろう。


「ついでに、憑読島そのものをウチで保護しちまうか」

「……侵略するということならば抵抗しますよ?」

「違ぇよ。また別の不埒者が来たら困るだろ? 僕らとしてもこれ以上霊廟から怪しい代物が掘り返されても堪らないし。だから監視を付けて、いざとなったら応援に来てやるってところだよ」


 僕は呪物を取って即座に出てきたが、あの霊廟の中には他にも恐ろしい気配を纏った物品がたくさん並んでいた。アレが敵対組織に掘り返されるような事態はまずい。かといってページを敵に回したくも無い。だから少数の人員を置いて監視に徹するべきだと思ったのだ。


「まあ、それも総統閣下(てんし)か、摂政様(アイツ)にお伺いを立ててからだけどな」


 どのみち今回の件はキチンと報告しなければならない。思った以上に大事になったからな。

 保護の話に一応は納得したのかページは頷いた。


「そういうことなら分かりました。ではあの方たちは連れ帰るということで?」

「あー、後日にな。流石に乗ってきた船に全員は乗せられねぇ。取り敢えず幹部級だけは連れ帰って、他の兵士は後で回収だな。すぐに増援を寄越すけど、それまでの監視は頼むぜ」

「はい。では」

「ああ……美月! 船に戻るぞ。そこでなら本部と通信が繋がるだろ」


 宣言通り幹部級だけ回収し、僕らは島を引き上げていく。


「蝉時雨殿」


 そしてようやっと戻ってきた船へ乗る直前、砂浜に立って僕らを見送るページが言った。


「今回はとんだトラブルでしたが、実を言うと少し楽しかったです」

「楽しかったぁ?」

「ええ。まるで往年の主と共に戦っているようで……懐かしい気分でした。ですので、それについての感謝も」


 そう言って頭を下げるページは本当に嬉しげで、まるで作り物とは思えなかった。


「はぁ、変な人形だなぁ。ま、縁があったらまた来るさ」

「はい。お待ちしております」


 上がった顔には、柔らかな微笑が浮かんでいた。







 ◇ ◇ ◇







「……で、総統閣下(てんし)が街にいるってどういうことだよ」

「うっ……そ、それは……」


 数時間後、本土へと帰還した僕らはとある街中へ車を走らせていた。総統閣下を探すためだ。

 最初はエリザに報告をするつもりだったのだが、書類整理で缶詰状態らしく連絡が取れなかった。なので、今度は総統閣下に直接報告をしようと思ったのだが……


「……たまの息抜きは、誰だって必要ですし」

「だからって、護衛がはやてただ一人って」


 そしたら美月が、「今日は本部にいない筈……」と零しやがった。当然詳しく聞く。するとどうやらコイツは総統閣下がお忍びで出かけるのを黙って見過ごしていたらしい。なんか挙動不審なところがあったのはその所為か。


「何かあったらどうするんだよ。強いとは言え戦いに向いていないってのに」

「その時ははやてがなんとかしますよ。魔法少女ですし」

「おいおい。魔法少女もいるのかよ。おっかねぇな」

「我と戦った時に複製した奴か」

「何それ知らない。僕が寝ている間にそんなことがあったの」


 後部座席から五月蠅い声が響く。アルデバランの幹部たちだ。放っておくことも出来ないので連れてきた。全員拘束済み故に話す以外のことは出来ないが、だからか非常によくしゃべる。


「ちょっと黙ってろ……あん?」


 そろそろ釘を刺そうとすると街中が妙に騒がしいことに気がついた。どうやら何か、怪人でも出たらしい。悪の組織が蔓延っている現代ではよくあることだ。もはや珍しくも無いが、その所為か渋滞が起こり車が完全に止まってしまった。


「ったく、この忙しい時に。どこのどいつだよ」

「……ねぇ、先輩」

「あ?」

「胸元、光ってない?」

「あぁ?」


 言われて見てみると確かにピカピカ光っている。光源を取り出すと、それはさっき回収してきた呪物だった。


「なんで……あ!?」


 何故か分からず手に取って眺めていると小指状のソイツは僕の手から飛び出し、何かに引っ張られるように窓ガラスを割って外へと飛んで行ってしまった。


「はぁ!?」

「先輩! 追いかけないと!」

「お、おう!」


 慌ててドアを開け呪物を追いかける。中々に早く、人混みもあるので追いつけない。まごまごしているウチに宙を舞う小指は一直線にひっ飛び、騒ぎの中心へと向かっていく。

 ようやく人混みを掻き分け、そこで目撃したものは――






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