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「インテリア……」




「自動人形……」


 それは魔法使い、あるいは魔術師が作る(しもべ)だ。僕が作った魔法生物、ビルガに似ている。違うのはビルガはあくまで生き物であるのに対し、自動人形は身体のほとんどを絡繰り仕掛けで創造されているということか。

 絡繰りではあるが、魔法・魔術が使われて初めて動く物だ。だから魔術師でも相当高度な技術が必要となる。魔術都市でもあまり見かけなかった。


「見分けがつかないな……」


 ページはその中でも、最高峰の代物だった。普通の人間と見分けがつかない。綺麗すぎるという違和感はあるが、生物らしくないとは感じない。胸の中の機構を見せられるまでまったく気付かなかった。人混みの中に溶け込んでしまえば、人形とは夢にも思わないだろう。


「そして、偉大なる魔法使い、と言ったか」

「はい」


 ページは首肯した。

 その言葉が真実なら、彼はこの憑読島を創った魔法使いの作品ということになる。僕たちのお目当てである呪物の制作者でもあり、遙か昔に生きた筈の。

 それが本当なら、ページは何百年も前から生きていることになるが。


「この身は彼の手によって作られ、彼の霊廟の守護を命じられました」


 ページは胸元をしまいながら答える。霊廟。そこが遺跡か。


「私が本当に彼の作かどうかは、掛かっている魔法を調べれば分かるはずです」

「……うわ、いや、分かった。信じるよ」


 言われた通り軽く調べようとしたが、すぐにやめた。明らかだったからだ。

 あの燕尾服、綺麗すぎる思ったが、まさか不滅の魔法が掛けられているとは。常に汚れず、ほつれず、破れない魔法だ。それが何百年に渡って消えずに掛かり続けている。現代の魔術師じゃ再現不可能だ。そんなの、件の魔法使いで無いとあり得ない。


「つまり、こういうことか」


 僕は彼から得た情報を元に推理した。


「君はこの島の遺跡を長い間ずっと守護してきた。だがそこへ、奴らアルデバランが現われた。盗掘しようとする彼らと戦い、君は敵対した」

「そうなりますね」

「……だったら、何故僕らを助けた? 僕らもまた、呪物目当てだぞ?」


 首を傾げる。そこが分からない。

 アルデバランと敵対するのは分かる。守護者と盗掘者。明確な敵同士だからだ。だがそれを言うなら、僕らもまた遺跡を荒らしに来た迷惑者である筈。そんな僕らを守り、助けた理由が分からなかった。

 僕の疑問に、ページは柔らかな笑みを崩さずに答えた。


「あなた方のことを、上陸直後から見てきました」

「え?」

「私の知覚能力はこの島全土に及びます。あなたたちの会話も、丸聞こえでした」


 どうやら見られていたらしい。だが、それでも何故?


「ぶっちゃけるなら、あなた方が狙っている呪物だけならどうでもいいのです」

「え?」


 呆然とした。だって、アルデバランが狙っているのもソイツだろう?


「呪物はあくまで霊廟に収められた物の一つでしかありません。例えるならインテリアの一つですね」

「インテリア……」


 何でも願いが叶う代物が装飾品呼ばわりか……。

 その口ぶりからは、本当に呪物のことをどうでもいいと思っていることが窺えた。


「しかし、霊廟には他にも物があります。我が創造主が暮らしていた空間、彼の書き綴った日記を始めとする蔵書。それがまでもが盗み出されていくのは堪えられません。ましてやあのような無礼者たちに荒らされるなどと」

「……つまり?」

「取引です。呪物は差し上げます。その代わり、奴らを追っ払ってください」


 ページが提案してきたのは、つまりそういうことだった。


「私にとっての第一は主の尊厳です。その為なら呪物の一つや二つ、惜しくはありません」


 彼にとって呪物は左程の価値を持たない。だが、魔法使いが暮らした空間が蹂躙されることは度しがたい。だから僕らも狙っている呪物を差し出す代わりに、アルデバランをこの島から追い出すことに協力して欲しい……ということ。これはそういう取引だった。


「なるほど。理屈は理解した。だがその上で、質問がある」

「なんなりと」


 僕は取引の問題点を指摘した。


「既に奴らは遺跡……霊廟を占拠しているんだろう? そうで無ければ、君がそこから離れることは無い」

「ご明察ですね。その通りです」


 霊廟の守護者であるページがここにいる。それは即ち、霊廟を守れなかったことを示唆していた。


「だったら、もう既に手遅れということは無いか? もう宝は持ち去られ、霊廟は荒らされている可能性は」


 霊廟を前に手ぐすね引いて待つ必要は無い。さっさとこじ開け、宝という宝を持ち去ってしまえばいい。


「いえ、それは大丈夫です。霊廟の奥へと続く扉は固く閉ざされています。それを開けるには、私本人の認証が必要です」

「……君自身が鍵、ということか。破壊した場合は?」

「扉が破壊されるような乱暴な解法では、霊廟その物が崩れるでしょう。地道に解くにしても魔法によって施錠されているので、魔術では十年単位での時間が掛かります」

「ふむ……道理だな」


 魔法は魔術の上位互換。魔術で魔法を打ち破るには相応の時間と手間が掛かる。つまりアルデバランが今すぐ呪物を手にしてこの島からおさらばするには、ページを捕らえるしかない。そしてそれは、僕らにも通じる。

 つまり僕らが呪物を手に入れるには、元より彼の協力を得るしかないのだ。


「……分かった。協力しよう」


 僕は観念して頷いた。美月に目配せもする。彼女も協力するしか無いと判断したのか、了解するように頷きを返した。


「ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げるページ。白々しく思う。こうするしか無いことを、理解していたくせに。

 とはいえ協力者は協力者。ここは素直に力を合わせるとしよう。


「では早速、盗掘者……アルデバランでしたか。彼らの情報を共有しましょう」

「ああ。とはいっても僕らは奴らが魔術結社であることぐらいしか分からないが」


 フォーマルハウトとローゼンクロイツの因縁はあるが、それは今は関係ないだろう。


「ではこちらから情報を提供しましょう。敵の数は総勢33人。北側から船に乗ってやってきました」

「33……まあ、そのくらいか」


 予想していた数だ。それでも三人で相手するということは戦力差十倍だが……多すぎないだけマシだと思うしかないか。


「それぞれ十人ずつが三人の隊長格に率いられているようです」

「三人……突撃隊長と、後二人か」


 突撃隊長と同等だとすれば、手強い相手となりそうだな。


「はい。そしてそのことについて、もう一つ追加のご報告が」

「……なんだ?」

「その一部隊に、囲まれています」


 その報告に、僕は総毛立った。


「何!? 発見された!?」

「いえ。我々の正確な居場所はまだでしょう。ですがこの森に逃げ込んだということで、入り口を塞ぎにきたということですね」

「なんだ……だが、由々しき事態ではあるな」


 すぐに狙われるわけでは無いと知り居住まいを正す。だが何故ページはそれを察知出来たのか……って、そうか。


「島全域に感知能力は及ぶんだったな。だったら、敵の配置もすっかりと分かるのか?」

「はい。幹部含む十一人がここを囲んでいて、残りの殆どは霊廟前に集っていますね」


 淀み無くページは答えた。躊躇が無い。つまり情報はおそらく正確……だとするなら、敵の位置は丸わかりだ。

 ついでにもう一つ聞く。


「僕たちが持ち込んだドラム缶の行方は?」

「回収されて、霊廟前まで持って行かれている最中ですね」


 よし。それなら戦略は決まった。


「反撃するぞ」


 僕は思わずニヤリと笑った。ここからは僕らがやり返すターンだ。






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